「吉原では1日6〜7万稼げていたのに蒲田では2万円」……“夜の街”で働く人々の言い分と懐事情

「吉原では1日6〜7万稼げていたのに蒲田では2万円」……“夜の街”で働く人々の言い分と懐事情

新宿・歌舞伎町

 コロナ感染再拡大の“震源地”としてやり玉に挙げられている「夜の繁華街」。そこに集うホストやキャバ嬢、風俗嬢は、悪者扱いされ、リスクも高い中で、なぜ働き続けるのか。歌舞伎町や池袋を取材すると、困惑や悲鳴、開き直り……様々な言い分が聞こえてきた。

◆ ◆ ◆

「夜の街、夜の繁華街への外出を控えてほしい」

 2カ月ぶりに都内で新型コロナウイルスの感染者数が100人を超えた7月2日、小池百合子都知事は語気を強めて東京都民に訴えた。

 コロナ第2波の戦犯とされているのが「夜の街」だ。その後、7月3日の都内の新規感染者数は124人、4日には131人を記録。3日の感染者のうち、約半数の58人が「夜の街」で感染したとみられる。

 都はホストクラブやキャバクラなど、接待を伴う夜間の飲食店で感染した人を「夜の街での感染者」と定義している。緊急事態宣言が全面解除された5月25日から7月1日までの、都内の感染者1145人中、「夜の街」関連の感染者は446人。そのうち、日本有数の歓楽街・歌舞伎町がある新宿区が全体の7割を占めた。

 さらに、さいたま市や宇都宮市などのキャバクラでも集団感染が発生。夜の街で何が起きているのか――。

■クラスターが発生するのは時間の問題だった

 歌舞伎町で働く現役のホストは、ホストクラブの営業形態そのものが「“3密”を絵に描いたようなもの」だと解説する。

「ホストクラブは二部制になっており、一部営業は夕方から夜中1時頃まで。早番の風俗嬢や一般のOLで賑わい、出勤するホストの数も多い。二部営業は日の出から昼まで。朝方まで働いたキャバ嬢やガールズバーの女の子が泥酔状態で訪れる。いずれもボトルなどを卸すとホスト全員がお客さんの卓を取り囲み、口角泡を飛ばしてマイクパフォーマンスで盛り上げます」

 男女が入り乱れる濃密な空間にクラスターが発生するのは時間の問題だった。

 歌舞伎町の老舗ホストクラブで感染者が出たのは、4月上旬のこと。その後、コロナはキャバクラやガールズバーに波及していく。5月以降、歌舞伎町の高級キャバクラ「A」や池袋のショーキャバクラ「F」などで感染者が発覚したのだ。

「コロナが発生した歌舞伎町のキャバクラは、感染者の濃厚接触者だった同僚キャバ嬢を系列店で働かせるなど、まるで危機感がなかった。緊急事態宣言中でも一切休業せず、フェイスシールドやマスクの着用はおろか、消毒すら行わない“闇営業”の店も少なくなかった」(飲食店関係者)

 休業することなく店を開け続けていたホストクラブ「X」のホストが語る。

「一応、コロナ対策はしていましたよ。シャンパンタワーをフェイスシールド付けたままでやるときは半分ギャグ。客の検温を義務付けているけど、お客さんは泥酔してやってくるので、37度以上の子も少なくない。『あたし、コロナ陽性だよ』という女の子が店内で騒いだりしていて、カオス状態のときもあった」

 6月6日には歌舞伎町でクラスターが発生したと、初めてメディアに報じられる。都が発表した感染者数26人のうち、12人が同じホストクラブの従業員だったことが判明したのだ。

■「大丈夫っしょ。コロナは風邪みたいなもの」

「“推し”(指名ホスト)が感染したことが分かったのは6月末。私が『最近のコロナ感染、ヤバくね?』って話を振ったら彼が『大丈夫っしょ。4月頃、俺も1回罹ったけど大丈夫だったし。コロナは風邪みたいなもの』って言われて。(感染から)2カ月経っているので、私も『まぁいいか』って思った」

