更年期治療の鉄板 1カ月1500円のホルモン補充療法が普及しないのはなぜ?

更年期治療の鉄板 1カ月1500円のホルモン補充療法が普及しないのはなぜ?

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 日本人女性の閉経の平均年齢は約50歳(日本女性医学会調べ)。その前後5年間(計10年間)を「更年期」ととらえ、その時期に起きる不調を「更年期症状」と呼ぶことは今や一般的だ。

 しかし日本では、不調に悩みつつも更年期による影響だと気づかない女性も多い。また、「いい年齢をして産婦人科にかかるのは恥ずかしい」と医者にかからなかったり、あるいは積極的な治療を受けることへの抵抗感が強かったりして、治療を受ける女性はまだまだ少ない。

 だが今、女性の更年期治療が変わってきている。更年期の症状は確実に「治せる」ものになってきているのだ。〈最新医療〉から〈健康食品〉、〈今すぐ試せる生活習慣〉まで、専門の医師たちが「更年期症状に効果があった」と、エビデンスをもって推奨する方法を紹介する。(全4回の1回目/ #2 、 #3 、 #4 を読む)

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■エストロゲンは強い抗酸化物質

「以前は、夫の定年退職が重荷だったり、子どもが家を離れて寂しいという“からの巣”の悩みと体の不調を関連づけた相談が多かったのですが、働く女性が増えるに伴って、最近は職場における更年期症状の辛さを訴える声が多くなっています」

 こう話すのは、1998年から更年期世代の女性の健康に関する電話相談を行っているNPO法人・女性の健康とメノポーズ協会の三羽良枝理事長だ。

「発会の当初は、更年期という言葉さえ一般的ではなく、自分の身に何が起きているのか皆目わからずに不調を訴える女性が多数でした。現在は、知識は普及したものの、いい治療法を見つけられている女性はやはり少ない。こちらでは治療法や医師の案内もしているのですが、働く女性では『更年期症状で体力や集中力が低下してしまい、以前のように能力を発揮できない自分がつらい』と昇進の話を断ってしまったり、退職される方などもいて、じつに残念です」

 いま、女性の人生、特に後半戦の様子が大きく変化しつつある。働く女性が増え、更年期と、仕事で重要なポジションを担う時期が重なってきただけでなく、そこに親の介護負担まで加わってくることもある。

 また、そもそも妊娠出産年齢が遅くなっているために、更年期になってもまだ、最も手のかかる時期の子育てに追われている人も多いのだ。

 日本女性医学学会認定の女性ヘルスケア専門医でもある、東京歯科大学市川総合病院産婦人科の小川真里子医師が解説する。

「妊娠、出産の時期が遅くなったからと言って、閉経のメカニズムまで遅くなるということはありません。50歳という閉経の平均年齢は昔から変わらない。むしろ40代での不妊治療後の出産だと、授乳を終えても月経が戻らず、そのまま閉経を迎えるというケースも起こります」

 そもそも閉経とは、卵巣が機能を停止し、エストロゲンなど女性ホルモンの分泌が低下し、やがてゼロになることを指す。具体的には12カ月以上、無月経が続くと、閉経とみなされる。

 閉経前後に起きるといわれる更年期症状としては、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)、冷え、不眠、イライラなどの自律神経失調症状がよく知られている。だが実は、エストロゲンとは非常に強い抗酸化物質だ。女性の全身を病気から守ってくれているものといっていい。これがなくなることで骨や血管にも多大な影響が起こり、骨粗鬆症、脂質異常、血糖値上昇、動脈硬化などの生活習慣病や、腟炎、歯周病なども起こりやすくなるのだという。

 小川医師が強調する。

「老年期の病気を防ぐためにも、40、50代で不調があったら、婦人科医に相談し、自分の女性ホルモンの状態などを知っておくことが重要なのです」

■【case 1】ホルモン補充療法 がんリスクは学会でも否定

 更年期症状の治療法として、最もよく知られているのが、ホルモン補充療法(HRT)だ。しかし、この治療法は普及しないことで知られていると言ってもいい。

 大きな原因は、2002年に新聞各紙が大きく取り上げた「HRTで乳がんが増える」という米国立衛生研究所(NIH)の臨床試験にまつわる報道である。当初は「HRTを5年以上投与した場合、乳がんリスクが1・26倍になる(日本女性にあてはめると1年間で1万人につき3人増加)」という数字が、行き過ぎた解釈となって広まった。

