「金原昇元会長が今も人事握る?」“闇深い”テコンドー協会は半年間で本当に変われたか?

テコンドー協会の新体制を高橋美穂元理事が語る 金原昇元会長が今も人事握る?

記事まとめ

  • テコンドー協会は問題が噴出し金原昇会長、岡本依子副会長、高橋美穂理事らが辞任した
  • 19年12月に新生テコンドーを応援する会が発足、"テコンドーがようやく変わった"と報道
  • 辞任した金原氏が介入し、誰もが代表チーム入りを望む監督が含まれなかったと高橋氏

「金原昇元会長が今も人事握る?」“闇深い”テコンドー協会は半年間で本当に変われたか?

「金原昇元会長が今も人事握る?」“闇深い”テコンドー協会は半年間で本当に変われたか?

インタビューに応えたテコンドー協会元理事の高橋美穂氏。選手として1992年バルセロナ五輪に出場している ©文藝春秋

 1992年バルセロナ五輪にテコンドー日本代表として出場した高橋美穂はその翌年、まだ19歳であったが、潔く現役を引退する。次のアトランタ五輪からこの種目が外されたことと、彗星の様に現れた岡本依子(シドニー五輪銅メダリスト)に敗戦を喫したことで、第一人者の重圧から解放され、心置きなく道着を脱ぐことが出来たのだ。

 高橋は「引導を渡されたことで私は早くセカンドキャリアに移行が出来た。その意味でも岡本さんは私の恩人」と言う。そしてその岡本に誘われ、2015年にテコンドー協会に理事として帰還する。しかし、約20年ぶりの協会では、選手不在の強化体制、あってはならない国際大会への参加手続き漏れ、不透明な海外遠征費用など、問題が噴出していた( https://bunshun.jp/articles/-/37388 )。

 高橋はアスリート委員会の長として、約4年に渡って改革を望む選手の気持ちを伝え続けていた。しかし、金原昇前会長ら協会側が真摯に向き合うことはなかった。高橋は昨年10月に行われた理事会において、協会の混迷の責任をとる意味で自らの辞任と理事の総辞職を訴えるも会議は空転し、7時間に渡って紛糾する。

◆◆◆

■「何?(高橋理事が)倒れたの? 俺も倒れようかな」

「あなたを刑事告訴する!」

 テコンドー協会の理事会において、選手のための改革を長時間に渡って主張し続けて来た高橋美穂が最後に役員から受けた言葉は、恫喝だった。ショックによる過呼吸で倒れ、意識を回復したのは、救急車で運ばれた医療施設の中だった。高橋が振り返る。

「大きなストレスが溜まっていました。怒鳴られて身体が痺れて意識が飛んでしまったんですけど、気がついた私が最初にやったのはICレコーダーを確認したことです。協会という組織の中で選手のためにやれることは全部やってきたつもりなのですが、内部では変えることができず、もう記者の方々に実態を知ってもらって世論を動かすしかないと覚悟していたのです。だから、私と岡本さんは、身を守る意味でも理事会に臨むにあたってテレビ局の人からレコーダーを預かっていました。

 私が具合が悪くなって外に出たので岡本さんは駆けつけて、介護してくれたんですが、彼女のカバンは会議室に置いたままだったので、それで金原さんの『何? (高橋理事が)倒れたの? 俺も倒れようかな』という発言とそれに対して理事数名が笑っているという音声が、録れていたんです。翌日、それをフジテレビさんが番組で流して、金原さんがまた激怒するという状況で、もう泥沼が始まっちゃうんですね。ただやっぱり私はアスリート委員長として、声をあげないといけないと考えていました。現役でがんばる選手たちに諦めてほしくなかったんです。テコンドーを愛するものとしてそれは絶対に嫌でした」

■「美穂さんが倒れたのに笑っているって人としてありえない」

 共に改革を促して来た岡本依子副会長(当時)はこの高橋の言行一致のブレない姿勢に感じ入っていた。

「正直、なぜテコンドー協会の理事に選手出身者が少ないかというと、協会に入っても金原さんの独裁が嫌で誰もやりたがらないというのが実情だったんです。美穂さんは現役のときもオリンピアンとして日本代表のパイオニアやったし、協会に戻って来たときもアスリート委員長として本当にがんばってくれていました。その美穂さんが倒れたのに笑っているって人としてありえないことですよ。美穂さんは意識が戻るとすぐにマスコミに知らせようと動きました。私もテレビ局に一緒に行ったんです」

 テレビに出たことで、問題が一気に広く知れ渡った。再び高橋に訊く。理事会の紛糾が大きくテレビで取り上げられた影響はやはり大きかったのか。

「このままではいけないと、全国の協会の正会員たちが動き始めました。正会員総会で、8割の正会員が金原体制の理事の総辞職を望むという地固めができたんです。ところが、その総会直前に予想外のことが起こったんです。金原さんが突然、外部の検証委員会に調査を依頼したという報道が出るんです」

