15年間路上で生活していた女性、女性器切除慣習のギニアから来た母娘……パリの「女性会館」にいる様々な女性たち

15年間路上で生活していた女性、女性器切除慣習のギニアから来た母娘……パリの「女性会館」にいる様々な女性たち

『彼女たちの部屋』(レティシア・コロンバニ 著/齋藤可津子 訳)早川書房

 インド、イタリア、カナダで暮らす女性3人の懸命な生とそれらが奇跡的に交差する様を描いたデビュー小説『 三つ編み 』は、フランス本国で100万部を超えるベストセラーとなり、日本でも各誌紙の書評欄を賑わせた。レティシア・コロンバニさんの2作目の小説は、パリに実在する「女性会館」という、困窮した女性らに住居を提供し社会復帰を支援する、キリスト教系福祉団体「救世軍」の施設が主な舞台となっている。

「私もパリに住んでいるのですが、数年前、11区の、自分には馴染みのない界隈で映画プロデューサーと待ち合わせをしました。迷子になり歩いているうちに、大きな、瀟洒な建物が目の前に現れたんです。銘板に『パレ・ドゥ・ラ・ファム』(女性会館)とある。“パレ”は“宮殿”という意味です。色々と調べるうちに“ここに、私の書くテーマがある”と閃きました。フランスに今、どんな女性たちが居るのか、社会が彼女らをどう扱っているのか、特にsans-abri(サン・ザブリ)と呼ばれる、家のない女性たちがどういう状況にあるのか。今も多くの女性が暮らす会館自体が登場人物だ、と思いました」

 小説には2人のヒロインが登場する。1人は現代パリの高級アパルトマンで暮らす40歳の弁護士、ソレーヌ。もう1人は20世紀初頭に救世軍の闘士として、獅子奮迅の活躍で「女性会館」を創立した実在の女性ブランシュ・ペイロン。100年の時を隔て、物語は並行して進む。ソレーヌは大口担当案件で敗訴し、恋人に去られたという私生活の蹉跌も相まって意気消沈し、“燃え尽き症候群”と診断される。精神科医の勧めでボランティアを始めることになった彼女は、週に一度、「女性会館」の女性たちのために「代書人」として活動することになった。読み書きが満足に出来ない彼女らのために、様々な書類を代筆するのだ。戦乱を逃れたセルビア人女性、女性器切除の慣習のあるギニアから飛び出してきた母娘、15年間路上で生活していた女性――エリートのソレーヌと、最低限の生活基盤も危うい人生を送ってきた女たちとの、不器用な交流が始まる。まず、2ユーロ(約250円)を取り戻すための手紙を書いたことが、ソレーヌの意識を変えた。

「会館のスタッフの方々に沢山お話を聞きましたし、外国での暮らしを知るため多くのドキュメンタリーを観て、参考にしました。DVの被害者ヴィヴィアンヌのモデルは、私の家の近くで、素晴らしい手編みの衣類を路上販売していた女性です。娘が小さい頃、子供服を買い、話しかけたこともあるのですが、絶対に自分のことは語りませんでした。ある日突然いなくなり、どんな人生を送ってきたのか、彼女の人生は私の母親の人生だったかもしれない、と想像し始めたのです」

 原題の「勝利した女たち」は、ブランシュの伝記のタイトルからインスピレーションを得た。痛めつけられた登場人物たちだからこそ、彼女らを希望で照らす書名にしたかったのだという。邦題は、作中でソレーヌが敬愛する作家として言及されるヴァージニア・ウルフが、女性会館の設立と同時代に発表したエッセイ『自分ひとりの部屋』をふまえている。女性が書くためには自分の部屋を持つことが必要だ、と説いたウルフの主張が、複数形になり、より広がりと可能性を持った。

「ソレーヌと同様、私もウルフが大好きです。女性の居場所を考える、という意味で、ウルフのエッセイと私のこの小説は共通する所がありますので、日本語版タイトルに同意しました」

通訳・崎順子

Laetitia Colombani/ボルドー生まれ。小説家、映画監督、脚本家、女優。監督作品に『愛してる、愛してない…』。『三つ編み』『彼女たちの部屋』は、書店員・新井見枝香氏が半年に一度「いちばんおもしろかった本」に贈る「新井賞」を受賞。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年8月6日号)

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