「姓を変えたらナメられる」「“普通”の結婚でよくない?」名字を変えたくない女性がぶつかった壁

「姓を変えたらナメられる」「“普通”の結婚でよくない?」名字を変えたくない女性がぶつかった壁

©パレットーク

 結婚するカップルのうち、夫が妻の名字に変える割合は約4%。

 現在の日本では夫婦別姓を選択することはできず、必ずどちらかの名字に変更する必要があります。「選ぶのはどちらの姓でもいい」という決まりですが、実際には9割以上の女性が名字を変更しています。

■両者とも名字を変えたくないカップル、どうなってしまうの?

 名字を変えるということは、煩雑な手続きを伴い、費用もかさみます。旧姓での仕事の実績がある場合には、名字が変わることでそのキャリアとの紐付けが難しくなってしまうこともありますし、通称名を使えるとしても不便や負担は決して少なくありません。

 また、名字を自分のアイデンティティの一部と捉えている人も多く、そうした人にとって"名前を失う"ということは、精神的な苦痛も大きなものです。

「結婚後も名字を変えたくない」と感じる理由は人それぞれですし、もちろん、名前を変えることに抵抗のない人もいます。でも、夫婦別姓が選択できない今の日本で、両者ともに名字を変えたくないと考えている場合どうなってしまうのでしょうか?

 今回は、編集部メンバーの友人でもある女性から聞いた実話をもとに、結婚を目前に控えたカップルが直面した問題と、“普通の結婚”について考えていきます。

 話を聞いたのは、コロナが流行する以前、同世代で開いた飲み会でした。20代後半にもなると結婚や出産の話が盛り上がるものだなあ。と思っていたときに、最近結婚を決めたと報告してくれていたひとりの友人が「私、やっぱり自分の名字を捨てたくないんだ。最初は変えてもいいかなと思ったんだけど、なんかやっぱりモヤモヤしちゃって、あとから話し合ったんだけど…」と、ポツリポツリと話し出してくれました。

■【漫画で見る】?対等なはずなのに「名字を変えたらナメられる」

 漫画には描ききれなかったのですが「親にも生意気な女と結婚したと思われちゃうから、きみにも分が悪いと思う」というようなことも言われたと聞きました。対等であるはずの夫婦が同じ主張をしても、女性が言うと「生意気だ」「わがままだ」と思われてしまうということに、彼女は違和感を持ち、それと同時に「彼の方もまた圧力に苦しめられている、ということにも気づくことができた」とも言っていました。

■当然視される、女性の名字変更

 結婚に際して妻が名字を変更する。このことが彼の言う通り「普通の結婚」とされていることは否定しがたい事実です。実際に9割以上の女性が結婚に際して名字を変更しています。

 その「普通」があるからこそ、妻の名字に変えるという「普通とはちがう結婚」を選ぶと、「どうしてそうしたの?」と問われ、「妻の名字が珍しかった」「自分の名字が嫌だった」などの理由が求められます。「婿養子になったの?」と聞かれる場合も多いですよね。

 これは、いまだに「結婚=夫の家に入る」という家制度の価値観が影響しているのではないでしょうか。

 現在の日本の法律では結婚するとき、「2人はそれぞれが元々の戸籍から抜けて新たな戸籍を2人で作る」とされています。しかし、いまだに「入籍」という言葉が使われるように、「妻が夫の家(戸籍)に入る」というイメージは根強く存在します。

 家制度の中では、「夫が家長となり妻はそれに従うもの」という家族のあり方が一般的でした。そうした価値観の下で名字を変更しようとする男性は「妻の言いなりになる情けない男性」と見なされてしまうこともあり、この漫画に登場する婚約者の男性もそのことを恐れていますよね。

 こうした不安を無意識のうちに抱えて「どちらの名字にするか」という話し合いをフラットにできない男性は、多くいるのではないでしょうか。

 特に「期待されている長男」や「チームを持つ人間」として生きてきた男性は「一人前の男として…」という圧力を感じて、親族や仲間に「自分が妻の名字に変える」と言い出すことなど、イメージできないという人も多いはずです。

