BTSファンが抗議デモに1億円寄付 米メディアも絶賛するK-POPオタクの統率力

BTSファンが抗議デモに1億円寄付 米メディアも絶賛するK-POPオタクの統率力

BTS(防弾少年団)©getty

 アイドルの熱狂的ファンというと、崇高なイメージは浮かびにくいかもしれない。しかしながら、今アメリカで、K-POPアイドルファンたちが「正義の政治軍団」と尊敬を集める事態が起こっている。?

■K-POPファンたちによる正義の“乗っ取り行為”

 はじまりは、警察の人種差別問題を訴えるブラック・ライブズ・マター運動(以下、BLM表記)。5月末、デモ参加者と警官の衝突が広がるなか、テキサス州ダラス警察が自前アプリ「iWatch Dallas」への「デモにおける違法行為」報告をつのるツイートを行い、BLM支持派から大きな反発に遭った。?

 そんな中、行動に出たのが、BLMを支持するK-POPファンたちだった。ダラス警察の「iWatch Dallas」やツイートに対して好きなメンバーの動画を送りつづける乗っ取り行為に出た結果、アプリ自体をサーバーダウンさせたのである。

 同時に、TwitterやInstagramにて、白人至上主義と批判を受ける「ホワイト・ライブズ・マター」や警察官を筆頭とした法執行官を支援する「ブルー・ライブズ・マター」運動のハッシュタグにまで大量のアイドル動画・画像を投稿していき、反BLM的とされる勢力の情報交換を妨害していった。

 これらは、団結するファンの数が多いからこそ威力を発揮した、オンライン版の人海戦術に近い。グローバルなK-POPファンダムのインターネット勢力は巨大で、2019年Twitterにて発信された関連投稿は全体の3%に届く 61億相当とされる 。?

■「反政府デモを扇動した勢力」としてチリ内務省が名指し

 K-POPファンダムの政治性やアクティビズムは、今に始まったことではない。たとえば2019年には「SNSで反政府デモを扇動した外部勢力」としてK-POPファンをあげるチリ内務省の報告書が話題を呼んでいた(信頼性は謎だが……)。

 寄付活動も活発で、今回も、人気グループBTSのファンによるチャリティ団体「One in an ARMY」がBTSメンバーたちがBLM関連団体に寄付した金額と同額の100万ドル(約1億800万円)を企画発足から 24時間ほどで集め、寄付している 。?

 ファンダム経由の政治活動は「ファン・アクティビズム」とも呼ばれる。今回のBLM運動は、その「オタク」的なパワーを世界中に知らしめたと言っていい。

 さまざまな国籍やルーツ、年齢の人が集うK-POPコミュニティでは、言語の壁を超えて情報を互いにシェアし、アーティストの売上や注目度を上げるための「応援の仕方」を伝授する文化が育まれている。これらの統率力は、社会運動においても大いに役立つものだ。?

 妨害された側はたまったものではなかっただろうが、BLM支持派が多いアメリカのリベラルなマスメディアは、K-POPファンダムの「乗っ取り」作戦を絶賛していった。大手ニュース番組『グッド・モーニング・アメリカ』に至っては「正義の戦い」と称した特集まで打っている。?

■右派が人気キャラクターを乗っ取った「カエルのぺぺ」事件

 しかしながら、政治的なオンライン人海戦術を行うのは、何もリベラル側だけではない。過去にはリベラルメディアがこぞって批判的に報道した「乗っ取り」事件もあった。有名なものだと、2015年ごろネットを騒がせた「カエルのぺぺ」事件がある。

 ぺぺとは、マット・フュリーによる漫画『ボーイズ・クラブ』のキャラクターで、表情豊かな目の大きいカエルだった。悲しみや喜びをあらわす絵面が特徴的だったためインターネット・ミームとして人気を博していたのだが、だんだんとオルタナ右翼や白人ナショナリストが政治的アピールに用いるアイコンとして定着していき、現実のデモや政治集会にも登場するようになっていった。

