【アカデミー賞4冠】「パラサイト」から見えてくる韓国“残酷”不動産格差のリアル

【アカデミー賞4冠】「パラサイト」から見えてくる韓国“残酷”不動産格差のリアル

「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督(右)と主演のソン・ガンホ ©AFLO

 アジア映画として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされた、ポン・ジュノ監督の話題作「パラサイト 半地下の家族」。この映画で、韓国の格差社会を表現するのに使われたのが、丘の上の邸宅と、韓国独特の居住空間である「半地下部屋」だった。

 半地下部屋とは、地上と地下の間に位置する居住空間のこと。韓国の宅地法によると、床から地表面までの高さが、部屋の高さの半分以上なら「地下」、半分未満であれば「半地下」と区分される。

 元々は、北朝鮮の侵略に備えた地下の避難場所として、住宅建築の際に設置を義務付けられていたのが始まり。1975年には、住宅空間として利用することが認められ、「半地下部屋」という住居が誕生した。経済成長が続いた70年代、ソウルの爆発的な人口増加による住宅不足を解決するのが目的だった。

 その後、主にソウルなど都市部に多く存在する地下部屋と半地下部屋は韓国の住宅貧困を象徴する空間となった。韓国統計庁の2015年人口住宅総調査によると、約86万人が地下または半地下に暮らしているという。

 南北分断の歴史と、経済発展から取り残された格差を体現する半地下のあの家族は、実は「特殊なケース」ではないのである。

■庶民を直撃する不動産価格の高騰

「半地下」にみられるような韓国の都市部における住宅問題は、韓国社会の最も深刻な格差問題の一つに挙げられている。

 中堅企業で課長として勤めている夫と小学生の2人の娘がいる李さん(仮名、46歳)は、ソウル・江西区のマンションで「『伝貰』暮らし」をしている。「伝貰(チョンセ)」とは、韓国だけの独特な住宅賃貸の形で、一定の保証金を預けて家を借りる不動産賃貸契約だ。

 伝貰の保証金は、住宅価格の50〜90%にあたる巨額だが、保証金を支払う代わりに、毎月の家賃を支払わずに住むことができる。家主は契約期間中に保証金を運用して利益を得る仕組みだ。

 李さんも、4年前に105平方メートルのマンションを伝貰で借りるために、4億ウォンの保証金を支払った。ところが、ソウル市の不動産価格が急騰し、毎年のように伝貰価格も跳ね上がっていることが、李さんを悩ませている。

「もうすぐ契約が満了しますが、家主から住宅価格が大幅に上昇したからと保証金をさらに5000万ウォン引き上げたいと言われました。

 2年前の契約更新の際に、銀行の融資まで受けて追加の保証金を作ったのに、さらに5000千万ウォンを借りなければいけないなんて……。どこから借りたらいいのか。子供の学校の都合で、引っ越しも容易ではありません。ただ途方に暮れています」

 現在、約1000万人のソウル市民のうち、マイホームを保有しているのは約42%。全国的に見ても持ち家率は約57%で、日本の62%より低い水準だ。

 韓国の持ち家率が低い理由は、過度な人口密度、それに伴って高騰した住宅価格によるものだ。特にソウルの人口密度(1万6728人/平方キロメートル)は、ニューヨークの8倍、東京の3倍とされ、住宅価格を世界最高の水準まで引き上げている。

■ソウルのマイホームは年収9年分

 KB銀行の不動産サイトである「Liiv ON」によると、2019年11月時点で、ソウル市の中位住宅価格は6億3700万ウォン、マンションの平均価格は8億5000万ウォンだ(中位住宅価格とは、住宅価格を金額順に一列に並べた中間に位置する住宅の売買価格)。

 ソウルでマイホームを持つには、平均的なサラリーマンの年収9年分が必要とされる。韓国人の羨望の的である「江南地域」のマンションは、年収20年分に相当する。

 これほど高いにもかかわらず、銀行から借りられるのは住宅価格の30~40%(ソウル市の場合。全国平均は60%)に制限されているため、まとまった「シードマネー(頭金)」が必要だ。

 仮に、ソウルで8億ウォンのマンションを購入しようとした場合、銀行から借りられる金額は最大3億2000万ウォンとなり、4億8000万ウォンをシードマネーとして準備する必要がある。

 そうなると、親の財力に頼れる人や、大手企業の社員で住宅ローン以外の銀行融資が可能な人を除いた大半の韓国人は、このシードマネーを作り出すのに気が遠くなるほど時間がかかる。

 しかも、かろうじてシードマネーが貯まったとしても、その時点で住宅価格はさらに値上がりしている。韓国の未婚男女10人のうち4人は「マイホームを持ちたいが、不可能だろう」と考えている。

