「日本のリベラル」は科学で再興されるべき

「日本のリベラル」は科学で再興されるべき

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 先日、ジャーナリストの江川紹子さんが興味深い記事を掲載していて、ふんふんと読んでいたんですよ。なるほど、そういう考え方もあるのかという意味で。

「リベラル」の逆は「保守」ではなく……歴史に耐えるものさしで、中島岳志さんと現代日本を読み解く政治学(江川紹子) - Yahoo! ニュース個人

 もちろん、記事の中身は東京工業大学の中島岳志教授の話を聞く、という形になっているのですが、日本における「リベラル」の基本は自由と寛容としたうえで、そのリベラル政党としてドーンと立憲民主党や共産党を置き、その対立軸は「保守」ではなく「権威主義」だと断定して、自由民主党や公明党、希望の党、維新の会を権威主義で自己責任を追求する政党だと位置づけているわけですね。かなり議論の分かれる分類ではないかと思います。

■「リベラルとは何か」をめぐって

「リベラルとは何か」という定義までは正しく、日本社会が追求するべき理想としてのリベラルを持ち上げるところまでは分からないでもないのですが、その定義にそって日本政治を分析するところで共産党までリベラル政党に押し込んでいて、自民党や公明党は倒すべき権威主義政党だと言い切るような内容になっているようにも見えます。

 もちろん、いまの自民党政治を見て権威主義的でないとは思いません。野党の質問時間削ってどうするんだとか、憲法改正の自民党私案はいくらなんでもゴミすぎるだろとか、突っ込みたいところは山ほどあるのが問題です。ただ、本当に権威主義的なら安倍ちゃんはバンカーで転んで世界から爆笑されても放置するような真似はしません。どう考えても中国共産党やトランプさんのほうがよほど権威主義的です。我が国の共産党なんか志位和夫さんは優れた人格とは聞き及ぶものの2000年からずっと党委員長ですよ。これのどこがリベラルなのかという話ですし。立憲民主党も小池百合子さんが「排除いたします」とか言わなかったらみんな仲良く希望の党の一員ですよね、衆議院選挙直前の民進党の両院総会では満場一致で希望の党への合流を承認していたんですから。

 おそらく、リベラルかパターナルかという分類は、男か女かという線引きよりもはるかにグラデーションがあるというか、政党や議院において「この問題では権威主義的な対応をしているけど、全体的に見て自由主義者の傾向だ」ぐらいのニュアンスの話でしかないように思うわけです。

■選挙互助会のレベルを超えないサークルのノリ

 結局のところ、いままでで言うところの与党サイドも野党・左派サイドもご都合主義的な内輪の論理を繰り返し、選挙互助会のレベルを超えないサークルのノリで政治をやっている部分が感じられます。賛同しない政治勢力や政党に対して「お前は強権的なパターナリズムの体現者だ」みたいな批判をするのは、人気取りが至上命題の現代民主主義の実情にあって「あいつはポピュリストだ」というレッテル貼りとそう大差ない内容になってしまいかねません。その点では、実際に中島さんが声高に「自民党や公明党は権威主義だ」と叫んだところで、衆議院選挙が与党の大勝で終わった後はさらに安倍晋三総理の支持率は回復しています。内閣支持率なんて水物だとは思いますが、それでも戦後3位の長期政権を実現した安倍内閣がいまなお5割前後の国民に支持されているというのはどう判断するのでしょう。国民は長い間騙され続けているということなのでしょうか。あるいは、国民の半数は権威主義者だ、ということでしょうか。

