魚津水族館の尋常ならざるおみやげ屋さん「真珠コーナー」をレポートする

魚津水族館の尋常ならざるおみやげ屋さん「真珠コーナー」をレポートする

海に沈めていたカゴを引き上げると……大漁だった!

「魚津水族館のおみやげ屋さん、やばいから行ってほしい!」

 友人からメールが届いた。やばいおみやげ屋さん? 何がどうやばいのだろうか。

 ここは富山県魚津市が誇る観光名所「魚津水族館」に隣接する「魚津丸キッチン」。その日の午前中、私は魚津漁協のはからいで「かご漁」を体験させてもらった。その名の通りカゴを使った漁で、中に餌を入れた状態で沖に沈めておいた仕掛けを、船の上から引っぱり揚げていく。その獲物である大きなカサゴやマダコをさばいている最中に、友人から連絡が入った。

■商品の一つひとつに注意深く目を凝らしてみると

 魚津丸キッチンから出てあたりを見渡すと、すぐ隣に「真珠コーナー」という名のおみやげ屋さんがあった。外観を見るかぎりでは「昔ながらのおみやげ屋さん」というだけで、特にやばそうな雰囲気はない。

 扉を開けると、中から「いらっしゃいませ」と声が聞こえた。どうやら、ご夫婦で切り盛りしているようだ。店内は思っていたよりもかなり広いが、いたるところに商品が所狭しと並んでいる。

「やけに品数が多いな……」とは思ったものの、友人が「やばい」という理由はまだ分からない。

 しかし、商品の一つひとつに注意深く目を凝らしてみると、あることに気が付いた。

「何でこんなものがここにあるんだろう」

 店内には、水族館のおみやげとしては定番のぬいぐるみやキーホルダー、ボールペンはもちろんのこと、化石や天然石に、盆栽を模した手作りの置物、果てには水族館にまったく関係のない隕石まで、とにかく、何でもあった。おそらく日本中を探しても、少なくとも商品数において「真珠コーナー」を上回る土産物店がないのは、ほぼ間違いないだろう。

 だが、果たしてこれが「やばい」の答えなのだろうか。

 どうしてここまでバリエーション豊かな商品を集めるにいたったのか、店主の渡辺哲さんにお話をうかがった。

■商品数は把握できていません(笑)

――店内をざっと見て回りましたが、1時間や2時間ではすべて見ることができないほど商品がありますね。今現在、どれくらいの品数があるのですか?

渡辺 実は、私たちももう把握できていないんです(笑)。「真珠コーナー」は昭和56年に魚津水族館がリニューアルオープンした10年前くらいからあるので、もう50年近くですね。あれやこれやと仕入れているうちに、いつの間にかすごい数になってしまって。

 初めはね、真珠屋、いわゆるアクセサリー屋だったんです。だから「真珠コーナー」。そのへんにパーツがたくさんあるでしょう。パーツを買ってきて、アクセサリーを手作りして売ったりしてね。

――貝殻や天然石のアクセサリーがたくさんありますが、あれも手作りですか?

渡辺 もちろん既製品を仕入れたものもありますけれど、手作りのものもありますよ。ああいう商品を見ているとね、「昔、自分は何を思っていたのか」と思うこともあって。

■昔の商品がそのまま残っている

――「なぜこれを仕入れたのか」と思うことがありますか?

渡辺 そうですね。当時自分が「いい」と思ったものでも、時間が経てば流行りが変わったり、若者たちとも感性が違ってきたりして、商品が売れ残るんですよね。ここにはそんなものがたくさんあるんです。

――あえてレトロなデザインの商品を仕入れているわけではなく、昔の商品がそのまま残っている、ということですよね。

渡辺 はい。化石のペンダントだったり黒真珠だったり、色々とね。

――仕入れは、渡辺さんお一人でされているんでしょうか?

渡辺 いえ、妻と息子夫婦と一緒に、4人でやっています。私は「若い人がどういうものが好きか」が分からないので、そのへんは息子たちに任せています。私が取引している業者とは違う業者を知っているもので。

息子の良太郎さん 最近は、何周か回ってまた昔のアクセサリーが流行っているみたいなんですよ。

■手元にお金があるとなぜかストレスになってしまって

――今「昭和レトロ」といって、すごく人気があるそうですね。大きな真珠や宝石などのパーツをメインにした大ぶりのイヤリングとか、指輪を付けている若い人をよく見ます。

渡辺 あれ、そうなの!

