「三十路の女には、ロクな男が寄り付かない」55歳の風俗嬢が“救いの神”を待ち続ける理由

「三十路の女には、ロクな男が寄り付かない」55歳の風俗嬢が“救いの神”を待ち続ける理由

©iStock.com

ネットカフェ難民の日常に迫る――誤魔化し続けた危機感の先にある暮らしの実態 から続く

「貧しいのは本人の努力不足」「貧困を抜け出せないのは頑張りが足りないから」……個人の環境の違いに目を向けない自己責任論は、必ずしも正しいとは言えないのではないだろうか。1000万人を超えるワーキングプア層を抱える日本社会において、一度はまりこんだ貧困という底なし沼から抜け出すのは、並大抵のことではない。

 日刊SPA!にて1000万PVを叩き出した「年収100万円」シリーズを書籍化。それに伴ってジャーナリストの吉川ばんびが各章のコラム、第5章を書き下ろしてまとめた新書 『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-』 (扶桑社)よりインタビューを抜粋し、現代日本に巣食う貧困の実態を見る。

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1回3,000円でウリ行為
「稼げない五十路風俗嬢」
立花 薫さん(仮名・55歳)女性
出身/東京都 最終学歴/中学 居住地/東京都 居住形態/賃貸アパート 年収/110万円 職業/風俗嬢 雇用形態/フリーランス 婚姻状況/未婚

■手足のしびれは貧乏病だった

 夏は猛暑となり冬は極寒になる、ここ数年の異常気象。エアコンも十分な防寒設備も持たない貧困者たちにとって、厳しい気温変化との戦いは悩みの種だ。さらに栄養状態が悪いとなれば、その戦いは命がけとなる。池袋の風俗店で働く立花薫さん(仮名・55歳)を取材のために訪ねたのは、2019年の暑い夏の日だった。エアコンのない築48年の木造アパートに暮らす立花さんは、体温と同じぐらいの暑さのなか、まさに生死の境をさまよっていた。

■1か月で2〜3万円……家財を売っても病にあえぐ

「普段は熟女風俗で月14万〜15万円は稼げているのに、お盆休みの閑散期“魔の8月”のせいで、2万〜3万円しか稼げていない。仕方がないから扇風機や冷蔵庫を売ってお金にしたら、暑さでダウンしちゃいました」

 ちょうど1週間前、朝起きたら体が動かず手足にもしびれを感じて、慌てて救急車を呼んだという。

「どうにか一命を取りとめたけれど、医者が言うには『貧乏病』とも呼ばれる栄養失調『ウェルニッケ症候群』だって。さらに体力が低下して熱中症になっていました」

 栄養のあるものを食べるには、お金がいる。主戦場での稼ぎに目処がたたず、出会い系サイトなどで1回3000円の“ウリ”も始めた。

「東京オリンピックに向けた“浄化作戦”で風俗への取り締まりは厳しくなると言われています。カラダを売る仕事も、この先どうなることやら……」

■消えた母、宗教に逃げる父

 高度経済成長期に、人口増が加速度的に進んでいた東京・多摩地区。その片隅にある酒店の娘として、立花さんは生まれた。両親と4人の兄に囲まれ何不自由なく暮らしていたが、立花さんが4歳の頃、母親が上の兄2人を連れて家を出ていってしまった。父親は幼い3人の子どもを育てるため必死で働いていたが、心にあいた穴を埋めるかのように、新興宗教にハマっていった。

「父は店の売り上げの大半を献金するほど、宗教にのめり込んでいきました。そんな環境に耐え切れず、上の兄は自室に引きこもるように。私も異様な家庭環境から逃れるように、中学生になると非行に走り、シンナーを吸っては不良仲間の家を泊まり歩くようになりました」

 最終学歴は中学卒。若く刺激に飢えていた立花さんは、夜な夜な家を抜け出してはディスコに繰り出すようになったという。

■一時の夢はバブルと共にはじけた

「18歳になる頃には、男の家を渡り歩いていました。泊まれることができれば、SEXしてもそれでいいという感じ。そして友達が『ウェイトレスだけど、時給がよくて稼げる』と紹介してくれたのが、歌舞伎町のキャバクラでした」

 キャバクラの当時の時給は、1時間3000円。タバコ一箱200円の時代に、10代の子どもが持つには相応しくない大金を稼ぎ、新宿の夜を謳歌した。そしてディスコで出会った羽振りのいい男の家に転がり込んだ。時はバブル前夜。お金は尽きることなく降ってくると信じていた。

