レビュー偽装も発覚「性犯罪シッター事件」の裏でキッズラインが見逃していた“シッター不適格者”たち【関係者59人が告発】

レビュー偽装も発覚「性犯罪シッター事件」の裏でキッズラインが見逃していた“シッター不適格者”たち【関係者59人が告発】

キッズラインの経沢香保子社長 ©時事通信社

「小児性愛者だと見抜けなかった」キッズライン 関係者59人が告発する“性犯罪シッター連続逮捕”の真実 から続く

 キッズラインに登録する男性シッター2人が、シッター先の子供へのわいせつ行為で相次いで逮捕された事件。キッズラインは事件発覚後、男性シッターの登録停止や、現場への録画・録音機器の導入を発表している。

■ベビーシッターの規制緩和策として民間の研修を認める方向へ

 2020年7月2日、政府の規制改革推進会議は答申を発表し、ベビーシッターの規制緩和策として研修を民間に任せ、オンライン化もしていく方向性を示した。

 この規制緩和は同年3月9日にキッズラインの経沢香保子社長が規制改革推進会議の雇用・人づくりワーキンググループで「民間の私たちのようなきちんと研修をしているところを監査いただきつつ、そういった研修機会を民間に拡大していただけないか」と要望していたものだった。

「認可外保育施設指導監督基準」でベビーシッター業ができる人材は、 保育士、看護師に加え、認定ベビーシッター資格保有者と、「都道府県知事が行う研修修了者」だ。しかし、この自治体による研修の開催頻度が少ないため、民間の研修を認めていくという動きなのだ。

 しかしキッズライン関係者の間では、シッターとして不適格な人物をスクリーニングすべき同社のシッター登録の過程や研修について疑義が生じている。

■シッターの質の担保よりもコスト削減

「 「小児性愛者だと見抜けなかった」キッズライン 関係者59人が告発する“性犯罪シッター連続逮捕”の真実 」では関係者の証言をもとに、キッズラインのわいせつ事件への対応、シッター登録時の面談が対面からオンライン化していった過程について報じている。

 面談のオンライン化については、キッズラインの元社員が「一部社員はシッターの質を担保できないと反対しましたが、社長の『コストがかかる』といった一言でオンライン面談をすることに決まりました」と証言している。

 そして、面談のオンライン化に伴って進んでいったのが、シッター実習のオンライン化だ。

 従来は、面談に合格したシッターに対して、利用者の中から募集した“ママトレーナー”の自宅で実際に子供の面倒を見る「実地研修」を実施していた。そしてママトレーナーが自宅で研修した新人シッターについての初回レビューを書き、利用者はそのレビューを参考にサポート(※子供の世話)を依頼する、というシステムになっていた。

 しかしシッターの近くにママトレーナーがいないケースもあるため、徐々にオンライン化が進められていったという。

 ママトレーナーのIさんが明かす。

■トレーニング回数に応じて“ポイント”がもらえる

「私個人としては、シミュレーショントレーニング(オンラインでの研修のこと)だけでデビューされるのは不安なので全て実地で行っていました。ただ、トレーニングをすると、実地であろうがシミュレーションであろうが、キッズラインの利用時に使えるポイントが付与されるんです。

 回数が増えるともらえるポイントが大きくなることもあり、月8回ぐらいを目安にトレーニングをしてほしいと言われることもありました。手間のかかる実地のトレーニングよりも、オンラインで済ませてしまうママトレーナーの方も多かったのではないかと思います。

 基本的にシミュレーショントレーニングは近くにママトレーナーがいない場合の措置だと聞いていたのですが、2019年9月に、サポーターさんと実地のトレーニングの日程調整をしていたら、途中で『他のママトレーナーさんからオンライントレーニングを提案されたのでそっちにします』とお断りをされることがありました。

 キッズラインに問い合わせると、実地の可能なエリアにママトレーナーがいたとしてもサポーターが希望すればオンライントレーニングに変更も可能だと言われました。サポーターさんも交通費がかからなかったり、移動の手間が省けたりで、オンラインを希望される方も少なくはなかったんだと思います」

 2019年春に選考を受けた、シッターJさんは次のように話す。

「私の家の近くにはトレーナーとなるママさんがいないため、オンラインで研修を受けました。オンライン研修ではテレビ電話で社員さんから『ご家庭に到着したらまず何をしますか?』『この時はどうしますか?』などの質問をされ、それに答えていきました」

 そして、オンライン研修は同時に複数のシッター希望者に対して行われたようだ。

「私の他に5人くらい一緒に研修を受けていたので、順番に指名されて答えていくような形でした」(同前)

 従来の実地研修では、1人のシッター希望者がママトレーナーの自宅で研修を受けていた。しかし2020年3〜4月には、1人のトレーナーが同時に5〜7人のサポーターに対してオンライングループ研修を実施していたようだ。

  ママトレーナーKさんは「運営側からは『シミュトレは慣れてくれば何人か同時にすることも可能です。実際に4人ぐらい同時にされているトレーナーさんもいらっしゃいますよ』と言われました」と証言。また、グループ研修を担っていたトレーナーのうち1人は今年3月まで社員であったことも確認している。

