韓国の元慰安婦リーダーから届いた手紙「被害者たちは食い物にされている」

韓国の元慰安婦リーダーから届いた手紙「被害者たちは食い物にされている」

2020年5月11日、元慰安婦の告発を受け記者会見を開いた「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」のイ・ナヨン理事長(右から2番目)

有名慰安婦団体・挺対協(現・正義記憶連帯)の前代表・尹美香(ユン・ミヒャン)氏の国政転身をきっかけに、挺対協をめぐる疑惑が噴出している。


「週刊文春」では2019年に 『韓国人、韓国を叱る』 著者・赤石晋一郎氏による挺対協への慰安婦たちの告発を報じる記事を掲載した。その記事を再公開する(初出:2019年1月3日・10日号。肩書き、日付、年齢などは当時のまま)。

「最終的かつ不可逆的な解決」で一致したはずの日韓合意から3年。またも韓国は“ゴールポスト”を動かした。だがその陰で、嘆きの声を上げている人がいる。90代になる当の慰安婦たちだ。現地徹底取材と日本初公開の裁判資料から見えた慰安婦問題の深層――。

■被害者たちを食い物にしている市民団体

 私の手元に元慰安婦の女性、沈美子(シンミジヤ)が日本人の支援者に宛てた手紙がある。

〈挺対協は慰安婦のために募金をしています。しかしそのお金の全てを挺対協は横取りしている。強盗と同じです。被害者のハルモニ(お婆さん)たちを食い物にしているのです(略)挺対協はお金がどれだけ入っているのか、ハルモニの前で明らかにすべきです〉

「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協=現・日本軍性奴隷制問題解決の為の正義記憶連帯)」は、慰安婦への支援を目的に掲げる市民団体。毎週水曜に在韓日本大使館前で行われる“水曜デモ”を主催し、時の政権にも絶大な発言力を持ってきた。なぜその挺対協を、元慰安婦が「食い物にしている」と痛烈に批判しているのか。

 沈美子は元慰安婦のリーダー的な役割を果たしてきた存在だ。2008年に84歳で亡くなったが、かねてから慰安婦問題を取材してきた私は今回、彼女の関係者を訪ね歩き、様々な資料を入手した。そこに記されていたのは、韓国人も知らない慰安婦問題の“不都合な真実”だった――。

■2015年・首脳会談の最大のテーマは「慰安婦問題の解決」

「俺と萩生田でリャンハン上がりだから大丈夫だよ」

 2015年11月、寒風が吹き付けるソウル。朴槿恵大統領との日韓首脳会談に臨むために青瓦台を訪れた安倍晋三首相は萩生田光一官房副長官(当時)にこう笑いかけたという。リャンハンとは麻雀用語で「二役」の意味。安倍と萩生田、韓国内で日本の二大右派政治家と目されていた二人を喩えたジョークだった。首脳会談の最大のテーマは慰安婦問題の解決にあった。

 萩生田が振り返る。

「秘書官からは『外務省が“卵をぶつけられる可能性がある”と言ってます』と報告があり、緊迫感があっただけに総理の言葉で少し和んだ。会談前から総理は『自分の時代で終止符を打つ』と強い決意を持っていて、朴槿恵大統領も『自分の責任で慰安婦問題を解決する』と前向きだった。日本側としては慰安婦問題を解決すると共に、オブラートに包む形でソウルの日本大使館前の少女像を撤去させることを韓国に認めさせることを目指していた」

■文在寅の大統領就任をキッカケに再燃した慰安婦問題

 約1カ月後の12月28日、日韓両政府は慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認する日韓合意を発表した。日本政府が10億円を拠出し、韓国側が運営する形の「和解・癒やし財団」を設立。元慰安婦には1億ウォン(約1千万円)、遺族には2千万ウォン(約200万円)が支給されることになった。

「両国外相による日韓合意の会見は韓国でも生放送されました。安倍政権は謝罪しないと思い込んでいた韓国のアナウンサーは、岸田文雄外相の『責任を痛感する』という謝罪の言葉を聞いて絶句した。少女像の移設も『努力する』という文言となり、韓国政府は内諾していました。韓国でもこの合意は歴史的成果になると期待が高まっていったのです」(ソウル特派員)

