白人警官はなぜ黒人を殺害するのか 日本人が知らない差別の仕組み――2020上半期BEST5

白人警官はなぜ黒人を殺害するのか 日本人が知らない差別の仕組み――2020上半期BEST5

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2020年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。国際部門の第1位は、こちら!(初公開日 2020年月日)。

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 連日、全米で吹き荒れるデモと暴動。メディアには商店略奪の光景や、デモ隊と警官隊の衝突などショッキングな写真が溢れ、暴力を批判する声が盛んに聞かれる。

 だが、一連の事態の本質を理解するには、発端となった警官による黒人男性殺害事件、その背後にある黒人差別の実態、特に「systemic racism システミック・レイシズム=システム化された人種差別」(以下、本稿では「制度的差別」)を知る必要がある。??

 まず事件の経緯を記す。?

白昼の中、首を「8分46秒」膝で抑え続け殺害

 5月25日、ミネソタ州ミネアポリスの路上で、警官が黒人男性ジョージ・フロイド氏の首を膝で「8分46秒」抑え続けて殺した。フロイド氏は後ろ手に手錠を掛けられて地面にうつ伏せにされ、身動きできない状態であった。?

 その様子は通行人の17歳の少女によって撮影されている。フロイド氏は「息ができない! I can't breathe!」と何度も繰り返し、「あぁー!」と悶絶の叫び声を上げている。警官は顔色ひとつ変えない。通行人たちが警官を止めようと叫ぶが、警官は微動だにしない。やがて到着した救急救命士がフロイド氏をストレッチャーに乗せるが、その時点で既に脈はなかった。?

 白昼、衆人環視の中で白人警官が黒人をリンチ、殺害する映像はSNSで瞬く間に拡散された。全米、全世界が、時間をかけてゆっくりと殺されていく人間の顔を、まさに息を呑んで見つめ続けたのだ。?

警察の弾圧は激化、ゴム弾で片目を失ったジャーナリストも

 翌26日には地元ミネアポリスで抗議デモが起こり、人々はフロイド氏が繰り返した「I can't breathe!」(息ができない!)および「Black Lives Matter!」(ブラック・ライヴズ・マター)を連呼した。?

 ブラック・ライヴズ・マター(BLM)は、2012年にフロリダで当時17歳の黒人少年トレイヴォン・マーティンが自称自警団の男に射殺された際に起こったムーヴメントの名だ。「I can't breathe!」は2014年にニューヨークで起こった、今回とほぼ同様の事件で亡くなった黒人男性エリック・ガーナー氏が息絶える前に繰り返したセリフでもある。?

 デモはやがて全米50州に広がっていく。平和的なデモがある一方、デモ隊と警官隊との衝突、商店の略奪が起こった。デモ開始から数日後、主犯の警官デレク・ショウヴィンは第2級殺人容疑、他の3人の警官(うち2人はアジア系)は第2級殺人ほう助教唆容疑で訴追された。この報に人々は喜んだが、デモはその後も続き、警察からデモ隊への暴力はますます激しくなっている。?

 多くの白人もデモに参加するなか、高齢の白人男性が警官によって押し倒されて後頭部を打ち、集中治療室に運ばれた。白人の大学生は警棒で頭を殴られ、20針縫った。現場取材するジャーナリストへの警官による過剰な暴力も多々見られ、ゴム弾を受けて片目を失明した女性ジャーナリストがいる。6月6日の時点で警官を含む、少なくとも11人が亡くなっている。?

トランプはツイッターにて軍投入を指示

 フロイド氏殺害事件とデモは、コロナ禍による各州のロックダウンが解除されつつある時期に起こった。トランプは経済再開と大統領再選キャンペーンに躍起になっており、当初、事件について一切語らなかったが、やがてツイッターにて略奪鎮圧のための軍投入を示した。

 抗議デモ開始から7日目の6月1日、ようやく大統領としての公式声明を発したが、銃所持の右翼たちに「自衛のために銃を取れ」と示唆する内容だった。トランプは黒人差別問題への共感もなければ、今、アメリカの足元に大きな地割れが起きていることにも気付いていないのだ。?

 だが、多くの人が今、事件とデモを理解し、解決策を模索するために「制度的人種差別」について盛んに語り合っている。?

目に見えないため、解消が難しい「制度的人種差別」?

 黒人を「黒人である」というだけの理由で殴り、もしくは黒人への侮蔑語であるNワードを投げ付ければ、それは明らかな人種差別だ。黒人たちは今もこうした直接的な差別行為に苦しめられているが、同時に一見、差別には見えず、ゆえに解消するのも非常に難しい異なる種類の差別「制度的人種差別」とも闘っている。?

 制度的人種差別とは、社会的弱者が不利となる仕組みが社会構造に取り込まれており、黒人が黒人として生まれただけで、以後の人生が自動的に不利の連続となることを指す。?

 北米にアフリカからの黒人が初めて連行されたのは、今から401年前だ。以後、約250年にわたって奴隷制が続いた。奴隷解放後も黒人差別はなくならず、黒人の人権を認め、差別を撤廃する公民権法が制定されたのは1964年のことだ。その後も差別は続き、毎年、多くの黒人が警官や銃を持つ一般市民に殺害され続けている。?

 奴隷制度に由来するレイシズムがあるため、人種の融合は今も進まず、人種別のコミュニティが形成され、多くの黒人が黒人地区で生まれ育つ。貧困により満足な衣食住を賄えず、教育の機会も奪われ、したがって就職もままならず、貧困から抜け出せない。?