奥様 Twitterで評判を見たとかで、わざわざ九州や東京から足を運んでくれる人もいました。本当にありがたいです。

渡辺 若い頃は「子どもに夢を運ぶんだ」と息巻いて、東南アジアやら色んな国を飛び回って商品を集めてたんです。お客さんからいただいたお金は「預かったもんだ」と思って、そのお金でまた、みなさんに喜んでもらえる商品を仕入れようと。

――素敵です。でも、それって儲からないんじゃ……?

渡辺 そうですね(笑)。でも、手元にお金があるとなぜかストレスになってしまって。だから商品を買ってお金が手元からなくなるとせいせいするというか、まぁ、好きなんでしょうね(笑)。

――これは何ですか?

渡辺 三葉虫の化石ですね。知ってました? 三葉虫って、ダンゴムシみたいに丸まるらしいんですよ。

――すごい、知らなかった! 多分、この状態で見つかるのはかなり珍しいですよね?

渡辺 そうですね。「面白いな〜」と思って買ったんですよ。化石はたくさん置いていまして、恐竜の卵の化石もありますよ。

――えっ?

渡辺 昔買ったときはね、お客さんから「まさか〜」と馬鹿にされたんですけど、今は時代が進んで「恐竜の卵はどこにでもある」と分かったから、そんなに希少価値があるものでもないんですよ。これを売ってくれた人がお医者さんだったのか、レントゲンを撮ってくれたことがあって。

 この赤い部分がカルシウムらしいんですよ。

――ちなみにこれは、商品ですか?

渡辺 うーん、特に値段は付けていないんですけど、一応「買えますか?」と聞かれれば、お売りすることはできます。うちには昔買った隕石もありますけど、隕石だと、今の価格は「1グラム400円」が相場らしいんですよ。でも、私が買ったときはそんなに高価ではなかったんです。だから、本当に「買いたい」という人には、仕入れた原価でお譲りしたこともあります。

■ここに置いてあるものはすべて本物です

――本来は、売り物として買ったわけではなく、渡辺さんが個人的に……?

渡辺 はい。でも、「これいくらですか?」と聞かれて「それ非売品なんですよ」なんて言われたら、お客さんは見る気もしないんじゃないかって。「手に入れることができる」と思って見れば、わくわくして楽しいでしょう。

――確かにそうですね。ちなみに気になっていたんですが、サメやアザラシ、ウミガメのレプリカを置いたり、商品棚が貝殻の形をしていたり、店内のディスプレイもすごく賑やかで凝っていますよね。

渡辺 それなんですけどね、全部本物なんですよ。

――えっ。

渡辺 基本的に、ここに置いてあるものはすべて本物です。若い頃、もう40年くらい前ですか、動物の剥製を買ったり、大きな貝を買ってきたりして物が増えちゃって、とにかく置く場所に困って、商品の上に商品を置くしかなくなって……。

――陳列棚代わりに、ノコギリエイの上顎や、シャコ貝なんかを使っている?

渡辺 そうです。

――かなりの希少品なのでは……?

渡辺 ええ、もう入手不可能なものもたくさん。例えば、この「リュウグウオキナエビスガイ」なんかはかなり希少価値が高いので、昔は沖縄で採れたものを1万ドル(当時のレートで約360万円)で鳥羽水族館が買い取ったこともあります。さすがにこれは売りませんけど……(笑)。

――360万円……! なんだか、本当に博物館みたいですね。これだけたくさんのものがあれば、水族館でなく、こちらをメインに見に来るお客さんも多いのでは?

渡辺 ありがたいことに、そういう方もいらっしゃいますね。貝や化石、天然石とか、それぞれのマニアの方が全国から多く来てくれて。もう水族館、関係ないんですけど(笑)。みなさん、私よりもずっと詳しいですよ。

■今のうちにアピールしておかないと

――近年、水族館のお客さんはどうですか?

