ついに反撃開始!? 山口組ナンバー2自宅襲撃が暗示する2020年版”ヤクザの地政学”

ついに反撃開始!? 山口組ナンバー2自宅襲撃が暗示する2020年版”ヤクザの地政学”

特定抗争指定暴力団山口組ナンバー2の高山清司若頭 ©共同通信社

 昨年10月に出所して以降、攻める一方だった六代目山口組若頭でナンバー2の高山清司(72)の自宅が2月2日に銃撃された事件の真相が徐々に明らかになってきた。76歳のヒットマンは何を背負って事に及んだのか。背景には2020年に一層、進むであろうヤクザ社会の格差化が透けて見えてくる。

■「桑名がやられたらしい」との情報がめぐった

「桑名がやられたらしい」との情報が暴力団関係者の間にめぐったのは銃撃後まもなくだった。「桑名」とは三重県桑名市のこと。暴力団関係者の間で、桑名市といえば、高山の自宅のことにほかならない。昨年10月に出所して以降、分裂した神戸山口組の幹部をマシンガン銃撃するなど、攻勢一方だった六代目山口組側だが、久しぶりの被害者としての事件だった。

 その後の愛知県警の捜査などによると、高山の自宅に銃弾を撃ち込んだのは分裂する前の山口組からすでに脱退していた元組員、谷口勇二容疑者(76)だった。先代の五代目山口組で最高幹部として権勢を振るった中野会の出身との情報もあり、「弘道会に恨みがあった」などと供述しているという。

■神戸山口組がついに反撃に出た、との見方も

 中野会といえば、1997年に五代目山口組若頭、宅見勝を襲撃して射殺した当の組織。そんな武闘派組織の出身ということだ。すでに組を抜けたとは言え、ヒットマンが組織への影響を最小限にとどめるために脱退を偽装するのはよくあること。谷口が神戸山口組のトップ、井上邦雄組長と親しい、という情報も一緒に駆け巡り、神戸山口組がついに反撃に出た、との見方も出た。

 ただ、暴力団関係者は「普段なら回ってくるはずの神戸側の威勢のいい声明などが聞こえてこない」と話す。事件の状況を子細に見ると、本気度に疑問符も付いてくるのだ。

 高山の自宅とはいえ、特定抗争指定暴力団に指定されたいま、組員が多数たむろすることもなく、目の前には警察官が常駐して警戒している。谷口は隠すこともなく拳銃を取り出し、誰も外にいない自宅に向かって正面から発砲。さして抵抗することもなく銃刀法違反容疑で捕まったというから、はなから門に穴を開けるだけの行動だったようにもみえる。何度も命を奪われた神戸山口組からの反撃にしては、少し「優しすぎる」のだ。

 ある暴力団関係者が見立てるのは、「老いた元組員の暴発」説だ。「収入もなく、老後の生活に希望が持てず、刑務所に面倒をみてもらいたくなったのではないか」(同前)という。

 井上の個人的了解を取ったという可能性は残るが、本格的な反転攻勢の狼煙と解釈するには、たしかに迫力不足ともいえ、後に続く動きも見えない。

 暴力団は既存の社会システムに反旗を翻す代わりに、その恩恵にもあずかれない。当然、年金もない。脱退すれば生活保護ぐらいは受けられるが、基本的に社会保障の枠外にいることに変わりはない。老いた元組員の面倒を一律にみるほど、現代ヤクザの懐は甘くはない。元組員が刑務所生活というほぼ唯一の「社会保障」を求めたという説には、妙に説得力がある。

■任侠山口組「絆會」への名称変更のウラ事情

 ただ、神戸山口組以上の劣勢に立たされているのが、神戸山口組からさらに分裂した任侠山口組ということに異論はないだろう。劣勢というよりも、抗争から「一抜けした」という表現の方が正しいかもしれない。

〈昨今、世間様をお騒がせしております抗争事件の情勢を鑑みまして、これ以上、一般市民皆様への巻き添え等、日常生活への不安を煽る訳にはいかず、少しでも解消すべく、新たなる道を歩む決断を致しました〉

 そんな文言から始まる通達が暴力団関係者の界隈に回ったのは1月12日。通達はさらに続いた。

〈先ずは山口組の再統合と大改革を目指して参りました。しかしながら、この数ヵ月間の情勢を鑑み、現状では極めて困難で有ると判断致し、親分はじめ組員一同協議の結果、代紋及び組織名を【絆會】と改め、新たなる出発をする事と致しました〉

 組織名から「山口組」を外し、組長の織田絆誠から一字を取った「絆會(きずなかい)」に名称を変更したのだ。組織の象徴である代紋も菱形と「山」の漢字を合わせた「山菱」の代紋を取り下げ、鎖を丸くかたどったなかに「絆」の一文字を入れたものに変えた。

 しかも、暴力団関係者は「絆会の代紋は当初、丸ではなく菱形で囲む案もあったが、『山菱』に似ることから、六代目山口組の反発を恐れて丸に落ち着いたようだ」と話す。

 別の捜査関係者は「ヤクザの世界で代紋は絶対。同じ代紋と山口組という同じ名前を掲げる限り抗争は終わらない。代紋を下ろして初めて抗争の終結といえる」と指摘するが、その意味で、絆會は抗争から脱落したといえるわけだ。

■「六代目山口組は他団体の取り込みを拡大」と捜査関係者

 そんな外野の情勢にもひるまず邁進を続けるのが六代目山口組だ。

 まだ情勢は不透明だが、かつて山口組と敵対し、ヤクザ映画「仁義なき戦い」のモデルの一つにもなった暴力団、共政会のトップが「2月中頃には六代目山口組の最高幹部の一人と盃を交わすとの情報もある」と捜査関係者は明かす。この捜査関係者は「『親睦』という名の元で、六代目山口組は他団体の取り込みを拡大している」とみる。

 それだけではない。警察当局は一様に、高山やその出身母体の二次団体、弘道会などが日本最大の利権を獲得することを懸念している。夏に開催を控える東京五輪だ。

「弘道会は中部国際空港の建設に絡んで巨額の利益を上げた。東京五輪でもその再来を狙っているに違いない」。捜査関係者はそう明言する。

 中部国際空港の建設では資材である砂利など、多様な手法で巨額の利益を上げたとされる弘道会。捜査関係者は「例えば五輪関係者への弁当を請け負うだけで巨額のカネが舞い込む。カタギを通じて様々な利権に食い込もうとしているに違いない」という。

 浮かび上がるのは、権力者にはカネが集まり、末端には生活の保障すらない究極の格差社会だ。ヤクザ社会は、表社会に寄生する裏社会。表の変遷にも無縁でいられない。2020年、裏社会で進むであろう格差は、表社会の裏返しに過ぎないのか、それとも……。

(末家 覚三/週刊文春デジタル)

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