実は「20代女子」に支持されている文在寅大統領 男性からは恨み節…韓国社会を分断した政策とは?

文在寅大統領は20代女性から好評価 女性への恩恵が多い政策に男性からは恨み節

記事まとめ

  • 韓国の世論調査で、20代女性の62.0%が文在寅大統領は「よくやっている」と答えた
  • 文大統領は女性問題担当の省庁に年1兆ウォン投入し、女性関連の公約を履行している
  • 一方、20代男性は文在寅政権の女性政策を『逆差別』と受け止め、低い評価となっている

実は「20代女子」に支持されている文在寅大統領 男性からは恨み節…韓国社会を分断した政策とは?

実は「20代女子」に支持されている文在寅大統領 男性からは恨み節…韓国社会を分断した政策とは?

大統領選の当時、ソウル市内の市場で若い女性支持者と記念撮影する文在寅氏(2017年1月) ©?AFLO

 韓国の20代の間では、男女で文在寅大統領への評価が大きく異なるという。その理由とは? ソウル在住の現地ジャーナリスト・金敬哲氏がレポートする。

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「超“格差”社会」といわれる韓国で、「超“葛藤”社会」という言葉が目下流行している。

 韓国語でいう葛藤とは「個人や集団の持つ2つ以上の目標や情緒が衝突する現象」のこと。現在韓国では理念と地域、年齢や性別など社会の全般にわたり、「葛藤」による分断と対立が「最高潮」に達していると言われている。

■広がる若年層の「ジェンダー葛藤」

 韓国社会の深刻な「葛藤」の背景には、一部の支持層に向けた政策ばかりが目立つ文在寅(ムン・ジェイン)政権の内政がある。中でも最も深刻なのが、若年層で顕著な「ジェンダー葛藤」(男女間の対立)だ。

 1月15日、韓国の日刊紙「文化日報」は、全国の20代(19-29歳)男女を対象にした世論調査の結果を発表したが、20代の男女の間で文政権に対する評価が明らかに分かれた。

 まず、文大統領について「よくやっている」と答えたのは、男性の37.2%に比べ、女性は62.0%と大幅に高かった。一方、文大統領が「間違っている」と答えた男性が53.8%いたのに対し、女性は29.1%にとどまった。

 韓国社会を揺るがしだ国(チョ・グク)前法相のスキャンダルに対する検察捜査についても、男性の61.8%が「検察捜査は正当だ」と答えた半面、女性は40.7%が「検察捜査は不当だ」と答えた。

 文政権の若者の雇用政策についても、女性の56.1%が肯定的に評価したが、男性の58.6%が否定的だった。

 韓国の20代の男女間で文在寅政権や政策に対する支持率の格差が生じる理由は、「フェミニスト政権」を自任している文在寅政権に対し、韓国の若い男性が「逆差別」を感じているためだ。

■『82年生まれ、キム・ジヨン』で描かれた現実

 韓国における女性の立場を描いて話題になったのが、日本でもベストセラーとなった韓流小説『 82年生まれ、キム・ジヨン 』である。韓国で100万部以上売れたこの本は、34歳の専業主婦のキム・ジヨンを通じ、韓国女性たちが学校や職場で受けている差別、就職市場で経験する不平等、「独り育児」の現実、仕事経歴断絶の問題などを取り上げ、大きな社会的反響を起こした。

 日本では、この本についてK-POPスターがコメントしたことで売上が伸びたとされているが、韓国でこの本の人気に火を付けたのは、文在寅大統領をはじめとする進歩系の政治家たちだ。

 2016年10月に出版された当初、この本はそれほど大きく注目されなかった。しかし、進歩政党の正義党の故・魯会燦(ノ・フェチャン)議員が2017年5月、大統領に当選した文在寅氏にこの本をプレゼントしたことを機に一気に有名となった。

 続いて2018年、韓国法曹界のセクハラを暴露して韓国社会の「#MeToo」運動の火付け役となった女性、徐志賢(ソ・ジヒョン)検事が、自分の被害事実を告白するSNSの書き込みでこの本に言及し、本書は韓国のフェミニストたちのバイブルとなった。

 この『82年生まれ、キム・ジヨン』にも描かれたように、長い儒教の伝統が残っている韓国社会では男性に比べて女性の社会的地位は劣悪である。女性と児童・青少年問題を扱う行政機関である女性家族部が発表した「統計で見る女性の暮らし・2019」を見ると、韓国女性の賃金水準は男性の約69%。非正規社員の割合も女性は41.5%で、男性(26.3%)より15.2ポイントも高い。他にも、上場企業の女性役員の割合はわずか4.0%で、約68%の企業で女性役員が一人もいない。

