即位パレード 自衛官だけど“プロの音楽家”――陸上自衛隊「中央音楽隊」を知っていますか?

即位パレード、陸上自衛隊「中央音楽隊」の活動を紹介 防衛大臣直轄で音楽専門に活動

記事まとめ

  • 11月10日の即位パレードで、「陸上自衛隊 中央音楽隊」が皇居正門前で演奏を行なった
  • 中央音楽隊は防衛大臣直轄の組織で、音楽科職種として、全国の音楽隊の教育を担当
  • 演奏の頻度は昨年の実績で約180回、即位の礼での活躍ほか、「3.11」被災地でも演奏

即位パレード 自衛官だけど“プロの音楽家”――陸上自衛隊「中央音楽隊」を知っていますか?

即位パレード 自衛官だけど“プロの音楽家”――陸上自衛隊「中央音楽隊」を知っていますか?

自衛官であり、音楽家である陸上自衛隊「中央音楽隊」とは? ©共同通信社

 即位の礼や来日した国賓のお出迎えなどの国家的行事や毎年行われる自衛隊音楽まつりでその姿を見ることのできる「陸上自衛隊 中央音楽隊」。11月10日の即位パレードでも皇居正門前で演奏を行なった。

 屈強な肉体を誇る人たちが集うイメージの強い陸上自衛隊の中にあって、音楽隊は“音楽”を仕事としているいわば音楽家である。いったい、彼らはどんな“自衛官”なのか。そして普段の活動とは――。陸上自衛隊の隊員たちの中でも比較的目にする機会の多い中央音楽隊について、同部隊のある陸上自衛隊朝霞駐屯地でコンサートマスターを務める植竹友和1等陸曹に話を聞いた。(全2回の1回目/ #2 へ続く )

◆ ◆ ◆

■そもそも「中央音楽隊」とは?

――まず、そもそも陸上自衛隊中央音楽隊とはどのような組織なのか、教えてください。

「大きなくくりで言うと、陸上自衛隊で16職種ある内のひとつ、音楽科職種でして、我々は音楽を専門に活動しています。音楽隊は全国の5方面、また師団・旅団にもそれぞれあるのですが、中央音楽隊は“中央”ですからいちばん大きな編成の音楽隊といえます」

――音楽科職種の頂点ということで全国の音楽隊を統括する立場でもあるんですか。

「統括とは少し違うんですね。例えば方面の音楽隊は方面総監の下にあるという形になっていまして、我々中央音楽隊は防衛大臣直轄です。みな音楽科職種であることは変わりないですが、部隊としてはそれぞれ違う指揮系統です。ただ、中央音楽隊は全国の音楽隊の教育を担当していて、音楽科職種になると必ずここで教育を受けることになっています。また、人事異動も全国規模なので各音楽隊との交流はもちろんあるんです」

■年間180回――3日に1回ペースで演奏

――中央音楽隊ですから、やはり全国の音楽隊から腕ききが集まってくるんですよね。

「そういうことになりますね。自衛隊の音楽科で採用されると最初に地方の音楽隊に配属されて、そこで技量であったり自衛官としての資質であったりで選抜されて中央音楽隊に集まって来るというイメージです。私も最初は東北方面音楽隊でキャリアをスタートしています」

――中央音楽隊には何人くらい所属しているのでしょうか。

「約100名です。教育を担当する教育科、そして部隊全体の運用を担当する企画科、そして演奏科で構成されています。実際に演奏するわれわれ演奏科は約80人。ただし、全員が揃って演奏するという機会はなかなかなくてですね、式典の規模や演奏場所に応じてメンバーを編成して行なっています」

――演奏機会の頻度はどのくらいでしょうか。

「昨年の実績で約180回です。中央音楽隊の役割は主に4つありまして、ひとつは陸上自衛隊のための演奏。これは隊員の士気を鼓舞するための演奏です。2つめは国家的儀式に際しての演奏。即位の礼や特別儀仗、その他式典での演奏です。3つめは自治体等行政機関からの要請に基づく演奏。最後は教育。先ほどの180回の演奏というのはこれら全てを含めた実績です」

――180回ということはだいたい3日に1回のペースですか。

「中には1日に複数の演奏が入ることもあるんです。そういうときには人数を振り分けて。毎年都内のコンサートホールで定期演奏会もやっていますが、ホールを確保するのはだいたい1年くらい前なんですよね。でも、直前になって儀仗の演奏が入ることもあるわけです」

■最優先の「特別儀仗」とはどんな任務?

