インフルエンザ38度の熱で死亡事故 「はとバスが夢だった」37歳運転手が起こした悲劇の裏側

インフルエンザ38度の熱で死亡事故 「はとバスが夢だった」37歳運転手が起こした悲劇の裏側

バスは街路灯に衝突して停車 ©共同通信社

「観光バスの運転士になることを決めた時から、業界大手のはとバスで働きたいと思っていました」

 4年前、「念願のはとバス」に転職した運転手は採用ホームページでこう夢を語っていた。だが12月4日、38度超の高熱でハンドルを握り、死亡事故を起こしてしまった――。

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 今年運行70年の「はとバス」は東京観光の代名詞的存在だ。今回の事故は六義園の紅葉観賞と寿司食べ放題のツアー中に起こった。

 社会部記者が語る。

「運転手は午前6時40分に出勤し、点呼では『健康状態に異常なし』と申告していた。7時40分から修学旅行の運行業務にあたった後、夕方からツアーを運行。食事後の乗客を迎えに行く途中、西新宿で停車中のハイヤーに追突しました」

 路肩で作業していたハイヤー運転手の宮崎昭夫さん(52)が巻き込まれて死亡。逮捕された運転手の森聡一容疑者(37)は、後の検査でインフルエンザに感染していたことが分かった。

 一時釈放された森容疑者は「事故前後の記憶がなく、前日から風邪気味で葛根湯を飲んでいた。仕事に穴をあけると仕事が来なくなると思った」と語っている。

 亡くなった宮崎さんと幼少時から付き合いのある知人女性は、こう憤る。

「昭夫ちゃんは真面目で口数の少ない性格でね。ハイヤー運転手を長く続け、数年前に父親を亡くしてからは寝たきりの母親を一人で介護しながらの生活で、大変そうでした。事故を知った母親は『あの子は私を置いて先に逝っちゃった』と泣いていましたよ。インフルエンザで運転なんて、バス会社はどういう健康管理をしていたのでしょうか」

 はとバスのような貸切バスの勤務実態はどうなっているのか。「交通労連」軌道・バス部会事務局長の鎌田佳伸氏が説明する。

「貸切バスの運転は最大16時間可能で、拘束時間は非常に長い。運転手は、8時間のインターバルを挟めば翌日の勤務が可能です。しかし、風呂・食事・通勤といった時間を除くと、睡眠時間は平均5時間と非常に少ないのが実態です」

 さらに休みを取りにくい環境もある。元はとバス社員が過酷な実状を明かす。

「部活動のような絶対的な上下関係があり、社歴の浅い社員は突然の体調不良を非常に言い出しにくい。職場で白い目で見られ、居場所がなくなります。給料の仕組みも基本給が安く、運転距離に応じて加算される手当と残業代で稼がないと人並みの生活を送れません」

 事故の兆しはあった。一ツ星〜三ツ星でバス会社の安全性を格付けする「貸切バス事業者安全性評価認定制度」で、はとバスは“降格”を繰り返していたのだ。

「15年に三ツ星だったのですが、乗客の骨折事故で16年に一ツ星になり、国交省から行政処分を受けました。17年には二ツ星に復帰しましたが、今年1月、責任者の安全講習未実施で星がゼロになり、最近一ツ星に戻ったところでした」(はとバス関係者)

 森容疑者は採用ホームページで、休みの日は「体調を崩しては元も子もないので睡眠をとって、きちんと身体を休めるようにもしています」と語っていた。

 はとバスは取材に「一層の安全対策と事故防止の徹底に全力で取り組む」と回答。運転手の健康管理を真っ先に見直すべきだろう。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年12月19日号)

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