多頭飼育崩壊の高齢者、すぐに安楽死を口にする飼い主……日本は動物虐待だらけーー友森玲子×町田康

多頭飼育崩壊の高齢者、すぐに安楽死を口にする飼い主……日本は動物虐待だらけーー友森玲子×町田康

友森玲子さん

 生まれてまもない子犬や子猫がペットショップに並んでいたら、あなたが発する言葉は「かわいい」? それとも「おかしい」?

 動物保護だけでなくフェスの主催など、規格外の愛護活動で注目される動物愛護団体ランコントレ・ミグノン代表・友森玲子さんと、猫との暮らしは約30年、芥川賞作家の町田康さん。ペット大国・日本の問題点を語り合った(この対談は2019年7月に行われたものです)。

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友森 町田さんとは、坂本美雨ちゃんに連れて行ってもらったパーティではじめてお会いしました。あのときはピアノを演奏された坂本龍一さんに「顔に似合わず素敵なピアノを弾きますね」と言ってしまって、苦笑されたんです(笑)。名刺交換してご挨拶したんですよね? その後、町田さんから猫のエッセイ(『 猫のあしあと 』2012年に文庫化、講談社)の解説を依頼していただきました。

町田 僕は、友森さんの活動を断片的にですが知っていたので「猫のことを書いたエッセイだから、猫に詳しい人に解説してもらったらいいんじゃないか」と思ったんです。

友森 そして、その2年後に、大きなイベントを企画したので「出ていただけませんか」と、今度はこちらからお願いしました。町田さんのエッセイを拝読したら、猫がかわいいという上澄みだけじゃなくて、世話する大変さも知っていて、泣きながらも楽しく暮らしていらっしゃる。そんな話を聞いてみたくて。そして「そうだ、確か歌も歌っていたな!」と(笑)。

町田 顔に似合わず素敵な歌を?(笑) 僕は30年くらい前から、拾ったり、誰かに連れてこられたりした猫を保護して育ててきました。動物愛護の専門用語でいう「預かりボラさん」(保護された動物に正式な家族が見つかるまでの一時期預かり、自分のペット同様に世話をするボランティアのこと)のようなことをやって、これまでに一緒に暮らした猫は20匹から30匹でしょうか。

友森 町田家には、警戒心が強くて触らせない子や、病弱な子が多かったんですよね。まるで町田さんが厄介な子を自ら呼び寄せているかのように(笑)。

 私は、年間約100頭の動物をウチの団体に受け入れてます。保護した動物はボランティアたちと世話をして、不妊・去勢手術などの医療行為をしたり、家庭動物になるためにしつけたりして、月に2回開催している譲渡会に出します。そこで家族が決まり、正式譲渡となる動物は年間に100頭くらい。現在保護してる動物は140頭。ちょっと抱えすぎだと感じています。

 ずっと続けて、限界までやっているけど現状は変わらない。ならば、国や社会に解決してもらわないと。「犬や猫を増やさない」「悪い飼い方をする人には飼わせない」など法規制をしてもらえば、飼育放棄されて捨てられる動物も減ります。

町田 2019年6月に、5年に一度という動物愛護法の改正がありましたね。

友森 はい。一応「前進した」といわれています。でも不思議な現象があったんですよ。8週齢規制が正式に認められましたけど、決定寸前になって「日本犬6種は例外とする」という一文が添えられました。「8週齢規制」というのは「生後8週齢に満たない動物を販売してはいけない」という規則です。

 犬や猫は、最低でも生まれて8週間は母親や兄弟たちと過ごす必要があります。その間に免疫ができて精神的にも落ち着き、心身の安定した動物に育つからです。生後8週間が、動物の一生、ひいてはその飼い主の生活にも大きな影響を与える。だから、とても大切な法案で、成立させるべく私たちは長年活動し、審議されてきました。

 そして、ようやく決まろうとしたそのときになって「日本犬6種は例外とする」って。本当に驚きました。愛護活動をするようになって、このような政治の不思議さを目の当たりにするようになりました。政治には特別な人脈とか、普通の人にはわからない筋道とか近道とか、ミラクルがあるんですよね。

■日本人はかわいい子犬や子猫が好き

町田 ミラクルのツボね。そもそも日本では「ペットを飼いたい」と思うと、だいたいペットショップに行きますね。「愛護団体や愛護センターの譲渡会に行く」という選択肢もあるのに。しかも子犬子猫を欲しがるし。

友森 海外の人にその話をすると「信じられない!」と言われます。「パピーは手がかかって大変だ」という常識をちゃんと知っているので。日本では「かわいい!」だけで犬や猫を迎えますから、ペットショップにすれば犬や猫は小さければ小さいほど価値がある。

