【韓国アイドルまた自殺】犬野郎、伝染病患者、セックスアイドル…BTS、東方神起も被害の“悪プル”社会

【韓国アイドルまた自殺】犬野郎、伝染病患者、セックスアイドル…BTS、東方神起も被害の“悪プル”社会

報道陣に手を振るソルリ(2019年2月) ©AFLO

 国を問わず、ネット社会につきものの誹謗中傷。それがいま改めて、韓国で大きな社会問題となっている。10月14日、25歳の女性タレントがSNSでの罵詈雑言を苦に自殺したからだ。芸能人の自殺が多いことで知られる韓国だが、ネットでの中傷はその大きな要因の1つ。一部では法規制を求める署名運動まで始まっているが、実効性を疑問視する声は絶えない。

 今回亡くなったのは、女性K-POPアイドルグループ f(x) 出身のソルリだ。元K-POPスターの悲劇は、欧米のメディアでも注目された。英BBCは、ネットで受けた暴言によってソルリがK-POPでの活動を休止したと伝えている。また英ガーディアンはこれまで自殺した韓国のスターに触れ、厳しいK-POP産業のなかで多くがメンタルを病んでいる問題を指摘した。

 ソルリは11歳だった2005年、テレビドラマの子役で芸能界入り。2009年、15歳で f(x) メンバーとしてのデビューを飾った。

 幼い時期から注目されただけに、ネット中傷の洗礼を受けたのも早かったようだ。当初はあどけない顔に不似合いな長身の外見などが、何かと取り沙汰されたという。またSNSで公開した写真などをもとに、淫乱説、薬物説なども騒がれた。

 2015年には、14歳年上のラッパー “チェジャ” との熱愛が発覚。そこから妊娠説などが流布され、激しいネットのバッシングを浴びた。その心労のせいで、同年8月に f(x) を脱退。ようやく女優としてカムバックしたのは、2年のブランクを経た2017年だ。

■「ノーブラ論争」でゴシップの種に

 その後もまたネットで何かと叩かれ続けたのは、SNSで見せた自由奔放な振る舞いのせいだともいわれる。とりわけ象徴的なのは、現地芸能メディアで格好のゴシップとなった「ノーブラ論争」だ。ブラジャーの着用を嫌っていたソルリは、SNSで公開した画像、動画、またライブ配信で、しばしばノーブラのまま登場した。これが性的な規範に敏感な韓国で物議を醸し、一部で「不適切」などとするバッシングを招いたわけだ。

 ソルリはまた今年4月、妊娠中絶に肯定的なメッセージをSNSで伝えている。こうした点から一部メディアではフェミニストとしても扱われ、バッシングは男性ネットユーザの女性嫌悪=ミソジニーが原因とする報道も少なくない。前述のBBC、ガーディアンも、ともにこの点を強調していた。

 だが一方で、ソルリをバッシングしていたのは女性だとの声もある。「ロリータ」風ファッションとメイクのセクシーな写真をインスタグラムで公開した時は、小児性愛を助長するとの批判が女性から殺到した。結局のところ、男女ともにネット上の敵は多かったようだ。

■東方神起、BTSも無縁ではいられない

 韓国ではSNSなどでの心ない罵詈雑言や誹謗中傷を、「悪プル」と呼ぶ。これは「悪」と「リプライ(reply)」を組み合わせたネットスラングだ。早くからSNSで親近感のPRに努めてきた韓国の人気タレントらは、後を絶たない「悪プル」に悩まされ続けてきた。

 今回の悲報に絡み、現地メディアでしばしば名前が挙がっているのがチェ・ジンシル。かつて国民的スターとして絶大な人気を博しながら、2008年に39歳で命を絶った女優だ。彼女もやはり「悪プル」に苦しめられた末の自殺だった。親しかったタレントが闇金からの借金を苦に自殺した件を巡り、金を貸していたのはチェ・ジンシルだとの根も葉もない噂がしつこく流布されたせいだ。

 2007年には、女優チョン・ダビン、女性歌手ユニが相次いで自殺。いずれも整形などを巡る無責任な書き込みが一因とされている。また近い例では2017年に自ら生涯を閉じた男性グループSHINeeのジョンヒョンも、アンチファンなどの心ないコメントに悩まされていた。

「悪プル」被害は、防弾少年団(BTS)、東方神起といったトップクラスのK-POPスターも例外ではない。メディアの表舞台では賞賛を浴びる彼らだが、SNSの一角では「犬野郎」「伝染病患者」「ネットの差別集団」「売国奴」「セックスアイドル」など根拠のない罵詈雑言が常に降り注ぐ。BTSは2018年11月、所属事務所を通じて厳重な法的対処を宣言。同年7月には東方神起のユンホが、MBCテレビのバラエティで「悪プル」への対処法を語っていた。ユンホによれば「自分に関心があるんだと思うことにしている。時間が経てば、ファンになることも多い」という。

 ソルリ自身は、「悪プルの夜」と題された韓国JTBCのバラエティ番組にMCとして出演していた。芸能人たちが自身への悪質な書き込みを読み上げて率直に語り合う番組で、その書き込みマナーなどについても触れられていたが、ソルリの自殺で打ち切りが決定した。

■「ソルリ法」で悲劇は終わらせられるか

 ソルリの死を受け、韓国では「悪プル」を取り締まる新たな法案が議論されている。今回はサイト運営者に違法な書き込みを防止する義務を課す、などが主な骨子だ。

 だが韓国ではサイト運営者に本人確認の義務を課すなどした「ネット実名制」を2007年に導入したものの、2012年に違憲判決が下されて廃止に向かった経緯がある。「表現の自由に抵触する」というのが理由だ。その経緯を経て今回どこまで踏み込めるのか、効果を疑問視する向きは多い。

「悪プル」を「サイバー名誉毀損・侮辱罪」など既存の法律で摘発することもできなくはない。だが現地メディアによれば「数十万ウォン(数万円)台の罰金刑で終わる場合が大多数」ともいわれ、抑止力には限度があるようだ。

 今回の法案は、「ソルリ法」とも呼ばれる。連鎖が続く悲劇を終わらせられるのか、当事者たちは悲痛な思いで議論を見守っている。

(高月 靖/週刊文春デジタル)

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