教育の機会に存在する落とし穴

 制度的差別に気付かない部外者は、教育が貧困脱出の手段であることから「貧しくとも奨学金で進学できるじゃないか」と言う。だが、貧困地区に生まれた子供と豊かな地区に生まれた子供では、幼児期に自然に取り込める語彙、思考訓練、文化との接触の量がまったく異なる。つまり黒人の子供たちは就学時点で学力的にすでに大きく出遅れていることになる。

 さらに、米国の公立学校の財源はほとんどが固定資産税で賄われており、貧困地区と裕福な地区の極端な税収格差が、子供たちが受ける教育格差に直結している。こうした要素が重なり、貧しい黒人の子供たちが学力格差を克服するのはほぼ不可能に近いとさえ言われている。

 優位に立つ側はこの構造に気付かず、社会から取りこぼされて貧困、低学歴、犯罪といった負のサイクルから抜け出せない黒人を「怠惰」「無能」「犯罪者」と見下す。または音楽、スポーツ、体格などに限っては黒人を褒めそやす。子供の頃からこうした扱いを何度も体験すると自尊心が傷付けられ、能力があっても発揮できなくなる。?

教育の機会に恵まれたとしても……

 それでも公民権法の効果もあり、中流化する黒人も徐々に増えた。ただし、制度的人種差別の結果として優位者側に植え付けられた黒人への負のステレオタイプはいまだに消えてはいない。ミシェル・オバマがプリンストン大学に進学した際、学生寮で同室となった白人学生の母親が「自分の娘と黒人を同室にするな」とクレームをつけたのは有名なエピソードだ。

 大学や院を出て就職しようにも、履歴書の名前が一見して黒人と分かるものであれば面接に呼ばれる率は格段に減る。入社はできても出世の階段は、殊更に険しい。?

 教育を受け損ねた者には司法制度の制度的人種差別が待ち受けている。就職が出来ず、良い影響を与えてくれるロールモデルもおらず、それらが理由で犯罪に走ると、逮捕、裁判所、刑務所のサイクルから抜け出せなくなる法的、社会的なトラップがある。?

 制度的人種差別の最終地点は、死だ。ジョギング中に「怪しい」と射殺された黒人青年、コンビニにジュースを買いに行き、帰途、「怪しい」と射殺された黒人の高校生、公園でオモチャの銃を持っていたために、問答無用で射殺された黒人の中学生......ごく当たり前の日常生活の行為が、制度的人種差別によって生成されたステレオタイプで「怪しい」「危険」と見做され、黒人はいとも簡単に殺されてしまうのだ。?

「息ができない」者たちの最後の手段?

 先述したように、1964年の公民権法により人種差別はようやく違法となった。しかし社会のシステムと人の心にはびこる差別心が法の制定によって急に無くなるはずはなく、あらゆる黒人差別が続いた。耐え切れなくなった黒人たちは全米で暴動を起こした。特に1967年の夏は多くの暴動が発生し、「長く暑い夏」と呼ばれた。中でもデトロイトの暴動は苛烈を極め、死者16人、負傷者約500人となった。?

 この年、公民権運動のリーダーであったキング牧師は、「暴動は耳を傾けてもらえない者の言葉である」と語った。?

 どれほど耐えても、どれほど訴えても差別が無くならず、同胞が次々と殺されていくならば、人はどうすればいいのだろうか。ジョージ・フロイド氏が亡くなった翌日のデモは、当初は平和的だった。だが、人々は感情の噴出に見舞われたのだろう。かつ警官がデモを阻止しようとしたために、「また今度も耳を傾けないのか!」と感情を爆発させてしまった。?

 フロイド氏は「I can't breathe!」(息ができない!)と、何度も何度も訴えた。しかし、白人警官デレク・ショウヴィンは聞く耳を持たなかった。手錠を掛けられ、地面にうつ伏せに押さえ付けられていたフロイド氏には為すすべが無く、死んでしまった。?

すでに12日間続いている暴動

 今、全米でデモを繰り返している何千、何万もの人々は暴動を起こして警察やシステムに報復をしようとしているのではない。「耳を傾けて」と訴えているのだ。1967年の暴動は、最長のものでも7日間だった。今回はすでに12日間続いている。

 そもそも暴動や略奪はプロテスト(抗議)の副産物だ。人々が目指し、行なっているのは、あくまで現システムへのプロテストなのだ。このプロテストは、誰かが正面から「あなたたちの話を聞こう」と言うまで続くだろう。?

 6月5日、デモ隊(※)はホワイトハウスに続く道に黄色いペンキで巨大な「BLACK LIVES MATTER」の文字を書いた。航空写真ではっきりと見えるサイズだ。ワシントンD.C.のミュリエル・バウザー市長は、その通りを「ブラック・ライヴズ・マター・プラザ」と改名し、道路標識を掲げた。?

※……「BLACK LIVES MATTER」の文字はワシントンD.C.のミュリエル・バウザー市長の提案により描かれた

 翌日、ホワイトハウスに押し寄せるデモ隊に恐れをなしたトランプは、1万人もの兵士の配備を要請した。トランプに「耳を傾ける」気は、全くないのである。?

2020/6/25 18:00、読者より指摘があり3Pにデモ隊に関する注を加えました。

■2020年上半期「国際部門」BEST5 結果一覧

1位:白人警官はなぜ黒人を殺害するのか 日本人が知らない差別の仕組み
2位: ベトナム民間人虐殺、韓国政府提訴へ 「村人を1カ所に集めては手榴弾を……」残虐な加害の実態
3位: 性行為30回で億万長者に、自殺者は3人に リアリティ番組が過激化したイギリスでの顛末
4位: 「韓国は3歳児」と罵倒する“毒舌の美人妹”金与正の正体《金正恩死亡なら後継者に?》
5位: 女性を「奴隷」にする卑劣な手口……韓国の残酷わいせつ動画配信「n番ルーム」のおぞましい実態

(堂本 かおる)

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