 ペットショップをお客のフリをして回ってみると、「小さくても大丈夫ですよ」「仕事されているならフードと水を置いておけばいいですよ」って、店員さんの売り方も本当にひどい。8週齢規制の法改正に20年かかった理由がそこにあるんですよ。

町田 みんな「小さければコントロールできる」と考えるようですね。懐きやすいとかしつけしやすいとか、安易に思うんですね。

友森 でも、その分、ちゃんとしつけをしないと良くないこともすぐ覚えます。

町田 噛み犬、吠え犬になるゆえん。

友森 それで手に負えなくなってトレーナーさんのところに預けっぱなしにしてしまったり。そして結果的に飼育放棄するんです。

町田 そんなことが実例として多いんですね。

友森 今回の法改正では、虐待に対しての罰金額が200万円から500万円に上がりました。でも、日本は虐待の基準が曖昧だから、大量に殺傷したとか、極端でないと検挙されません。本来なら劣悪な環境での多頭飼い飼育だって虐待、無知によるネグレクトです。

 海外では「水のみボウルの中に何センチ以上水が入ってないといけない」とか「10時間以上留守番させるのは虐待とみなす」とか、基準がしっかり数値化されています。この法律改正の真価を見きわめるために、今後500万円の罰金を支払う人が出てくるのかをしっかり注視するつもりです。

■動物はメルヘンではなく現実

町田 僕が友森さんを応援しているのは、この人の活動はかた苦しい大義じゃなく、ただ動物が好きで、環境を改善したい、不幸な動物を減らしたいから走り回っている。ボランティアに任せっきりにするんじゃなくて、電話相談を受けたり多頭飼い崩壊の老人の家を訪ねたり。だから、できることは協力しようと思っていて、友森さんに何か言われたら、なるべく「はい!」と答えるようにしています(笑)。

友森 動物病院で看護師として働いた後、独立してペットサロンを開いたんですけど、開店準備金として借りたお金を数年後に完済して30歳のときに「何か好きなことをやろう」と思って、はじめたのが動物愛護活動です。活動をはじめた頃に、愛護センターの係の人に「むやみに動物を引き取るな。相談の電話がかかってきたら、説得するから私に回して!」と生意気なことを言ってしまって(笑)。

 だから、今も「センターから紹介されました。動物を放棄したいんですが……」という電話がしょっちゅう。最近は「高齢の親が入院したけど、 自分はペット不可の部屋に住んでいるから親が残したペットを引き取れない」なんていう話もありました。

町田 高齢化と住宅事情が絡まってるんですね。

友森 先日の相談は「ビーグル犬を飼っていて、昼間吠えて苦情が来るから安楽死させたい」って。聞くと、以前は自営業で家にいたけど、会社勤めをするようになり、留守番をしている犬が吠え続けていると。

町田 飼い主を探しているんですかね。

友森 詳しく聞いてみると、飼い主が家にいるときはよくおやつをやっていたらしいんです。じゃあ、自動給餌器を買って3時間おきにおやつが出てくるようにしてみたら?とアドバイスしたら、吠えなくなったって。

町田 安楽死とか、極端なことを言い出す前に、打開できるよう現状を踏まえて考えてほしいですね。

友森 「機械でおやつをやるなんて、と思った」とか言うんだけど、死なせるよりはずっとましですよね。

町田 そういうの、よくありますね。「機械はよくない」「薬は飲ませたくない」とか。男性によくいるのが「去勢させたくない」。自分と犬や猫の区別が付いてないんでしょうか。それって自分のエゴの延長です。

友森 本当にそうですね。目の前に苦しがっている猫がいるのに「薬は副作用が心配」なんて言う飼い主もいます。「副作用以前に薬を飲ませなかったら死んじゃいますよ」と伝えても「でも……」って。理想論もいいけど、現実との距離があまりにも離れていて、結論が極端な人が多い。

 日本には、動物を「かわいいから飼っちゃおう」って人がまだまだいっぱいいます。「吠えて手に負えなくなるかも」とか「自分が病気をして飼いきれなくなるかも」なんて考えもしない。想像力の欠如、無知と危機感のなさが無責任な飼育放棄につながるんです。

町田 まずは「犬や猫ってこんな生き物ですよ、こんな性質の動物ですよ」ってことをたくさんの人にわかってもらいたいですね。特に犬には、犬種がありますから。犬種によって習性も違います。そこを理解しないまま動物を迎えるのは危険。

「かわいいから」とか「いると生活が楽しくなる」とか、そんなふわふわした気持ちで「犬が飼いたい」「猫と暮らしたい」になりがちですが、現実には、動物は人間よりも早く年をとって、病気になってお金がかかったり、悲惨な姿を見なくてはならなかったり、辛いこともたくさんあります。

