平昌五輪SOS――チケット売れず、ホテル埋まらずの実態

平昌五輪SOS――チケット売れず、ホテル埋まらずの実態

©文藝春秋

「焦りを通り越してもはやパニックです」。来年2月に迫った平昌五輪をめぐる文在寅政権のドタバタ劇を、ある韓国人ジャーナリストはそう評した。北朝鮮情勢が不透明な中、世界からは参加を躊躇する声があがり始めた。大統領が笛吹けど踊る者なき開催国の惨状。

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 状況を考えれば、それは異様な一言だった。

「平昌五輪に来てくださいね」

 韓国の文在寅大統領が安倍晋三首相に、電話でそう“懇願”したのは、11月29日。この日、北朝鮮が日本の排他的経済水域内に弾道ミサイルを発射したことを受けての緊急電話会談でのことである。

 国際社会が北朝鮮への制裁圧力を強める中、韓国は北朝鮮への人道支援を続けているが、この会談中、文大統領が、そのことに触れることはなかった。

 安倍首相は、思わず周囲にこう漏らしたという。

「慰安婦合意とか、国家間の約束も守らないのに。厚かましいよね」

 12月19日には、韓国の康京和外相が来日。河野太郎外相と会談した際にも「安倍首相を平昌で歓迎したい」という文大統領のメッセージが伝えられ、河野外相が「(慰安婦合意を履行しない)今のままでは、それは難しい」と突っぱねる一幕もあった。

 韓国人記者が嘆息する。

「今、文在寅大統領の頭の中は、とにかく平昌五輪一色。ただでさえ、平昌は韓国人も知らないマイナーな都市なうえに、ドーピング問題でロシア選手団の参加が認められていない。北朝鮮情勢は依然不透明で、ヨーロッパ各国に参加を躊躇する国も出始めた。このままでは大失敗に終わって、国際社会に恥をさらすことになりかねないからです」

 北朝鮮が平昌五輪に参加すれば、大会期間中のミサイル発射やテロなどの危険性は減ると見られるが、現時点では参加の可能性は限りなく低いという。

「フィギュアの選手が2人予選を通過しただけで、メダル獲得の可能性もほとんどない。韓国は主催国としてメダルを多数獲得するでしょうから、出場をすると南北格差が浮き彫りになり、却って国際社会に格好がつかなくなります。

 ただ、北朝鮮は直前まで不参加を明確にはしないでしょう。五輪参加を“人質”にして、文大統領に圧力をかけたいのです」(『コリア・レポート』編集長・辺真一氏)

 その文大統領は12月19日、米テレビのインタビューで、大会期間中の韓米軍事演習延期を提案した。

「それも米国側への根回しもないまま、発表した。北朝鮮の作戦にまんまとハマった格好で、これには国内からも、批判の声があがった」(前出・韓国人記者)

 22日付の中央日報は文大統領の演習延期の発表に対して、こう批判した。

〈私たちが掲げる「平和オリンピック」が朝鮮半島の安保体制をゆさぶり、北朝鮮の核開発完了に必要な時間を与えるようなイベントになるのではないかという懸念が出てくる。文政権は、北朝鮮の時間を稼いであげる政府になるのか〉

 さらに冬季五輪随一の人気競技・アイスホッケーでも問題が生じている。

「北米のNHLはリーグ戦の日程と重なるとして、すでに不参加を表明。ロシアを中心としたKHLは、IOCによるロシア選手団出場禁止処分に反発し、不参加を検討しています。二大リーグ不参加となれば、チケットがさばけなくなる可能性もある」(オリンピック情報専門サイト『ATR』編集長・エド・フーラ氏)

 米NBCスポーツには〈平昌五輪のアイスホッケーは、ジュニア世界選手権のように感じられるだろう〉と報じられる始末だが、実は韓国には“奇策”がある。

「何と海外の優秀な選手を“新韓国人”として特別に帰化させたのです。男子アイスホッケーチーム25人中、7人が米国やロシア、カナダの出身。バイアスロンなど他の競技にも、“新韓国人”がいます。マスコミは『国際化』と美化していますが、『そこまでしてメダルを取りたいか』と反発する国民も多い」(前出・韓国人記者)

 だが、チケット転売サイトを見てみると、アイスホッケーのチケットは、原価のままでも買い手がついていない状態だ。

「アイスホッケーでこの状態ですから、他は言わずもがな。とにかくチケットが売れていない。直近の韓国国内のアンケートでは五輪に関心があると答えた人は45%で、競技場で観戦すると答えた人は5%にとどまっています」(同前)

 前出のフーラ氏が解説する。

「平昌五輪の場合、ウィンタースポーツのファンが多い米国やヨーロッパから開催地が地理的に遠いので、国内での動員が重要になってくる。しかし、韓国人はウィンタースポーツへの関心が低く、国内客の動員が見込めないのです。人気があるのはショートトラックとフィギュアスケートくらい。後者も、金妍兒(キムヨナ)の後を継ぐスターが不在の今、関心が低迷しています」

