箱根駅伝は「守り」の東海・青学、「攻め」の東洋・國學院で激戦必至

箱根駅伝は「守り」の東海・青学、「攻め」の東洋・國學院で激戦必至

全日本大学駅伝でも優勝を果たした東海大の両角速監督 ©文藝春秋

「攻め」か「守り」か――。

 12月10日の監督記者会見で発表された箱根駅伝のエントリーを見て考えたのは、そんな二項対立だ。

 優勝候補の大本命・東海大を率いる両角速監督は、レースプランをこう語っていた。

「基本的には(8区で先頭を逆転した)前回大会同様の展開にできると良いかなと思っています。区間配置もそれに準ずるものになるかなと。前半から主導権を握って……というイメージではないですね。往路は3位以内が目標です」

■「アンカー勝負になることも覚悟している」

 極端な言い回しにはなるが、今季の東海大は「守り」のレースを打つことができる。

 絶好調のスーパーエースがいるわけではない。だが、全員がエース級の走力を持ち、圧倒的な選手層の厚さを持つからだ。

 往路を「3位以内」で終えればよいという余裕を持てるというのは、チームとしてはアドバンテージだろう。区間エントリーも往路偏重ということはなく、バランス良く配置してくることになるはずだ。「前回大会同様の展開にしたい」という言葉を信じるならば、復路の7区に阪口竜平、8区に小松陽平という4年生の“黄金世代”を置いてくることになる。両角監督は「アンカー勝負になることも覚悟している」とも語っており、逆にそこまで先頭付近でいけば東海大のシナリオ通りということだろう。

 唯一の懸念は昨季まで3年連続で山下りを務めた中島怜利(4年)がエントリーから外れたこと。故障から調子を上げきれなかったことが理由だが、そこに関しても「基本的な走力があってのことなので」(両角監督)と強気を見せている。誰を起用するにせよ、6区で差をつけるというよりは大崩れせず走ってくれれば他区間で取り返せるという静かな自信が垣間見えた。

■選手層が厚ければ往路で勝つ必要はない

 箱根駅伝で総合優勝を狙うには、攻めのレースをするのか、それとも守りのレースをするべきか――。

 どちらを取るかは各チームの状況によって変わってくる。それだけに、各チームのエントリーを眺めることで、その戦略が端々にみえてくる。

 東海大のように選手層の厚いチームは、復路までを見据え、10区間が終わったところで先頭にいれば良いという「守り」の戦略が取れる。なにもリスクを冒して往路で勝つ必要はなく、芦ノ湖では先頭を射程圏に捉えて終われればいい。

■青学も「往路は10位でも良いと思っている」

 一方で「攻め」のレースをするべき大学は、選手層に不安がある一方で、ここぞというところで差をつけられるエースを擁する。これらの大学はエースの力で後続を突き放し、往路をトップ付近で終え、その勢いで復路のランナーに繋ぐ。先導車という風よけがあり、最初からハイペースで突っ込む必要がない先頭ランナーはオーバーペースになりにくく、優位にレースを運べる。俗にいう「先頭効果」で、復路に多少力の落ちる選手を起用しても往路で逃げていれば十分勝てるという算段になる。

 そんな要素で各校をみていくと、東海大以外にもう一校、「守り」のレースが可能なのが青学大だ。今季はここまで駅伝で勝負できず、低評価が続いていたが11月末の記録会の1万mでは28分台を8人がマークするなど、1万mのエントリー選手上位10人の平均タイムでは全体トップに躍り出た。

 原晋監督も総合力には自信を持つ。

「極端な話、往路は10位でも良いと思っているんです。順位よりも先頭とのタイム差が重要。先頭から1分以内で往路を終えられれば面白いレースが見せられると思います」

 そんな青学大の課題は「山」につきる。5区の経験者である竹石尚人(4年)が調子を上げられずエントリー漏れ。4年生のスピードランナーである谷野航平が第一候補となっていると思われる下りの6区も経験者がおらず、山区間の走りが読めないのが怖いところだ。逆にここを凌げれば、名将・原監督の手腕次第で「復路の青学」の本領発揮が見られるかもしれない。

■「往路で優勝して主導権を取ることで流れをつくる」

 一方で「攻め」のレースをするであろうチームの代表は東洋大。

 酒井俊幸監督はその甘いマスクとは対照的に、常に攻撃的に、優勝を狙う区間配置をしてくる。今年もその姿勢は変わらない。

「総合優勝を狙うとなると、今年は少し層が薄い。だからこそ往路で優勝して主導権を取ることで流れをつくって、復路に持っていきたいんです」

 そんな風にレースプランを語っており、序盤から攻勢を仕掛けてくることは間違いない。

 カギになるのが今季学生最強ランナーである相澤晃(4年)の起用法だ。エース区間の“花の2区”への配置が王道なのだが、実は各校のエース級がやって来る2区は差が付きにくい。今季の東洋大は1年生が6人も入ったエントリーで、ルーキーが箱根路に初登場する可能性も高い。それだけに酒井監督の性格を考えると、大エースで後続にしっかり差をつけるために、昨季区間新記録を打ち立て、区間2位に実に2分近い差をつけた4区への起用が濃厚なのではないか。全日本、出雲を鑑みた時に、同じ4年生の定方駿が2区を凌げる力をつけたことも大きい。

