《警視庁、神奈川県警…コロナ事件簿》変死体現場に向かう鑑識はマスクも防護服も不足して…

《警視庁、神奈川県警…コロナ事件簿》変死体現場に向かう鑑識はマスクも防護服も不足して…

外出自粛となった新宿・歌舞伎町を巡回する警視庁の警察官(4月10日) ©時事通信社

 新型コロナウイルスの感染拡大が、警察に大きな影響を及ぼしている。

 4月18日、警視庁渋谷署の留置場に勾留されていた計7人の集団感染が判明するなど、取り調べや留置で“濃厚接触”が避けられない捜査現場の混乱が続いている。一部の事件では“不要不急の逮捕”を避ける事態も発生しているという。

 さらに、警察官本人の感染も相次いでいる。埼玉県警に始まり、警視庁、大阪府警、神奈川県警などで次々に判明し、4月14日時点で50人以上となった。感染者が出た警察署では、各部門から人をかき集めて人数減の“穴埋め”をして乗り切っている状況だ。

■110番通報が急増した理由とは?

「とにかく110番通報が急増している。それも外出自粛のストレスもあり夫婦間、親子間のいわゆるDV(ドメスティックバイオレンス)が多い。テレワークでお父さんが一日中家にいて、奥さんと言い争いになり暴力沙汰となったり、家の中で騒ぐ子供に手を出してしまう児童虐待のケースもある」

 そう打ち明けるのは、神奈川県警のある警察署の副署長だ。拡大するコロナ感染の影響でトラブルが各地で多発しているという。

「暴力沙汰でなくても、『家庭内で揉めているから警察官に仲裁に来てほしい』という通報もあって頭を抱えた。さらに、自粛要請の対象ではないスーパーに多くの人が車で押しかけて、駐車場でトラブルになることも。いずれの場合も要請があれば警察官が駆け付けるしかない。

 つい最近、(警察署)管内で『オレはコロナに感染しているかもしれないぞ!』と騒いでいる男がいるとの通報があり、警察官が駆け付けたこともあった。虚偽とすぐ分かったので、何とか騒ぎが拡大しないようにその場で納めたが……」(同前)

 自粛ムードが浸透してきたとはいえ、夜の繁華街を歩く若者グループも目に留まる。現場の警察では、どのような対応を取っているのか。

「外出はあくまで禁止ではなく自粛。緊急事態宣言にも強制力はないため、パトロールする警察官には『緊急事態宣言はご存知ですね。帰宅しましょう』と丁寧に呼びかけて、不要なトラブルを避けるように、と指導している。街にでるにしても、『警察官からコロナに感染させられた』などという苦情が寄せられたら最悪。地域住民と接する時はマスクを着用して距離を置くように徹底している」(同前)

■「不要不急の逮捕」は先送り?

 警察官本人への感染拡大も懸念されている。

 首都圏のある警察署では、ある日の夕方、「勤務終了後も署員は全員待機」との指示が下った。署員の間では「何事か」と憶測が流れたが、一人の刑事が新型コロナウイルスに感染したことが全署員に告げられたという。刑事課所属や同じ当直班に勤務していた数十人が自宅待機となり、本部から応援部隊が派遣されることになった。

 警察の中で刑事部門と言えば、殺人や強盗、窃盗、詐欺などのほか暴力団の犯罪捜査など守備範囲は広い。いま自宅待機中の同署刑事課の若手捜査員は、次のように打ち明ける。

「急に自宅待機になったため、捜査員は応援部隊に大急ぎで捜査書類を引継ぎ、その後も電話で捜査の現状を説明して後任に事件を託しました。いまは自宅で事件の資料を作成するほか、普段はなかなか出来ない刑法や刑事訴訟法の勉強をしています」

 今後、危惧されるのは逮捕すべき容疑者が感染していた場合などの不測の事態だ。

 この若手捜査員は、「殺人、強盗などの凶悪犯であれば、たとえ犯人がコロナに感染していようとも関係なく逮捕する」と強調する。一方で、首都圏の警察本部の刑事部門の幹部は、次のように語る。