■消極的選択として、まあ自民党でいいかと投票した人たち

安倍内閣「支持する」46% 「支持しない」35% NHK世論調査 | NHKニュース

JNN世論調査、内閣支持率5か月ぶりに支持が上回る TBS NEWS

【産経・FNN合同世論調査】内閣支持率47・7% 2カ月ぶり不支持を上回る 改憲議論促進すべきだ61・0%  - 産経ニュース

 このあたりに、政権批判を繰り返すことによる病理がひそんでいるように思うのです。つまり、政権が腐敗していたり、望ましくない政治をやっているので交代させるべきだ、と野党が考えるのは問題ありません。ご自由にどうぞ。ただ、その政権の行いについて批判し改めさせたり野党のほうが「優れた政治を行えると」主張するべきところを、権威主義だセーフティネット軽視だとレッテルを貼ることで、半分ぐらい支持している国民のこともまた政権と一緒に中間派の支持者ごと「あんな政権を支持している奴らだ」と馬鹿にすることになってしまいます。消極的選択として、まあ自民党でいいかと投票した有権者は、野党支持者から「あの権威主義者の権化のような自民党に投票した馬鹿」と煽られるわけで、頑張って与党批判をした結果、与党を何となく支持した人もついでに敵に回すことになるのです。

 これがリベラルを標榜し、リベラルとは寛容であると言ってる側が不寛容にも「自民党支持者は権威主義だバーカ」と批判することになるわけでして、そもそもリベラルの反対がパターナル(権威主義)だ、だから立憲民主党や共産党がリベラルなら、それが打倒するべき対象である自民党・公明党がパターナルであるという分類ではなく、違う軸で比較しないと正しい評論にならないのではないかと危惧するのです。

 公明党にいたっては、その存在自体が、宗教団体である支持母体を持ちながら、拙速な憲法改正に反対、安易な消費税の増税に反対、高齢者支援や出生率改善に努力するべきという政策を主張していて、セーフティネット推進側の筆頭のような政党です。そのような政党が自民党と連立を組んでいて与党内野党のようなブレーキ役を果たしていること自体が奇跡というか自己矛盾のような気もしますが、実際そうなっているのだから仕方がありません。ちょっと「リベラルか、パターナルか」という分類で斬れるほど明確な意味を読み解けない政党が公明党だと思います。

■政治闘争の巧拙というよりはマーケティング上の問題

 このテーマで気になる点は、肝心の左派の側から「この議論はおかしい」という声が上がらない点です。もちろん、自分たちが正義であり、自民党がクソだと言いたい気持ちは分かります。私も自民党を放置すると増長してろくでもないことをするであろうという点で部分的に賛同します。ただ、どこをどう見ても共産党はリベラルが定める寛容からは程遠く、立憲民主党は元民進党であり小池百合子さんの自爆で生み出された産物であって、政党別支持率もようやく11%に乗った程度の存在にすぎません。贔屓にもやり方があるだろうと感じてしまいます。

 必要なことは、政権の批判だけでなく、自分たちの政治が自民党よりもこれだけ良いのだと示すことです。平たく言えば、立憲民主党の支持は50代以上の男女に偏り、共産党も若い人の支持は50代以上の半分程度の割合でしかありません。例えば政権批判をしたい朝日新聞が一生懸命「景気回復を実感していない 82%」と打ったところで、その回答者の3割近くが高齢者で年金生活者と見られるならば、景気など実感できる生活をしていない人たちであることが分かるはずです。本当に8割近い国民が景気回復を実感していないのであれば、DI(景気動向指数)が改善することなどないし、有効求人倍率が高まり人手不足になるなんて有り得ないわけです。

 この問題を解く鍵は、国民生活に関する世論調査にあります。お前らの生活は充足しているかという問に対して「満足」とする国民の割合が73.9%(前年比+3.8ポイント)と、「不満」25.0%(前年比マイナス3.5%ポイント)を大幅に上回り、しかもさらに改善傾向にあります。まあ、要するに概ね国民はいまの日本社会に満足しておるのです。実はお先真っ暗で将来みんな酷いことになるかもしれないのだとしても。

