アマゾン流通センターに潜入してわかった、陰鬱なヒエラルキーと過酷なノルマ

アマゾン流通センターに潜入してわかった、陰鬱なヒエラルキーと過酷なノルマ

『潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)

〈いつのころからか、家の中が《Amazon.co.jp》のロゴが入った箱であふれるようになった。書籍や雑誌を買うのはもちろん、バックパックやワイン、洗剤や乾電池まで、アマゾンで買うようになった〉

 ジャーナリスト・横田増生氏の新著『 潜入ルポ アマゾン帝国 』(小学館)は、このような書き出しから始まる。かつて「ネット書店」だったアマゾンも、今ではムービーや音楽などのコンテンツ、AIアシスタント「アレクサ」、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)などに事業の幅を広げ、以前とは比べものにならない規模にまで成長した。

 アマゾンは生活習慣の一部となりつつある。

 2005年に出版された『 潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影 』(文藝春秋)を執筆した横田氏は、JR京葉線沿いの市川塩浜にあったアマゾンの物流センターに潜入している。そして、『 潜入ルポ アマゾン帝国 』では、アマゾンのなかでも国内最大規模といわれる小田原物流センターで働いた。ここでは、同書の第1章「15年ぶり2度目の巨大倉庫潜入」から一部を抜粋する。

◆ ◆ ◆

■アルバイトがアルバイトを管理する

 送迎バスに乗って、初日の午前8時半すぎに物流センターに到着すると、2階の休憩室でエヌエス・ジャパンの女性担当者が、私の顔を見つけて声をかけてくる。

「おはようございます。今日からよろしくお願いします」

 彼女の態度に威圧感はない。言葉も丁寧である。こちらも同じようにあいさつを返す。

 私がカットソーの上にセーターを着ているのに気づくと、彼女は「それじゃ作業をはじめるとすぐに暑くなりますよ」とアドバイスしてくれた。純粋な親切心から出た言葉であることは、その表情からわかった。

 しかし、以前に潜入したときは冷暖房完備という触れ込みであったにもかかわらず、冬はまったく暖房が効かず、下着を重ね着しても、凍えながら作業をした記憶が鮮明に残っていたので、彼女の言葉を無視してセーターを着たまま作業現場に入った。

 しかし、結果は、ピッキング作業を30分もしていると、セーターを脱ぎ、カットソーの袖をまくらなければならないほど暑くなった。長期で働いているアルバイトによると、「冬に汗ばむのはどうにかなるのだが、夏になると救急車で搬送される人が出るほど暑くなる」という。

 そういえば、米ペンシルベニア州の地方紙が、地元にあるアマゾンの物流センター内の気温が、夏には華氏100度(摂氏38度)を超え、一夏の間に15人以上が熱中症で倒れて、救急車がセンター付近に待機しているという記事を書いていたことを思い出した。以前は寒さとの戦いであったが、今は暑さとの戦いに変わってきているのだろうか。

 作業現場に行くと、青のビブス(ゼッケン)に《リーダー》と書かれた40代のおかっぱ頭でメガネをかけた女性が、作業初日のアルバイト約10人を集めてこう言い放った。

「PTGで85%以上は必達の目標値です。皆さんは作業開始の10日後にはこの数値が75%に達するよう努力して下さい。目標値を超えられない場合、われわれリーダーと、どうすれば生産性が向上するのかという話し合いを持たせていただきます」

 この人は、陰気で、かつ権柄尽くな態度である。

 偉そうに語るこのリーダーとは何者なのか。

 アマゾンの作業現場には、「ワーカーさん」と呼ばれる私のような一番下っ端のアルバイトがいて、その上が《トレーナー》、さらにその上に《リーダー》がいる。一番上となるのは《スーパーバイザー》である。全員で400人いるピッキングのアルバイトのうち、トレーナーが20人、リーダーが10人、スーパーバイザーが5人といった感じか。

