子どもへの性加害は「平均週2〜3回」小児性犯罪者のすさまじい実態――2020上半期BEST5

子どもへの性加害は「平均週2〜3回」小児性犯罪者のすさまじい実態――2020上半期BEST5

斉藤章佳さん

2020年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。インタビュー部門の第3位は、こちら!(初公開日 2020年2月2日)。

*  *  *

「そりゃセックスもしましたよ。恋人同士ですもん。それを周りの人たちが、ぶち壊したんです。私がロリコンで、Yちゃんは被害者だといって引き離したんです。

 私はそんな人達によって犯罪者にさせられました。おかしいのはどっちだっていいたいです……」

 これは、12歳の少女に性加害をした49歳の男性の言葉である。

 2018年、依存症治療や性犯罪再犯防止の治療プログラムのパイオニア的存在として知られる「榎本クリニック(東京都・豊島区)」が、世界的にも珍しい小児性愛障害(ペドフィリア)専門の治療グループを立ち上げた。同治療グループには現在15名ほど、累計で150名以上の対象者が参加し、治療を受けたという。冒頭の発言をした男性も、このプログラムの元参加者だ。

 児童に性加害行為を繰り返す「小児性犯罪者」とはどんな人たちなのか。小児性犯罪者はなぜ加害行為を繰り返すのか。ペドフィリアの治療は可能なのか。「榎本クリニック」で小児性犯罪の治療に取り組んでおり、 『「小児性愛」という病――それは、愛ではない』(ブックマン社) を上梓した大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳(あきよし)さんに話を伺った。

――著書の紹介で、小児性犯罪者は「決して性欲が抑えられないモンスターではありません」「彼らも私達と変わらない、同じ“人間”だと考えるに至りました」と書かれていたのが印象的でした。実際の小児性犯罪者はどんな人たちでしょう。

斉藤章佳さん(以下、斉藤) 見た目はいたって普通の人、という印象の人が多いです。加害者間の共通点があまりない、言い換えれば非常に個別性が高いので、「共通の特徴がないことが特徴」なのだと思います。

 たとえば、痴漢や盗撮加害者のデータ分析をすると、一番多い層は四大卒で妻子がいるサラリーマンです。一方、ペドフィリアの人たちの学歴を見ると、中卒高卒が半分くらい。高学歴なタイプもいて、けっこう幅があります。

 しいて特徴を言うなれば、初診時の職種が、教職員や指導者など、子どもと日常的に接する仕事の人が全体の約3割であること。全人口に占める教職員や指導者の割合より、間違いなく高いと思います。

――成育歴には、何か特徴はありますか。

斉藤「性虐待の被害に遭ったことがある人が多いのでは」と聞かれることもあるのですが、そうでもありません。どちらかというと、同世代女性との関係の中での挫折体験を一方的に持っている人のほうが多いように思います。

 成長過程での同世代女性からの拒絶体験だとか、実際には拒絶されたことはないんだけれども、ネットの言説に影響され、自分には同世代の女性と交際する資格がないと思いこんでいるとか。この本を出版した際、SNS上では当事者と思われる人からのネガティブな反響もあったのですが、中には「成人女性に相手にされていない僕たちから、児童を性愛の対象とすることさえ奪うのか!」というような意味合いのものもありました。

 あとは、学生時代にいじめ被害に遭った人が有意に多いということも分かっています。

――具体的には何パーセント?

