「どうせウマくないでしょ」から大逆転 横浜郊外フードコートのそば屋に行列ができた“商売の鉄則”

「どうせウマくないでしょ」から大逆転 横浜郊外フードコートのそば屋に行列ができた“商売の鉄則”

梅雨入り後の土曜日のセンター北駅

 ここ2〜3カ月の間に、多くの大衆そば屋・立ち食いそば屋が閉店した。青砥の「青砥そば」、豊洲東雲の「てっちゃん」、田町の「丸長」、御茶ノ水などの「そば新」、春日の「源太郎そば」、六番町の「ゆで太郎」、秋葉原の「六文そば 昌平橋店」、米原駅の「井筒屋」など、契約満了やビルの建て替えなどとともに消えていった。コロナの影響が拍車をかけたのだろう。

 5月25日、東京都の緊急事態宣言は解除されたが、せめて感染者ゼロが1週間続いてからにしてほしかった。これからは自衛で二次感染を防がなければならない。過酷な日々が続きそうだ。

 しかし、飲食店経営者にとっては、そんなことは言っていられない。死活問題である。解除後は今までの未曾有のマイナスをモーレツに回収しないとならないのだ。生き残りと復活への日々が続いていくわけである。

■横浜郊外フードコート、大衆そば屋の実力は?

 郊外にある複合型のショッピングセンターも4〜5月は軒並みクローズ。フードコートももちろん閉鎖されていた。それが5月末から6月に入りようやく再開され動き出したようだ。

 そこで、梅雨入りした6月半ばの土曜日、神奈川県横浜市都筑区のセンター北駅近くにあるノースポート・モールにあるそば屋「二八蕎麦 久右衛門」を訪ねてみることにした。

 午前10時半、ノースポート・モールはまだ買い物客は少なめで、10時から営業しているフードコートもお客さんはちらほら。

■きりっと冷えてコシの強いそば

 さっそく、人気の 「二八蕎麦セット(甲)冷(もり蕎麦+鰺ご飯(小))」(680円)を注文した。待つこと3分くらいだろうか、無線端末にお知らせが来たので、受け取りに行く。そして、6人掛けの大きなテーブルに座って、まず、そばを一口食べてみた。

 きりっと冷えてコシの強い、二八蕎麦は実にうまい。しかも、麺線が長いので、そば猪口はるか上までそばを箸で持ち上げて、つゆにつけていく。辛つゆは本鰹節だろう、じわっと出汁がかおるタイプでこれもよく冷えている。老舗のそばのような雰囲気さえある。

 そして、鰺ご飯は、焼いた鰺がまんべんなく散らされている。ワサビを少しつけて食べてもうまいし、食べ終わったそばつゆやそば湯を入れてお茶漬けにしても抜群にうまい。小といっても十分な量があり、満足感は高い。これがフードコートで食べることができるというのは、なんだかすごく得した気分だ。

■某そばチェーンを成功させた“達人中の達人”

 すると、店長の松本一彦さんがフロアーに出てきて笑顔で迎えてくれた。

 松本さんは「そば処かめや」社長の荒川雄行さんや鰹節問屋の「丸勝かつおぶし株式会社」社長の真辺健治さんを通して知り合った方で、実は某十割そばチェーン店を立ち上げ、成功へ導いた、その世界ではよく知られている達人中の達人である。しかし、話をするとフレンドリーで物腰は柔らかく、とてもチャーミングな方である。

「二八蕎麦 久右衛門」は株式会社越後屋が経営するそば店である。平成13年に虎ノ門でうどん屋として1号店を開店し、その後浜松町店などを立ち上げた。現在はノースポート・モールのほかに、虎ノ門「福禄寿蕎麦」、有明「極麺 たけぞー」などを展開中である。

「二八蕎麦 久右衛門」は2013年にオープンして、今日に至っている。

■「はじめはまったく売れなかったんですよ」

「はじめはまったく売れなかったんですよ」と松本さんは切り出した。

 その理由が実に面白い。従来のフードコートのそば屋は、「旨くない」という先入観がお客さんにあったという。ハンバーガー、カレー、ピザ、パスタ、オムライス、ラーメンなどのメニューが人気の主流だった。

 しかし、徐々に「二八蕎麦 久右衛門」のそばがうまいことが認知されだして、売り上げをじわじわと伸ばしていった。店舗は狭いがフードコート内に出店している店舗の中でも、売り上げは常に上位に入るという。

 しかしながら、コロナの影響は相当厳しかったそうだ。

「昨対で2月まではよかったんですが、3月になり土日休業、4/8〜5/24まで全館休業となり、もう途方にくれました」

■「ああ、開いてた。店がちゃんとあった〜」

 落ち込んでいても仕方ないと、社長の江波戸千洋さんとメニューの開発や再開後の人員にやりくりなどの体制を整え、再開を待っていたそうだ。

 そして、再開すると意外なことがあったと松本さんはいう。

「再開後、嬉しいことがあったんです。いつもは土日にいらっしゃるお客さんが、平日にもかかわらず一斉に駆けつけてくれて『ああ、開いてた。店がちゃんとあった〜』、『こちらのそばが食べたかった〜』、『あの冷麦が食べたかったんだ〜』とおいしそうに召し上がってくださったんです。涙が出そうになりました。いや出ましたよ」

 コロナによって在宅勤務になった方たちが、平日に買い物がてら食べに来てくれたというわけである。

 ショッピングモールに来るお客さんは、「買い物のついでに」フードコートで食べていこうと考える。そんな時、期待しないで食べたそばが予想以上にうまいと、それはある意味、小さな驚きというわけである。

 フードコートでは店とお客さんとのつながりは薄いように思える。しかし、こうした場所であっても、うまいそばを通したお客さんとのつながりが大切であるという、いわば商売の鉄則を実感した瞬間だったという。

■「自家製生冷麦」(400円)を食べていたら、行列ができ始めた

 そして、今年の「自家製生冷麦」(400円)は作り方を変えてすごくおいしいので、是非食べてくださいと松本さんに促されたので、追加でいただくことにした。

 大きめの木桶に氷と冷たい水で〆た冷麦が入り登場した。つゆはイリコ、利尻昆布、それと鰺のアタマの部分を焼いた鰺節を使用し、関西風の薄口醤油で返しを併せている。薬味のしょうが、大葉、ねぎを入れてさっそく食べてみる。この生冷麦はコシが素晴らしく、冷たくのど越しもたまらない。そんな話をしていたら、お店の前には行列ができ始めていた。さすが人気店である。

 松本さんは前回取材した 「丹沢そば本店」 の石井勝孝さん同様、一見ふつうのおじさん(すいません)なのだが、明るくアクティブでへこたれず、洞察力が鋭く、廻りをよく観察し、決断がはやい。しかも、お客さん目線で考え対応している。

■取材中に驚いた“店長の行動”

 会話中、年配の女性がお膳を片付けに来るのをみて、すぐ飛んで行って受け取っている。フードコートでもそうした心遣いが、徐々に伝わっていくのだろうと思った瞬間であった。

「可能ならば、この夏はちょい呑みメニューをもう少し充実させたい。天ぷらやおつまみを増やせば、持ち帰りもできるかもしれないし、新しい客層の獲得にもつながる」と松本さんのアイデアは尽きない。松本さんに再訪を誓い、店をあとにした。また来ようと思う。

写真=坂崎仁紀

INFORMATION

二八蕎麦 久右衛門

住所:神奈川県横浜市都筑区中川中央
   1-25-1 ノースポート・モール3F
営業時間:10:00〜21:00
定休日:なし

(坂崎 仁紀)

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