 山は5区、6区ともに経験者が控え、特に下りには今西駿介(4年)という大砲がいるだけに、往路をトップで終えることができればかなり有利にレースを進められるだろう。往路終了時点で2分程度の差がついていれば、東洋大の総合優勝の可能性が高まる。

■区間賞が狙える選手が並ぶ、國學院の「攻め」のオーダー

 そして今回ほぼ万全のエントリーができた國學院大も「攻め」のオーダーを組んでくる。同大の往路は大きなけがや体調不良がない限り概ねエントリーが見えている。

 1区:藤木宏太(2年)―2区:土方英和(4年)―3区:青木祐人(4年)―4区:中西大翔(1年)―5区:浦野雄平(4年)

 ほとんどの区間で区間賞が狙える選手が並んでおり、強力な配置となっている。4区のルーキー・中西大がどこまで耐えられるか次第だが、土方、青木、浦野の4年生トリオが力を発揮できれば芦ノ湖にトップでやってくる可能性も高いだろう。

 層の薄さが課題と言われ、復路は不安視されていたが、ここへきて他の選手たちも急速に力をつけてきている。1万mで28分台の記録を持つ島崎慎愛(2年)に加えて、12月の甲佐10マイルレースでは同じ2年生の木付琳が各校のエース級と遜色のない走りを見せた。さらに経験豊富な4年生の茂原大悟に加え、中西兄弟の双子の兄・唯翔もいる。経験不足が否めない部分があるだけに、チーム目標の往路優勝を果たせれば、歴史を変える総合優勝が見えてくる。

■今季の駒澤は「4年生がしっかりしている」

 また、エースの札の切り方で「攻め」か「守り」か、戦略が変わってくるのが駒澤大。ルーキーながら1万mで今季学生No.1のタイムを持つ田澤廉を往路で使うか、復路で使うか――。それによって、名将・大八木弘明監督の頭の内が見えてくる。

「田澤は主要区間に起用することになると思います。いくつか候補の区間はありますが、まだ1年生なんでね。今年は4年生がしっかりしてくれていて、チームも上手くリードしてくれているから」

 大八木監督がそう語るように、エースの座こそルーキーの田澤に譲っている空気があるが、今季の駒澤は4年生が強い。エース区間の2区にも昨季同区間でまずまずの走りを見せた山下一貴(4年)がいるため、田澤を往路起用の場合はスピード区間の3区か、後半にアップダウンのある難コースの4区になる可能性が高い。いずれにせよ、この場合は往路からしっかり先頭を見据えた走りになることになる。

 逆に山下や中村大成、中村大聖らの主力級4年生が調子をしっかりあげてくれば、田澤を復路で起用することも十分にありうる。近年勝負を決定づけることの多い7区に田澤を置ければ、往路で多少出遅れても一気に総合優勝圏内まで持ってくることが可能だ。また、ルーキーという立場を考えると本人としても重圧のない復路は走りやすいとも言えるだろう。

 さて、ここまで優勝に近い「5強」と言われている大学のスタンスを見てきた。

 エントリーを見た時に、この上位候補校を崩す可能性があるダークホースが1校ある。それが帝京大だ。

■記録が良い方から10人の選手を順当にエントリー

 近年の帝京大は典型的な「守り」のチーム。大エースはいないものの、ハーフマラソンではエントリー選手のほとんどが好記録をもっており、安定感が非常に高い。

 そこに今季は5000m、1万mなどトラックでのタイムもついてきている。

「今季は初めて1万mの記録が良い方から10人の選手を順当にエントリーすることができました。通常、故障や不調などで何人かは外れてしまいがちなんですが、順調に来ていますね。『5強』にウチは入っていないですが、5校のうちの一角だけでも崩して……いや、二角、三角、四角、五角と崩していきたいですね」

 チームを率いる中野孝行監督はそう自信を見せる。出雲駅伝、全日本大学駅伝では少しピーキングのズレが見られただけに、箱根本戦にしっかり調子を合わせられれば一気に上位校を食って、初の総合優勝までも見えてくる。

 出雲駅伝の5区で区間賞を獲った小野寺悠と昨季箱根駅伝10区区間賞の星岳の3年生コンビが今季も好調。他にも岩佐壱誠や島貫温太、平田幸四郎といった1万mで28分台を持つ実績十分の4年生が大量に控えており、復路にもエース級のランナーがガンガン登場する。

 実は昨季の帝京大は1区、2区、5区という往路の主要区間でいずれも区間2ケタ順位に沈み、流れをつかみきれなかったにも関わらず、終わってみれば5位に食い込んでいた。今季こそ往路で大崩れせずに先頭をうかがえる位置で復路に入れれば……「守り」のチームの本領発揮となるだろう。

■有力校であっても一気にシード争いにまで後退も

 箱根駅伝本番まで、残された期間はあと約2週間。ここからは体調やコンディションなど、いかに選手を万全の状態でスタートラインに立たせられるかに、各チーム注意を払うことになる。

 区間エントリーの発表となる12月29日に、本来攻めるべきチームが守りのエントリーを組んでいたり、守れるはずのチームが攻めるエントリーをせざるを得ない時は、なんらかのアクシデントが起きた可能性が高い。そうなると、今季の戦国駅伝では総合優勝が遠ざかっていくばかりか、有力校であっても一気にシード争いにまで後退していく。

 年明けの箱根路に向けて、万全の配置を組めるのはどこのチームか――。いずれにせよハイレベルな「攻守」の攻防を期待したいところだ。

(山崎 ダイ)

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