■名字を変える男性は、褒められる。しかし女性は“当たり前”とされる

「だからと言って女性の方に合わせて、苦痛を男性に押し付けるのはおかしいじゃないか」という意見もあります。でも、そういう風に感じた方には、これまで長い間、女性はその苦痛を一方的に負わされてきたということについて考えてみるのもいいかもしれません。

 少し視点を変えて考えてみましょう。

 妻の名字に変更する男性は「情けない」という方向ではなく「優しい夫だね」「先進的な考えを持っているんだね」と高評価を受ける場合も多くあります。たしかに、“普通の結婚”という風潮や家制度の価値観が色ごく残る社会で、それにとらわれず妻の名字に変えた男性には、好印象を持つ方も多いでしょう。

 ならば、なぜ現在進行形で名字を変えている9割以上の女性は特段褒められることがないのでしょうか?

 ここには、育児に積極的に参加する男性が“育メン”といってもてはやされるのと同じ、気持ちの悪さを感じます。「妻が名字を変える・育児をする」ことはあまりにも当然なことで、そこの苦労や負担は語られることがない。どちらが負担するにしてもその労力は等しいはずなのに、女性側の負担はあまりにも当然視=軽視されているのです。

 男性がその負担を負わされることに違和感を持つことができるならば、現在の多くの女性がその負担を負わされているということにも、同じく違和感を持つことができるのではないでしょうか?

 もちろん、「どちらかが意に反しても名前を捨てなければいけない」という状況は大きな問題で、だからこそ夫婦別姓という選択肢が作られるべきだと考えています。

■世間からの見え方が重視される「結婚」

 最後に、結婚というものが今の社会でどのように機能しているか考えてみたいと思います。

 法律上の結婚をした2人は、様々な法的な保証を得ることができます。税制面の優遇、遺産相続での優遇、子どもを産み育てる場合は共同親権など、その機能は多岐にわたります。共に人生を歩む2人にとっては、その“誓い”でもあります。

 しかし、そうした2人の関係性や法律上の優遇面だけでなく「周りからどう見られるか」という要素も結婚の捉え方には大きく影響しています。例としては「所帯を持つと信頼されやすい」などがありますよね。

 漫画の中にもあるように、家制度や「夫は妻を従えるべき」という価値観の残る社会では、「親族への面目が立たない」「妻の尻に敷かれているなんて頼りない、と思われる」などの不安が生まれやすく、さらには婚約者から「周りから生意気な女だと思われるから」と言われてしまう女性もいます。

 このような“世の中の普通”や“周りからの評価”が残り続けていたら、たとえ夫婦別姓が選べるようになったとしても、プレッシャーを感じ名字を変えざるを得ない状況は解消されないかもしれません。

 同性パートナーシップ制度が導入された地域でも、周りからの偏見や差別を懸念して申請することができないと感じる同性カップルが多くいるように、制度だけ改善されればそれだけで万事うまくいくというわけではないのです。

 現在、選択的夫婦別姓が実現していない日本では、この名字の選択を巡って合意に至れず破局を余儀無くされるカップルも多くいます。今回の漫画のトラブルも、もし夫婦別姓を選べる社会ならここまで深刻化しなかったかもしれません。

 だからこそまずは、制度を改善し、より多くの選択肢を確保すること。しかしそれと同時に、今の風潮や人々の中に刷り込まれた“普通”という価値観について再考し、アップデートしていくことも重要なのではないでしょうか。

“当たり前”や“普通”という言葉の陰で、誰かが強いられている苦痛、無用な不安やトラブルを見えないままにしておくのは、もうやめにしたいと強く思います。

(漫画: keika 、編集後記: 伊藤まり )

 パレットークでは、「こうあるべき」を、超えてゆく。をテーマに、LGBTQ+、フェミニズム、多様性について、漫画やインタビューを通して発信している。

(パレットーク / 多様性を考えるメディア)

関連記事(外部サイト)