白石被告に「殺してほしかった」 19歳女性が明かすその後の性被害

白石被告に「殺してほしかった」 19歳女性が明かすその後の性被害

2017年11月1日、送検される白石隆浩被告 ©文藝春秋

「裁判で結果が出ても苦しみは消えないかも知れません。でも希望が少しでもあるから勝つために頑張ろうって思います」

 こう話すのは、埼玉県在住の直美さん(仮名、19)。2年前、2018年1月に起きた性犯罪の被害者だ。容疑者は5月に逮捕されたが、検察は不起訴にした。「次の被害者を出して欲しくない」との思いから、刑事では実現できなかったものの、民事での裁判を検討中だ。実は、3年前にも被害にあい、それによって希死念慮が強まった経験がある。そのため、当時は、座間市で男女9人を殺害した白石隆浩被告とTwitterでつながり、DMでやりとりしていた。

■「タバコ買ってあげるから、コンビニ案内して」

 事件があったのは2018年1月29日午前2時半ごろ。直美さんは、友人の家で遊んだ帰宅途中だった。自転車に乗っていると、自動車を運転している男(50代)から声をかけられた。

「道に迷った。八潮市に行きたい。教えてもらう代わりに、タバコ買ってあげるから、コンビニ案内して」

 説明するが、わからないというので、自転車を降りて、車に乗り、途中のセブンイレブンまで行くことになった。

「(相手の男は)酒臭かったです。店では、氷結を買っていました。嫌な予感はしたんですが、どうせ家で飲むものだと思って、特に警戒はしませんでした」

 自転車を置いてきたところまで送って行く、というので、直美さんは再び、車に乗った。しかし、方向が違った。

「左ですよ」

 そう言うと、男の態度が急に悪くなった。「帰さないぞ」とも言われた。信号待ちをしているときに、車外に出ようとすると、ドアにロックをかけられた。腕をもたれていたので、スマホの操作もできずにいた。

 このとき、思い出したことがある。2017年の夏にも夜中、散歩をしていたときに、声をかけられた男に車内に連れ込まれ、レイプされたことがあった。相手は特定されたが、逮捕されていないという。

■〈首吊りの道具と薬を用意してあります〉

 この事件をきっかけに、希死念慮が強まり、自殺を考えた。そのため、Twitterで「首吊り士」というアカウントを利用していた白石被告とつながり、DMのやりとりをしている。『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)でも取り上げたが、DMのやりとりの一部は次の通りだ。

白石 〈ご連絡ありがとうございます。神奈川に住んでおります〉
直美 〈関東一緒ですね〉
白石 〈自殺をお考えですか?〉
直美 〈はい〉
白石 〈一緒に死にますか?〉
直美 〈何歳ですか?〉
白石 〈22歳です。首吊りの道具と薬を用意してあります〉
直美 〈殺してもらえないですよね 首絞めて〉
白石 〈本気で言ってるんですか?〉
直美 〈首吊り2週間くらい前に失敗してなんかもー首吊りのやり方が失敗するとしか思えなくて〉

 その後、カカオトークにやりとりが移行するが、白石被告のタイミングで通話ができなかったためもあり、連絡が途絶えた。

■「(男に)ついて行ったことは後悔しています」

 話を戻そう。直美さんは、気がついたら、工場地帯の中にある倉庫まで連れてこられていた。暗くて、電灯もない。

「お酒を二口だけ飲まされました。その後、何回もキスされました。嫌がっていたのに、無理やり頭を近づけてきて、舌を口に入れられたんです」

 ただ、緑の橋と、駐車禁止のマークだけは覚えていたため、後の現場検証で証言することができた。この場所に駐車した車の中で、避妊もなしで、レイプされたのだ。犯行後、男は急に何もしゃべらなくなった。

「男は、早く帰れ、的な態度になったんです。でも、前回の事件のときに、後悔もしていたので、車のナンバーを見なきゃと思ったんです。車種はわからないですが、黒い車で、『春日部』の白いナンバーでした。車から降りて、自転車まで走りました」