 犬が登場する物語って、昔から、だいたい犬のかわいさや賢さをクローズアップして描かれていますけど「現実はそれだけではないですよ、メルヘンだけじゃなくリアルもありますよ」ということです。動物をメルヘンと思い込んでいる人が多いですね。

友森 私、うちの保護動物を預かってくれている人たちに「もし災害が起こったら、一番は自分の命を守ること。そして余裕があったら自分のペット。保護動物を助けるのはその後でいい」って言うんですけど、「えっ、信じられない」みたいな反応をされます。だって、みんなで助かろうとして共倒れになるより、まずは自分が助からなければ、他の動物を助けられる可能性もなくなるわけですからね。もちろんみんなで助かるのが一番いいけど、そうできない状況も起こり得ますから。

町田 生き物は現実ですからね、災害じゃなくても。問題の根本を見ずに、言葉だけがひとり歩きするような感じが社会全体にありますね。「殺処分ゼロ」も、スローガンのようになっているけど、その実質は? というような。

 僕は、犬や猫の方が人間より偉いと思っているようなところがあって、それを踏まえて言いますが、人間って、すぐ「なんで?」って聞きますけど、動物には「なんで?」がなく、常に「結果」しかない。犬にはちょっとあって悲しそうな顔をしますけど。

 友森さんの感覚は、それに近いような気がするんですよね。大義があるんじゃなくて、判断が動物的(笑)。

■犬や猫は人間の鏡のようなもの

友森 動物を飼うからには「死を見届ける」という義務が生じますが、そこを認識していない人も多いです。動物を飼うことは、その子の命を預かるということなのに。それをやりきって「犬や猫を見送ってつらい」ということもありますけど。町田さんはこれまでに何頭も犬や猫を見送ってますよね。

町田 そうですね。最近もパタパタッと亡くなってしまいました。「あのときこうしてやればよかったな」「あんなことしちゃってかわいそうなことをしたな」、逆に「あのときは、自分でもよくやったな」とか、いろいろ思います。

 ペットロスを一気に解決する策はありません。動物を飼うって、自分が「かわいがりたい」というエゴを満たすために飼っている。しかも彼らは飼い主を選べない。だからせめて、動物たちにとって少しでもいい環境を整えるとか、苦痛を減らすとか、日々そういうことを続けていくしかないんです。

 そしてその積み重ねが、ペットロスに関してもちょっと救われる。「やれることはやったな」と思えたときは、少しは気が楽になれるし、「不注意だったな」っていうときは、落ち込んだりもします。ペットが死んだときの衝撃を減らすのは「彼らに対して日頃から後悔のないようにちゃんとやってる」ことでしかない。自分の人生そのもののようですけどね。

友森 私もたくさんの動物たちの死に立ち会ってきていますけど、慣れるということはなくて、むしろ年々重くなっています。動物たちの方が「死」を自然に受け入れますね。「生まれること」と「死ぬこと」を同等に捉えている感じです。

町田 犬や猫って、人間の鏡のようなものだと思うんですよね。自分がちゃんと生きていたら、犬や猫も健やかでいてくれるし、飼い主の生活が荒むと犬猫もそうなります。人間が忙しくしていると犬猫が病気になったり、毛づやが悪くなって、ぼさぼさになってきたり。猫は顕著です。家の中にいて、人に近いところで暮らしている動物には、特に感じますね。

 こっちが勝手に思っているだけかもしれないけれど、動物たちを通して飼い主の心があらわになるというかね。

友森 話は尽きないですね。

※毎年9月に友森さんが開催してきた動物愛護イベント「いぬねこなかまフェス」は、2020年は9月20日にオンラインでの開催を予定しています。

友森玲子(とももりりょうこ)/1977年東京都生まれ。動物病院の看護師を経て、2007年動物愛護団体ランコントレ・ミグノンを作る。14年からはペットサロンと動物病院を併設したミグノンプランを主宰。災害時には現地に赴き被災動物の保護も。
www.mignonplan.com

町田康(まちだこう)/1962年大阪府生まれ。97年処女小説『くっすん大黒』で野間文芸新人賞、2000年に「きれぎれ」で芥川賞受賞。猫との日々を綴ったエッセイも多数。近著に『しらふで生きる 大酒飲みの決断』(幻冬舎)、『スピンクの笑顔』 (講談社文庫)。16年からはバンド「汝、我が民に非ズ」を本格的に始動。
www.machidakou.com

text:Yukiko Ishiguro, photographs:Keiji Ishikawa

(友森 玲子,町田 康/週刊文春WOMAN vol.3)

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