プロ野球、今季の収入は6割減、赤字は10億?……元球団社長が試算してわかったこと

プロ野球、今季の収入は6割減、赤字は10億?……元球団社長が試算してわかったこと

横浜スタジアム ©iStock.com

 今シーズンのプロ野球が、6月19日に開幕することになりました。

 私はかねてから開幕推進派でもありましたし、率直に開幕することは大きな一歩だと感じています。

 スタートが約3カ月遅れとなることで、レギュラーシーズンは143試合から120試合に縮小されます。また当面は無観客試合となることから、経営的な観点に立てば、各球団は厳しい状況に直面せざるを得ません。のちほど大まかな試算を紹介しますが、端的に言って赤字は覚悟しなければならないでしょう。

 新型コロナウイルス感染拡大の第2波が来る可能性も十分にあります。先日、ジャイアンツの選手が「微陽性」と判定され、練習試合が中止になりました。開幕前、またシーズン中に、類似したケースが今後も出てくるかもしれません。前途は多難です。

 それでもやはり、プロ野球には今年のシーズンをまっとうしてもらいたい、と私は願います。

■プロ野球が先頭を切って開幕する意味

 コロナによって、特に大きな打撃を受けた業界の一つが、エンターテインメント業界、エンタメです。大規模なイベントなどは軒並み中止となり、大勢の人が集まり、盛り上がって楽しむことで成立していたビジネスは、稼ぐ手段を失ってしまいました。

 もちろん、このエンタメには、スポーツ界も含まれます。

 試合が開催できないという致命的な状況のなか、3月以降は、ウイルスの感染拡大が落ち着くのをただ待つしかありませんでした。

 緊急事態宣言が解除され、平常時の生活が戻ってきつつある今、プロ野球が先頭を切って開幕することには重要な意味がある。

 それは、プロ野球こそが、エンタメ業界が新たな日常を創り出そうと進み始めていることの、象徴的存在となれるはずだからです。

 日本においてプロ野球は、これまでずっと特別な地位を確立してきました。他のスポーツを上回る人気や規模を背景に、ときには社会の公器であるとも謳ってきました。それだけファンから受けてきた思いは大きく、背負っているものも大きいのです。

 今こそ、それをファンをはじめとした社会に返すべきときです。

 夏の甲子園は中止になってしまいました。東京オリンピックは1年の延期が決まりましたが、ちゃんと開催されるのか、まだ不安な部分もあります。フジロック・フェスティバルも延期。スポーツ、エンタメ業界には依然として重苦しい空気が立ち込めています。

 そうしたなか、プロ野球の開幕は希望の光となるはずです。

 厳しい状況に置かれた業界関係者や、試合やイベントを楽しみにしているファンに、かつてのような楽しみが戻ってきつつあるという実感を抱かせます。

 コロナ感染拡大という重いフタに光を遮られてきたエンタメ業界。そのフタを持ち上げるのは、今こそプロ野球が果たすべき役割なのです。

■球団の収支を試算してみると?

 先ほども述べたように、今年の球団経営は数字的には極めて厳しいものになるでしょう。

 球団社長を経験した私が書くとどうしても生々しくなってしまうので、あくまで大まかなイメージに留める形で、今年の球団の収支を試算してみたいと思います。

 1球団の1年間の売上を、100億円と仮定します。

 もし、シーズンを通して無観客試合となった場合、チケット収入のおよそ30億円が吹き飛びます。シーズンシートも払い戻し。10億円ほどとしましょう。スポンサー収入は20億円。ここは据え置きとします。というより、据え置きであるべきだと思います。

 チームと一緒に頑張ろう、チームを支えようという気持ちが、企業が球団をスポンサードする大切な基盤です。無観客試合になったからといってスポンサードを取りやめることはその理念に反します。

 スポンサードを継続することで「苦境のチームを支えた」との印象を与え、スポンサー企業のブランド向上につながる可能性もあります。また、試合自体は実施され、放映も行われるので、一定の露出は確保できます。それらのことを考えても、すでに契約済みのスポンサー収入は維持されるべきでしょう。