 いずれも時給で働くアルバイトに過ぎない。

 時給は「ワーカーさん」が1000円とすると、トレーナーは1050円、リーダーは1100円、スーパーバイザーは1200円──という程度だ。いずれも派遣会社と半年契約を結ぶアルバイトであり、アマゾンとの直接の雇用関係はない。要は、同じアルバイト同士である。そのアルバイトに序列をつけ、アルバイトがアルバイトを管理するようになっている。

■作業は常に見張られ、目標に達しなければ叱責される

 小田原に100人ほどいるというアマゾンの社員の多くは4階の作業現場の外にあるアマゾン専用オフィスに詰めており、そのうち何人かが現場に出てきているらしい。

 おかっぱ頭のリーダーが語るPTGとは《パーセンテージ・ツゥー・ゴール》の略語である。

 ピッキング作業にはモトローラ製のハンディー端末を使うのだが、ピッキングのたびに、「次のピッキングまであと何秒」という表示が出る。たとえば、100回のピッキングで、100回ともハンディー端末が指示する時間通りにピッキングできれば、PTG100となる。その時間を、5回上回ればPTG105となり、5回下回ればPTG95となる。

 ここでは毎日、アルバイト全員の名前と順位、PTGの数字が一覧表となって張り出される。私は何度も、自分の名前を見つけようとしたが、出勤日数が少なかったからなのか、自分の名前をランキングに見つけることは1度もできなかった。ただ、アルバイトの作業が常に見張られており、作業が目標に達しないと叱責されるという点は、以前と変わらないんだなぁ、と思った。

 リーダーの簡単な説明の後、アルバイトは各自、ハンディー端末を使ってピッキング作業をはじめた。ハンディー端末の上半分には画面がついており、その下半分には、1から10までの数字と、アルファベットなどのボタンがついていた。前回の潜入時には、100件ほどの注文が紙に印刷された《ピッキング・スリップ》と呼ばれる用紙を手に持って、そこに印刷してある商品を探してきた。手作業だったのである。

■ピッキングのたび、早く作業をしろ、とお尻を叩かれる感じ

 現在は、まず、カートの上に緑色のトートと呼ばれるプラスチック製の折り畳み式のカゴを載せる。トートに貼ってあるバーコードを端末で読み込むと、作業開始である。端末の画面上にピッキングすべき商品が表示される。

「P−4 A241 C448
キジマ ボルトセット」

 ピッキングの作業で重要なのは1行目である。

 P−4というのは、4階を指す。2階から5階までの各階は、AゾーンからHゾーンに分けられている(1階は、入出庫と梱包用のスペースであるため商品は在庫されていない)。次の「A241」は、Aゾーンの241番目の棚を意味する。各列には、下から順にAからJまで(棚によって若干の違いがある)の棚がある。この場合の「C448」ならば、棚の下から3番目である。その「448」番目の間仕切りに自動車部品のキジマ社製のボルトセットが入っているという意味だ。

 そのビンの中に入っているいくつもの商品の中から、ボルトセットを探し出し、端末でその商品に貼ってあるバーコードを読み込む。ピッキングした商品が正しければ、緑の画面のまま、次にピッキングする商品が表示される。間違った商品のバーコードを打ったら、「ピーィピーィピーィ」という甲高い警告音とともに、「商品が間違っています」という赤い画面に切り替わり、正しい商品を探すまで、次の作業には進めない。

 つまり、端末を持った作業では、ピッキングでの間違えは起こりえない。人為的な作業ミスが極力発生しないようになっている。ハンディー端末がなかった15年前、このピッキングミスが物流センターの作業効率を大きく落としていた。