「容疑者の現行犯や緊急逮捕は別として、コロナ感染が拡大しているこの状況下で、すでに事件の全体像が明らかになっていて内偵捜査を進めている案件など不要不急な逮捕はしない。証拠隠滅や逃走を図ろうとしていれば別な話だが」

■変死体の鑑識活動に着ていく防護服がない

 首都圏のある警察署の警備公安部門に勤務する幹部は、特有の“警察文化”が感染拡大を助長してしまっていると語る。

「警察官は、事件事故はもちろん、地震などの非常事態に即応できるよう訓練し、日頃からその心構えも持っている。多少熱があっても自ら言い出さず、無理をしてでも勤務する文化だ。体調不良を訴えたら『お前、不覚を取ったな』と言われてしまう。コロナ騒動がこれだけ拡大してやっと『なるべく早く言い出した方が迷惑を掛けずに済む』と認識されてきた」

 警察署でのコロナ感染で、最も気を使うのは、渋谷署で集団感染が明らかとなった留置場の管理だという。

「取調室なら、容疑者と距離を置いたり換気したり工夫のしようがある。ただ、留置場はまさに“密室、密接、密集”の『3密』状態です。微熱があるという留置人が入ってくるケースでも、病院に連れては行くがすぐに検査してもらえないので、結局は留置場に入れるしかない。感染が後から分かって、すでに他の留置人に感染していたら責任問題。渋谷署のケースも他人事ではない」(同前)

 さらに、いま警察官の中で最も感染リスクの高い仕事についているのは、刑事課の鑑識担当だという。孤独死を含めた変死事案があった場合、死亡した人が感染者かどうか分からないまま現場で対応しなければならないからだ。実際、コロナ感染者の変死事案は急増している。

「感染防止のための防護服は署内にわずかしかない。それも一度、使ってしまえば再利用できないため、感染者と特定されていない変死事案では使えないのが実態だ。さらにマスクは個人で買ったものを使っている。これだけコロナ騒動が広がってくる中、鑑識は命がけです」(同前)

 マスクについては、用意周到にマスクを備蓄していた署では署員に配布されているというが、署員が私物を使っている署も少なくない。署によって対応が分かれている状況だという。

■警視庁公安部は「エスと接触するな」

 公安部門の捜査員には、刑事部門とは違う指示が出ている。東京で感染者が急増していくさなか、警視庁公安部では次のような指令が捜査員に出された。

〈情報を提供してくれる協力者とは当面の間、接触するな〉

 公安部の監視対象は、極左暴力集団で言えば革マル派や中核派のほか、独立系や暴力団系統など様々な形を取る右翼団体、北朝鮮などの外国スパイ、かつて地下鉄サリン事件など多くの凶悪事件を引き起こしたオウム真理教から分派して行った新興の宗教団体など幅は広い。

 公安部の指示にある「協力者」とは、警察に様々な情報を提供する捜査協力者を指す。警察内部では、スパイの頭文字を取って「エス」と称されることもある。公安部の捜査員は、監視対象となる団体のメンバーの行動確認などから活動実態の解明を進めるだけでなく、監視団体の内部に捜査情報を提供してくれる協力者の育成にも余念がない。

■治安に直結する“警察崩壊”を防げるか

「感染をきっかけとして協力者が発覚することを公安部幹部が恐れている。協力者と接触した後に、その協力者の感染が判明したらどうなるか。医師の問診、保健所などの感染ルートの調査などで、思わぬことから捜査員と接触していたことが発覚しかねない」(公安部捜査員)

 警察の協力者が情報を流していた「裏切り者」とされれば、団体内部で制裁を加えられることが考えられる。さらに、団体内から情報を取ろうとしていた捜査員の身元が感染ルートから明らかになって、捜査員の身に危険が及ぶ可能性もあるのだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大で“医療崩壊”の危機が取り沙汰されている。治安に直結する“警察崩壊”が起こらないことを祈りたい。

(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))

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