大炎上の「血液クレンジング療法」を日本の医療界は笑えるか? 現役内科医が明かす“衝撃の事実”

血液クレンジング療法がネットで大炎上 死に至る可能性もある研究段階の治療方法とも

記事まとめ

  • オゾン療法、大量自家血オゾン療法とも呼ばれる血液クレンジング療法がネットで大炎上
  • 米国政府からは完全否定されるがヨーロッパなどで代替医療の一種として実施されてきた
  • 死亡に繋がる副作用も起こりうる研究段階の治療方法が、金儲けの手段になっているよう

大炎上の「血液クレンジング療法」を日本の医療界は笑えるか? 現役内科医が明かす“衝撃の事実”

大炎上の「血液クレンジング療法」を日本の医療界は笑えるか? 現役内科医が明かす“衝撃の事実”

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 血液クレンジング療法がネットで大炎上している。

 私は20年以上にわたり日本の医療現場で働いてきた内科医だが、不勉強ながらこの血液クレンジング療法なるものを報道に接するまで知らなかった。なんでも100から200ミリリットル程度の血液を抜いて、体外でオゾンガスなどと混合し、また体に戻すというもので、オゾン療法、大量自家血オゾン療法などとも呼ばれているようだ。

 日本においては、健康保険では認められていない自由診療として、美容やアンチエイジングなどの分野で特に用いられているとのこと。提供している施設を調べてみると、その他にも標準的な医療機関では普通は行わない自由診療の項目が、いくつも並んでいた。

■最悪の場合は死に至る可能性も

 とはいえ、日本では自由診療だが、海外では公的に認められている治療法も珍しくない。そこで、医薬品や医療機器を公的に規制する組織として、世界的な影響力を持っている米国食品医薬品局(FDA)での状況を調べてみた。するとFDAに関連する米国政府の法律の中( 連邦規則集 Title 21: Sec. 801.415. )に、このような記載を見つけた。

「オゾンは毒性を持つガスであり、特定の治療や補助療法、さらには予防医療のいずれにおいても、臨床応用が有用だとする定まった知見がない。オゾンが殺菌作用を発揮するためには、人間や動物が安全に耐えられる許容量よりはるかに高濃度が必要になる」

 薬理作用を出すためにたくさんの量を使うと生物にとって毒になってしまい、逆に、安全に使うために少ない量しか用いないと何の効果もなくなってしまう、ということだろう。また、一度抜いた血液を体内に戻す際には、一歩間違えればバイ菌が混入したり、血管が詰まる血栓症になったりするリスクがある。そうなると、最悪の場合は死に至る可能性もある。

■プラセボ効果と「上級国民」意識

 ――と、ここまで調べただけでも、「ほとんどの医者が、お金をもらったとしても自分自身や家族には行わない治療法だな」というのが、正直な印象だ。施術を受けた芸能人たちが「元気になった」と感じたのも、プラセボ(偽薬)効果によるものだったのだろう。

 プラセボ効果とは、薬や治療法そのものには何も効果がなくても、心理的な暗示作用で患者が本当に効き目を感じる現象のことをいう。血液クレンジング療法では、体外でオゾンと一緒に酸素ガスと混合された結果、最初は青黒かった静脈血が鮮やかな赤色になる。赤血球に含まれるヘモグロビンが酸素と結合することで、動脈血の赤色へと変色するのは当然の話なのだが、見た目のインパクトが強い上に、もっともらしい医療設備と医学用語の御託をならべ立てることで、プラセボ効果が出るのだろう。

 さらに、血液クレンジング療法が芸能人らセレブの御用達になったのは、比較的高額な自由診療で特別感が演出されていることも、その理由の一つだと考えられる。日本は国民皆保険で、有効性が認められている治療法はほぼ全て保険診療で受けられるのだが、血液クレンジング療法は一般人と同じ治療では満足できないセレブ達の、いわゆる「上級国民」的意識をくすぐったのではないだろうか。

■こういう場合、医師はどのようにエビデンスを調べるのか?

 米国政府からは完全否定されている血液クレンジング療法(オゾン療法)だが、19世紀末に人体への応用が始まるなど、それなりの歴史はあるようだ。イタリアやドイツなどヨーロッパを中心に、中国などでも正統派の医療とは異なる代替医療の一種として実施されてきた。

 では、このような情報に接したとき、医師がその医学的なエビデンスをどう調べるのかご紹介しよう。

 私がよく行うのは、いくつかある英語のデータベースを使って、医学専門誌に掲載された論文や診療ガイドラインなど、信頼できる情報をチェックする、という方法だ。残念ながら医学論文を含めた日本語の情報は、学術的には質も量も十分ではないとの世界的な共通認識があるため、やはり英語の情報に頼らざるをえないのだ。

 血液クレンジング療法は、英語にすると 「オゾン・オートヘモセラピー(Ozone Autohemotherapyまたは Autohaemotherapy)」となる。ためしに有名なデータベースの一つ、アメリカ国立衛生研究所が運営する国立医学図書館のパブメド(PubMed)でキーワード検索すると、少なくとも84報の論文が発表されていた(2019年11月5日現在)。

■血液クレンジング療法の“有効性”は示されている?