■金原体制へのまさかの“シロ判定”

 そうして、総会の前にスポーツ法学会の境田正樹弁護士を委員長とする外部の有識者による検証委員会が立ち上がった。他競技団体でも問題解決のために第三者機関が内情を調査し、理事が全員辞職をした上で新しい理事を推薦して立て直した事例がある。それに倣う目的だが、テコンドー協会では金原会長自らの依頼によって境田弁護士が検証委員会を作ることになったところがポイントだろう。

 10月下旬に高橋は「自分も辞めるので金原会長も再任が無いように」という意志を示し、理事の辞任届を提出した。数日後、臨時理事会が開かれて理事の総辞職が可決された。そこから検証委員会は1カ月に渡り、会長、強化選手に加え、元理事25人にヒアリングを開始した。

 そして11月末、検証委員会の境田委員長は金原会長と並んでそのヒアリングの結果を会見で発表する。

 ここで境田委員長は金原会長の退任を告げる。と同時に「調査の結果、協会がガバナンスコードに違反している事実は無くしっかりと運営されていた。協会に財力が無いことが問題の本質である」とマスコミに発表するのだ。言わば“シロ判定”を高橋はどう受け止めたのか。

「境田先生が出したこの判定に対して、今でも私は納得していません。現役選手の時間を台無しにする国際大会のエントリー漏れ(※)、明細すら出なかった遠征費の不明使用や恫喝のようなパワハラがあったにも関わらず、それらに一切触れずに予算が無いことが理由にされた。これでは問題がまったく解決に向かいません。

 予算の無い競技団体でもしっかりしているところはありますよ。私とヒアリングに参加した選手たちは、この判定に対してあり得ないと愕然としていました。選手たちは何のために勇気を出してヒアリングに臨んだのか……」
(※2018年8月のモスクワGPへのエントリー漏れ。選手3名のうち2名が事務手続きミスで大会に参加できないという協会側の不手際があった)

 この判定について、例えばTBSの『ひるおび!』で八代英輝弁護士は「これでは御用検証委員会の見解ではないか。ガバナンスやコンプライアンスに問題が無くてしっかり運営してきたというならば、金原さんが会長を辞めることは無いじゃないですか」と批判の声を上げている。

■『検証委員会までが金原派やとは思わなかった』

 ここで当事者である選手の声を聞いてみたい。

 男子80キロ級代表の江畑秀範は“検証委員会がシロ判定を下した”ことを選手のLINEの連絡網で知ったという。

「勤めている会社にいたときに僕のスマホに次々に飛び込んで来たんです。すぐにヤフーニュースにも取り上げられたのを読んで愕然としました。現場の指導者の方も『検証委員会までが金原派やとは思わなかった』と嘆いていました。あまりのことに僕は境田さんに直接電話したんですよ。『先生、選手があれだけ必死になって話したのに、協会がガバナンスに違反していなかったとはどういうことですか?』と。そのとき先生は、『いや、違うんだ。あれは金原さんを抑えるためのパフォーマンスだったんだ。あそこで裁定をクロにしてしまうと高橋さんと岡本さんが責められてしまうのでああいう結果にしたんだ』ということでした」

■「強くなれたら100万円でもいいです」

 江畑自身はどのようなことをヒアリングで話したのか。

「僕は協会のお金にまつわることではなく、何よりも選手を取り巻く環境が崩壊していることが問題だという話をしました。選手から徴収された海外遠征費用が、何に使われたのか使途不明とか言うのは、確かに酷いことですが、現役の選手からしたら、経費のことは二の次なんですよ。国際大会に行くのに100万円かかるのか? 無料で行けるのか? そんなことよりも自分がその遠征で強くなれるのかどうかが重要なんです。強くなれたら100万円でもいいです。でも僕はあれでは強くなれない状態だということを話しました。

 2018年のモスクワGPのエントリー漏れは最たるものですが、強化合宿がまったく意味の無いメニューで組まれていたり、コーチに指導能力が無くて信頼関係が築けていないこと、あげればきりがありません。代表合宿に行っても意味が無いから、所属に残って練習したいという選手がほとんどで、だから、招集された28人の内、26人が行かないという事態に陥ったんです」

 当時、選手が代表合宿に行かないのは、強化体制への不満が理由ではないとも報道された。

「それは協会のパワハラが怖くて届け出に正直に書けなかったからです。体制を正面から批判すると強化指定選手を外されたり、除名処分を受けるんです。僕も抗議をしていたら、2014年から2019年までの間で2度ほど強化指定を外されました。だからみんな仕事が休めない、授業があるから、とか別の理由を書いて実質的なボイコットをしていたんです。僕はヒアリングでそのようなことを話しました。それは他の選手たちもそうです。怖かったですけど、必死に話しました。でも検証委員会がシロにしてしまったことで、僕らの訴えと言うのはすべて否定されてしまった思いです」