斉藤 50パーセントを超えます。加害者は男性が多いこともあって、男性間のいじめ被害に遭っている人が多いです。女子生徒の前でズボンを脱がされる、マスターベーションを無理やりやらされるなど、性的ないじめを含む同性間のいじめを経験している人の割合が、他の性犯罪の加害者に比べて圧倒的に多いな、という印象があります。

■自発的に治療に来る人はまずいない

――参加者は、どのようにしてこのグループに来るのですか。

斉藤 ほぼ全員、逮捕がきっかけです。稀に出所後に来る人もいます。基本的に、当事者は「性加害を繰り返したい。子どもとセックスしたい」と考えているので、性加害をする前に自発的に治療に来る人はまずいません。そもそも自らの行動を“性加害”と捉えていない人も多く、それもまた問題なんですけれども……。

――自らの行動を“性加害”と捉えていないとは、どういうことでしょう。

斉藤 日本では刑法上、13歳未満の子どもとの性交は、同意の有無に関わらず犯罪です。小児性犯罪者も、子どもとの性的接触が犯罪になることは分かっています。それでも、子どもと性交渉がしたい。では、どうするか。彼らは、自分にとって都合のいい現実の捉え方で、子どもへ性加害したいという欲求を正当化しようとするんですね。

 こうした「問題行動を継続するための、本人にとって都合のいい認知の枠組み」を「認知のゆがみ」と呼びます。

 小児性犯罪者には多種多様な認知のゆがみが見られるのですが、よく見られるのは、「愛し合っているので、セックスすることは当然だ」「いずれ経験することを教えてあげているのだから、これは『性教育』だ」「セックスしたい子どもだっている」「子どものほうが誘ってきた」あたりでしょうか。

――なるほど。そう思い込んでしまえば、罪悪感なく加害できてしまう。

斉藤 似たような認知のゆがみは性犯罪者全般に見られるものなのですが、小児性犯罪者特有だと感じるのは「飼育欲」ですね。

――「飼育欲」、耳慣れない言葉です。

斉藤 彼らの言葉を借りると、小学校の校庭のウサギ小屋でウサギを飼ったりしますよね。子どもに対して、あのウサギのようなイメージを抱くらしいんです。ものすごく弱いペット、対象の生殺与奪を自分が握っているという感覚。もう一つ、小児性犯罪者特有の言説で「騒がれたら、殺してしまえばいいと思った」というものがあるのですが、この考え方も、この感覚と密接に関わっているようです。

■事件化されない「暗数」は加害者1人あたり約1000回

――逮捕をきっかけに来所するということは、それまで捕まらずに加害をしていたケースもある、ということでしょうか。

斉藤 むしろ、子どもに対する性的加害で、事件化するのは氷山の一角と捉えるべきです。強制性交等罪にあたる口腔性交や肛門性交、膣内性交のほか、比較的接触率が低い部類の加害であるズボンを脱がせて写真を撮る、下着に手を入れる、すれ違いざまに触る、露出するといった行動も含めて「子どもへの性的接触」とし、プログラムの参加者にその頻度を聞いたところ、平均週2〜3回やっていた、という結果が出ました。

 初めての加害行為から、当クリニックにつながる平均期間って、痴漢だと8年、盗撮だと7.2年なんですよ。しかし、ペドフィリアの場合は平均14年で、治療につながるまで一番長くかかります。週2〜3回を14年間続けると、犯罪として認知されなかった「暗数」が、1人あたり1000回は越える計算になりますね。

――すさまじい数です。

斉藤 成人に比べ、声を上げにくい子どもを狙っているため、他の性犯罪に比べても長い期間捕まらずに加害を繰り返す傾向があります。

 あまり知られていないのですが、男の子が被害に遭うことも多いです。というのも、男の子は女の子よりも保護者に「気をつけなさい」と言われることが少なくて、警戒心が薄い。さらに、幼稚園の年長や小学校低学年くらいの男の子は、遊びの中で性器を比べたりするような子たちが多いので、加害者からしてみれば、ズボンを脱がせて写真を撮ったり、というようなことを騒がれずにできる。