 一方、富裕層にとって、不動産は投資対象として脚光を浴びている。上昇の一途をたどっている都市部のマンションは確実な投資先とされ、特に江南地域のマンションは「江南不敗神話」という言葉が生まれるほど、マンション価格が上昇し続けている。

 主婦のチョ・ヨンミさん(仮名、53歳)は不動産投資を続け、ソウル市内に3軒のマンションを持っている。龍山区漢南洞に76平方メートルのマンション、現在住んでいる東大門区祭基洞の76平方メートルのマンション、西大門区弘恩洞に120平方メートルのマンションがある。

「現在の相場から見ると、弘恩洞のマンションが15億ウォン、漢南洞が13億ウォン、そして祭基洞が8億ウォンぐらいかしら? 合わせて36億ウォンになるけど、全部売っても江南のタワーマンション1室しか買えないわ」

■文政権の不動産政策は「18連敗」

 1月14日に行われた年頭記者会見で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「不動産投機との戦争で絶対負けない」と宣言した。

 翌15日には、姜h正(カン・ギジョン)大統領府首席秘書官が、住宅を売買する際には政府の許可を受けなければならないという「住宅取引許可制」導入を示唆し、メディアから「社会主義的発想」という激しい批判を受けた。

 文在寅氏は大統領候補時代から、この住宅問題の解決を公約としていたが、すでに不動産対策は文在寅政権の政策の代表的な失敗事例とされている。政権が発足して以降、富裕層への銀行融資規制などの強力な不動産価格の抑制政策を計18回も発表した。

 しかし、政府の対策をあざ笑うかのように、政策が発表される度に住宅価格はむしろ急騰した。韓国全国の地価は、文在寅政権の2年半の間に2000兆ウォンも跳ね上がり、歴代政権で上昇率断トツ1位を記録した。ソウル中心部の住宅価格だけを見ても44%値上がりし、世界で最も地価が暴騰した都市とする統計もある。

 ついに昨年12月16日に打ち出された、18番目の最新の対策では、15億ウォン以上の住宅に対する銀行融資の全面禁止、9億ウォン以上の住宅に対する融資上限の引き下げという強硬策にでた。

 しかし、対策が施行されてから約1カ月以上が経過した現在、マンション価格は再び急騰している。規制の対象となる9億ウォン以上のマンションは鎮静化したものの、これまで9億に及ばなかったマンション価格が、9億に近付くところまで高騰してしまったのだ。

 庶民の「傳貰」の契約金もさらに暴騰している。韓国の専門家らは、この現象を「風船効果」と説明する。あるところに圧力をかけると、他のところが膨らむ風船のように、政府の規制が強化されれば強化されるほど、規制に適用されないところで価格が暴騰しているのだ。

■政権幹部は不動産で“大儲け”

 さらに庶民の感情を逆なでしているのが、文政権の不動産政策によって、大統領府や政府、与党の高官が、財産を増やしている事実だ。

 進歩性向の市民団体「経実連」(経済正義実践市民連合)は、2019年12月11日、「大統領府の秘書室の高位公職者の32%が多住宅保有者で、文政権の3年間、彼らが保有した不動産価格は平均3億2千万ウォンが上がった」という資料を発表した。

 特に、文政権の不動産対策のコントロール・タワーの役割をした金秀顕(キム・スヒョン)元政策室長が10億4千万ウォン、元大統領府政策室長に現・中国大使の張夏成(チャン・ハソン)氏も10億7千万ウォンの利益を得た。

 次期大統領に最も近い人物と呼ばれる李洛淵(イ・ナクヨン)元首相の江南マンションも、文政権の3年間におよそ9億ウォン以上の価格が急騰した。

 李氏は、鍾路区(チョンノグ)の選挙区から国会議員の出馬を控え、鐘路区に移住しながらも、江南のマンションを売らず保有していたことから「文政権の政策に反する」という批判に直面。李氏は慌ててそのマンションを売りに出した。

 総選挙を控えて、支持層の世論の悪化を心配する大統領府は、秘書室と高位公務員だけでなく、与党議員らに首都圏に2軒以上の家を持った人は売却することを強く勧告した。

 しかし、ほとんど守られていない様子だ。韓国の日刊紙「韓国日報」(1月17日付)によると、計11人の大統領府の多住宅者のうち、住宅を売買したのはたった2人だったという。

 映画「パラサイト」によって、世界に広まった韓国の不動産格差問題は、いまだ解決の糸口すら見つかっていない。

(金 敬哲/週刊文春デジタル)

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