なぜトランプ大統領はイラン攻撃の手を緩めたのか

なぜトランプ大統領はイラン攻撃の手を緩めたのか

ソレイマニ司令官の弔問に訪れるイランのロウハニ大統領 ©AFLO

 米軍が1月3日にイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害して以来、緊迫していたアメリカとイランの関係だが、本格的な衝突は一旦回避されようとしている。

 司令官殺害後もトランプ大統領は「彼らが何かすれば、大規模な報復が待っている」と強気の姿勢を崩さず、6日には、国連のグテーレス事務総長が「地政学的な緊張が今世紀最大レベルに達している」とする声明を発表。8日にはイランが、司令官殺害の報復として、イラクに駐留しているアメリカ軍の基地を弾道ミサイルで攻撃する事態に発展していた。
 
 ところが、トランプ大統領は、そのイランのミサイル攻撃を受けて行われた8日の演説で「アメリカは平和に身をささげる準備ができている」として、それまで明言していた報復攻撃を行わないことを示唆した。

 なぜ、トランプ大統領は態度を一変させたのか−−。

 今年の情勢について、「2020年は、超大国・アメリカの衰退が明確になる一年になるかもしれません」と語るのは、国際政治が専門の中西輝政・京都大学名誉教授だ。中西氏は、年頭の「週刊文春デジタル」のインタビューで、世界が抱える“アメリカリスク”を分析している。

■軍事力は誇示できても使えない

 トランプ大統領の政策について「海外に展開しているアメリカ軍を撤退させ、『世界の秩序に責任を負うような重荷を投げ捨て、国内の改革を優先させよう』という、孤立主義的なアメリカファースト」と分析する中西氏。リーマンショック以降、混迷するアメリカの海外展開のスタンスを、次のように語る。

「アメリカは“世界の警察官”として世界の至る所に関与してきました。いまやアメリカ国民も、長年の戦争に飽きて精神的に大きく疲弊しています。たしかに、今も世界中に介入できるだけのパワーを持っている一方で、この状況下では本当は自由に使える力はごくわずかなのです。すなわち軍事力を誇示する意味では効果はあっても、実際にそれを使ってしまったら、超大国としての地位も揺らぎかねない、という構図にあるわけです」

 その典型が、金正恩に対して身動きが取れない北朝鮮情勢だ。

「アメリカが北朝鮮に対して、直接武力行使を考えるなら、少なくとも数十万の死者を出す全面戦争となる覚悟が必要です。しかしアメリカは北朝鮮で足を取られたら、たとえば中東でロシアが動く。中国も南シナ海あるいは台湾に出てくるかもしれない。もし万が一、北朝鮮への武力行使が泥沼化したら、トランプ政権は存続しえないだろう。これが北朝鮮問題に限らず、今のアメリカ外交が抱える一大ジレンマなのです」

■ウクライナ疑惑で世界が“大迷惑”する?

 今回のイランへの関与をめぐっては、米上院で近く始まるとされるウクライナ疑惑の弾劾裁判から国民の関心をそらす狙いがあると、世界のメディアから指摘されている。

 中西氏が、インタビューでまさに危惧していたのも、このウクライナ疑惑をめぐる「リスク」だった。

「いまトランプ大統領に対して、ウクライナ疑惑を巡る弾劾が進んでいます。共和党は一致して早急に収束させる戦術に出るでしょうが、民主党は大統領選挙に利用しようと長引かせる。その結果、2020年前半はアメリカ政治がまともに意思決定を出来なくなる恐れがあります。そうすれば、世界は様々な分野で“大迷惑”を被ることになります。

 周知の通り、トランプ大統領は自身の選挙のためには何でもやる、というスタイルです。つまり今後、この調子で国内政治を最優先にしていけば、最悪の場合、アメリカ政治は空転し世界の経済と政治がすべてアメリカの国内政局の混乱によって影響を受けることになりかねないということです」

■「再選ファースト」でワシントンが空転

 さらに中西氏は、アメリカの指導者を4つのタイプに分類し、今後は「ワシントンが空転する」と予測する。

 4つのタイプとは、トランプ大統領のような草の根のアメリカの理念に立って国内に回帰し、世界からあえて孤立してもよいという「1・アメリカ第一主義者」のほか、国際社会と協力して戦争は回避し自国の経済的繁栄を第一に考える「2・リベラル左派」、世界各地に介入していこうとする「3・ネオコン」、オバマ前大統領らリベラルな姿勢から理想を掲げて国際社会に出て行こうとする「4・国際協調的理想主義者」だ。

「オバマの路線が政治の舞台から消え、他方、ネオコンの残党がワシントンを跋扈する中、『再選ファースト』のトランプをめぐって、2020年のアメリカは外交と国内政局の双方が混乱を深めるでしょう。その結果、ワシントンの勢力均衡が崩れて空転に歯止めがかからなくなる可能性があります」

 そして、アメリカ政治が意思決定できなくなり、世界情勢の混乱に拍車がかかってしまうというわけだ。

■日本が取るべき針路は?

 そんな環境下、日本はどんな針路を取ればよいのか。

「まず、ポイントとなるのは『リスク』としてのトランプ政権のアメリカの行方です。大統領選挙の結果によっては、日米同盟も大きく変質していく可能性がある。日米同盟を維持しつつも、いかに自立的な安全保障能力を高め、同時に周辺諸国との関係の調整に努める外交戦略を早急に検討する必要があります。

 日本は、宿命として、今後もつねに中国とアメリカという2大大国の『リスク』に付き合わねばならない。そこで最も大切なのが、日本の基軸となる価値観です。一方で国力の向上と日本の文化や伝統の回復というテーマを追求しつつも、『自由と民主主義』という、この70年で日本が熟成してきた保守本流の戦後民主主義という理念に、常に立ち返ることが必要です」

 中西氏は他にも、「週刊文春デジタル」の新年インタビューで次のようなテーマについて語っている。

・「韓国の暴走」は令和時代を方向づける
・“裸の王様”習近平の中国は「10年もたない」
・「アイデンティティ」の時代に突入した世界
・ドイツでの台頭する極右勢力の分析
・香港デモ対応で問われる日本の「世界史的使命」

 中西氏のインタビュー全文「 《1万字でわかる2020年の地政学》『韓国・文在寅の暴走』は米中のパワーバランス崩壊が生んだ“大事件”だった! 」は、「週刊文春デジタル」で公開している。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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