 キッズラインの主導により、“効率化”された実習で2020年3月と4月は1ヵ月のデビュー人数は、外から確認できるサイトだけでも月300人を超える(男性シッター停止後に発表されたデータのため、実際のデビュー確定人数はこれより多かったと思われる)。

■初回レビューに「★は5つ満点の採点」を指示

 オンライン研修を請け負うママトレーナーは、研修後に研修結果を本社に送信し、最初の利用者が依頼の際に参考にする唯一の情報である「初回レビュー」も記入することになっている。この「初回レビュー」について、ママトレーナーはキッズラインからこのような指示を受けていた。

《一般の親御様がご覧になる1件目の口コミです。
【注:トレーニングと分かる表現はお控えください】

・そのサポーターのおすすめポイント
・具体的なエピソード

 など、サポーターさんの良さが伝わりやすく、他の親御様が予約したくなるようなコメントをお願いします。

※合否に関わらず、サポータープロフィールページに即時反映されます。
 ★は5つ満点の採点をお願いします。
※ただし、明らかに合格するには不適格と感じられる方には多くの文章も難しいと思いますので、ご挨拶程度の簡単な文章でも差し支えありません。》

■適性に疑問のあるシッターが合格しているケースも

 もちろん元から評価が高いシッターは丁寧なレビューがついているものが大半だろう。しかしこの指示通りに書くと、たとえシッターとして不適格な人物でも、その情報が利用者に共有されることはないということだ。別のママトレーナーLさんからは次のような証言がある。

「子供が突然部屋を出て行ってしまっても後を追わないとか、子供の機嫌が悪くなると諦めたような態度を取る人もいます。備考欄に『この人には安心してお任せできない』と書いたのにもかかわらず、その後会社から何か聞かれる事もなく、合格してお仕事を開始されている方もいました」

  会社側は7月1日のお知らせで《当社運営スタッフが、ママトレーナーから運営側へ報告されるレポートを確認した上で、合否判定を行っているため、実質的には評価が「5」で問題ないと判断されたサポーターが合格する運用となっております》と説明している。

 ママトレーナーの評価能力にも幅があり、合否は運営側で総合的に判断しているということだろうが、いずれにせよ初回レビューの内容はママトレーナーの実際の評価と直結していなかったのだ。

■“レビュー偽装”にキッズラインの回答は……

 また、中には “レビュー偽装”を疑わざるを得ないレビューもあった。

 たとえばこのキャラクターのアイコンのレビュアーX氏は、4月20日に北海道から福岡までの研修を担当し、8件のレビューを書いている。驚くべきことに、佐賀県と大阪府のシッターに3歳の娘のサポートを頼み、それぞれ「子供部屋から楽しそうな声が聞こえてきました」と書かれている。

 キッズラインは、著者が6月30日にこのレビューについて指摘したのを受けて、7月1日にすべてのシッターの初回レビューを非表示にしたうえで、公式サイトで次のように記載している。

《ママトレーナーのレビューは応募サポーターが合格した際には公開されるため、評価が低い場合に応募サポーターとママトレーナー間でのトラブルが発生することも想定し、評価を「5」として記載するように依頼しておりました》

《シミュレーショントレーニングとは、トラブルへの対応力等を確認するためのロールプレイ型の研修です。シミュレーショントレーニングは1対1を基本としていますが、状況により複数で行うこともございます。現在は3名を上限にしております。

 レビューについては、ロールプレイの内容に基づいて記載するよう運営より依頼していたため、実際に会ったことのないお子様への対応が、あたかも実際に接したかのように表現されておりました。上記に関しましては、利用者の皆様に実態とは異なるレビューを提供していたことを大変重く受け止め、以下改善策を実施します》

■「IT技術を活用することで、大幅にコストの削減を実現」とPR

 2020年3月9日に開かれた政府の会議、規制改革推進会議のワーキンググループで、経沢香保子社長はある資料を配布している。そこには「マッチング費」「請求・決済方法」「運営管理費」を「IT技術を活用することで、大幅にコストの削減を実現」と書かれている。

 面談や実習をオンライン化して、1人のレビュアーが北海道から佐賀県までの初回レビューを書くことで「マッチング費」や「運営管理費」を削減したということなのだろうか。

■「キッズラインはトラブル対応も全然してくれません」

 キッズラインで家事代行を頼んだある利用者Mさんは、次のように話す。

「キッズラインはトラブル対応も全然してくれません。今年3月ごろ、私が子供を見ている間に食事の支度をしてもらったときに、物の破損や紛失があったため、弁償してくださいと言ったんです。最大5億円の賠償保険に入っていることを安心材料の1つとして売りにしていて、保険でカバーされると思ったので。

 でもシッターさんからは『本当に私がやったのでしょうか?』と言われ、キッズラインに連絡したのですが、事故報告書をシッターさんが出さないと保険がおりないので直接連絡をとってくださいと言われました。