 それらの論文の中には動物実験などの基礎研究もあるが、一部では人間を対象にした研究(臨床試験)も発表されている。さらに、血液クレンジング療法をする/しないで比較した、信頼性が高いとされる「ランダム化比較試験」もいくつか行われている。

 たとえば、2012年に国際眼科学雑誌に報告された論文では、イタリアのシエナ大学の研究者がランダム化比較試験を行っている。ある種の眼の病気を持つ140人の患者を2つのグループに分け、片方はビタミン剤療法、もう片方は血液クレンジング療法を行い、どちらで治療効果が出たのか比べてみたのだ。その結果、血液クレンジング療法は特段の副作用もなく、実際にビタミン剤療法を上回る視力の改善効果が観察されたと結論し、抗酸化分子の産生を促すような検査結果も確認したと書かれている。

 すなわち、13世紀に創設された由緒あるシエナ大学から、信頼性の高いランダム化比較試験が国際誌に発表され、“有効性”が示されているわけだ。こう書くと、やっぱり血液クレンジング療法には効果があるのではないか――と思われる方もいるかもしれない。

 しかし、ここに医療の難しさがある。ポジティブな研究結果がいくつか出ただけで、「この治療法には効果がある」と広く認められるわけではないのだ。病気の種類や患者の状態、さらには偶然性や研究者の思い込みなどによっても、容易に研究結果は左右されてしまう。実際、一部の研究者によって当初は有効だとされた治療が、その後の研究(追試験)で結局は無効なばかりか、有害だったと評価がひっくり返ることも珍しくない。

■掲載されているのは聞いたことがない専門誌ばかり

 私が検索した限り、血液クレンジング療法に関する論文には、有効性を謳うものも確かに散見されるが、研究のレベルは総じて低く、掲載されている専門誌も聞いたことがないものばかりが目についた。それどころか、心筋梗塞や不整脈といった重篤な副作用を報告し、安易な実施に警鐘をならす論文すらある。

 英語の医学専門誌は1万種類以上あるが、世界中で称賛される超一流誌から、紙屑のような誰も読まない雑誌まで、厳然としたヒエラルキーが存在している。そのうえ、超一流誌の論文ですら捏造事件がしばしば起こるし、お金を積まれれば質を問わず何でも掲載してしまうハゲタカ学術誌も跋扈している。一部の施設がマイナーな専門誌に少し報告を出したくらいでは、世界の医学界の主流派からは認めてもらえないのだ。

 血液クレンジング療法について、美容やアンチエイジングに対する効果を証明した論文も見当たらなかった。結局、死亡につながる副作用も起こりうる研究段階の治療方法が、一部の医療機関の金もうけの手段になっている、というのが真相のようだ。

■日本の医療界が抱える“問題”との繋がり

 しかし、私は血液クレンジング療法を単なる「トンデモ治療」として一笑にふすことはできないと思っている。この騒動は、日本の医療界が抱える“問題”と深いところで繋がっているように感じるからだ。

 たとえば、大した有効性もない高価な新薬を、大手製薬メーカーから多額の謝金を受け取った大学教授らが宣伝するのは、残念ながら日常茶飯事になっている。芸能人などのインフルエンサーが、お金をもらってSNSでステルスマーケティングを行うのと全く同じ構図だ。

 それに釣られた一般の医師も、何の疑いもなく安価な既存の薬より新薬の方を処方している。つい最近もインフルエンザの新薬ゾフルーザが、安い既存の薬タミフルやその他ジェネリック医薬品と同じ効果しかないのに大量に処方され問題となった(朝日新聞デジタル「 インフル治療に新薬ゾフルーザ 専門医が慎重なワケは 」等を参照)。これでは、営利目的の血液クレンジング療法と同じ穴のムジナとの誹りを免れることはできない。

■日本の再生医療政策は一流科学誌から批判されている

 さらに、日本が国策として進めている再生医療に関しては、少数の患者で有効性が出ている“雰囲気”さえあれば、他の治療と統計的に比べもせず早期に承認し、保険適用を行う特別な法律(再生医療推進法など)まで作られている。たとえば心不全に用いるハートシートでは、7例に使用し2例は悪化、5例は良くも悪くもならない、という臨床試験結果で「有効性が推定される」との評価になり、1470万円の薬価がついて世界初の心不全に対する再生医療製品として発売された。

 海外の医者や患者がこのデータを見て、自国でもぜひ使いたいと思うだろうか? 実際、一流科学誌ネイチャーの編集部は、こうした日本の再生医療政策は未熟かつ不当であり( premature and unfair )、やり方を何としても再考しなければならない( Japan’s government must rethink its approach )とたびたび強い批判を行なっている。米国の一流科学誌サイエンスでも、日本の再生医療政策は、世界レベルで予期しない有害な結果につながる( unforeseeable, detrimental consequences )として深刻な懸念を示す論説が掲載された。

 これに対して、厚生労働省の役人や大学教授たちは、ランダム化比較試験は必要ないとまで公言し、 反論している 。海外では「研究段階」としか認めてもらえない治療について、日本国家としてお墨付きを与え、一部の営利企業に公金を注ぎ込むのだから、ある意味では血液クレンジング療法よりたちが悪いとも言える。

 血液クレンジング療法にまつわる今回の炎上事件は、医療のエビデンスとはいったい何なのか、目を向けて考えるよいきっかけになるだろう。いまこそ、日本の医療界の矜持が問われているのだ。

(谷本 哲也)

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