鳩森八幡神社がパワースポットに!? 「将棋の聖地」にすごい行列ができていた

鳩森八幡神社がパワースポットに!? 「将棋の聖地」にすごい行列ができていた

佐藤康光会長(右)らによる指し初め式(筆者撮影)

「先週の将棋界を読み解く」という主題だが、私には大所高所からモノを言えるほどの見識もない。ハナから諦めているから気楽なのである。

 ごく個人的な所感を、ごく個人的な体験に基づいて書いていく。そのことで誰かが何かを得ることができたら嬉しいが、まあ受け取り方はそれぞれだ。しがない備忘録、気楽に流し読みしていただきたい。

■1月5日、日曜日。

 Eテレで10時半から放映されたNHK杯戦は、永瀬拓矢二冠と千田翔太七段の好カードだった。棋譜は、NHK将棋内の棋譜再生( https://www.nhk.or.jp/goshogi/shogi/score.html?d=20200105 )を参照のこと。

 千田さんは第65回に準優勝しており、早指しでも安定して力を発揮するタイプ。永瀬さんはNHK杯戦ではまだ実績がなく(かの1局千日手2回は実績といえば実績か)、今期の充実ぶりでどこまで対応できるか。なんてことを考えていたら、対応どころじゃなかった。いやぁ、強い。

 永瀬さんは派手さよりも、じわじわと着実に相手を押していく棋風だ。そんな永瀬さんが49手目に指した▲2五飛は、次に桂捨てから飛車の素抜きを狙った大物手だった。もちろんバレバレだから実現するとは思っていなかっただろうけど、少し照れたような雰囲気があって、ほほえましく感じられた。

 本局の観戦記は、NHK将棋講座テキスト3月号に大川慎太郎さんが執筆したものが掲載される。将棋世界誌のエース観戦記者であるところの大川さんの原稿は、いつもながら視点がしっかりしていて読みやすい。

■「観る将」界隈もにんまり

 ちなみに1月16日に発売される将棋講座テキスト2月号には、以下の4局が掲載される。

・渡辺明三冠−福崎文吾九段(観戦記:雨宮知典さん)

・永瀬拓矢二冠−郷田真隆九段(観戦記:鈴木宏彦さん)

・久保利明九段−行方尚史九段(観戦記:内田晶さん)

・豊島将之竜王・名人−斎藤慎太郎七段(観戦記:高野悟志さん)

 テキスト観戦記には、放映時には入りきらなかった感想戦の内容や後日に発見された手順だけでなく、「観る将」界隈もにんまりしてしまうような裏話も出てくる。

 NHK杯戦のみならず、テレビ講座の元になっているテキストや、連載もの(巻頭の「平成の勝負師たち」、2月号は久保利明九段が登場)も充実。「観る将ナイト2019」のレポートも掲載されている。ご購入は全国の書店、NHK将棋講座のページ( https://www.nhk-book.co.jp/list/backnumber-09191.html )にて。定期購読やバックナンバーもあるよ!(びっくりマークの勢いで露骨な宣伝の恥ずかしさをごまかす手筋)

■西山さんは、いつもニコニコしている印象だけれど……

 さて、1月5日には奨励会もあった。三段リーグは9、10回戦が行われ、服部慎一郎三段と西山朋佳三段が8勝2敗でトップを走る展開。まだ先は長いけれど、史上初の女性棋士誕生の可能性も十分にありそうだ。

 服部さんには私がタイトル戦で観戦記を書いたときに、記録係を務めてもらったことがある。そのときに「お笑いが大好きで、実はコンビを組んでいるんです」と話していたが、いまも活動しているんだろうか。

 西山さんとは食事の席で、何度かご一緒したことがある。おとなしくていつもニコニコしているような印象だけれど、将棋は蛮にして勇だから不思議なものだ。小島渉さんのインタビュー記事( https://bunshun.jp/articles/-/15060 )も面白かった。

■1月6日、月曜日。

 日本将棋連盟の指し初め式の日。会報には11時開始となっていたので5分前に行ったら、すでに始まっている気配である。そういえばタイトル戦の検分なども、主要な人がそろっていたら時間前でも始めてしまうのが将棋界の慣例だった。すっかり忘れていた。