 通常、韓国では国際的なイベントに際しては、民間企業によるチケットの“買い上げ”があるが、あの事件のせいで、今回はそれも鈍いという。

「いわゆる“崔順実(チェスンシル)ゲート”では、サムスンがスポーツ関連の補助金として出した金が、馬術をやっていた崔順実の娘に流れた疑いで捜査のメスが入った。民間企業が二の足を踏むのは当然です。かわりにチケットを“押し売り”されたのが地方自治体や公的企業です」(韓国政府関係者)

 ソウル市の10億ウォンを筆頭に、自治体などが合計で35億ウォン分のチケットを購入。販売率はようやく53%に達したが、今度は「チケットは売れても、観客がいない“ノーショウ”の懸念が生じました」(同前)。

 そこで、購入したチケットを低所得層に無料で配ることにしたという。

「スケートのチケットで15万〜20万ウォン(約1万5000〜2万円)くらいですが、そもそもチケットだけもらっても、彼らには会場まで行く時間もお金もない。地方から複数回、交通機関を乗り継いでたどり着いたとしても、今度は宿泊施設の問題が立ちふさがります」(同前)

 当初は、五輪特需を見込んだ周辺宿泊施設の宿泊費が高騰。通常、1泊5万〜10万ウォン(5000〜1万円)のモーテルが、10倍に値上がりする“ぼったくり”が問題になった。

「平昌近郊では、大学生にワンルームを貸している家主が、五輪期間中に観光客に高く貸すために部屋を空けさせたり、再契約を拒否するケースまで報じられました。そこで政府による行政指導が行われ、宿泊費は通常の1.5倍くらいに落ち着きました」(在韓国ジャーナリスト)

 ところが、フタを開けてみれば、予想を上回る不人気ぶりに部屋が埋まらない可能性が出てきたという。

「大会2カ月前の時点で、周辺地域の宿泊施設の予約率はたったの12%。さらに組織委員会が関係者向けに配分する予定だった客室5500室をキャンセルしていたことがわかりました」(前出・韓国政府関係者)

 国際スキー連盟会長のジャン・フランコ・カスパー氏は、仏紙に対して「平昌オリンピックは成功しないだろう」と答えている。

「正直に言おう。平昌五輪の観客数には期待しない」

「2009年に韓国で開催されたスノーボードの世界選手権では、フィニッシュエリアにいたのは私を含めたったの三人だったことを覚えている」

 ついには、こう開き直ってしまった。

「現地に観客は多くは来ないかもしれないが、スポーツが広まるのは主にテレビ放送を通じてである」

■「北朝鮮はわれわれと同胞だから」

 こうした声を組織委員会は、どう受け止めているのか。ソン・ベクユ組織委員会報道官に話を聞いた。

――チケットの売上が良くない。

「88年の五輪でも、02年のサッカー・ワールドカップでも、直前の購入が多かった。販売率もずっと急上昇しているんです。途中で崔順実ゲートがあり、国民が食傷気味だったこともあったかもしれませんが、開催時には過去の国際大会のように盛り上がると思います。大会の成功には支障はないでしょう」

――北朝鮮リスクにどう対応していくか。

「北朝鮮リスクは統一部や外交部が対応すべきこと。国連が五輪停戦決議を出すなど、国際社会が動いている中で組織委でやれることには限界がある。日本でそういったことがあったら、組織委にできることなんてないでしょう?」

――北朝鮮の選手団は参加するか。

「北朝鮮は、近年オリンピックに注力できていません。22年の北京冬季オリンピックでも、自力で出場権を得るのは難しいと言われています。IOCも支援すると言っているし、出場して経験を積んだほうが4年後のためになります。馬鹿でない限り、出場したほうがいいと思いますけどね。それに(我々と)同胞なんだから、わざわざ五輪を台無しにするのはおかしいんじゃないですか」

 ソウルから車で約2時間半。平昌の街を訪れると、大雪の中、人影はほとんどない。

「お客さんはあまり増えていませんね。外国人の方も、仕事で平昌組織委員会の関係者と一緒に来るくらい」

 メインスタジアム近くの食堂のオバさんはそう溜息をつく。お昼時にも関わらず広い店内に客はたったの2組。別の店では五輪を見越して、座敷席をすべてテーブル席に変えて準備は万端という。

「カナダや日本人のお客さんが少し増えました。大会が始まれば熱気がでてくると期待します」(従業員)

「嵐の前の静けさ」という言葉もあるが、雪が吹雪く中、バタバタと万国旗だけが騒がしくはためく様から、約1カ月後の熱狂を想像するのは難しい。

(「週刊文春」編集部)

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