――警戒されない、騒がれない子どもを狙って接触している側面もあるのですね。

斉藤 そうなんです。本当は女の子を狙いたいのだけれども、女の子のほうがリスクが高いので、仕方なく男の子を狙っていた、と話していた人もいます。

■ペドフィリアは先天的か、後天的か

――そもそも、子どもへの性的欲求を持つペドフィリアは、先天的なものですか、それとも後天的なものですか。

斉藤 結論はまだ出ていません。ドイツではペドフィリアの治療が進んでいて、治療プログラムが国内に10か所以上あるのですが、そういった場所で得られたデータによると、ペドフィリアには大きく2タイプあります。13歳以下の子どものみを欲求の対象とする“真正タイプ”のペドフィリアと、成人に対しても欲求を持つ“混合タイプ”のペドフィリアで、数を見ると後者のほうが圧倒的に多い。

 後者の混合タイプについては、ペドフィリアは学習された行動、つまりなんらかの形で性的嗜好を後天的に持つに至った、という説が支持されています。前者の真正タイプについては、遺伝的な要因があるのではないか、という論文もありますが、まだ仮説段階です。

「児童ポルノに出会ったことで嗜好が芽生えてしまった」という話も度々当事者から聞きますし、私個人としては、ペドフィリアは社会の中で学習されると捉える社会モデルを支持しています。

■治療の最優先事項は「絶対再犯をしないこと」

――この点については、ペドフィリアの治療プログラムではどのように向き合っているのでしょう。

斉藤 嗜好が先天的であれ、後天的であれ、まず加害行為を絶対に繰り返してはいけない、というのが大前提です。加害行為が繰り返されてしまえば、被害者がまた生まれてしまうわけですから。

 ペドフィリアの治療は「行動変容」と「認知のゆがみ」へのアプローチが重要です。この辺りは、エビデンスが確立している認知行動療法を中心に治療していきます。小児性犯罪の場合、絶対に再犯があってはなりませんから、認知行動療法の中でも「まずは問題行動を止める」ということに着目した治療に取り組んでいきます。

 そこで鍵となるのが、再犯防止計画(リスクマネジメントプラン)です。

――再犯防止計画とは、何でしょう。

斉藤 多くの小児性犯罪者が子どもへの性加害を繰り返してきましたが、繰り返される行動は往々にして「パターン化」しています。その再犯のサイクルを洗い出し、何が引き金になって子どもに加害行為をしてしまうのかを明確化していきます。

 ある人にとっては、子どもがたくさんいる、下校時刻の通学路に居合わせてしまうことが引き金かもしれない。ある人にとっては、睡眠不足や身近な人からの叱責といったことからくるストレスが、引き金になるかもしれない。そういったことを明確化してもらって、具体的な対処法を見つけていきます。

――どういった対処法があるのでしょう。

斉藤 人によってさまざまです。たとえば、小学校の下校時刻になったら通学路には近づかない、というのも対処法の一種ですし、衝動を感じたら保冷剤を握る、フリスクを噛むという人もいます。自分の居場所が周囲に分かるようカバンに鈴をつける、子どもが歩いてきたら、パッと目をそらす、という人もいますね。最近では、スマホのアプリをうまく活用している人もいます。

 対処法も慣れてくると耐性ができてしまって、効果がなくなってくるので、効果のないものを見直し、あるものに変える作業が必要です。ですので、この再犯防止計画を策定し、定期的に更新していきます。

――その他には、どのような治療が行われるのですか。

斉藤 認知行動療法の他、薬物療法を併用する場合もあります。薬物療法を受けると性欲が減退するので、加害のスイッチも入りづらくなりますが、これはあくまで「転ばぬ先の杖」。メインは認知行動療法です。

■「生きている感じがしない」と薬物療法からドロップアウト

――薬物療法がメインでないのは、少し意外です。

斉藤 そう感じられるかもしれませんね。でも、薬だけ飲んで児童への性加害をやめられるかというと、なかなか難しい。

 依存症の治療などと同様、ペドフィリアの治療も規則正しい生活を送ることでメンタル面が安定し、治療に集中できますし、そもそも薬を飲むことは強制できません。「治療を続けていかなければ」と本人が感じていないと、治療は継続できないのです。

