“女性の人権守護者”から一転、“セクハラ容疑者”に……自殺したソウル市長の手法

“女性の人権守護者”から一転、“セクハラ容疑者”に……自殺したソウル市長の手法

文在寅大統領とは司法研修の同期 ©共同通信社

 韓国の朴元淳ソウル市長(享年64)が7月10日未明、市北部の山中で遺体で発見された。遺書には「全ての方々にお詫びする」「ただ苦しめることしかできなかった家族に対し、ずっと申し訳なく思っていた」などと書かれていた。

 自殺の原因とみられるのが、8日に元秘書の女性が警察にセクハラ被害を訴えたことだ。次期大統領の候補だった朴氏の疑惑は、警察当局から大統領府にすぐさま報告され、衝撃が走ったという。その報告の過程で朴氏の耳にも入ったようで、翌9日の公務をキャンセルし、失踪していた。

 朴氏だけでなく、進歩(革新)系有力政治家が、最近、立て続けにセクハラ騒ぎを起こし、安熙正元忠清南道知事、呉巨敦元釜山市長は職を辞していた。

「朴市長のアイデンティティーは女性の人権の守護者というイメージに他ならない。社会的な弱者に寄り添う人物として尊敬も受けてきた。加害者としての疑惑を受け、死を選ぶ選択しかなかったのだろう」(与党関係者)

 人権派弁護士である朴氏の名声を確固たるものにしたのが、1993年に弁護を引き受けた「ソウル大助教授セクハラ訴訟」だ。6年に及ぶ法廷闘争の末、加害者の教授に損害賠償を命じた判決を勝ち取った。

■朴氏の死は文在寅大統領にどのような影響が?

 2011年のソウル市長選で初当選した朴氏は3期目で、直近の支持率は6割を超えていた。市葬になった朴氏の死去を巡り、韓国世論は大きく割れた。主に市民団体や与党は、朴氏の業績をたたえる一方、野党や女性団体はセクハラの容疑をかけられた人物を市葬としたことを批判している。

 朴氏の政治手法は、社会的弱者に寄り添う一方、敵をつくり激しく攻撃するというもので、慰安婦や徴用工の問題では、日本の責任を厳しく追及した。この手法が多くの政敵を作った。

 朴氏の死去と呉市長の辞職によって、来年4月、ソウル市と釜山市で市長選が行われる。22年5月に任期を終える文在寅大統領の次を占う重要な選挙戦だ。保守系がこの2つの選挙に勝利すれば、大統領選に向けて勢いをつけることになる。

 朴氏は、与党の大統領選候補者として、李洛淵前首相や李在明京畿道知事らに水をあけられていた。ただ、朴氏を支援する国会議員や市民団体の政治力は強固なものがあり、今後、与党内で朴氏の支持勢力の奪い合いが起きそうだ。

 韓国では現在、不動産バブルを抑えきれない政府への不満が高まり、文在寅大統領の支持率が下落傾向にある。今回の事件が「泣き面に蜂」になるのかどうか、韓国政界は固唾を飲んで行方を見守っている。

(牧野 愛博/週刊文春 2020年7月23日号)

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