 それから3年。「不可逆的な解決」を成したはずだった慰安婦問題が再燃している。キッカケは左派で市民団体に支えられた文在寅の大統領就任だった。

「財団への風向きが一気に強くなりました。理事長だった金兌玄(キムテヒヨン)は反対派の男性から催涙スプレーを噴射され、息子が脅迫を受けるなど散々な目に遭った末、昨年7月に辞任している。彼女は精神的ショックで外出が出来ない状態と聞きます。財団の理事は当初11人いましたが、民間出身の理事は全員辞任しました」(韓国人ジャーナリスト)

■多くのハルモニは“運動圏”の外にいる

 雨の中、抗議デモに参加した元慰安婦が体調を崩したと報道されると、癒やし財団はますます窮地に追い込まれていく。結局、文在寅政権は合意の再検証を始め、2017年末に「被害者の声が十分に反映されなかった」との見解を発表。11月に財団の解散も発表し、日韓合意は事実上“破棄”されたのだった。だが――。

「財団の10億円は日本国民の税金から出たお金。日本国民にも感謝します」

 そう語るのは、90代の元慰安婦、金紅玉(仮名)。匿名を絶対条件に私の取材に応じた彼女が続ける。

「朴槿恵は母のような気持ちで、ハルモニのために頑張って日韓合意を実現してくれた。有難く思っています。挺対協やナヌムの家は『お金を受け取るな』と言いますが、言うことを聞くハルモニは少ない。なぜなら多くのハルモニは“運動圏”の外にいる。だからお金を受け取ったのです」

 別の元慰安婦もこう証言する。

「癒やし財団のお金が配られる前に、挺対協の尹美香(ユンミヒヤン)代表が元慰安婦を集めて、『日本のお金を受け取ってはいけない』と演説をぶっていたことがありました」

 挺対協だけではない。元慰安婦とボランティアが共同生活する施設「ナヌムの家」。そのナヌムの家の所長も「待てば倍のお金が出る。財団のお金は受け取らないように」と元慰安婦に圧力をかけている。

 だが、多くが90歳前後の高齢となった元慰安婦の想いは違っていた。合意時点で生存していた47人のうち、34人が支給金を受け取ったのだ。

「元慰安婦の方々の多くは財団の活動に賛成、少なくとも反対ではなかったと考えることができる。ナヌムの家だけで見ても、同所に暮らす元慰安婦10人のうち6人が支給金を受け取っています。にもかかわらず、慰安婦の意に反しているとして財団は解散させられるのです」(別のソウル特派員)

■慰安婦問題の“二重構造”

 こうした数字が物語っているものは何か。

 元慰安婦よりも“運動家”の声のほうが大きくなっている、という現実だ。挺対協の活動の先頭に立って発言する元慰安婦は実際には数人程度。むしろ多くの元慰安婦はサイレントマジョリティと言える。韓国政府の見解とは反対の意味で、被害者の声が十分に反映されていないのだ。

 私がこうした慰安婦問題の“二重構造”に気が付いたのは今から5年前、取材でナヌムの家を訪れた時だった。ある元慰安婦が日本語でこう伝えてきた。

「日本人には悪いこともされたけど、助けてくれたのも日本人だった。慰安婦問題が韓日問題のトゲになってはいけない」

 中には「日本は謝れ」と叫び続ける元慰安婦もいただけに、その言葉は忘れ得ぬ記憶となった。もっと元慰安婦の“生の声”を報じるべきではないか。そう模索していた時、知ったのが沈美子の存在だった。

■政府中枢に挺対協元ナンバー2

 生前、数多くのメモや手紙を遺してきた沈美子。その一つが、冒頭で紹介した「募金のお金を横取りしている。ハルモニを食い物にしている」と、挺対協を痛烈に批判する手紙である。

「多くのハルモニは貧しい境遇にあったのに、挺対協がほとんどのお金を持って行ってしまうことを、彼女はおかしいと感じていたのです」(沈美子の支援者)

 さらに、〈これは遺言です〉と前置きされた別の書簡によれば、

〈挺対協のナンバー2の池恩姫(チウンヒ)は13年間詐欺行為を働いている。『野蛮な日本に奪われた人権を回復する』と口にしながら国民を騙した。挺対協とナヌムの家そしてメディアは癒着しており、彼らに元慰安婦は殺されている〉

 実は挺対協の元幹部、池恩姫は後に盧武鉉政権で女性部(現・女性家族部)長官となる人物だ。癒やし財団を所管する女性家族部には挺対協出身者が多く、挺対協が政府や世論に大きな影響力を持つ要因となっている。