 以前、当クリニックで自ら希望して薬物療法を受けていた人が、「子どもへの性欲がなくなると、生きている感じがしない」とあえて再犯し、治療からドロップアウトしてしまったことがあります。

――子どもへの性欲がなくなったからといって、「子どもへの性加害はあってはならない」という認識になるわけではない。

斉藤 その通りです。小児性犯罪者が自らの認知のゆがみに対する反応を変える、そして修正を繰り返す、もっと言えば、被害者の立場に立って考えられるようになるには、長い時間がかかります。

 一般的には、性犯罪を犯したら「まず謝罪しろ」「まず責任を取れ」という声があがりますよね。これはもちろん正当な要求なんですけれども、本人が子どもへの性加害を正当化している段階では、心から謝罪することは不可能です。ですので、当クリニックでは、被害者に向き合うのは最後の段階になります。

――被害者に向き合うプログラムもあるのですね。

斉藤 小児性犯罪の被害者に実際に来ていただいて、被害体験を話してもらう「被害者からのメッセージ」というプログラムがあります。加害行為に遭う1次被害についてだけでなく、その後PTSDや不眠症状、うつ症状、自傷行為などの2次被害にずっと苦しめられることなどについても話してもらっています。こういった2次被害のことは、加害者は全く知らないんです。

 こうしたステップを踏んではじめて、謝罪の準備ができると考えています。

――本当に長い道のりなのですね。

斉藤 長いですよ。彼らは、長年かけて作り上げてきたものの見方、感じ方を変えていく必要があるわけですから。

■厳罰化だけでは、再犯防止の効果はない

――こうした小児性犯罪の治療は、日本では広がっているのでしょうか。

斉藤 小児性犯罪に特化した取り組みはありません。一部刑務所で性犯罪防止指導(R3)が行われていますが、対象者がかなり限定されているため、プログラムが必要であるにも関わらず受けることができない人がいます。

 さらに、刑務所で実施されているのは認知行動療法の部分のみで、期間が短すぎる。出所後、治療を義務付ける制度もないので、効果的に行われている状況とはあまりいえません。

――小児性犯罪については、厳罰化や、前科者の情報公開を義務付けるアメリカのメーガン法導入などを求める向きもありますが、こうした施策に効果はあるのでしょうか。

斉藤 監視や監督、厳罰だけでは、再犯率は減らないと思います。メーガン法の三本柱は、GPS着用や、法定雇用主への情報公開、ネットでの顔や住所の公開ですが、そうすると前科者は定住も、定職につくこともできず孤立する。そのような状況では、自暴自棄になり再犯、というケースも出てきます。やるのであれば、きちんとした治療教育をセットにする必要があると思います。

■「認知のゆがみ」はどこから来るのか

――最後に、読者に向けてメッセージはありますか。

斉藤 取材で小児性犯罪者の「認知のゆがみ」について話をすると驚かれるのですが、考えてみていただきたいのは、こうした認知のゆがみがどこから来ているのか、ということですね。

 当クリニックには痴漢常習者の人のプログラムもありますが、彼らは「相手も痴漢されたいと思っていた」「やっている間に相手も気持ちよくなるんだ」「女性専用車両に乗ってない人は、痴漢されたい人だ」などと本気で思っているわけですよ。

 でも、これって彼らの勝手な思いこみかというとそうではなくて、ここまで強烈でなくとも、似たような価値観は日本社会の中で流通しているんです。「いやよいやよも好きのうち」とか、「女性が性犯罪に遭うのは落ち度があったからじゃないか」とか。加害者はこういった価値観を、もとはといえば家庭や学校、社会やメディアから学んでいるんですよね。

 社会の中にあるそういった価値観が変わらない限り、性加害する人たちはどんどん量産されていきます。目の前にいる加害者は、日本社会の縮図だといつも思っています。

写真=釜谷洋史/文藝春秋

(「文春オンライン」編集部)

関連記事(外部サイト)