恐ろしすぎる香港デモ――デモ参加者の“ネットさらし”に中国当局が関与!?

恐ろしすぎる香港デモ――デモ参加者の“ネットさらし”に中国当局が関与!?

「戦場」となった香港中文大学のグラウンドで寝泊りするデモ学生 ©?getty

 デモ開始から5ヶ月を経たにもかかわらず、香港の情勢はいっそう悪い方向に進みつつある。11月8日にはデモ参加者の学生が転落死し、自殺や不審死をのぞけば今回のデモでは初めての明確に確認された死者が出た。結果、デモ隊の抗議はより激化し、12日ごろからは学生運動が盛んな香港中文大学などで警官隊と学生グループの大規模な攻防戦が起きている。

 警察とデモ隊双方の戦いもエスカレートした。11日には交通警察がデモ隊の若者にいきなり発砲して撃たれた若者が重体、さらに別の場所では白バイをデモ隊に向けて突っ込ませている。いっぽうでデモ隊側も過激化し、以前は控えめになされていた「親中的」な商店や地下鉄などの破壊行為や放火が、かなりおおっぴらにおこなわれるようになった。

 8日以降は、平日でも深夜まで警官隊との衝突が繰り返されるようになっている。現地時間の夜中2時ごろになっても、警察側による催涙弾の発射は止まらない。

■SNS、電話番号、会社名まで……デモ隊の個人情報が晒されている

 いっぽう、催涙弾と火炎瓶が飛び交う表舞台の戦闘と並行しておこなわれているのがサイバー空間での戦いだ。たとえばAFP日本語WEB版の11月9日付け記事は、以下のように報じている。

<香港民主活動家らの個人情報が、「鉄壁」ともいえるほど匿名性の高いウェブサイトでさらされている。ロシアのサーバーを使っているこのサイトは中国共産党関連団体の後押しを受けており、掲載を止める手だてはほぼないという。>
<著名活動家、ジャーナリスト、議員ら抗議活動を支援している約200人が、8月に開設されたサイト「香港リークス(香港解密、HKLeaks)」で、ドキシング(ネットで他人の個人情報を不正に入手しさらすこと)の被害に遭っている。>
(AFP「ネットでさらされる民主派の個人情報 背後に中国政府か 香港」)

 実際にこの『香港解密』のサイトを開いてみるとデザインがかなりしっかりしており、「張」「李」といった姓の一文字だけでサーチできるページまで作られるなど検索機能も優秀だ。暴露されているのは、少なくとも600〜700人に達するデモ関係者たちの生年月日・住所・勤務先・電話番号・SNSアカウントやメールアドレスといった個人情報である。

■デモ隊の「隠れ家」 キリスト教会の住所も晒された

 暴露の被害者はデモへの直接的な参加者だけではなく、デモ学生に親和的な教師や、『蘋果日報』などデモ寄りの報道をおこなうマスコミの記者なども含まれている。さらにはデモ隊が休憩ポイントとして利用する店舗や教会施設(今回の香港デモは各派のキリスト教会がかなりバックアップしている)の名前と住所、さらに物資やデモ参加者を輸送する車両数百台のナンバーや所有者も暴露の対象だ。

 AFPの記事は、中国内地の共産主義青年団や国営放送の中国中央テレビ(CCTV)、党中央機関紙『人民日報』傘下の『環球時報』などが微博(中国のSNS)でこのサイトを勧めていることから、中国当局の関与が疑われると指摘している。サイトのクオリティや情報量から考えても、おそらくそれに近い背景はあるだろう。

 ほか、デモ隊側もよく利用しているロシア系のメッセージソフトTelegramにも、デモ参加者の個人情報を暴露するチャンネルが存在する。こちらも情報はかなり詳細で、『香港解密』と同じくなんらかの大規模な組織が介入している可能性がある。これらのサイトやTelegramチャンネルが登場したのは、香港警察のデモ鎮圧作戦が強化された(=中国政府・香港政府が強圧的な姿勢を強めた)8月半ば以降とされる。

 さらに別途に『掃地僧』というサイトでも、デモ参加者の生年月日や住所・SNSアカウントなどの個人情報が350人近く暴露されているほか、中国政府・香港政府寄りのデモ批判記事が大量にアップされている。

■デモ隊側も警官の家族写真をリーク

 もっとも、実は敵対者の個人情報を暴露する作戦はデモ隊のほうが先におこなっている。今回の香港デモは6月9日の100万人規模の平和的デモを契機に大規模化したが、はやくも6月末ごろにはL(仮名)という警察関係者の個人情報をリークするTelegramチャンネルが作られ、10月末までに数十万人単位の登録者を集めていたのだ。

 Lでは個々の警官のポリスナンバーやIDナンバー・生年月日・学歴・家族構成・電話番号やSNSアカウントなどが暴露され、なかにはガールフレンドや配偶者の個人情報まで晒されている例や、子どもが写った家族写真が修正なしでアップロードされている例もあった。

 こうした警官の個人情報の暴露行為は、香港でも人気のスマホゲーム「ポケモンGO」をもじって「POPOMON GO」と呼ばれていたらしい(「POPO」は警官の隠語である)。

 ただし、前出の反デモ側の暴露サイト『香港解密』がどうやら組織的な調査能力を持つとみられるのに対して、私が聞いた話ではデモ側のLの情報は、個々の警官の知人による暴露や、フェイスブックなどのSNSの書き込みを発掘することで収集されていた模様である( この記事 の哨兵部隊のように、「POPOMON GO」を専門的におこなう有志グループが存在する可能性はある)。