 ふと見ると、代々木方面から相崎修司さんが小走りでやって来た。わずかながら先にいた私は「遅れるなんてしょうがないやつだ」という顔をした。

 鳩森八幡神社の境内、将棋堂の前は知った顔ばかりだ。少し離れたところには久しぶりに見る顔もいくつかあり、お元気でしたかと心の中で新年の挨拶をする。

 儀式が粛々と進む中、後方の富士塚あたりでは、神社の方が「申し訳ありません。一般の参拝の方は富士塚を登って降りて、通ってください」と案内している。

 どうやらものすごい人数が参拝のために並んでいるようだ。神社の外をぐるりと回って、将棋会館の前まで。正味200メートルくらいだろうか。

 近くにいた谷口由紀女流三段(女流名人戦挑戦、三段昇段おめでとうございます)が「どうしてこんなにたくさんいるか知ってます?」と声をかけてきた。

「テレビでやってましたよね。鳩森神社がすごいパワースポットだって」

「そうなんですよ。私はさっき聞いたんです」

 きっとこういうときは知らないふりをしてネタを引き出したほうが会話が弾むのだろう。しかし、私にはそのような大人の余裕はなかった。実に残念なことであった。

 指し初め式のリレー将棋は、プロ側の木村一基王位が四間飛車に振れば、アマ側は中央に飛車を振ってから5筋と7筋(三間の筋)の歩を伸ばすという欲張りな作戦。新年から景気がよいですな。

■「ちょっとちょっと、動画はNGですよ!」

 その後の宴会は失礼して、渋谷のNHK将棋講座テキスト編集部にて、ここでの仕事始め。終わったあとに内田晶さんと軽く食事に行く。

 渡辺明三冠の軽井沢カーリングにも参加していた内田さん。「取材で来ていたスポニチの伊藤さんが、プレイしている様子を動画で撮ってたんですよ。そうしたら渡辺さんが『ちょっとちょっと、動画はNGですよ!』って」

「なるほど。静止画ならごまかせるけど、動いてるとヘボがばれるからねぇ」

「まさにそう。でもアップされたものを見ると、なかなか様になってて、まあいいかって(笑)」

 内田さんは翌日に、王位リーグ入りを懸けた渡辺三冠−佐々木大地五段戦の観戦記だという。もしかしたら棋王戦五番勝負でぶつかっていたかもしれない両者。楽しみな一番だ。

 指し初め式が終わると、年末年始も終わりという実感がわく。私は例年通りに原稿に追われていたが、それではあまりにも寂しいと思い、友人がオススメと言っていたニンテンドースイッチの「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」を買ってやってみた。

 久しぶりのゲームということもあり、私のリンク(主人公)は実によく死んだ。歩いては死に、食べ物を調達できずに死に、不意打ちを食らって死に、ビームで死に、高い塔から落ちて死に、ガケで足を滑らせて死に、湖でもがんばりが足りずにおぼれて死んだ。画面の端に次のリンクが見切れるくらい、たくさん死んだ。

 もしかしたらコントローラーに触れなくても、電源を入れなくても死ぬかもしれない。目に見える死はほんの一部なのだ。ゲーム自体はとても面白かった。

 年明けに、ローレンス・ブロックの小説『 八百万の死にざま 』を読んだ。ちびちびと昼からお酒を飲みながら元刑事のアル中探偵の話を読むのは、なかなかにして乙なものだった。

■1月7日、火曜日。

 竜王戦1組の屋敷伸之九段−久保利明九段。読売新聞に掲載される観戦記は大川慎太郎さん。中継は紋蛇記者が担当。

 この将棋は振り飛車の楽しさがいっぱいに詰まっていた。40手目、次の△3三銀を見越した△4五桂はたまらない味。振り飛車党は盤に並べて、素振り100回すべし。

 この手の棋譜コメントは、派手な王手飛車の変化を紹介したあとに「千駄ヶ谷は小雨が降ってきた」とトーンダウンする味のある展開だった。まず実現しない架空の変化と、ほとんど影響はないけれど確かな現実である小雨。

 王位リーグ入りの一番、渡辺−佐々木大戦は佐々木さんの快勝。えらいもんだ。勝てない相手ではない、そう思って勇気が出た人もいるかもしれない。王将戦、棋王戦が面白くなってきた。

(後藤 元気)

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