 そう話すのは川崎・堀之内のソープで働くシングルマザーのA子さん(22)だ。

 新宿のホストの感染者数が急増しているのには別の理由もある。6月中旬、新宿区が区内在住のコロナ感染者に対し、10万円の見舞金を支給する方針を打ち出したからだ。

「積極的にPCR検査を受けたほうが得ですよ。感染していても俺たちは若いから症状なんて出ないし、それで10万円が貰えるなら受けない理由はない。保健所も『ホストです』というだけで優先的に検査してくれる」(ホストクラブ関係者)

 新宿区役所の担当者が説明する。

「感染拡大防止策の一環としてやっているものです。7月中旬〜下旬に該当者(感染者)に郵送でご案内をして、申請書が役所に返送され次第、8月中旬〜下旬にかけて順次振り込む予定になっています」

■彼らが夜の街から離れない理由

 しかし、ホストやキャバ嬢、風俗嬢はなぜ、コロナの感染リスクを承知の上で、夜の街から離れないのか。

 歌舞伎町のクラブで働くホステス歴25年以上のB子さん(40代)は、沈痛な面持ちでこう語る。

「私たちだって明日を生きるために命懸けで働いているんだけどな。巷では『普段いい思いをしているんだから営業停止にしちゃえばいい』と言われているけど、実際私たちの生活は質素ですよ。お客さんのいない40代は時給1800円からスタート。シングルマザーや親の介護、各々事情があって生活費の補填をしたいからやっている場合がほとんどです」

■昼間の仕事を見つけようと面接にも行ったけれど……

 別の40代キャバ嬢C子さんもこう続ける。

「店が休業になって、慌てて昼間の仕事を見つけようと、あらゆる業種の面接に行ったんです。でも、十数回受けて全部不合格。パソコンや英語ができれば話は別だけど、今の時期は採用の枠が本当にない。知人のホステスはベルトコンベアーが流れる工場で単純作業をするパートを始めました。時給は900円。妻に先立たれた後期高齢者を探して、30〜50万円のお手当を貰ってエッチをしたり、山にドライブに行ったりする“パパ活”に励む子も多い」

 池袋在住のデリヘル嬢・D子さん(40代)は家からデリヘルの待機所に通う手段をタクシーからママチャリに替えた。

「週5回の勤務で貰えるのは月15万円以下。お茶を挽くかもしれないという不安が常にあるので趣味のラーメン食べ歩きを断ち、ほとんどマクドナルドです」

■2月は吉原・千葉の栄町、5月は蒲田、と漂浪の生活

 昼間はアパレル職、夜は池袋の風俗店で働く横浜出身のE子さん(21)は、2月以降、都内近郊の色街を漂浪する生活を送っていたという。

「2月は吉原のソープに在籍。でも、客足がだいぶ落ちたので千葉の栄町に出稼ぎに行きました。5月頃は大田区蒲田のデリヘルに勤務。その店では、レベルの高い女子大生やキャバクラ嬢が大量に新規参入していて驚きました」

「ナインティナイン」の岡村隆史(50)が“女性蔑視発言”をしたのは、4月23日の深夜ラジオ「オールナイトニッポン」。「コロナが終息したら絶対面白いことあるんですよ。美人さんがお嬢(風俗嬢)やります。短時間でお金を稼がないと苦しいですから」と話し、物議を醸したのだ。

「まさに岡村さんが予言していたような状態でしたね。吉原では1日6〜7万は稼げていたのに、コロナが深刻化する中で競争率がどんどん上がって、蒲田では1日2人しかお客さんが付かない日もザラ。2万円稼げれば良いほう」(同前)

 風俗で働く女性たちのための無料生活・法律相談サービス「風テラス」発起人の坂爪真吾氏が解説する。

「去年1年間の相談件数は874件でしたが、今年3月以降に急増し、3〜6月で1500件以上の相談がありました。今年7月上旬ですでに1800件超で、わずか半年で2倍以上。相談内容で一番多いのは『家賃を滞納してしまっている』『食べるものがない』などの生活困窮です」

