「結婚してください。一緒に住もう」甘い言葉かけていた男は、いきなり鬼の形相に豹変した

「結婚してください。一緒に住もう」甘い言葉かけていた男は、いきなり鬼の形相に豹変した

※写真はイメージ ©?iStock.com

 福岡地裁小倉支部の第204号法廷では、3つの事件で起訴された松永太と緒方純子に対して、2番目と3番目の事件(監禁致傷及び、詐欺・強盗)についての冒頭陳述が続けられた(冒頭陳述の引用は〈 〉内に記載)。

 なお、同事件の被害者である原武裕子さん(仮名=公判内では「被害者乙」と呼称)は、事件を思い出したことで重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、この公判が開かれているときは入院中だった。

■裕子さんの夫は、被害者少女の父の同級生

 裕子さんが松永と知り合ったのは1995年8月頃。裕子さんの夫が、監禁致傷の被害者である少女・広田清美さん(仮名)の父・広田由紀夫さん(仮名)と中高の同級生だったことから、由紀夫さんが松永を夫婦に紹介したのである。松永はそこで「村上博幸」との偽名を名乗っており、由紀夫さんは松永について次のように説明していた。

「村上さんは京都大学を卒業し、今は××塾(予備校名)の講師として月収100万円を得ているが、将来は物理学者になる逸材だ」

〈そして、被告人松永は、その後も、由紀夫や被害者甲(清美さん)を伴うなどして被害者乙方を訪問し、その際、同被害者に対し、手土産を持参したり、その服装や容姿を褒めちぎるなどして、如才無い好人物を演じ続けた。

 その上で、被告人松永は、同年11月上旬ころ、被害者乙から夫の酒癖の悪さにつき愚痴をこぼされたことを巧みに利用し、同被害者に対し、「我慢する必要はない。離婚すればいい。」などと申し向けて離婚を促した〉

■離婚を促し、デートに誘う

 松永は裕子さんに対して好意を抱いているように装い、12月20日頃からは彼女をデートに誘うようになる。

〈デートの際には、同被害者に対し、「寺を借りて塾生を一定期間預かり集中講義をすると高収入が手に入る。」「同僚講師は、生徒の親から現金を賄賂のような形で受け取っているが、自分はそんなことはしない。」旨、さらに、電話では、同被害者に対し、「今、福井の寺で塾生の特訓中だ。休憩時間なので電話をかけている。」旨、その虚言癖による口から出任せの嘘を言い続け、上記詐称した経歴が真実であるかの如く装い、同被害者との交際を続けた〉

■求婚し、離婚届を提出させたうえ……

 また、初デートから間もない12月25日のクリスマスには、松永は裕子さんにペアウォッチを購入することを提案。互いに相手にプレゼントしていた。そして翌96年になると、松永はさらに積極的に、裕子さんへのアプローチを仕掛けていく。

 1月19日頃にドライブ中の車内で、松永は「結婚してください。一緒に住もう。子供さんの面倒は私がきちんと見ますから」と、裕子さんに求婚した。この時点で3人の子供がいた裕子さんは、夫と別れて松永を選ぶ決断を下す。そして彼女は2月に子供たちを伴って家を出ると、北九州市内の実家に身を寄せたのである。

〈被告人松永は、その後も引き続き、被害者乙に対し、「将来は小説家として成功したい。実家は広島の村上水軍の当主であるが、兄に継いでもらうつもりだし、実家の援助は受けたくない。」旨の虚言を申し向け、その将来性を期待した同女に、「いざとなったら自分が水商売のアルバイトをするから、お金のことは気にしなくて良い。」とまで言わせた上、同年4月26日、夫との離婚届を提出させた〉

 松永は離婚した裕子さんに対し、「女性は離婚したら半年過ぎないと結婚できないから、その期間が過ぎたら入籍しよう」と口にして、彼女の結婚への期待を煽っていた。

■「今産むと私生児になる」と堕胎させ、交際は口止め

 そうしたなか、5月になると裕子さんが松永の子を妊娠していることが判明する。そのことを彼女に告げられた松永は、「いま産むと私生児になる。今回だけは堕ろしてほしい」と言って堕胎させている。そして、「お互いの両親に紹介するまでは、付き合っていることは内緒にしていこう。きちんと籍を入れるまでは人に言わない方が良い。あなたのためにもその方が良い」とふたりの交際について口外しないよう命じ、後の犯行が発覚することを妨げるための予防線を張った。

 続いて、結婚後の新居として裕子さんに北九州市内のマンションを借りさせるなどしていた松永は、彼女により大きな結婚への期待を抱かせるため、「姉を紹介する」と言い、7月20日頃に、同市小倉南区にあるうどん店で、緒方を実姉として引き合わせた。

「森田です。弟のことをよろしくお願いします」

 そう言って「村上博幸」を名乗る松永の姉「森田」を装った緒方は、その日の夜に裕子さんに電話をかけ、「弟に電話番号を教えてもらった。今度子供を紹介する」と話している。ちなみに緒方は、その4カ月前である3月に松永の次男を出産しており、2児を抱える身だった。

