「本日、子どもを休ませます」いわき母子4人死亡 子どもたちはなぜ無抵抗だったのか

「本日、子どもを休ませます」いわき母子4人死亡 子どもたちはなぜ無抵抗だったのか

母子4人の遺体が発見された車

 警察官が臨場した時、黒いミニバンの運転席に座るA(51)は、首と腹から血を流して、意識朦朧としていた。車内のシートにもたれかかる母子4人はすでに事切れた状態だった。車の外には使用済の練炭が入った2つの七輪。微かに燻る煙の向こうには、福島県いわき市の夜景が無情に広がっていた。

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「本日、家の事情で子供3人を休ませます」

 吉川美奈子さん(43)がいわき市立小名浜第一中学校に電話したのは、1月21日午前7時40分のこと。同日朝、3年の歩夢くん(15)、2年の双子姉妹・茅乃さんと海音さん(共に13)は母・美奈子さんとその交際相手だったAに連れられ、死の旅に出たのだった。

「仕事に失敗して借金があり、生活が苦しかった。4人を刺して自分も死のうと思った」(Aの供述より)

 Aは当日、練炭と七輪を購入。日没前には、5人が家族同然に暮らしたアパートから約30キロ離れた水石山公園に到着している。

「当初は車中で練炭心中を図ったが、苦しくなって断念し、Aが刃物で4人の首を刺して殺害したとみられる。最後に自傷するも死に切れなかったAは、22日午前1時半頃、自ら携帯で『人を刺した』と通報してきた」(捜査関係者)

 司法解剖の結果、4人の死因は、失血死または失血性ショック死だった。

「4人とも一酸化炭素を吸っていたが、意識を失うほどの血中濃度ではなく、薬物やアルコール反応も出なかった」(同前)

 車内には争った形跡がなく、遺体に防御創もなかった。無抵抗でAの手にかかった母と子たち。彼らはどんな“家族”だったのか。

■それぞれに結婚歴があり子どももいた

「長い髪を後ろに束ねたその男性(A)は、子供が小学生の時、登下校の横断歩道の旗振りをやっていましたし、授業参観にも出ていました」(近隣の保護者)

 傍目には実の5人家族に映っていたが、美奈子さんには別居している夫の他に、成人している3人の子がいた。Aはすでに離婚しているものの、前妻との間に3人の子がいるという。

 いわき市内出身の美奈子さんは早くに父親と死別し、母子家庭で育った。

 高校時代の親友が語る。

「美奈ちゃんは父親のいる家族に強い憧れを持っていました。『早く子供を産んで家庭を作りたい』と。実家は裕福じゃなかったので高1からガソリンスタンドでアルバイトをしていたのですが、そこで知り合った2つ上の男性が後の夫です。高2の途中で中退すると、18歳くらいで女の子、後に男の子2人を産みました」

 やがて夫は市内にマイホームを建て、歩夢くんら3人も誕生した。だが、夫婦仲が悪化し、美奈子さんは約10年前、幼い下の3人の子を連れ、家を出ていくことになる。その際、支えになったのがAの存在だった。

■Aの借金は数百万円に膨らみ、困窮の果て……

 同じく市内出身のAは30代の頃、勤めていた大手化学メーカーの子会社が人員整理をした際、独立してリフォーム業を始めた。

「でも失敗してサラ金に借金を300万円ほど作って。見かねて清掃業を教えたんです。その時、Aの仕事を手伝いに来たのが美奈子さんでした。歩夢くんがお腹にいた頃です。その後、Aは不動産業者から仕事をもらい、賃貸物件のハウスクリーニングをしていました」(市内の清掃業者)

 東日本大震災後は仕事も増えたが、やがて業績は停滞し始め、美奈子さんが配送会社などでパートをしながら家計を支えた。

「借金癖のあるAは、大きなお金が入るはずの仕事が不調に終わったと弁明していたようだ」(別の業者)

 気づけばAの借金は数百万円に膨らみ、事件直前にあった返済日も反故にした。自分の顧客に土下座してお金を無心する図々しさもあったAだが、困窮の果て、心中へ突き進んだ。

「『死にたい』と話すAに美奈子さんが『私も』と同調し、子供たちも覚悟の上で追随したと思われる」(前出・捜査関係者)

 自衛隊員という将来の夢を持っていた歩夢くん。兄を慕い、いつも2人一緒だった茅乃さんと海音さん。

「3人とも中学では情報処理部でしたが、歩夢くんは試合などで送り迎えのある運動部に入ると親に負担がかかるからと、入部の経緯を話してくれたことがありました」(近所の商店主)

 そんな親想いの子たちを道連れにしつつ、唯一生き延びたA。回復次第、殺人容疑で逮捕される見通しだ。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年2月6日号)

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