首里城火災の3日前に起きた「ノートルダム大聖堂の復讐」 再建まで5年以上、寄付125億円が送金された

首里城火災の3日前に起きた「ノートルダム大聖堂の復讐」 再建まで5年以上、寄付125億円が送金された

ノートルダム大聖堂の火災 ©?AP/AFLO

 首里城の火災は世界遺産ということもあって、フランスでも短いながらニュースで扱われた。あの炎上する映像を見て、ノートルダム大聖堂と重ねてみた人も多かった。

■ノートルダムの周辺は今

 火災発生の4月15日から7カ月、ノートルダムの周辺は相変わらず柵で囲まれて、近づくことはできない。もっとも、燃えたのは有名な鐘のある入り口の2本の塔の裏側から延びる屋根とその上の尖塔(せんとう)で、鐘のある2つの塔など正面や外壁は残っているので、遠目には火災の前と比べてもあまり変わらないのだが。

 燃えた部分に工事用の足場が見え、まるでもう修復が始まっているようだ。しかし、これは火事の前に予定されていた尖塔の修復をするための足場である。出火地点であるともいわれる。約500トンの鉄パイプが800度の高温にさらされ、曲がったりくっついたりしている。文化省のノートルダム担当歴史的文化財建築家フィリップ・ヴィルヌーヴ氏によれば、実はこれが厄介な代物で、新しい足場を組み、その上でこの足場を取り除くという複雑な作業が必要だという。また焼け残った石造りの円天井も崩落の危険がある。さらに、屋根の代わりに天井を塞いで雨が入らないようにしなければならないという(パリジャン、2019年9月13日)。

 そもそもノートルダム大聖堂は、石組みの建物の力を四方に分散して逃がすことで成り立っている。外から見える美しい支柱はそのためのものだが、その分微妙なバランスでできており、それが崩れると、弱い。

 もうひとつ、火災当時から鉛害が心配されていたが、近隣の学童、住民や消火活動参加者への検査を続けていたイルドフランス地方保健局は、10月15日に特段そうした被害は出ていないと発表した。だが、何しろ鉛製の尖塔と屋根が崩落し、400トンの鉛が溶けて飛び散ったのだ。住民の不安は消えていない。現場での鉛害検査のため、7月には3週間工事を中断せざるをえず、いまでも毎月働く人たちの採血が行われているという。

■マクロン大統領の思惑

 古い足場が撤去されるまでに、あと半年、その後あらためて検査をして修復計画が立てられる。修復工事に着手できるのは2021年になってからだろう。前出のヴィルヌーヴ氏によれば、原状復帰なら5年で竣工が可能だという。

 だがこの5年という数字には、なんとか2024年のパリ・オリンピックに間に合わせたい、というマクロン大統領の意向もあるようで、他の専門家の意見では10年かかるともいわれている。

 マクロン大統領は、火災直後から、原状復帰ではなく現代を代表するような建築を、と語っていた。ポンピドゥーセンターやミッテラン図書館のような、彼の名を後世に残すモニュメントを作りたいのだろう。建築コンクールを行うともいっていたが、いまは沈黙している。ただ、あきらめたのかどうかはわからない。支持率低下のもと年金改革など難題が続いており、とてもではないが言い出せる状況ではない。

■寄付の申し出のうち、約125億円が送金された

 外観は変わらないように見えるが、対策は国が先頭に立って迅速に行われている。

 カトリック教団ではなく、国が先頭に立つのは、政教分離の原則からだ。フランス革命で教会は国に接収されて非宗教施設になった。ノートルダムも1789年11月以来国有である。現在、土地建物は国の所有だが宗教側に無償で提供されている。つまり、国は所有者であるから建物の維持管理の責任があるのだ。

 国はあくまでも宗教施設としてではなく文化財として所有しているので、主管官庁は文化省である。火災直後はその出先機関(地方文化局)、続いてすぐさま政令で、管理下の特別公共事業体が設置された。

 7月29日には、「パリのノートルダム大聖堂保存修復とこのための国民募金設立に関する法」が公布され、この法律に従って、先に緊急に作られた公共事業体は12月から「ノートルダム大聖堂保存修復公共事業体」となる予定だ。

 理事は、半数が国の代表で残りは専門学識経験者、パリ市、カトリック関係者で、40人ほどの職員は、公務員と準公務員、民間人の混合となる。ほかに、理事長付の諮問機関としてパリのノートルダム大聖堂の保存と修復に関係する設計研究と作業のための科学評議会がある。

 この事業体が、事業全体の舵取りをする。前出の法律によって環境法典や文化財法典、公物所有法典の例外としてこの事業体が主体となることが定められており、縦割り行政から逃れ、周辺地域の管轄であるパリ市や近隣商店、近隣住民との窓口も一本化される。

 民間の寄付金も政府の補助金もすべてここに集約される。なお、寄付の窓口は火災直後から寄付金を受け付けていた財団で、そこを経由して事業体に払い込まれる。毎年報告書を出し、会計検査院の検査も受ける。こうして明朗会計を実現しようとしているのだ。

 4月の火災直後、有名資産家などから寄付の申し出が殺到したが、6月には申し出のわずか9%しか払われていないとニュースになった。10月15日現在では、約9億2200万ユーロの寄付の約束のうち、すでに約1億400万ユーロ(約125億円)が送金されているということだ。ただし、資産家たちも口だけだったというわけではなく、5万ユーロ(約600万円)以上の大口寄付者は、再建の進捗によって5〜7年間かけて分割払いするという協定を指定財団と結んでいる。この協定では、どこに使うかという指定もでき、原状復帰でない場合には支払わないことも可能だ。

■寄付が集まった最大の理由

 フランスは文化の国だから、といいたいが、実は寄付には実利がある。例えば個人が公益財団に寄付すると、課税所得の20%を限度に66%の所得税額が控除され(5年間繰り越し可)、会社税(法人税)や富裕不動産税も大幅に控除される制度がある。さらに前出の法律で、個人の寄付1000ユーロまでを75%税額控除まで引き上げた。つまり、100ユーロ寄付しても実際には25ユーロだけを支払ったのと同じことになる。

 この控除によって国の税収が減るわけだが、会計上その分は国が補填したとみなし補助金の計算に入る。つまり、たとえば寄付が10億集まって、国が7億払ったといっても、総額17億のお金があるわけではなく、10億だけで、寄付した人は税金が安くなるので実質そのうちの3億、そして国が7億負担したことになる。

 それから寄付について、もうひとつ注目したいのは、実際に行われる工事だけではなく「建物の保存修復と国有の什器およびこれらの作業を行うための職業研修」を使途としていることだ。不謹慎は承知でいうが、教会建築のノウハウが失われつつある現在、この火事はいいチャンスになったといえる。

■「ノートルダム大聖堂の復讐」

 さて、首里城の火災の3日前、10月28日に大西洋岸のスペイン国境に近いバイヨンヌ市のイスラム寺院で2人の信者が発砲され重傷を負うという事件がおきた。犯人は、84歳の男で放火しようとしたところ、この2人に出くわし、銃撃したのである。その動機は「ノートルダム大聖堂の復讐」だった。

 火災直後からアラブ人が放火したというデマが拡散していた。当局はすぐに否定し、その後の検証でもその可能性は完全に打ち消されている。しかし、かねてからヘイトスピーチを繰り返していた犯人はまったく聞く耳もたずであった。

 残念ながら、ネットを見ると、首里城の火災でもずいぶんおかしなヘイトスピーチやデマが日本で溢れかえっている。

(広岡 裕児)

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