福島第一原発の現在地 現場の30代技術者が語る“廃炉の最前線”「燃料取り出しは、遠い未来じゃない」

福島第一原発の現在地 現場の30代技術者が語る“廃炉の最前線”「燃料取り出しは、遠い未来じゃない」

福島第一原発構内

 2019年10月現在、1日3000人から4000人が作業員として働く福島第一原子力発電所。構内の入り口近くにある入退域管理施設から眺めてみると、4つ並んだ原子力発電所はそれぞれ佇まいが違っているのがわかる。

 1号機は天板もなく、四方の鉄骨だけがむき出しになっており、2号機は上部に「燃料取り出し用構台」というプレハブ小屋のようなものが設置されている。3号機には天板の上に円筒状のドーム屋根が作られ、4号機には真横から建屋を支えるような鉄骨構造物が建てられている。

■防護服が必要ないエリアは96%に

 だが、震災の頃の風景と比べてなにより違うのは、構内を歩く作業員の姿だろう。原発建屋の近くでも防護服を来ている人はおらず、一般の作業服姿で作業に従事している。

「一部のエリアではカバーオール(防護服)が必要ですが、いまは構内の96%のエリアが一般の作業服で作業ができるようになりました」

 東京電力の担当者がそう解説する。

 敷地内の建屋に近いエリアを見ると、地面の至るところがコンクリートのようなもので覆われている。放射性物質の飛散を防ぐため、地面を広く遮蔽していたのだ。

 そこまで環境整備が進んだことで、廃炉の作業も進みやすくなっている。

「今後の廃炉の作業工程で、一番の課題は燃料デブリ(破片)の取り出し。これをどのように進めるかは技術的にも難しいところになると思います」

■700グラムの燃料デブリを持ち上げた

 その第一歩となる作業が、2019年2月に行われた。

 2号機の格納容器に穴を空け、ロボットアームのような機械を炉内に送り込み、床面に堆積する燃料デブリをいくつか持ち上げる。その調査に成功したのである。

 持ち上げた燃料デブリは最大で約700グラム。わずかなものだが、実際に持ち上げたスタッフたちにとっては、それ以上の重さを感じる実験だった。

 行っていたのは、2号機の開発元である東芝のチームだった。

■「非常用電源が使えなくなるとは想像もしていませんでした」

「固まっているデブリをどう切り出すのか、取り出したデブリをどう安全に処理するか、という課題はあります。それでもデブリをつかんだ。次はそれを持ち出すこと。それは遠い未来じゃないと思います」

 そう語ったのは、東芝エネルギーシステムズで原子力福島復旧・サイクル技術部に所属する中原貴之(38)だ。中原は東日本大震災の当日も福島第一原発のそばにいた。当時、30歳になるという若手社員だった。

 立っていられないような激しい揺れに驚いたが、地震直後に「スクラム(制御棒を核燃料に差し込んで運転を停止する)した」という連絡を受けており、「それなら(原発は)止まるな」と考えていた。

「まさかそのすぐあとに十数メートルの津波が原発に降りかかり、非常用電源が使えなくなるとは想像もしていませんでした」

 その後、中原は福島第一原発にずっと関わってきた。

■困難に次ぐ困難の繰り返し

 冷温停止、使用済み燃料の取り出し、汚染水対策、燃料デブリの取り出し……。言葉で記すと、簡単に映る作業だが、その内実は困難に次ぐ困難の繰り返しだったという。

 なぜなら廃炉という作業は、やろうと思ってもすぐできることではなく、十分すぎるほどの入念さで事前の調査や段取りをしておかねば、進められない作業だったからだ。

 中原が言う。

「『燃料取り出し』という目標があります。でも、それに着手するには、その前にやるべきことが1000個くらいあるんです。初期で言えば、瓦礫の撤去、高い放射線量を避けるための遮蔽や清掃。また肝心の現場では、線量が高いので数分しか作業できない。また、燃料を取り出す装置すら壊れているので、一からつくらねばならない」

 ネックになっているのは言うまでもなく、放射線だ。

■世界初の“廃炉”に挑む30代の若手社員たち

 すべての作業員は、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告により5年間で100ミリシーベルトが被曝の上限とされている。その数値を守りながら、目の前の課題を解決していく。「万が一」を起こさないため、想像力を駆使して手順や段取りを想定し、実行していくのが、これまでの廃炉作業の工程だった。

 そして、そうした世界初の慎重な作業をデザインし、実際に実現させてきたのはみな30代の若手社員たちだった。

 では、デブリをつかむに至るまでにはどのような過程を経てきたのか。「文藝春秋」2月号および「文藝春秋digital」に掲載の「 廃炉最前線 福島第一原発の『若き指揮官』たち 」でその詳細を記した。

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(森 健/文藝春秋 2020年2月号)

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