 しかし狂乱は続かず、バブル景気が収束の気配を見せた25歳の頃には華やかな男たちは姿を消した。気づけば、立花さんはひとりになっていた。

「仕事を探そうと頑張ってみましたが、担当した面接官から『中卒ですか?』と何度も確認されるなど、ぜんぜん採用の通知は届かない。仕方なく、友人の経歴を借りて事務職員の仕事を得るも、結局は実務ができず職場で浮いてしまって辞めることに。結局、水商売をするしかないという結論に……」

■流転の売春生活

 数年間はキャバクラに復帰するも、なかなか指名を入らず稼げない日々。知人に相談すれば、『1日で10万円以上稼げる』と、今度はソープランドの仕事を紹介される。裸で接する仕事に抵抗はあったが、背に腹は代えられぬと28歳で性風俗の世界へ飛び込んだ。

 バブル時代に男を転がした経験のある立花さんは男を喜ばせるテクを知り尽くしていた。すぐに指名がつくようになり、1日15万円超を稼ぐ日が続いた。ソープという場で彼女の才能は開花したが、男を見る目は鍛えられなかった。付き合っていた男に自宅の電話番号を悪用され、危うく犯罪に巻き込まれかけたこともあると話す。

「結婚しようっていうから信じていたのに、せこせこためた貯金300万円をそっくり取られちゃった。女って三十路にもなるとロクな男が近寄ってこないんですよ」

■「そこまで堕ちていない」――生活保護にいだく抵抗感

 30代後半になる頃には、徐々に指名が減っていく。さらに、酒浸りの生活を続けた不摂生がたたり体形も崩れ、稼ぎは1日2万円以下まで落ちてしまう。

「指名が取れなくなり、1時間1万円以下という低価格がウリの系列店に回されました。稼ぎは1日4万円にまで戻るも、今度は淋病、クラミジア、コンジローム……次から次に性病にかかる。もううんざりして、思い切ってソープはやめることにしました。でも、退店するなら寮から出なくちゃいけなくて、結局、今の家賃2万5000円のボロアパートに引っ越しました」

 40歳の頃、東京都台東区にある熟女専門風俗に入店するが、指名がない日も多く、1日5000円を稼ぐのがやっとだった。客に「写真で見るよりババアだな!」と罵倒され泣いてしまい、仕事にならなかった日もある。指名を取るため見た目にお金をかけ自分の商品価値を上げようにも、美容にお金をかけることもままならず、負のスパイラルに陥っていくばかりだった。

■待機所は「ファストフード店」

「月10万円を稼ぐのもやっという状況で、“昼職”に再度挑戦することも頭をよぎったことがあります。でも、20年以上ウリで生計を立てている女が、働けるとは思えない。いっそ生活保護を受給してやろうかとも考えましたが、『そこまで堕ちていない』と抵抗感があって、申し込む気になれない。最近では3店舗をかけ持ちして、さらに、週に3度は清掃のバイトもしています。それでも足りなきゃ出会い系でウリもやって、なんとか生活を成り立たせています」

 めったに指名がかからないためお店の待機所にいても肩身が狭く、ファストフード店に逃げるのだが、指名を待つ間は100円バーガーと無料の水で何時間も粘るのだという。ウリで稼いだ日は、スーパーの総菜コーナーで売られている298円の激安幕の内弁当が“自分へのご褒美”になる。

■“救いの神”が現れるのを祈ることしかできない

「バブルの頃は浴びるほど飲んでいたシャンパンなんか、どんな匂いかすら忘れちゃいました。あの頃に稼いでいたお金を貯金していたら……って時々思います。でも、そんな頭がないから、今、こんな状況にいるのでしょうね」

 快適な環境で眠ることもままならない立花さん。ホテルで接客した後、「私だけこのまま寝ていってもいい?」と客に頼み込む夜もある。もう還暦も見えてきた年齢だ。清掃のアルバイトを本業にするのは難しいのだろうか?

「実は、清掃のバイトも同僚女性に嫌われてしまってクビになりそうなんです。それにたとえ仕事でも、客の男に抱かれているときは寂しさを忘れられる。こんな私でも、ほんの1〜2年前には恋人がいました。すぐに別れちゃったけど(苦笑)。今はヤリ続けて、ここから救ってくれるお金持ちの男性を待つしかないかな」

 立花さんは今日も、祈るように手を合わせて、“救いの神”が出現するのを待ち続けている。

「俺が経済を回してやっているんです」マスク転売男が胸にする謎の正義感とは? へ続く

(吉川 ばんび,週刊SPA!取材班)

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