元製薬会社社員が28歳で設立! “本物の偽薬”を販売する〈プラセボ製薬〉が目指すもの

元製薬会社社員が28歳で設立! “本物の偽薬”を販売する〈プラセボ製薬〉が目指すもの

本物の偽薬「プラセプラス®」

 30錠で税込999円の「偽薬」を製造・販売する会社が存在する。

 といっても、「偽薬」を「本物の薬」として販売する“詐欺”ではない。「偽薬」を「本物の偽薬」として正々堂々と販売しているのだ。水口直樹氏が、大手製薬会社の研究開発職を投げ捨てて、28歳の若さで設立した〈プラセボ製薬株式会社〉だ。

■“本物の偽薬”とは一体何なのか?

「そもそも『偽薬』とは、『薬効成分を含まない製剤』で、新薬の有効性や安全性を科学的に評価するために開発されたものです。

 しかし、〈プラセボ製薬〉が扱っているのは、『臨床試験で使われる偽薬』ではありません。『本物の偽薬』なのです。

 ラムネ菓子のような『錠菓』をイメージしてください。〈プラセボ製薬〉が実際に販売している『偽薬』は、ほぼ糖と食物繊維からできています。

『錠菓』との若干の違いは、アルミ面から1錠ずつプチッと押し出すシートタイプの包装(PTP包装)を採用するなど“本物っぽい”見た目にこだわっていることです」

 では、なぜ水口氏は、こんな「偽薬」をわざわざ製造・販売しているのか?

■効果がないからこその価値がある

「医薬品開発についてご存じの方であれば、『プラセボ効果を狙った商品だろう』と考えられるかもしれません。

『プラセボ効果』とは、薬効成分を含まない『偽薬』を飲んで、(『薬を飲んだ』といった安心感などによって)『あたかも本物の医薬品を服用したかのような変化が生じる現象』のことです。

 新薬開発の臨床試験で『偽薬』を用いるのは、この『プラセボ効果』を考慮に入れつつ、『プラセボ効果』を排除して、『新薬の純粋な効果』だけを抽出するためです。こうした『プラセボ効果』も、〈プラセボ製薬〉の狙いの1つです。

 しかし、それは副次的なものにすぎません。『プラセボ効果を生じ得るから価値がある』のではなく、むしろ『効果がないからこその価値がある』ものとして、『偽薬』を製造・販売しているのです。

 “無効”な『偽薬』が、とくに“有用”となるのは、次のようなケースです。

 たとえば、定められた量の薬剤をすでに服用したにもかかわらず、何度も服薬を求める認知症の方。規定量では効果を感じず増量を求める不眠症の方。健康不安から風邪薬を飲み続けてしまう方。

 薬の飲みたがりや飲みすぎは、とくに高齢者介護の現場でよく見られる光景です」

■睡眠薬・抗不安薬を飲みすぎている人は少なくない

 薬の過度な使用は、無駄な医療費を増やすだけではない。

 たとえば、抗生物質の使いすぎは、抗生物質の効かない「薬剤耐性菌」を生み、国立国際医療研究センター病院の推計によれば、「薬剤耐性菌」によって国内で8000人以上(2017年)が死亡している。

 また、朝日新聞(12月8日付)の調査によれば、「のみ続けると転倒や骨折、認知機能の低下を招きやすいとして、高齢者はできるだけ使用を控えるべきだとされている睡眠薬や抗不安薬が65歳以上に多く処方され、ピークは80代だった」という。これは、高齢者ほど「(整形外科、精神科、内科など)別々の診療所から同じタイプの睡眠薬・抗不安薬を処方されて必要以上の量をのんでいる人が少なくない」からだ。

「偽薬」は、こうした「薬の飲みすぎ問題」の解決に大きく寄与する。

■不確かで捉えどころのない「健康」という概念

 しかし、水口氏の考える「偽薬」の使命はそれに留まらない。

「誰しもが『健康』でありたいと願っています。しかし『健康』とは何でしょうか。科学の進歩により、『健康』を客観的な対象として捉えることができるようになったと一般には思われていますが、実はそうではないのです。

 科学では『病気でない状態』といった否定的な表現でしか『健康』を定義できないのです。つまり、科学において『健康』は、不確かで捉えどころのない虚構的な概念なのです。

 こうした『健康観』に無自覚なまま囚われて、『健康』を求めるとどうなるか。それは、『健康』の終わりなき追求となります。絶対に充足されることはないからです。これが『健康病』です。とくに高齢者を中心に生じています。

〈プラセボ製薬〉の究極的な役割は、ここにあるのではと考えています。『偽薬』が、『健康病』を生み出すようなこうした『健康観』を揺るがす可能性を秘めているということです」

 水口氏の「 元製薬会社員の僕が『偽薬』を売る理由 」の全文は、「文藝春秋」1月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年1月号)

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