有料会員600万人で“独り勝ち” 「ニューヨーク・タイムズ」に死角はあるか

有料会員600万人で“独り勝ち” 「ニューヨーク・タイムズ」に死角はあるか

マーク・トンプソンCEO ©共同通信社

 米国リベラル系メディアの代表格として知られるニューヨーク・タイムズ(NYT)紙の勢いが止まらない。2020年1〜3月期で有料電子会員は、過去最高の46.8万人増となった。また月額15ドルだった電子版の購読料を17ドルに初めて値上げした。

 4月末時点で計600万人の有料会員のうち、電子のみの購読者は400万人を超す。日本で最もデジタル化に成功しているとされる日経新聞でも有料会員数は70万人。この数字がいかにすごいかがわかる。

 NYTのマーク・トンプソンCEOは「広告収入に依存せず有料電子会員を増やしてきた戦略が、新型コロナウイルスの中で実った」とコメントしている。

 成功の要因は、トランプ政権への鋭い批判と、デジタルに即したコンテンツ作りだ。トランプ氏がコロナ対策に遅れたことに対しては、1月下旬からトランプ氏が専門家の意見を軽んじていたことを政権の内部資料を基に明らかにした。

 また2月下旬、トランプ氏が「感染者は15名しかいない。すぐにゼロに近づく」と言っていたが、2000人の見えない感染者が主要都市に存在することを様々なデータを駆使し指摘。解析結果をビジュアルで示す異色のスクープを放った。

 トランプ氏に嫌気が差しているリベラル層は、NYTのクオリティの高い記事で溜飲を下げているのだ。

■独り勝ちに警鐘を鳴らす声も

 そんなNYTの勢いを象徴的に表すのが、6月下旬にアップル社のニュースアプリから、NYTが撤退すると発表したことだ。顧客と直接接点を築き利益率を高める戦略と合わなかったと説明するが、自社の経営基盤に自信があるからこそできる決断といえる。

 一方でNYTの独り勝ちに対し、警鐘を鳴らす声もある。新興メディア、バズフィード・ニュースの編集長を8年間務めたベン・スミス氏は「ウォールストリート・ジャーナルとワシントン・ポスト、さらに250の地方紙を足した数よりNYTの有料電子会員が多いのは健全ではない」と指摘。しかしそのスミス氏も、3月からNYTにコラムニストとして参画し、「屈服した気分だ」と述べた。

 過度なリベラル路線が問題視される向きもある。7月中旬にはオピニオンコラムニスト兼編集者のバリ・ワイス氏が同僚からの嫌がらせにあったとして退社する出来事があった。同氏はNYTの中で右派寄りとして知られるが、「社内では異論が許されず、私はナチストや人種差別主義者と呼ばれた」(同氏)という。

 NYTは2025年に購読者1000万人への到達を目指しているが、さらなる成長に向け、大きな岐路に立たされている。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年7月30日号)

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