■「おカネが必要だから用立てて欲しいんだけど」

 “姉”の登場で舞い上がる裕子さんに対し、松永と緒方が行動に出たのはその9日後のことだ。7月29日頃、先のうどん店にふたりで裕子さんを呼び出すと、松永は切り出した。

「自分は小説家としてやっていくつもりだ。一緒に住む家を探したり、当面、一緒に生活していくためのおカネが必要だから用立てて欲しいんだけど」

 そして松永は消費者金融数社のリストを書いた紙を見せながら言う。

「こういうところがあるんだけど。借りてこいとは言わないけど、できれば借りてきて欲しいんだけど」

 そこに緒方が畳みかける。

〈同被害者に対し、「こういうことは全部、弟に任せとったらええんよ。心配はいらんから。」などと、言葉巧みに嘘を言い、同被害者に婚姻生活に必要な資金名目で現金を提供するよう要請し、同被害者をして同資金は真実被告人松永との婚姻生活に必要な資金であると誤信させてこれを承諾させ、被告人緒方が、同被害者をして消費者金融会社から借り入れさせた〉

 裕子さんが消費者金融で借りた現金のうち、7月30日に150万円、8月1日には100万円が、緒方に手渡されていたという。

■新居を探し、賃貸を申し込み

 さらに松永は、裕子さんに対して「姉と仲良くなってもらいたいから、一緒にマンションを探して欲しい。広島の実家に近い新幹線沿いの新下関、小郡、徳山(いずれも山口県)付近で新居を探して欲しい。鉄筋造りの2階以上で、2DKの大きさの角部屋が良い」と頼んだ。そのため裕子さんは緒方とともに物件を探し歩くのだが、見つけた物件に対して松永はことごとく難癖を付け、なかなか決定しようとしない。

 9月13日になり、ようやく松永が了承したのは、最初に求めた山口県内の新幹線沿いにあるものではなく、北九州市小倉南区の物件だった。とはいえ、裕子さんはそこでの松永との新婚生活を期待して、『曽根アパート』(仮名)20×号室の賃貸の申し込みをした。

 それから10日後の23日には、松永はまたしても裕子さんに金策を願い出る。

「小説家としてやっていくので、当面の生活資金が足りない。まだおカネがいるので借りてくれないか」

 すでに250万円を松永らに提供していた裕子さんは、そこでさらに借金を重ね、翌24日に110万円を渡した。

 ここまでが、3番目の事件となる詐欺罪の犯行状況として検察側が挙げた内容だ。そこからは2番目の事件である、監禁致傷罪についての犯行状況が明かされていく。

■緒方が子どもを連れて『曽根アパート』へ

〈被告人松永は、その後、被害者乙に対し、「長女は、前夫が可愛がっていたから前夫に渡そう。」「長男は、佐賀の全寮制の中学校に入れるから、受験勉強のために塾を続けさせた方が良い。」などと申し向け、その長女は前夫に引き渡し、その長男は実家に預けたままにすることを納得させた。

 その上で、被告人松永は、平成8年(96年)9月25日、被害者乙に対し、四畳半和室及び六畳和室並びに台所等からなる2DKの間取りの『曽根アパート』の賃貸契約を締結させ、同年10月21日ころ、同被害者を二女(当時3歳)とともに『曽根アパート』に転居させ、同被害者との同居を開始した〉

 裕子さんと初めて同居した日の夜、松永は彼女に言う。

「早く籍を入れよう。当分は家にこもって小説を書くけど、迷惑かけるね」

 ついに将来の婚姻相手との同居生活が始まる。裕子さんが喜んだのも束の間。彼女が予想もしていなかった出来事が起こる。翌22日に、松永の姉になりすます緒方が、4歳の長男と0歳の次男を連れて『曽根アパート』に押しかけてきたのだ。そのとき松永は次の説明をしていた。

「実家の母が死に、姉は母堂様になったので、六畳和室で子供たちと一緒に寝る」

■松永がいきなり鬼の形相に豹変

 その結果、裕子さんと3歳の娘は四畳半の部屋に追いやられ、松永は“姉”の緒方や子供たちと同じ部屋に寝ることになった。また、同時期に松永は裕子さんに「姉に管理してもらうので、通帳や印鑑は姉に渡しなさい」と告げ、当時北九州市内のホテルに勤めていた裕子さんの、銀行口座に振り込まれる給料を、みずからの管理下に置くよう仕向けている。

 裕子さんは数多の出来事に戸惑いを感じてはいたが、これらは一過性のもので、やがて姉らは出ていくだろうと考えていた。そのため現状を受け入れ、普段通りに仕事に出かけるという日々を送った。

 それから1カ月あまり経った10月下旬。裕子さんの離婚から半年が経ち、ようやく入籍できる時期になった。だが、松永は彼女と結婚する素振りを一向に見せない。裕子さんが不満を募らせていたある日、松永はいきなり豹変する。それは彼女が、これまでに一度も見たことのない鬼の形相だった。

(小野 一光)

関連記事(外部サイト)