 ボルトセットを正しくピッキングした後に出てきた商品は、

「P−4 A241 A347
神田食品研究所 無糖レモン1・8L」

 という飲料水である。

 スキャナーの商品表示の下には、常に「次のピックまで●●秒」という文字が現われ、横棒が段々とゼロに向かって減っていく。

 たとえば、ボルトセットの「A241 C448」と無糖レモンの「A241 A347」は、同じ棚なのだが、ビンが違うということである。こうした場合、「次のピックまで15秒」というように表示され、1秒ごとに、横棒が右の15秒から左の0秒に向かって縮んでいく。これが女性のリーダーが言ったPTGに使われる数字だ。

 次の場所までの距離によって、「15秒」や「20秒」、「30秒」や「45秒」から、「1分30秒」など様々な数字が表示される。15年前のピッキングの目標は、「1分で3冊」という大雑把なものだったが、今は移動距離が反映されている分、より正確になったともいえる。しかし、アルバイトの視点からすると、見張られる精度が、秒単位になったという窮屈な気持ちになる。

 毎回のピッキングのたび、早く作業をしろ、とお尻を叩かれている感じだ。しかし、その時間内に次の商品をピッキングすることはほとんど不可能に思えるほど、その設定時間は短い。

 次に出てきた商品は、

「P−4 A251 D185
キャリアウーマン ブルゾン ちえみ
おかっぱ かつら ブラウス スカート メイク シール ネタ帳付き 5点セット
コスプレ用 小物 男女共用」

 これは、10月末のハロウィンの仮装パーティー用であろう。

 その次は、

「P−4 A251 E464
MOLDEX 耳栓
Softies 8ペア 6600」

 ──というように、作業指示が途切れることはない。

 トートが満杯になれば、《F(Finishの意味)》を押してから、《Enter》ボタンを押した後、ベルトコンベヤーに流し、新しいトートをスキャンする。作業時間が終わるまで、この同じ作業の繰り返しである。

 消費者がアマゾンで注文した商品を翌日に受け取ることができるのは、こうした現場の厳しいノルマと密接に関係している。

 消費者が、アマゾンの画面で《注文を確定する》をクリックすると、その注文は、いったんはアメリカのアマゾンのサーバーに飛んでいく。そこをへて、届け先から近い日本国内の物流センターに割り振られる。物流センター内で、ピッキング指示がハンディー端末を経由してアルバイトに伝えられる。注文した商品は数時間以内にピッキングされる。ピッキングされた商品は、ベルトコンベヤーに載って、1階の梱包・出荷エリアへと向かう。ここでも商品は短時間で梱包され、アマゾンの物流センターから宅配便業者の中継センターへと運ばれる。

 注文した日の夜、宅配便業者のセンターで、商品は地域ごとに細かく仕分けされる。届ける住所をカバーする宅配便センターへと商品が運び込まれるのは、注文の翌朝となる。配達員が朝から1日かけ、その荷物を届けることで、日本におけるアマゾンの翌日配送は成り立っている。

■物流センターの数や場所さえ非公表

 休憩時間の11時45分となったので、ハンディー端末を詰所に戻し、2階の食堂に向かった。その日、私が食べたのは350円のメンチカツ定食と100円のサラダ。定食についてくるお味噌汁とご飯はセルフサービスである。

 安いなぁ。

 食堂での安価な定食は、アマゾンのアルバイトに与えられた数少ない福利厚生である。この定食が、クリスマス前後になると200円となり、正月三が日となると無料になることは、あとで知った。

 ご飯のはいった炊飯器の横には、「おかわり厳禁」の文字がある。周りを見ていると、大半の男性アルバイトは、茶碗に3杯分ぐらいのご飯をよそっていく。いくら体力勝負の作業とはいえ、それでは炭水化物のとりすぎとなり糖質管理という面からは問題なんじゃないの、とこちらが心配になるほどだ。

 一緒に食べる相手もいないので、メンチカツをほおばりながら、私はあれこれと考えを巡らせていた。

(中略)

