人はなぜ「あおり運転」をやめられないのか? 高級車に乗ると増える“脳内物質”の正体

あおり運転根絶は困難 高級車に乗ると攻撃性を高める脳内物質テストステロン値が上昇

記事まとめ

  • あおり運転が問題となっているがキレて相手を攻撃することは人間の本性的な行動だそう
  • 高級車に乗ると攻撃性を高めるテストステロンの値が上がることが実験で証明されている
  • ルールを守らない奴を懲らしめるのはドーパミンを分泌させ、怒りの感情が持続するそう

人はなぜ「あおり運転」をやめられないのか? 高級車に乗ると増える“脳内物質”の正体

人はなぜ「あおり運転」をやめられないのか? 高級車に乗ると増える“脳内物質”の正体

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 ここ数年、あおり運転が大きな問題となっています。これほど世間の注目を集めたのは、ドライブレコーダーの普及により、乱暴な走行や暴行シーンがメディアで流れたことが大きいと考えられます。“キレるドライバー”が急に増えたわけではなく、今まで個人トラブルとして埋もれていたものが、多くの映像により報道されて社会問題化したということでしょう。その意味で、あおり運転は古くて新しい問題と言えるかもしれません。

■そもそも、人はなぜキレるのか

 誰しもあおり運転の被害者にはなりたくないものですが、一朝一夕に根絶できることではありません。なぜなら、キレて相手を攻撃することは、人間にとって極めて根源的で本性的な行動だからです。

 そもそも、人はなぜキレるのでしょうか。怒りを感じると、脳内ではノルアドレナリンが分泌され、心拍数、血圧、血糖値が上昇します。同時にアドレナリンの分泌も促進され、筋肉への酸素供給量が増えます。つまり、怒ることで、自分に危害を加えそうな者を攻撃する準備をしているのです。

 人類(ホモ・サピエンス)の歴史は、アフリカで誕生した20万〜30万年前から、外敵との闘いの連続でした。危機に見舞われたとき、闘うのか、逃げるのか、常に選択を迫られていたのです。怒りという感情がなければ、我々は今日まで生き残ることができなかったでしょう。

■キレるドライバーの脳内では......

 現代社会では、暴力は許されないものと広く認識されていますが、ほんの少し時代を遡れば、教師の体罰や不良少年のケンカなど、暴力は巷にあふれていました。人類は現代人が思う以上に、暴力的な動物なのです。

 人類にとってキレることが本能であると認めた上で、あおり運転について考えてみましょう。あおりドライバーの執拗さを見ると、単純な怒りではなく、さまざまな脳内物質や脳の反応が複雑に絡みあっているように思えます。

 常磐自動車道で前方の車をあおった末に停車させ、男性を殴った事件がありました。そのケースをもとに、キレるドライバーの内面を分析してみましょう。

 40代の加害男性はBMWの大型SUVに乗っていましたが、実は高級車に乗るとテストステロンの値が上がることが実験で証明されています。テストステロンは男性ホルモンの一種で攻撃性を高めます。実験ではカローラとフェラーリで比較しているのですが、大衆車のカローラではテストステロン値にあまり変化が見られないのに対して、フェラーリに乗ると数値が格段に上昇したのです。

 高級車だけでなく大型車に乗ったときも同様の結果になると考えられます。つまり、加害男性は大型の高級車に乗っていたため、「周囲の車より、俺のほうが強い」と優越感を得て、攻撃性が高まっていたと考えられます。

 また、道路を走っているとき、当然ながら周囲の車は見知らぬ人が運転しています。すると、人間は本能的に周りの車を味方ではなく敵だと思いがちです。それは防御本能が働くからです。

 加えて、追い越し車線なのに遅い速度で走っていたり、車線変更するときにウィンカーを出すのが遅かったり、自分の走行を妨害するような車がいれば、それは敵であり、攻撃すべき対象と判断して闘争モードに入ってしまうのです。

■「自分は正しい」あおり加害者の思考

 常磐道の加害者は、「被害者の車に進行を妨害されたと感じ、頭にきて追いかけた」「相手の運転が間違っているから、正さなくてはならないと感じた」と供述しています。別の事件では「尾張小牧ナンバーの車線変更は許せない」という理不尽な供述をしたドライバーもいましたが、マイルールを守らない奴を懲らしめるのは、彼らにとって“正しい”ことなのです。

 この正義感に基づく制裁行動は、脳内でドーパミンという神経伝達物質を分泌させます。ドーパミンは「自分は正しいことをしている」との充足感を与え、脳に快感をもたらします。すると、ますます相手を攻撃する気持ちが強まって、怒りの感情が持続してしまうのです。アンガーマネジメント講習では、6秒ほど深呼吸すれば怒りの感情が鎮まると教えますが、ドーパミンが作用していると、深呼吸の効果も限定的になるでしょう。それは「正しい自分」に陶酔している状態だからです。

 さらに、常磐道の事件では、一緒に逮捕された同乗女性というファクターも大きく作用したと考えられます。彼女が、「そんなみっともないこと止めてよ」と加害ドライバーに強く歯止めをかけられる存在であればよかったのですが、逆に理性のブレーキを外す役割を果たしていたようです。同乗女性は車を降りて、被害男性が殴られる一部始終をガラケーで撮影していました。好きな女性が隣にいれば、加害男性には自分を強く大きく見せようとする心理が働きます。

 いじめや幼児虐待でよく見られるのですが、グループ・ポラライゼーション(集団の極性化)という現象があります。集団でいじめをしているとき、仲間から「お前、ちょっとヌルくね?」などとけしかけられて、暴行がどんどんエスカレートするようなケースです。集団内だと相互に監視している状態なので、単独でいるときよりも、凶暴性を増す方向にベクトルが傾いてしまうのです。

■あおり運転への対処法

 では、キレてあおり運転をしてくる相手には、どのように対処したらよいのでしょうか。

 まずは、話が通じる相手だと考えてはいけません。たとえるなら、猛獣のライオンかヒグマです。彼らは攻撃を完遂するまで満足しません。すぐにドアをロックして、警察に通報してください。怒りに支配されている相手に対しては、逃げるしかありません。

 あおり運転に遭遇する危険は、常にどこにでも潜んでいます。そのつもりで自衛するより他ないのです。

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(中野 信子/文春ムック 文藝春秋オピニオン 2020年の論点100)

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