《ゴーンショックが終わらない》前代未聞の弁護士ガサ入れも、検察関係者は「逃亡責任は、むしろ高野氏だ」

《ゴーンショックが終わらない》前代未聞の弁護士ガサ入れも、検察関係者は「逃亡責任は、むしろ高野氏だ」

ゴーン氏逃亡 高野氏に責任?

《ゴーンショックが終わらない》前代未聞の弁護士ガサ入れも、検察関係者は「逃亡責任は、むしろ高野氏だ」

東京地検による家宅捜索を受け報道陣の質問に答える弘中惇一郎弁護士(1月29日、東京都千代田区)©時事通信社

 日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の逃亡劇の余波が続いている。その中で最大のインパクトは、”無罪請負人”と呼ばれ、検察側が「因縁の相手」と敵視してきた弘中惇一郎弁護士の法律事務所に、東京地検が捜索に入ったことだ。「ゴーン元会長を逃がしたペナルティー」とも印象づけられる屈辱的なガサに、「本当に悪いのは弘中氏なのか」と同情する声も漏れ聞こえる。

 弘中氏は東京大卒。1967年に司法試験に合格し、70年に弁護士登録した。一躍名をとどろかせたのは、ロス疑惑銃撃事件で三浦和義被告(当時、故人)の弁護人として勝ち取った無罪判決だ。以後、薬害エイズ事件で安部英被告(当時、故人)の1審無罪を導くなどした。郵便不正事件で厚生労働省局長だった村木厚子被告(当時)の無罪を得た公判では、大阪地検特捜部の証拠改ざんが明るみになり、特捜検察を最大の窮地に追い込んだ。以後、東西の地検特捜部は何年にもわたって大型の事件を手がけられない「冬の時代」を迎えた。

 今回、ゴーン元会長の弁護人として弘中氏が登場した際も、検察は「宿敵が来た」と覚悟を決めた。ただ、検察内部には「エース中のエースと言われる森本(宏・東京地検特捜部長)なら、弘中氏にも負けることはない」との安心感もあった。とはいえ、ゴーン事件における「最強の特捜部長VS最強の刑事弁護人」の対決は、公判の長期化は避けられない状況にあったものの、大きな注目を浴び続けるだろうと推測された。

 そんな最中のゴーン元会長の逃亡だ。結果的に最大のダメージを受けたのが、弘中氏になってしまった。東京地検は1月29日、逃亡に伴って弁護人を辞任していた弘中氏の事務所に捜索に入った。弁護士自身が犯罪をして家宅捜索を受けるのならまだしも、弁護人として捜索を受けるのは前代未聞だ。

■「拒まれたのでパソコンの押収は控えた」

 しかし、結果的に地検は、事務所が所有し、ゴーン元会長が使っていたパソコンの押収を諦めた。東京地検の斎藤隆博・次席検事は翌30日の記者会見で「パソコンの中のデータのうち、秘密と認められるものとそうでないものとに切り分けて提出を求めたが、拒まれたのでパソコンの押収は控えた」と説明したという。

 一方の弘中氏は捜索後、報道陣の取材に「事務所で(ゴーン元会長が)逃亡を謀議したことを裏付ける証拠はない。不愉快だ」と怒りをあらわにした。日本弁護士連合会も同31日、「検察官らが、裏口から法律事務所に侵入し、要請を受けても退去せず、法律事務所内のドアの鍵を破壊し、執務室内をビデオ撮影するなどしたことは、正当化の余地のない違法行為である」と抗議する会長談話を公表した。

■検察関係者は「弘中氏よりもむしろ高野隆氏だ」

 結果的に押収物がなくとも、弁護人がガサ入れされるのは「恥辱」以外の何物でもない。法曹の中には今回の捜索は長年検察を苦しめてきた弘中氏への検察の意趣返しだと邪推する人もいるが、弘中氏に同情する声も聞こえてくる。

 ある検察関係者は「ゴーンの逃亡について責任があるのは、弁護団の中で弘中氏よりもむしろ高野隆氏だ」と語る。

 高野氏も特に保釈問題に強い「刑事弁護のレジェンド」として知られるが、今回は弘中・高野という大物同士が組んだため、不協和音が生じていたと言われている。ゴーン元会長の「変装保釈」は高野氏のアイデアだが、弘中氏は知らされていなかったといい、他にも意思疎通がうまくいっていない場面があったという。
 
「弘中氏と違い、英語が話せる高野氏なら、ゴーンと面会していた外国人の会話内容も把握できた可能性がある。高野氏は本当に逃亡計画に感づけなかったのか」と疑う関係者もいる。

■残留した「若手エース」は沢尻エリカ被告の弁護人も

 同じ弁護団の中でも、弘中氏のように囲み取材に応じることなく、ブログで一方的な発信しかしてこなかった高野氏だが、最近になって朝日新聞の単独取材に応じた。2月5日付朝刊紙面では、ゴーン元会長への監督責任について明言しないまま、「依頼人の自由を確保し、無実だという人が無罪を主張できるよう努力するのが弁護士の仕事だ」と述べている。

 一方、ゴーン元会長の主任弁護人として残留した「若手エース」の河津博史氏は今回の逃亡劇について多くを発信することなく、元女優の沢尻エリカ被告の弁護人を務めるなど他の仕事も忙しそうだ。

 2月6日、日弁連は弘中氏の事務所への捜索に抗議する会長談話の「英訳版」を作成したと公表した。検察による弁護人への捜索が正当化されれば、今後の全弁護士業務に大きな影響を及ぼしかねないとの危機感の表れだろう。そのためには、海外から批判の声を上げてもらい、日本の弁護人の地位を向上させたいとの意図も垣間見える。

 ゴーン元会長が日本に戻ってくる見込みは全くない中、日本の法曹界が内輪もめをしているようにも見える現在の構図は、どこかむなしさもある。元会長の共犯とされたグレッグ・ケリー元代表取締役と法人としての日産を被告とする公判に向けた準備だけが徐々に進んでいる事実は、一般的にはほとんど注目されていない。迷走を続けるゴーンショック。主なき事件は、どこへ向かうのだろうか。
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(平野 太鳳/週刊文春デジタル)

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