 しかし、そもそもこの臨床試験は、高齢・肥満・長い喫煙歴などの心疾患リスクを強く持つ女性に対して、HRTの有効性を調べるものだったのだ。このため、日本の更年期世代女性に即座にこの結果をあてはめることはできないという見解を、日本女性医学学会(当時は日本更年期医学会)でも出している。

 前出の小川医師が語る。「更年期だからといって誰でもがHRTを受ける必要はありませんが、症状のために日常生活がままならなかったり、仕事のパフォーマンス低下に悩んでいる方は、試してみる価値はあるといえます」

 ではどのように使うのか。

「エストロゲンは閉経の約2年前からじわじわと減少し始め、やがて閉経の半年ほど前からは、ジェットコースターのように急降下します。一方で、エストロゲンと反比例するのが卵胞刺激ホルモン(FSH)です。閉経の7〜8年ほど前からじわじわと上昇していく。これは、分泌しにくくなったエストロゲン(卵胞)を刺激し、分泌を維持させる役割をするものです。ホルモン量を測ってFSHが上がってきていたら、月経不順やイライラ感など、何らかの症状が起きていてもおかしくはありません。

 この時期のホルモンは日内変動もあり、何度か測定しないと実態はつかみにくいのですが、閉経に伴う症状と診断できれば、HRTでコントロールすることができます」

 HRTは、体内で起きている女性ホルモンのゆらぎ、または枯渇した状態に対し、少量のエストロゲン製剤をプラスする治療法だ。エストロゲン値が上がることでFSHの上昇を抑えられるので、さまざまな症状を落ち着かせることができる。このとき、子宮がある人では子宮内膜の増殖を防ぐために黄体ホルモン製剤も使用する。

「これは、閉経後の症状だけでなく、閉経前の月経周期の乱れにも使用できます」

 HRTは健康保険適用の治療法で、婦人科で診察や検査を受けたのちに処方される。飲み薬、貼り薬、ジェル剤などがあり、薬代だけなら1カ月分500円〜2000円程度で済む。

 特に、「早発閉経」といって、手術で卵巣を摘出するなどして40代前半で閉経した人には、HRTは積極的に勧められている。若い時期からエストロゲンのない状態が続くと、年齢とともに骨粗鬆症や心血管系の病気になる恐れがあるからだ。

「すべての症状がHRTだけで改善するわけではなく、漢方薬や抗うつ剤などを併用する場合もあります。また、1カ月行ってみてあまり改善しなければ、エストロゲン減少による症状ではないと考えて、ほかの疾患を疑うこともあります」

 40〜60代は、甲状腺機能障害やリウマチ、うつ病などさまざまな病気の好発期にあたる。これらを見逃さないことも重要だ。

■動脈硬化と骨粗鬆症にも効果

 2002年以降、HRTのメリットと安全な使い方に関しては、国際閉経学会などで長期間議論されてきた。それらをまとめ、国内でも2009年から『ホルモン補充療法ガイドライン』(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会)が作成され、すでに3度の改訂が行われている。

 最新の2017年版ガイドラインによれば、50代または閉経後10年以内の女性に対しては、HRTは更年期症状を改善し、動脈硬化の予防効果などが高く、メリットはリスクを上回る。また、何年間までなら使用してよいというような制限を一律につける理由はなく、特に骨粗鬆症については何歳からでも改善効果があるという。

 気になる乳がんについては、5年以内の使用ではリスクは見られず、5年以上では、黄体ホルモン併用のHRTで飲酒、高脂肪食などの生活習慣と同じ程度のリスクが見られるとしている。このため、乳がん治療後の人はHRTを受けることはできない。血縁の女性に乳がん経験者がいる場合も、医師との十分な相談が必要だ。HRTをするかどうかに関係なく、女性は30代から乳がんの発症リスクが増加し始め、50歳前後がピークとなる(国立がん研究センター)。検診を受けるだけでなく、月に一度は自己触診を心がけよう。

 安全かつ、効果の高いHRT治療を受けるには、ガイドラインなどの内容に詳しい婦人科医にかかるのも一つの方法だ。「一般社団法人日本女性医学学会」ウェブサイトにある専門医リストや、「NPO法人女性の健康とメノポーズ協会」ウェブサイトの医療機関・医療会員リストをチェックするといい。または同協会の電話相談でもクリニックを案内している(毎週火木10:30〜16:30/03−3351−8001 祝日・8月・年末年始はお休み)。

(続き「 指のこわばり、ゆがみはエクオールで予防できるーーへバーデン結節 」を読む)

授乳中に痛みがあった人は要注意! 更年期の「手指のこわばり」「ゆがみ」は予防できる へ続く

(南雲 つぐみ/週刊文春WOMAN 2019年正月号)

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