■「金原会長は辞任されましたが、影響力を残すことになりました」

 2019年12月に「新生テコンドーを応援する会」が発足、卓球協会の木村興治名誉副会長が新会長に就き、バスケットBリーグの千葉ジェッツの島田慎二会長が副会長に就任した。理事も刷新され、“テコンドーがようやく変わった”という報道が晴れ晴れしく行われる。

 一方で、検証委員会が下した“シロ判定”が尾を引いていくことになる。ネット上でもこのシロ判定を根拠に高橋や岡本、江畑の行動に対し、いまだに誹謗中傷する投稿が散見される。

――新体制になってすべてが改善されたというイメージで捉えられていますが、高橋さんはまだ問題が解決されていないということを感じているわけですね。

「金原会長は辞任されましたが、結局、その影響力を残すことになりました。非常に情のある方なんで、強化体制についても適材適所というよりは、仲の良い人がやっぱり先にきてしまう」 

――金原元会長の影響力はどのようなところで出ているのでしょうか。

「今年2月には、強化委員長に前日本代表監督で実績もある山下博行が3年ぶりに選任されました。これはとても喜ばしいことなのですが、その片腕と目されて誰もが代表チーム入りを望んでいた大東文化大学の金井洋監督が含まれていません。これは残念ですが、金原さんの介入によるものなのです」

 金井監督の指導実績は結果が能弁に語っている。2月に行われた東京五輪の最終選考会では4名の代表選手が決まったが、その内の3名が大東文化の出身で金井の指導を直接受けているのだ。

 関西を拠点にしている江畑でさえ、金井に対する信頼と評価は極めて高い。

「金井さんは代表の強化に入って欲しい人、ではなくて入らなくてはいけない人なんですよ。普段の練習だけでなく、大きな大会になると選手の力が7割でそばについている指導者の力が3割なんですよ。7の力を10に引き出してくれる人がいないとダメなんです」

 再び高橋に聞く。

――テコンドー関係者の誰もが望むこの強化人事が進まないことに対しての動きはあるのでしょうか?

「実際に選手も動いています。金井監督の代表コーチ入りを境田さんに直談判した選手がいたのですが、境田さんの説明は『金原さんが金井監督の代表入りを妨害した』というものだったそうで、選手たちも納得していません」

■キーパーソンに直撃「なぜ、金原体制に“シロ判定”を下したのか?」

 テコンドー協会の改革のキーパーソンである検証委員会の境田委員長に直接話を聞いた。新体制に向けて劇的な変化をもたらした境田の功績は大きい。一方で高橋や江畑が疑問を投げかける前体制への“シロ判定”についてはどのように考えているのか。

――なぜ、選手の訴えがありながら“シロ”としてマスコミに発表したのですか。

「(前体制が協会を)私物化していたのは間違い無くて、透明公正なガバナンスが効いていたかというと、機能はしていなかったです」

――それは事実だったわけですね。

「事実でした。そこは僕も発表に際して微妙に言い方を変えていて、『スポーツ庁が出しているガバナンスガイドラインの違反は無かった』ということです」

――その基準で違反は無いけども実質的に私物化していたと感じていたわけですね。

「ただそう書かれると、彼(金原前会長)が暴れますから」

――しかし、もう会長から外れているわけでしょう。

「外れているんですけど、高橋さんや岡本さんへの嫌がらせや攻撃は続いていますからね。問題があるから、(金原さんに)辞めてもらったのは事実ですから。ただその後も関わろうとするわけですよ。いろんな手を使って影響を与えて来ます」

――強化体制の刷新で山下前代表監督の復帰には選手たちは喜んでいました。しかし、誰もが望む育成、強化の第一人者である大東文化大学の金井監督が戻れないという事実があります。それには金原さんの介入があると言われていますが。

「そう」

――そんなことが許されるのでしょうか。

「……許されない」

◆◆◆

 2月の東京五輪代表最終選考会の会場には、金原前会長の姿があった。一方で会場に来なかった新理事もいる。形は整えられても内実はあまり変わっていない……高橋の懸念は当たりつつある。

 東京五輪は延期が決まった。テコンドー協会の新体制の変化で言えば、5月末、副会長の島田慎二がバスケットボールBリーグのチェアマンに就任することが決まった。テコンドーでも理事として関わっていくこととなったが、両立は厳しくなるのではないか。

 いま高橋は現状を踏まえてこう語る。

「私はしっかりと、裁定をし直して欲しいです。私への嫌がらせがあったとしても、テコンドー界全体を良くすることからすれば、それは些末なことです。強化体制の問題を見れば、しっかりと真実を見直すことが必要です。私はもう理事でもアスリート委員長でもありません。何ができるか分かりませんが、それでも声をあげたのは、テコンドー選手のために力になりたいと思ったからです」

(木村 元彦)

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