■女性政策担当の省庁に年1兆ウォン投入

 文大統領は、大統領選挙候補時代から「男女平等な韓国」という女性向けの政策を10大主要公約の一つとして提案していた。具体的には、女性政策機構の強化、女性の雇用差別解消、公企業と準政府機関の女性管理者比率の拡大、ジェンダー暴力の根絶などだ(ジェンダー暴力とは、性暴力はもちろん、性差別やセクハラなどを含めた広範囲に至る「性を媒介した加害行為」のことである)。

 この一連の女性関連公約は、政権初期から地道に履行され、韓国の女性たちから大きな支持を得ている。

 例えば、これまで名前だけのミニ省庁と認識されていた「女性家族部」の組織と予算を大幅に強化し、年1兆ウォン(約1000億円)以上の予算を投入する主要省庁に再編した。大統領直属で「性平等委員会」を発足させ、小学校をはじめとするすべての学校で性平等教育の実施を義務付けるなど、女性の人権と両性平等に対する社会教育を強化している。

 男女間の社会格差解消と女性の社会進出のための各種の女性支援政策も施行されている。民間企業には「女性管理者採用目標制」、公共機関には「女性公務員任用目標制」、女性科学技術人材と国公立大学には「女性職員割当制」、政党には「女性政治割当制」などを導入している。

■男性からの恨み節も

 一見成功したように見えるこれらの政策だが、落とし穴がある。女性の社会的地位が劣悪であることも事実なのだが、過酷な競争社会に加えて深刻な経済の低迷に直面する韓国の若い男性も楽な状況ではないのだ。

 最悪の就職難と一寸先も見えない不安な将来のために、「N放世代」とも呼ばれる人生の多くを諦めなければいけない韓国の20代男性たちの立場から見れば、文在寅政権の女性政策は「逆差別」と受け止められている。

 たとえば、職員採用において、女性に加算点を与える公共機関がある一方、2年間の兵役の義務を果たした男性に対する加算点は全て廃止された。警察や軍人など体力試験が必要な職種の採用の場合は、男女別に異なる基準で評価をし、合格者の男女比率を調節する。他にも、女性専用賃貸住宅、女性専用創業支援など、女性に対する福祉恩恵が同じ条件の男性に比べて遥かに多い。

 そして、これらの性平等実現を最優先目標とする「性認知事業」に投入される2020年の国家予算に約32兆ウォンを割り当てた。これは、雇用予算の約26兆ウォン、政府の開発研究(R&D)予算の約24兆ウォン、インフラなどの社会間接資本(SOC)予算の約22兆ウォンよりはるかに多い。約60万人の兵士を養い、最先端武器を購入する国防部の総予算が50兆ウォンであることを勘案しても、決して少なくない予算だ。

■あまりに過酷な競争社会での「本当の問題」

 20代男性の“剥奪感”を、文在寅政権の関係者らが単なる「劣爆(劣等感による怒り)」と受け入れているのも状況の悪化に拍車をかけている。

 20代の男性の政権支持率が低迷した理由について、与党「共に民主党」の薛勳(ソル・フン)最高委員は、「(20代の男性たちが)まともな教育を受けることができなかったからだ」と暴言を吐いた。

 親・文在寅グループの核心ともいわれ、進歩系の有力な次期大統領選候補の一人である柳時敏(ユ・シミン)氏は、「男性は軍隊、サッカー、ゲームで時間を奪われ、勉強のできる女性に対して嫉妬しているだけ」と、ジェンダー対立を男性たちの一方的な劣等感だと一蹴した。

 本当の問題は、あまりに過酷な競争社会の中で、男女の区別なく誰もが苦しみにあえいでいる状況が、何も解決されていないことだ。文在寅政権は所得主導の成長と親「労働者」的な経済政策によって問題の解決を図った。だが、低成長と急速な高齢化に悩まされている実情を勘案しなかったために、いまや韓国経済を深刻に萎縮させている。

 昨年の韓国経済成長率は、史上初めて1%台を記録する可能性が高いともみなされている。全体のパイを増やすことができないため、片側が持っているパイを奪って他の方に分けることこそが、現・文在寅政府の経済政策の実態なのだ。

(金 敬哲/週刊文春デジタル)

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