■収入は6割減、赤字は10億……

 一方、グッズ販売や飲食といった、観客動員があってこそ売上が立つ分野の25億円はほとんどゼロになります。ネットを介して販売するなどして多少のカバーは可能ですが、大変厳しい数字となるはずです。

 そして、放映権収入の15億円はステイ。となると、もともと100億円あった売上が、スポンサーと放映権プラスαの40億円程度に落ち込むことが予想されます。6割減、という試算です。

 そして、30億円ほどの選手年俸総額をはじめとして、経費はおよそ50億円。こちらはさほど変わらないので、単純計算でマイナス10億。赤字となることは覚悟しておかなければならない情勢です。

 それでも、1年間くらいなら、プロ野球は耐えられるはずです。

 今回のコロナによる経済活動の停滞で、企業は体力勝負を迫られました。売上が急減するなか、財務体質が頑強な企業は生き残り、脆弱な企業は生き残れない。

 プロ野球界は幸いにも、この10年間ほどで経営を重視する姿勢が広まり、各球団が一定の体力を確保してきました。

 もし10年前、あるいは私がベイスターズの球団社長に就任した2012年頃にコロナウイルスが発生していたらと考えると恐ろしくもなります。当時のベイスターズは50億円ほどの売上に対して赤字が25億円ほどもあるという経営状態でしたから、到底もたなかったでしょう。

 スポーツも経営感覚をしっかりと持っておくことがいかに重要なことなのかを、今回のコロナは図らずも再認識させてくれたと言えます。

 ともかく、今のプロ野球界なら球団単体の経営でも多少の体力勝負には耐えられるはず。

 これは、JリーグやBリーグなど他のプロスポーツにはない強みです。仮に野球と同じように単年10億円の赤字を出したとして、それに耐えられるかどうかというと、かなり厳しいでしょう。とりわけ、数字の上では黒字でも、売上の多くを親会社からのミルクマネーに頼っているクラブほど、シーズン中止や試合の無観客化によるネガティブな影響は大きくなってくる。それこそ、さらに親会社に頼る以外に道がなくなってきている現状も、サッカーなどには色濃くあるでしょう。

 こうした面においても、シュリンク(縮小)を余儀なくされるスポーツ界において、苦しくとも前に進んでいく姿を見せられる貴重な存在が、プロ野球なのだろうと思います。

■無観客でも球場が盛り上がるには

 ただ、各球団には、赤字転落が濃厚という現実を、「コロナだからしょうがない」といった調子で、淡々と受け入れるべきではないと私は考えます。

 開幕するからには、可能な限り経営努力を続けるべきでしょうし、プロ野球はその先に、新たな挑戦の世界を切り拓いてもらいたいのです。

 球団経営がフォーカスされ、各球団がこの危機を乗り越えられるだけの体力を備えてきたことを球界の“第一次パラダイム・シフト”とするならば、今求められているのは“第二次パラダイム・シフト”への挑戦です。

 無観客でも球場が盛り上がるにはどんな手法が考えられるか。映像で試合を楽しむファンに特別な観戦体験をしてもらうにはどうすればいいか。それらに伴って、どんな新規ビジネスが展開可能か。

 たとえば、設備投資費はかかりますが、LEDディスプレイを座席の背もたれに設置して、球場に来れないファンの顔がそこに映る権利やそれに伴う家庭での新たなサブスクのビジネスモデル、リモートファンミーティングの参加券を販売していく、であるとか。

 外野からの勝手な物言いに聞こえてしまうかもしれませんが、知恵を絞り、いろいろなことに挑んでほしい。トライした人にしか分からないこと、トライした人だけが得られるチャンスは必ずあります。プロ野球は体力があるからこそ、切り拓くイノベーターになれる。そして他エンタメ業界にも、スポーツ業界にも、新たな道筋をみせることができる。挑戦した人にしかわからない、見えない果実を着々と経営に還流させてもらいたい。

 そうして新たな収益のタネを見つけることができたならば、それは以前のようにスタジアムに観客を入れて試合ができるようになったとき、売上の上積みになるのです。

 今をチャンスだと捉え、驚くようなビジネスアイデアを編みだす球団が現れることを期待したいと思います。

◆ ◆ ◆

(池田 純)

関連記事(外部サイト)