――先日市ヶ谷駐屯地の 第302保安警務中隊 も取材したのですが、今一度儀仗について教えてください。

「国賓等の来日や防衛大臣、副大臣などの離着任のさいに行なう儀式ですね。

 特別儀仗の日程は急遽決まることも多い。定期演奏会はできるだけ他の行事などと重ならない日程を選んではいるのですが、特別儀仗は我々だけができる任務ですから最優先です。特別儀仗と重なった場合は、残ったメンバーで演奏会ということになります」

――特別儀仗は第302保安警務中隊とともに行うのですよね。その302保安警務中隊と合わせるのは本番当日の朝、と聞いたのですが。 

「そうですね。特別儀仗当日になってはじめて合わせます。ただ、302保安警務中隊と我々は昨日今日の付き合いじゃないですから。先輩から受け継がれてきた関係性というものがあるので、多少の調整はあってもそれほど難しいことではないんです。

 それでも302保安警務中隊も常に特別儀仗に対して進化を続けてきていますから、我々も負けないようにという意識がありますね。音楽の演奏についてはプロですが、保安警務中隊は銃の上げ下げ、行進などキビキビした動きを突き詰めている。それに遅れを取らないように特別儀仗はかなり根をつめた訓練をしています」

■楽器を構える角度もミリ単位で揃える

――302保安警務中隊では銃の構え方ひとつでもミリ単位で揃えるというお話を聞きました。

「それは我々も同じですよ。楽器を構える角度もミリ単位で揃えることができるようにしないといけない。何しろ天皇皇后両陛下や来日された国賓の前で演奏するわけですから、絶対にミスはできない。よく、『人間だからミスはしょうがない』などといいますが、こと特別儀仗に関してはそうじゃない。本当にミスは許されないんです」

――となると、中央音楽隊のメンバーの中でもさらに選抜されたメンバーが儀仗を担当するということになるのでしょうか。

「いえ、80名のメンバー誰でも演奏できるような訓練をしています。やはり特別儀仗を行なう場所によって人数も変わってくるのでそれに応じてメンバーを編成して、そこから本番に向けての訓練、という流れですね。日常的にはみな個別で練習していますから、特別儀仗に限らず本番前に参加メンバー全員で合わせるのは数日から1週間程度。民間のオーケストラのコンサートでもひとりひとりが楽譜を完璧に仕上げてきて、数日前からリハーサルで合わせるのが一般的ですからね」

■東京競馬場のファンファーレでの「悩み」とは?

――なるほど……プロの音楽家ならではのお話ですね。ただ、自衛隊の場合は儀仗や式典などコンサートホールのような整った環境というよりは屋外で演奏する機会も多いです。屋外では雨風もありますし、一筋縄ではいかないのでは?

「まさにその通りで、我々はどんな場所、どんな環境でも演奏しなければならない。私も音楽大学を卒業していますが、そもそも外で演奏する機会は自衛隊に入るまでありませんでしたから。それだけ特殊な環境で演奏することが求められているのだと思います。屋外とホールの最大の違いは、音が響くかどうか。コンサートホールであればまさに音楽を聴くために設計されているのでよく響きますし、体育館なども音響効果がありますよね」

――「お風呂で歌を歌うと上手に聞こえる」みたいなことでしょうか。

「そう、それです。でも屋外はそうした音響は一切ない。むしろ音が散っていくので、屋内と同じように演奏していてはキレイに聴こえないんです。我々はそこでうまくコントロールして音を出さないといけません。コツとしては……そうですね、響きを残す、と言うんですが、少し長めに吹いたり強さを変えたりすることがポイントでしょうか」

――個人的には、東京競馬場で年に2回、ダービーとジャパンカップで中央音楽隊のみなさんのファンファーレ生演奏を聴いているのですが、それもとてもお上手で……。

「私もここに入るまでは競馬場で手拍子する側だったんですけど、演奏する立場になるとあの手拍子は大変なんですよね。10万人の手拍子ですからリズムがバラバラに聞こえてくる。だから演奏に入ったら自分たちが出している音以外は耳からシャットアウトして、聴かないようにして演奏するんです。これもまあ、自衛隊ならではの技術と言えるかもしれません」