 相談者は20代後半が最も多く、4〜5割は東京在住の女性だという。

「首都圏在住で地方に出稼ぎに行くケースもありますが、(ネット上の)掲示板などで『東京からコロナを持ち込みやがって』などとお店と源氏名を晒された事例もありました」(同前)

■「ホストの初回5000円は安い」

 こうした風俗嬢やキャバ嬢はホストクラブの上客でもあり、無自覚のまま各地に感染を拡大させている可能性が高い。前出のA子さんがため息交じりに語る。

「ニュースでは『夜の街、夜の街』って、くだらねぇなって感じ。ホストとか夜の街の人はちゃんと検査しているから感染者が増えているだけで、『昼職の人も検査してから文句言えよ』って思う。6月はホストが『家賃も払えない』って言うから可哀想になっちゃった。結局、先月はホストに150万くらい使いました」

 なぜ彼女たちはコロナ禍の状況下でもホストクラブに通い続けるのか。ある風俗嬢は無邪気にこう話した。

「コロナ全盛期のマスクは1箱5000円以上だったでしょ。でも、ホストの初回5000円は安い。今は同じホストを指名している昼職のライバルがいなくなってラッキー。担当を独り占めするチャンスですよね」

 7月上旬の週末、ホストクラブが密集する歌舞伎町のラブホテル街の四隅には私服姿のホストが佇み、界隈を練り歩く女性たちに「初回どうですかー」と忙しなく声を掛けていた。

 だが、各店の懐事情をつぶさに見ていくと、一見華やかな夜の風景は一変する。ホスト歴9年のF氏(34)が打ち明ける。

■毎回40〜50万円落としてくれた“エース”の女医さん

「僕の“エース”(一番の太客)の女医さんは、かつて店に来るたびに40〜50万円、月2回で80〜100万円を落としてくれていた。一昨年12月の誕生月は、1カ月に3回来てくれてシャンパンタワーで450万円。ルイ13世(ブランデー)で250万円。その他諸々で合計1100万円も使ってくれた。でも、今年1月頃から来なくなり、2月には『もう歌舞伎町には行けない』と宣言された」

 それでも“エース”は3月に一度来店し、70万円を支払っていったという。

「彼女のような医療従事者が太いお客さんだった僕の売上は、今年はその70万円のみ。ナンバー2の役職にある僕ですら、この惨状です」(同前)

 店は緊急事態宣言を受け、4月上旬から5月中旬まで休業したという。

「休んでいる間は当然、給料ゼロ。その後、毎日出勤していても、客が来ないと月給は18万円ほどです。そこから家賃、携帯代、ヘアメイク代、研修旅行の積立金など7〜8万円を引かれると約11万円。さらに指名本数ノルマなどの罰金を15万円くらい引かれるので給料はマイナスです。

 ホスト全体のうちの8割は、月3万円しか手元に残らない。若い子は西新宿や大久保のアパート、通称“タコ部屋”に3〜4人の集団で住まわされるんだけど、その家賃が月3万円。彼らは金も無いし、店に借金もあるので、逃げようにも逃げられない」(同前)

■熊本の風俗に出稼ぎして50万稼いだ

 夜が更ける頃、前出のA子さんはこう話した。

「6月末、熊本の風俗に1週間出稼ぎに行って50万稼いだんです。ホストの売掛金(ツケ)が48万あって、今から払いに行かないといけないんですよ。熊本で稼いできた分は、それで全部消える。担当(ホスト)がケアしてくれないと『何のために働いているんだろう』って思っちゃうけど、少しの時間でも電話とかしてくれると、また風俗を頑張れますね」

 彼女は仄かに頬を赤めると、足取り軽く夜の街の深みに飲み込まれていった。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年7月16日号)

関連記事(外部サイト)