 だが、そこに慰安婦の想いは反映されていない。優先されているのは、挺対協のパフォーマンスだ。

「沈美子は、33人の元慰安婦を集めて『世界平和無窮花会』を組織して独自の活動を目指しました。そして、挺対協やナヌムの家などの元慰安婦を“食い物にしている”運動体の解散を目指し、裁判に踏み切ったのです」(同前)

 2004年3月13日、沈美子ら13人の元慰安婦たちは、挺対協とナヌムの家に対し、「募金行為及びデモ禁止の仮処分申請」を申し立てる。その目的は、運動の資金源である募金を止めさせること、水曜デモを止めさせることにあった。

■黙殺される慰安婦たちの想い

 沈美子の作成した準備書面からは、水曜デモへの強烈な不信感が読み取れる。

〈日本軍慰安婦または女子勤労挺身隊ではない偽物を動員し、ソウル日本大使館の前や周辺で次のような内容や表現を提唱したり、流布する行為を禁ずる。

一.日本軍慰安婦に対するアジア女性基金は欺瞞だ。日本のカネを受領するのは公娼を認めることだ。

二.その他、被告が日本軍慰安婦の利益を代弁するという趣旨の内容〉
(要約)

 当時、日本は1995年に設立された「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」を通じ、慰安婦問題の解決を目指していた。償い金の支給や、歴代首相の手紙を元慰安婦に渡す活動に取り組んできたアジア女性基金だが、挺対協やナヌムの家から激しいバッシングを受けていた。

 まさに日韓合意後に韓国で起きたのと同じような現象が、当時も起きていたのだ。だが沈美子らはアジア女性基金の役割を認め、その一方で挺対協に対し、慰安婦の支援者などではないとノーを突きつけた。

 ところが――。

「裁判所では『日本に対する運動であり、違反に当たらない』と申請は棄却されました。いわゆる“反日無罪”。沈美子が高齢だったこともあり、やがて会もバラバラになり、元慰安婦達の声は急激にトーンダウンしてしまった。この裁判のことは韓国でもほとんど知られていません」(同前)

 結局、日本のアジア女性基金も2007年に解散を余儀なくされる。基金の元幹部、故・大沼保昭は生前、「自分が慰安婦問題についてやったことは日韓関係改善に役立たなかった」と絶望を口にしたこともあった。

■本人の許可を取らずに実名が刻まれていた記念碑

 挺対協にとって慰安婦とは何なのか。こんなエピソードがある。

 挺対協には代表の尹美香を筆頭に、梨花女子大出身者が数多くいる。梨花女子大は韓国屈指の名門女子大だ。ある人物が挺対協幹部に「梨花女子大にも慰安婦になった女性の資料が埋もれているかもしれない」と提案したところ、「梨花女子大にはそんな人はいません!」と言下に否定されたという。運動家は潜在的に元慰安婦を見下している面があるのではないか。だから元慰安婦を利用し、犠牲にすることも厭わない。

 2016年8月29日に旧韓国統監邸跡地にオープンした慰安婦追慕公園。公園内にはソウル市と挺対協、ナヌムの家が協議し、「日本軍慰安婦記憶の場」に記念碑が設置された。現ソウル市長の朴元淳(パクウオンスン)は、2000年に開かれた「女性国際戦犯法廷(民衆法廷)」で、韓国代表検事として昭和天皇を起訴した人物。挺対協とは“同志”と言える関係だ。

 記念碑には、元慰安婦247人の実名が刻まれているが、挺対協に反発した沈美子の名前は恣意的なのか、外されている。更によく見ると一部が削られていた。名前を消した跡だ。

「元慰安婦の中には差別や中傷を怖れ、家族や知人に過去を明かしていないケースも多い。にもかかわらず、記念碑には、本人の許可を取らずに実名が刻まれていた。それを知った慰安婦の一人が、深夜に金槌とノミで削ったと聞きました。市長や運動家が自身の活動を誇示するために作った記念碑でしかなく、慰安婦を二度殺すような行為です。でもそうした批判は、韓国では黙殺されています」(元慰安婦の支援者)

■「市民団体が強すぎることは頭が痛い」という本音

 政治にも強い影響力を持つ挺対協。与党「共に民主党」所属で、韓日議連会長の姜昌一議員はこう語る。

「歴史問題は保守、革新で解釈が違う。だから解決はあり得ないんです。慰安婦問題も韓日政府がお互いに何も言わないのがいい。若い世代は慰安婦問題に関心がないし、韓日には他にも重要な問題がある」