 車を下されたのが午前3時ごろ。このとき、男は「誰にもしゃべったらダメだよ」と言った。しかし、直美さんは、すぐに110番通報をした。そして、ナンバーを告げた。

「最初に電話に出たのが男性警察官で、すごく厳しい口調でした。『言ってくれないと、わからないから』と。でも、すぐには思い出せなくて」

 半日は警察署にいた。そこで話しやすい人が担当になり、後から女性警察官に代わってくれたという。産婦人科にも行き、服から指紋も採取した。コンビニの防犯カメラも確認できた。

「私は、すぐに真に受けるし、周囲から、人を信用しすぎると言われていますが、自分ではわからないんです。ただ、(男に)ついて行ったことは後悔しています。自分が悪いと思ったりしています」

■「無理やりやった証拠がない」ため男は不起訴に

 事件後、過去の性被害とあいまって、フラッシュバックが起き、衝動的な自殺願望がわきあがった。神社で首を吊ろうとして、意識不明となり、朝、散歩している人に通報されたこともあったという。

「リスカが激しいときもありました。記憶があるときは、苦しいです。過呼吸もありました。相手の顔はうっすら覚えています。毎日のように、犯人の顔が頭に浮かびました。自殺未遂も何度もしましたが、記憶にあるだけでも、数えきれません。何時間も泣いているときだってあります。解離して、いつの間にか、どこか知らない場所まで来てることもありました」

 トラウマ反応として、直美さんは、過呼吸や解離、再体験などを繰り返している。タバコの匂いでも思い出す。また、先日、派遣のバイトで暗い倉庫のような場所での仕事があったが、そこでも不安が高まった。

「事件後はずっと思い出して、フラッシュバックになっていました。事件から約4ヶ月後の5月、男は逮捕されました。草加市内に住む56歳でした。警察からは『起訴されると思う』と言われていました。再犯と聞いていたのですが、不起訴になったのです。理由は『無理やりやった証拠がない』というのです。この2年間、ずっと引きずっています」

■激しい抵抗がなければ改正後の刑法でも起訴は難しい

 2017年6月、刑法が改正され、翌7月に施行された。これによって、「強姦罪」が「強制性交等罪」となった。性器挿入だけでなく、肛門性交や口腔性交も対象になった。しかし、今回のように、明らかな激しい抵抗をしてない場合は、難しい。というのも、「暴行又は脅迫を用いて」という文言は残されたままだ。直美さんは、けがをするほどの抵抗はしてない。被害を受けている中で、2017年の性被害を思い出したからだ。

「前回の事件を思い出して、フラッシュバックして過呼吸になる手前で苦しいのを我慢して、ずっと泣いていたんです。このままだと殺されると思って、抵抗できませんでした。ずっと嫌だ、嫌だとは言っていたんですが」

 また、年齢が18歳になる前だったために、県青少年健全育成条例による「淫行」による起訴はできないものかと筆者は思ったが、直美さんには、特に説明はなかったという。

 もうすぐ誕生日を迎えて20歳になる。そのタイミングで民事訴訟を考えている。法テラスに連絡をすると、弁護士を紹介してもらったが、性被害に強いかどうかはわからない。そのため、筆者を経由し、性被害の相談にのっているNGOの紹介で、性被害に強い弁護士とつながった。

 裁判への思いについて、直美さんはこう語る。

「裁判をして得たいものは、たとえ負けても勝っても犯人に、被害者である私が苦しんでいること、辛い状況でいることを知って欲しいのです。そして、可能であれば謝罪の手紙がほしい。それじゃないと納得できないし、自分でもずっとひきずってしまいます。裁判が終わっても苦しみは消えないかも知れませんが、希望が少しでもあるから勝つために頑張ろうと思っています。犯人が負けたら、思い出して再犯しなくなるかもしれません」

■「殺して欲しいっていう気持ちは前と変わっていません」

 気になるのは、座間事件への思いだ。事件後の取材では、「(被告のところへ)行っていればよかった」と話していた。改めて、このタイミングで聞いてみた。

「また、出てきて欲しいなって思います。まだ会って殺して欲しいっていう気持ちは前と変わっていません。亡くなった人も苦しんでいたのだと思います。だから『承諾殺人でいいんじゃない?』って思います。似たような人がいるのなら殺して欲しいです」

 性被害に遭い、「殺される恐怖」を味わった直美さんだが、タイミング次第では、「殺されたい」「死にたい」という気持ちは変わってない。

(渋井 哲也)

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