渡辺 どうしても減ってしまってますね。今は、どこにでも新しい水族館があるでしょう。昔は、北陸地方の水族館はここしかなかったんです。それで車で前を通った人たちが寄り道がてらに来てくれてましたけど、高速道路ができてからは通り過ぎてしまうもんで。

――目的地へのアクセスが便利になった反面、そういった煽りはあるんですね。

渡辺 今では新幹線で目的地までまっすぐ行けますからね。だからこそ、こうやって私たちが「魚津、魚津」と騒がないと、知名度は上がらないし、忘れられてしまうんですよね。

――今はどこの自治体でも、観光に力を入れていますもんね。

渡辺 そうそう。今のうちにアピールしておかないと、誰も立ち寄ってくれないような街になってしまうので。ただただ、やることに意味があるんでしょうね。(魚津市のゆるキャラ)ミラたんの商品もいっぱい手がけているんですよ。30種類ぐらいは作ったかな。

■ワシントン条約があるから、今はもう輸入できない

――ちなみに、渡辺さんが思い入れのある商品をお店の中から選ぶとすれば、何を選びますか?

渡辺 そりゃもう、どれも思い入れがあるので選びきれませんけど……そこにある「イソバナ」というサンゴだって、クジラの耳の化石にサンゴがついたものだって、若い頃、遠方から船や飛行機に乗せて、壊れないように、大事に膝に抱えて持って帰ってきたものです。移動中に欠けてしまわないか気が気じゃなかったですね。おかげで手首が疲れましたよ(笑)。

――ご自身の手で! 送ってもらうことはできなかったんですか?

渡辺 「保険付けて送るよ」って言ってくれる友人もいたんですけど、輸送中に壊れるのが怖くて「俺、手で持って帰るわ」って(笑)。お金は返ってきても、壊れた商品は元どおりになりませんから。

 この大きな貝も、店内にたくさんありますけど、すべて自力で持ち帰りました。でも、重たくて腰をやられちゃって。ワシントン条約があるから、今はもう輸入できないんですよ。

――じゃあ、とても貴重なものですね。

渡辺 ですねぇ。本当はこういうのをたくさん集めて「水のない水族館」を作りたいんですけど、商売をやろうと思ったら、ある程度売れるものを仕入れないといけないんですよね。お店の使用料も払わなくてはならないので、どうしても続けられないのが残念で……。

――ご自身がお好きなのはもちろん、「たくさんの人に夢を見せたい」というお気持ちでお店をされてきたんですね。

渡辺 今の子どもたちはゲームとかがたくさんあって、我々の時代とは価値観が違うような気がして、ちょっと虚しい気持ちになることもありますけどね(笑)。でも、今の人たちには今の人たちの価値観があるし、ロマンがあるんだろうなと思って。

――周りに小さな子どもがたくさんいますが、恐竜や化石、動物や貝が好きな子は多いですよ。私も小さな頃から好きだったので、ここは夢のような世界です。

渡辺 本当ですか。それは嬉しいなあ。色んなものがあって何屋かもう分かりませんけど、喜んでくれる人がいるなら、ありがたいですよ。

■「時間に余裕を持って」行くことをおすすめしたい

 今回訪れた「魚津水族館」は現存する日本最古の水族館で、その歴史は大正時代から100年以上も続いている。館内には富山湾に生息する生き物のほか、アマゾン川の大魚、カメレオンなどの爬虫類まで数多く展示されており、多くの家族連れやカップルでにぎわっていた。

 イベントも充実していて、この日はペンギンとアザラシの「お食事タイム」を見ることができた。

 水族館を見終わったあとはもちろん、渡辺さん一家が営む「真珠コーナー」へ「時間に余裕を持って」行くことをおすすめしたい。正直なところ、それぞれの商品にどんな意味があるのか、その分野に詳しくなければまずわからない。けれども、渡辺さんに聞けばとても楽しそうにストーリーを語ってくれる。必ず、未だかつてない新しい出会いがあるはずだ。

INFORMATION

魚津水族館真珠コーナー

住所 魚津市三ケ1390

電話番号 0765-24-6129

営業時間 11:00〜15:00(平日)、10:00〜16:00(土休日)

取材協力=魚津市食のモデル地域協議会
写真=山元茂樹/文藝春秋

(吉川 ばんび)

関連記事(外部サイト)