 入り口にこんなポスターが貼ってあった。

「物流センターは一般的に、配送センター(DC)と呼ばれますが、アマゾンのセンターはフルフィルメントセンター(FC)と呼びます。アマゾンのセンターも操業当初はDCと呼ばれていたのですが、1999年に“FC”という呼称に変更されました。/これはアマゾンのセンターが単にモノの出し入れをするだけでなく、お客様の高い要望に応える『サービス』を提供する場所だからであり、他の部署と連携して、顧客満足度を生み出す場所であるからです。すなわち、お客様の『満足』を『満たす』場所だからです」

「あーそうですか。ご立派なことですね」

 というのが私の感想である。

 アマゾンのこだわりはわかったが、それに付き合うつもりはない。この書籍ではわかりやすいように物流センターと表記する。

 このFCの説明に限らず、小田原のセンターでは、壁に隙間さえあれば何かのポスターが貼ってあった。アマゾンの方針の説明であったり、アルバイトへの連絡事項や、健康に関するもの、労災事故に関するものや、作業ミスに対する警告──などさまざまなポスターが貼ってあった。

■アルバイトにノルマとプレッシャーを与えるアマゾン

 私には、アマゾン社員と言葉を交わす場面など一度もなく、リーダーやスーパーバイザーと話をする機会もほとんどなかった。黙々と作業するしかなかった私は、物流センター中に貼ってあるポスターを熱心に眺め、アマゾンの意図を読み取る手段としようとした。

 他の作業現場と同じく、アマゾンの物流センターでも、アルバイトへ懇切丁寧に説明しようという態度は欠けていた。しかし、そのポスター群を見ているとアマゾンの意図が透けて見えてくるようだった。一番目立ったのは、作業者に警告し、プレッシャーを与えるような威嚇的なポスターだ。

 たとえば、「重大品質事故が発生しました」として、棚入れ作業で最下段にあった商品を、アルバイトが勝手に最上段に移動し、最下段にできたスペースに別の商品を棚入れしたため、もともと最下段にあった商品が見つからなくなった、という事例を挙げ「このような違反行為は絶対にしないでください。違反行為が発覚した場合は、調査を行い厳正に対処します」と赤字で書いてある。

 ほかにも、「重大事案発生連絡」として、「故意の商材破損・故意の倉庫内飲食。■食品を食べてゴミを放置、■フタを開けて液体を散らかす」。その下には、トンカツソースとマヨネーズが逆さまになり、床に大量の液体が流れ出している写真が2枚添付されていた。最後には「*不審者を見たら、すぐに報告してください。私たちは、このような犯罪行為を絶対に許しません!」と締めくくってある。

 私はその写真を見ながら笑いそうになった。単調な仕事に嫌気がさしたアルバイトが腹いせにやったのだろうか、それとも苦々しく思っているリーダーやスーパーバイザーなどへの仕返しのつもりだったのだろうか、と想像した。

 ロッカーには「最後にもう一度確認してください! ポケットの中などに携帯電話が入っていませんか? 持ち込みは絶対ダメ。携帯電話の持ち込みは、即退社していただくことがあります」。

 作業スペースに携帯電話の持ち込みは厳禁だった。

 うっかり持って入ったら、警備員が携帯電話のなかの私的な写真や動画、メールの内容や電話番号などを全部確認して、問題がないと判断したうえでないと返却されない。返却までに2、3日かかることもあるという。携帯電話内の情報を見せることを拒めば、その場で解雇となる。

 15年前と違い、今は携帯電話さえあれば、アマゾンの物流センター内のレイアウトや作業風景を写真や動画に撮って、外部に流すこともできる。しかし、アマゾンにとって物流センター内は、すべて企業秘密に相当する。

 ポスターにある「厳正に対処」や「不審者」、「犯罪行為」や「即退社」といった刺々しい言葉が含まれたいくつもの権高なポスターを目にすることは、働く側の気持ちを委縮させる効果がある。作業でミスをしてはダメなんだ、いつもアマゾンに見張られているんだ、という陰鬱な気持ちになる。

(横田 増生)

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