 ところが私が「挺対協など運動体の意見が強すぎるのではないか」と問うと、

「市民団体が強すぎることは頭が痛いことです……」

 と言葉少なに本音を垣間見せるのだった。

 市民団体の圧力や南北会談を機に韓国では民族主義が台頭しつつあるという。

 韓国メディアの記者がため息交じりに語る。

「11月中旬にソウル市内で挺対協が北朝鮮の慰安婦問題専門家を招いてシンポジウムを開きました。そこで『南北が協力して慰安婦問題で共闘しよう』という言葉が出たのです。挺対協の尹代表は、近親者が北の内通者という疑いもある。心ある記者は『北と近付くのは間違っている』と感じていますが、批判し難い雰囲気があるのです」

 この状況が続けば、北朝鮮からも慰安婦問題を巡って損害賠償の声が上がることは必至。挺対協の目的もそこにあると見られる。そして文政権がその流れを後押しするのではないか。

■深まる日韓の溝と、置き去りにされる元慰安婦

 かたや日本はどうか。首相周辺は「国際社会は合意を破棄した韓国の方がおかしいと見るだろう。日本からは何も動かない」と明かす。深まるばかりの日韓の溝。そこで置き去りにされるのは元慰安婦たちだ。

 ソウル市内から2時間あまり。忠清南道に位置する天安市。なだらかな丘陵地帯の一角に「望郷の丘」という国立墓地がある。弔われているのは、太平洋戦争の犠牲となった多くの韓国人、そして大韓航空機撃墜事件の被害者。その一角に元慰安婦たちの墓もあった。

 ここを私が訪れたのは金学順(キムハクスン)の墓を訪ねるためだ。静かに手を合わせると、冬の冷たい風が肌を撫でた。

 金学順は1991年に慰安婦と名乗り出て、慰安婦問題を韓国国内に周知させた一人。彼女の墓碑は挺対協などの支援組織が建立したものだという。

〈(金学順は)日本の基金は受け取るな、と遺言した〉

 墓碑の裏面にはこう刻まれていた。この言葉は真実なのか。金学順の知人はこう見解を話す。

「金学順は慰安婦問題の象徴的な女性となっているが、名乗り出た背景には恋人だった日本兵に再会できるんじゃないかという淡い気持ちもあったそうです。亡くなる前も『日本のお金で元慰安婦が住める施設を作りたい』と話していた。墓碑の遺言は無理やり言わされたか、もしくは後に創作されたものではないか」

 元慰安婦の一人ひとりに悲しい歴史があり、それに対する正確な検証と真摯な反省は必要だ。だが運動家が事実を歪め続ければ、正しい検証や反省をする機会は潰えてしまう。

 挺対協に沈美子裁判などについて取材を申し込んだが、「日本メディアの取材は受けません。質問についても確認することはできません」という回答だった。

■被害者を無視した運動に何の意味があるのか

 12月12日に行われた水曜デモ。日本大使館の前で、若い女性運動家が「安倍は謝罪しろ」とシュプレヒコールを上げていた。5万ウォンを寄付する支援者の姿も見える。ゲストで登壇したマイク・ホンダ元米下院議員はガムをかみ続け、笑みを浮かべていた。

 被害者は元慰安婦だ。彼女らを無視した運動に何の意味があるのか。私はぼんやりそう考えながら、沈美子の言葉に思いを馳せた。彼女は〈遺言〉として残した書簡でこうも訴えていた。

〈解決に向けて日本も努力しているのに、水曜デモはハルモニを利用して日韓関係を悪くしようとしている悪い行いだ。それは慰安婦の立場を落とすことでもあり、国際的にも恥ずかしい行為だから止めるべきだ〉

 反日活動という終わりなき闘いに“従軍”させられている元慰安婦。彼女たちの「真の声」に耳を傾けない限り、この問題が解決する日は来ないだろう。

(文中一部敬称略)

あかいししんいちろう 1970年生まれ。南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。「フライデー」記者を経て、06年から「週刊文春」記者。政治や事件、日韓関係、人物ルポなどの取材・執筆を行ってきた。本記事を最後に、19年1月よりジャーナリストとして独立

(赤石 晋一郎/週刊文春 2019年1月3・10日号)

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