■吹雪の日でも演奏するためのポイント

――屋外で演奏することにかけてはまさに日本一、と。ただ屋外だと天気が良い時ばかりではなくて、雪が降る日も雨が降る日もありますよね。特に寒いと楽器が冷えて音が出にくくなると聞いたことがあります。

「そこは道具をどう扱うか。金管楽器だと凍っちゃうんですよね。それを防ぐためにオイルの代わりにアルコールを染み込ませておくとか、唇が張り付かないように吹く部分の素材を変えたりとか。

 あと私が演奏しているクラリネットは木材を使っているので、乾燥していると音が出なくなる。それを防ぐプラスチックのリードを使うのもひとつです。そうした対策はみなそれぞれで工夫していると思います。それでも東北方面音楽隊にいたときに真冬の吹雪の中で演奏したこともありますが、これはキツかったですよ」

――吹雪でも演奏するんですか!

「指がかじかんで感覚がなくなるんですよ。横殴りの雪のなか感覚がなくても演奏できるようにする。それが自衛隊の音楽隊なんです。雪以外でも観閲式の訓練で2時間ずっと土砂降りだったこともありました。そのときは足がガタガタ震えながら演奏して。でもまあ、それを経験しておけば多少のことがあっても大丈夫だろう、と思っています。夏もキツいですよ。汗がおでこから垂れてきて目に入っても汗を拭うことはNGですから、片目で楽譜を見ながら演奏するなんてこともよくありますから」

■「3.11」被災地での演奏

――さすが、という他ないですね……。みなさんが簡単に真似のできない唯一無二の技量をお持ちだと言うことがよくわかります。2011年の東日本大震災のときにも活動されたと聞きました。

「我々のいる朝霞駐屯地が災害派遣に向かう隊員たちのベースキャンプになっていたんです。被災地から一度帰ってきて少し休んでまた被災地に向かう、そういう隊員がたくさんいました。彼らに少しでも元気を出してもらえるような曲、たとえば『ロッキーのテーマ』や『スーパーマンのテーマ』を演奏したり、癒しになるような曲を演奏したり……。落ち込んでいるときは元気な曲がいいと思われているんですけど、実は悲しいときこそ悲しくて沈んだ曲で心を共感させると落ち着いたりすることもあるんです。『Time to Say Goodbye』など歌モノのバラードを隊員たちのリクエストも聞きながら演奏しましたね」

――もちろん被災地にも。

「福島から宮城、そして岩手の北のほうまでいきました。先に先遣隊が入って情報を送ってくれて、演奏ニーズのあるところを確認して向かうという流れで演奏させていただきました。我々は陸上自衛隊なのでマーチといったら陸軍分列行進曲が本来なんですけど、ある町で軍艦行進曲をリクエストされましてね。その町では船が港から出港するときに毎日軍艦マーチを流していたそうなんです。だからぜひということでお願いされまして、演奏したんです。そうしたら町の人が総出で見にきてくれて……」

■自衛隊に「ここではできません」「無理です」はない

――リクエストにも応えつつどんな場所でも演奏できる。まさに音楽隊の本領発揮、といいますか。

「音楽隊に限らず自衛隊特有の能力だとは思うのですが、我々は『ここではできません』『無理です』ということはない。楽器の搬入はもちろん食事も移動も全部自分たちでできますからね。それで少しでも被災した方々のお役に立てたならよかったな、と思います」

即位の礼での活躍、自衛隊音楽まつりや儀仗の際のはなやかな姿が目につく陸上自衛隊中央音楽隊。彼らの真髄は“どんな環境でも変わらずに演奏する”という他には決して真似のできない類稀な技術にあった。それこそ“自衛隊の音楽隊ならでは”なのだろう。
(全2回の1回目/ #2 日本最高峰の吹奏楽団――陸上自衛隊「中央音楽隊」はどうすれば入れる? へ続く)

写真=佐藤亘/文藝春秋

懸垂、腕立て、戦闘訓練 日本最高峰の吹奏楽団――陸上自衛隊「中央音楽隊」はどうすれば入れる? へ続く

(鼠入 昌史)

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