 したがって、いまの政権を権威主義的だ、安倍ちゃんはファシストだと野党が攻撃しても、いまの生活に不満を感じていない人たちには響かないのは仕方がありません。これは政治闘争の巧拙というよりはマーケティング上の問題であって、「野党」という商品には好み(プレファレンス)になる人が少ない、ということに他ならないのです。投票先に悩んでまあ自民党でいいかと投票したような人たちが、左派の議論に膝を打ち「なるほど、自民党よりも良い政治を野党はやってくれそうだね」という同調を引き出すのに必要な議論は別のところにあります。

■自民党か反自民かという軸

 いまの与党の政治に不満があるのは概ね50代以上の男女です。とりわけ安倍晋三総理以下閣僚の顔ぶれにはイケメンが少なく女性に愛されず、どの調査でも概ね女性から圧倒的な「人柄が信頼できない」という不支持が集まるあたりは、本来は野党にとって好機である一方、支持層の高齢化による先細りが顕在化する前に手を打たなければならない状況です。

 こういう人たちに、左派がリベラルとは寛容と自由だ、だが自民党はその対極にいるから権威主義で不自由だと言っても、かつてヘルメット被ってゲバ棒持っていた高齢者ぐらいにしかなかなか届かないのではないかと思います。なぜならば、常識的な有権者の政治判断はリベラルか保守かですらなく、自民党かそうでないかで決まっているからです。日本政治の投票行動を分析する上で、最大にして最強の軸線は自民党か反自民かであることは野党でも選挙に携わる人であれば常識であって、だからこそ各政党の主義主張を曲げてでも共産党との野党共闘路線をやるかやらないかで民進党内が大論争になり、結果として共産党との共闘は嫌だと長島昭久さん以下民進党に見切りをつけた人がさっさと出ていったことを忘れてはなりません。

 日本はとても完成された民主主義の仕組みを持っています。選挙結果に納得ができない人は日本の民主主義は死んだと主張したいかもしれませんが、それは単にお前らが支持されるような政党のブランド・イメージや、候補者や、政策を掲げられなかったから自民党に勝てなかっただけです。どの小選挙区も共産党が候補者を出すと毎回供託金没収ギリギリのラインぐらいまでは票を取りやがるので野党は分散したら不利だ、だから立憲民主党はきちんと反自民で結託し共産党と候補者調整をして勝てる戦いをするのだ、と堂々と言えば良いのです。ただ、選挙で勝った後、どういう社会を目指すのかという売りの部分は、いまの野党の政策主張からはあまりきちんと見えません。民間企業で言えば、ブランドイメージだけでモノを売ろうとして、肝心の商品の性能や機能には触れられないような状態ですから、右派でも左派でもない政治に関心の薄い中間層には主張は届かないでしょう。 

■高齢者に支援される野党陣営に残されている時間

 リベラルの旗を掲げる自分たちが「正義だ」と言いたい気持ちは良く分かります。政策面で賛同したい内容のものも数多くあるけれども、変なことしでかさずにまずまず政治を適当に回してくれていれば、基本的には国民はいまの日本社会に概ね満足なのです。それ故に、野党は国民のどこに不満があるのか見極めて、単なる政権批判をレッテル貼りつつ進めるのではなく、科学的に数字の裏付けを取りながらやっていく以外に方法はないでしょう。

 むしろ、野党側に不足しているのは科学的態度と哲学(政治思想)そのものじゃないかとすら思います。エビデンスもなく政策主張をしたら目を閉じて疾走するようなものですし、実現するべき社会を見定められなければ国際社会の中で我が国は埋没し、貧しくなっていってしまいます。いまの自民党にそれが実現できているとは思いませんが、自民党ではなく野党に任せてより良い社会が実現できるという気持ちも持てないというのが有権者の偽らざる感情だとするならば、高齢者に支援されているいまの野党陣営に残されている時間はそれほど多くないのかもしれません。

 安倍ちゃんがまた何かやらかしたら話は別だけど。

(山本 一郎)

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