■「ゴキブリ」憎悪むき出しの警察

 プライベートな生活が危険にさらされる住所や家族の暴露は、警察にとってはデモ現場で石や火炎瓶が飛んでくる以上に嫌な攻撃だろう。香港警察は8月ごろから振る舞いが荒っぽくなり、デモ参加者を「ゴキブリ」と罵るなど憎悪をむき出しにするようになったのだが、理由は中国政府や香港政府の意向を受けたことに加えて、ネットでの暴露行為に対する個人的な怒りも多少は影響していたかと思われる。

『香港解密』などの反デモ側の暴露サイトが登場したのも、デモ側の暴露行為への対抗策という側面もあったはずだ。ちなみに騒動の震源となったLは11月上旬に閉鎖。10月26日に香港高裁が警官の個人情報の暴露を一時的に禁止する決定をおこなったことの影響とみられている(注.ただし類似の行為は別のTelegramチャンネルで継続しておこなわれている)。

■本家は「中国の反体制派」である

 ところで、中華圏の反体制的な勢力が権力側の個々人の個人情報を暴露するという手法は、香港が最初ではない。実は数年前から、中国の反体制派のネットユーザーたちがおこなってきた手法である。

 比較的有名なところでは、『支納維基(シナウィキ)』や『悪俗維基(悪ふざけウィキ)』などが挙げられる。いずれも運営に携わっていたのは反体制的な10代〜20代の中国人ネットユーザーで、『支納維基』は主に在外華僑、『悪俗維基』は主に中国国内の人々によって担われていた。いずれも中国国内では報じられない反体制運動や事件事故などの情報が「悪ふざけ」的な文体で大量に書き込まれているサイトだ。

 ちなみに余談ながら「支納」は、戦前に日本が中国への呼称として用いていた「支那」をもじったものである。

 現代の中国では抗日ドラマなどの影響もあり、「支那」という単語は非常に侮辱的な意味を持つ言葉として認識されているのだが、近年の中国大陸や香港の反政府的な若いネットユーザーの間では中国(=中華人民共和国)を故意に「支那」と呼んでバカにする行為が流行している。『支納維基』もそういう経緯で命名されたらしい。

■習近平の娘の身分証番号も晒された

『支納維基』が最もヤバい点は、中国共産党の高官の個人情報が大量に暴露されていたことだった。真偽のほどを検証するすべはないのだが、習近平やその娘の習明沢の身分証番号や住所・生年月日(ほかに習明沢の場合は顔写真も)まできっちり晒されていたほどである。

 暴露行為は、『支納維基』と関係が深いかと思われるTelegramチャンネル「楚晨展覧館」で集中的になされており、たとえば『人民日報』の編集長や副編集長、中国国家インターネット情報弁公室の副主任や北京市部署のトップ、北京大学の共産主義青年団の書記……といった、中堅クラスの党幹部の身分証番号・民族・出身地・電話番号・現住所・学歴や職歴などが顔写真や身分証の写真付きで大量に公開されていた。

『支納維基』の運営スタッフに近い中国人の情報提供者によると、これらの個人情報は中国の治安機関内部の協力者からのリークがあるほか、ハッキングで入手していたとされている。また『支納維基』や『悪俗維基』の運営には、日本となんらかの縁がある中国人か在日華僑が多少は関係していたようだ。

 党高官の個人情報を晒して戦う方法は、アメリカに亡命中の中国の反体制派大富豪・郭文貴が2017年から始めた、ユーチューブでの高官情報の暴露からも影響を受けているらしい(郭文貴については拙著 『もっとさいはての中国』 を参照されたい)。

■リークサイトにログインしただけで拘束

 ただし、これらのサイトやチャンネルは、今年になり続々と閉鎖された。特に『支納維基』と「楚晨展覧館」は、香港デモが激化した10月後半に壊滅し、『支納維基』に中国国内からログインしていた中国人ネットユーザーが公安局に呼び出されたという。

 関係者の推測では、中国の公安のネット部隊にいるホワイトハッカーによって、サイト利用者の情報がほとんど抜かれてしまったのだろうということだ。

 事実、10月28日には福建省厦門市の公安当局が、14歳〜25歳の若者ネットユーザー7人を「反中国的な『精日(=親日派)』分子が境外(=中国国外)に作った『悪ふざけ』ウェブサイトにログイン・閲覧し、国家と民族のイメージを損なう言論を発信した」かどで拘束。こちらは厦門市公安当局によって発表されている。

 中国当局はどうやら今年の夏から秋にかけて、香港のデモ隊や中国国内の反体制派ネットユーザーがおこなってきたオンラインでのリーク行為を、徹底して叩き潰す方針を取りはじめたようである。

■「陰険なリーク攻撃」がこれから主流に?

 強大な組織と戦う場合に、組織の個々の構成員の個人情報を暴露して相手を痛めつける手法は、かなり陰険なやりかたではあるが効果は高いと思われる。人民を監視する側の当局の人間は、自分の情報を人民に見られるのはイヤなのだ。

 特に現代社会では個人の情報が身分証番号に紐付けされてデータベース化されていることから、技術的手段でハッキングしたり対象の情報にアクセスできる人物の協力がありさえすれば、攻撃ターゲットについてかなりの情報をぶっこ抜いて晒す行為が可能である(監視下社会化している中国内地ではなおさらだ)。

 もちろん、市民のデータベースを最初から全面的に握っている当局側が反撃に出た場合、抗議者の側はかなり痛い目を見ることになる。ただ、リスクの面では街でデモをおこなって火炎瓶を投げるよりも多少はマシかもしれない。

 香港や中国に限らず、今後も反体制運動においては、この手の戦い方が多く採用されていく可能性は高い。サイバー化する現代の世界ならではの話だと言えるだろう。

(安田 峰俊)

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