 2015年にはトランプ現大統領もこのカエルを模した画像をリツイートしている。翌年には、米国のユダヤ団体「名誉毀損防止同盟」が「ヘイトシンボル」として「カエルのぺぺ」を登録するまでに至った。

 このことに、リベラルな民主党支持者の作者フュリーが激怒。「作者の私からすればぺぺとは(憎悪ではなく)愛だ」と語った彼は、キャラクターを取り戻すため、ファンとともに「#SavePepe」キャンペーンを展開してぺぺを主人公とした反トランプ漫画も描いていったが、結局、膨大な数の反動右派ネット勢力に敵わず終わる。そして、トランプ政権が始まった2017年、フュリーは漫画のなかで「カエルのぺぺ」を公式に殺してしまった。?

■「ファン・アクティビズム」の元祖は『ハリー・ポッター』だが……

「ファン・アクティビズム」の代表的な例とされるのが、J・K・ローリングが生み出した小説『ハリー・ポッター』シリーズのファンによる非営利団体「Harry Potter Alliance」である。2005年、同シリーズの精神に基づいて発足されたこのNPOは、35カ国に支部をかまえながらフェアトレードや紛争問題、経済や人種、環境の問題やセクシャル・マイノリティへの差別解消のための活動をつづけている。

 ポップカルチャーの魅力を活かして社会運動を広める同団体のモットーは「ファンをヒーローにする」。まさに、フィクションの力を反映させた高潔なファン活動だ。?

 しかしながら、2020年現在、「Harry Potter Alliance」の運営は原作者J・K・ローリングに対して公然と批判的な立場をとっている。大きな理由は、ここ数年議論を呼んでいる、トランスジェンダーにまつわる彼女の言動だ。

 直近では、開発支援メディアの記事をツイートし、タイトルに含まれる「月経がある人々 (“People who menstruate”)」表記に対して「なぜ女性と書かないのか」といった旨の懐疑を表明(*)。これに続く「性別(“sex”)は現実」という主張もあったため、「トランス排除」的だとして大きな反発を呼んだ。

*……「月経がある人々」表記はトランスジェンダーやノンバイナリーの人々への配慮表現とされる向きがある。また、シスジェンダー女性にも無月経状態の人はいると指摘されている。


 ローリングは改めて自身の見解を述べる長文を発表したが、それにしても批判派から様々な問題を指摘されており、物議はおさまっていない。

 結果的に、リベラルなフェミニストとして知られていたローリングの言葉は『ハリー・ポッター』ファンダムをカオスに巻き込んでしまった。「トランスジェンダー差別」と批判する人が目立つ一方、ローリングへの支持を表明し結束を強める層も出てきている。

 BTSファンダムのBLM寄付活動に見られるように、「ファン・アクティビズム」の特徴は、愛好対象のコンテンツや表現者に共鳴した活動が多いことだろう。だからこその葛藤や問題を引き起こす側面を示したのが、同時期に巻き起こったJ・K・ローリング論争と言える。

■ダニエル・ラドクリフが示した、コンテンツとの向き合い方

 政治・社会的な議論が活発化するなか、コンテンツとの向き合い方について一つの提示をした表現者が、映画版ハリー・ポッターを演じた俳優ダニエル・ラドクリフである。

 彼は、ローリングとの仲違いではないとしながら、トランスジェンダーの人々に関する考えを示す ステートメントを公開した 。『ハリー・ポッター』との思い出が損なわれてしまったと感じる人々に思いやりを示す文章のなかでは、パーソナルな読書体験は作者からも独立したものだとつづられている。?

「もしあなたが、人生のうちに物語と共鳴して、助けられたことがあったのなら──それはあなたと本のあいだにある、神聖なものです。個人的な意見として、その経験に介入する権利は誰にも無い。

 あなたが感じた価値はあなたのものです。今回のコメント群によって、それが蝕まれないことを願います」?

(辰巳JUNK)

関連記事(外部サイト)