 でも、補償してほしいと言ったことに腹を立てて、子供に嫌がらせをされたらどうしよう、家を知られているので何かされたらどうしようかと考えると怖くて、直接連絡をとるのは嫌だと言ったのですが。キッズラインに手数料を支払っているのに、こんな時でもシッターに直接交渉しないとダメなんでしょうか」

■CtoCプラットフォームでも質の管理が重要である理由

 確かにプラットフォーマービジネスには、一般的に何かあったときの法的責任を負わない代わりに、利用者も費用が抑えられるという側面はある。しかし、CtoCプラットフォームであれど、表向き当事者同士の責任とは言いながらも、質の管理やトラブル対応についてもかなり気を配っている企業もある。

 ベビーシッターではないが、キッズラインと同様に、サービスの提供者を雇用することなく、個人事業主として、ユーザーとマッチングするプラットフォーム型の家事代行サービスを提供している「タスカジ」和田幸子社長は次のように話す。

「ユーザーからハウスキーパーへのクレームが来て、それをきちんとヒアリングして情報を蓄積するのはとても大切な作業です。マッチングは質の管理に法的責任を持たないことにはなっていますが、ユーザー体験をそこなえば大切なユーザーを失うことになるので、質の管理を行うインセンティブは運営側に働いていると思っています。

 また、質の管理に力をいれることはユーザー満足度を上げるだけではなく、『デビュー後も何かあったらすぐに運営側から連絡が来て仕事ぶりをどうやら把握されている』『ここのユーザーは運営側と距離が近いので、ちょっとした違和感ですぐに相談してしまいそう』という場作りを心がけることで、犯罪者予備軍に対し『寄り付きたくない』気持ちを持たせる効果もあると思います」(タスカジ和田社長)

■他のシッターマッチングサービスの対策は?

 バイリンガルのシッターをマッチングする「ケアファインダー」では、月額利用料を取る形式でキッズラインと課金モデルは異なるが、事前に許可を得て、シッターと利用者のメッセージのやりとりを運営側が見られるようにし、トラブルが発生した場合には介入しているという。

 ケアファインダーのモス恵社長は「利用者とシッターがいつでも弊社に連絡できる体制にしています。とくに初めての利用者の場合はシッティング前とシッティング後に直接電話で連絡し、何か不明点はないか、スムーズにシッティングが行えたかの確認をしています」と話す。

 そのほかにも「スマートシッター」はマッチングサービスからスタートしたが、2年前に保護者と会社、シッターと会社がそれぞれ契約を締結する形に変更し、ほぼ派遣型のベビーシッターサービス同様の運営に切り替えている。

 米国のCtoCの保育系サービスでは、マッチングサイトで契約相手を探し、連絡を取ったり面談の予約をするなどのサービスを利用する場合に月額課金をし、実際のシッター等のサービスの利用については手数料を取らないという形態も多い。

 リスクについて、たとえば米大手シッターマッチングサービス「Care.com」では「スクリーニングはしておりますが、ご家庭がご自身で慎重に審査をすることを推奨します」といった表記をするなどして、シッター選びのポイント周知をしている。

■キッズラインに手数料を払っているのに……

  しかし、キッズラインは利用者から20%(単発の場合。定期利用は10%)、シッター側から10%の手数料を徴収している。安心安全を謳い、ある程度の手数料を徴収しているからこそ、利用者もそれ相応の審査がされていると思い、トラブル対応も求めるのだろう。

 キッズラインに事実関係について文書で確認したところ、次のような回答があった。

「従前お伝えしていますとおり、弊社としては、全ての個別取材に対応することはいたしかねます。誠に恐縮ではございますが、今回のご質問に対しても、直接ご回答差し上げることはできかねますのでご了承ください」

「弊社といたしましては、今後も改善点の把握と安全対策の実行に努めてまいります。また、必要かつ適正な情報に関しては、積極的に情報を開示すると共に、ホームページにより公表してまいります」

 従来、派遣型の家事代行やシッターは、同じ人に頼みたくても直接のやりとりができなかったり、急な必要性に応じられなかったりと融通が利きづらかった。

 マッチングサービスでは、家事であれば、整理整頓のプロやレストランでシェフをしていた人が料理の作り置きをしてくれたり、シッターであればバイリンガルシッターに英語も教えてもらえたりと、 利用者が働き手の個性を見て頼む人を選ぶことができるという強みもある。キッズラインにも、信頼を積み重ねたシッターやそれに助けられた利用者も多かっただろう。

? 今回の事件を受けてマッチング型はダメだと言うのは早計だ。ただ、言えることは、善良な働き手たちのためにも、その質の管理と評価システムの機能は大事であるということ。そしてコストを下げながら、手数料がしっかりと入ってくるモデルで数字追って上場を目指したい事業者は、少なくとも子どもの命や一生にかかわる保育やケア領域以外の分野を選んだほうがいいのではないかということだ。

(中野 円佳/Webオリジナル(特集班))

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