なぜ私は「タクシーハラスメント」について声を上げているのか

なぜ私は「タクシーハラスメント」について声を上げているのか

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 仕事で利用したタクシーの車内で「若い女がタクシー使うなんて、いいご身分だね」と言われた。こちらが指定したルートを無視してわざわざ遠回りされ、3倍近くの乗車料金を支払うよう要求された。「色っぽいね、このあと暇? ホテル行かない?」と執拗に迫られた。

 耳を疑うようなこれらのエピソードは、先日『 なぜタクシー運転手は女性にだけタメ口で態度が横柄なのか 』という記事の公開後、数百件以上にわたって私の元へ寄せられた体験や意見のなかから、一部抜粋したものです。

■「性別」によって対応を大きく変える運転手

「タクシーハラスメント」には共感の声が大きく寄せられたほか、中には「たくさんの(主に)女性がハラスメントの被害に遭っていることを初めて知った」という男性からの気づきの声も少なくありませんでした。そのエピソードの数々から、特に女性や力の弱い者を狙った一部の男性運転手からのタクシーハラスメントは、日本中で日常的に行われていることを改めて認識した人も多いようです。

 もちろん男性であっても、運転手から横柄な態度を取られることはあるでしょう。

 しかしながら、「自分1人で乗っているときは運転手がタメ口だったのに、途中で夫が同乗した途端に敬語に変わった」「料金を支払うとき、同乗している男性が先に降車するやいなや態度が豹変して、侮蔑的な対応を受けた」などの(あまりにも多すぎる)エピソードが示すように、「性別」によって対応を大きく変える運転手がかなりの数存在していることは曲げようのない事実です。

■「乗車料金はいらないから、ヤらせてくれない?」

 私がとくに驚愕したのは、20代の知人女性から寄せられた体験談でした。

 夜にタクシーを利用した際、目的地周辺で人気のない道に入って車を停められ、男性運転手から「乗車料金はいらないから、ヤらせてくれないか」と打診されたというのです。知人はもちろん拒否しましたが、相手は簡単に引き下がらず「胸を触るだけ」などと何度も繰り返すので、仕方なく「夫を呼びますね」と伝えたところでようやく解放されたのでした。

 さらに恐ろしいのは、このエピソードが極端にめずらしい事例ではなく、酷似する体験をした女性が1人や2人だけではなかったこと。「これから飲みに行こう」としつこく誘われたり連絡先の交換を求められたりするケースも多く、「誘いに応じるまでドアを開けてくれなかった」というような「監禁」に当たるものまで含めれば、被害の数はあまりにも膨大です。

 では、なぜこうしたタクシーハラスメントの問題が表沙汰になりにくいのでしょうか。

 考えうる理由のひとつに、被害者が「自宅(付近)の場所を知られているため、クレームを入れれば報復を受けるのではないか」と不安に感じていることが挙げられます。

■なるべく穏便にその場をやり過ごさざるを得ない

 事実、私自身もタクシーの運転手から不当な扱いを受けることが嫌というほどありますが、行き先として自宅付近(家を知られたくないので、いつも少し離れた場所で降車するようにしています)の場所を伝えているため、恨みを買ってしまえば何が起きるか分からないことを考えると「なるべく穏便にその場をやり過ごさざるを得ない」のは、痛いほどわかります。

 また、車内という「密室」において、自分が力では敵わない男性と2人きり、しかもハンドルを握られている以上、相手の気分次第で自分をどうにでもできる状況に置かれている関係から、運転手の機嫌を損ねると身に危険が及ぶ可能性すらあるわけです。

 相手からの権利侵害へ「抵抗の意」を表明するのは当然の正当な行為ですが、「もしものことがあったら」と考える女性や力の弱い人たちにとっては、悔しい気持ちを押し殺しながら泣き寝入りをする人々が多く存在しているのが現状です。

■被害を訴え出た人たちに浴びせられる中傷

 さらに問題なのは、2つ目の理由として考えられる「被害を訴え出る人々に対して第三者から投げかけられる批判、反発、中傷」の多さです。

 少なくともタクシーハラスメントへの問題提起的な記事を書いた私のもとには、「ただの被害妄想」「もっとマシな作り話をしろ」「人に横柄な態度を取るのは圧倒的に女が多いんだから自業自得」という風に、「そんなことが起こるわけがない」と思い込んでいる人たちからの攻撃的な言葉が次々に届きました。

 なんらかの加害行為が明るみに出たとき、「被害に遭うほうに原因がある」として被害者の「落ち度」を指摘したり、場合によっては「こうだったのでは?」とありもしない話を捏造してまで執拗に責め立てたりする人間が一定数いるのは、何も今に始まったことではありません。

 いじめられる側にも原因がある。露出度の高い格好をしているから痴漢に遭う。きっと思わせぶりな態度を取ったのだろう。

 このように、「自分がそう思うこと(=偏見)」を自己正当化する誤った責任追及の構図を、「ヴィクティム・ブレーミング(犠牲者非難)」といいます。

 加害者でなく犠牲者を非難する発想が生まれるのは、強者に抗議して問題解決をはかるよりも、弱者を黙らせておく方が圧倒的に簡単で、一見して問題を解決したように見せかけたり、見て見ぬ振りをしたりできるためです。

 こうした「思考停止」のような言葉は今までもよく使われてきたものであって、みなさんも一度や二度、耳にした覚えがあるのではないでしょうか。もちろん、仮に「原因」があったとしても悪いのは100%加害者であって、暴力や性犯罪が正当化される理由にならないのは明らかです。

 ですが「タクシーハラスメント」の被害のように、抑圧されてきた当事者が声をあげても、悪意を持ってそれを「なかったことにしようとする」人々のせいで問題が表面化しづらい状態は、とても看過できるものではありません。

■「#タクシーハラスメント」を掲げたSNS上での抗議活動も

 しかしながら、私たちがこうした悪意に対して「無抵抗」の姿勢を貫きつづけていても、事態が好転することはほとんど期待できないでしょう。

「セクシャルハラスメント、職務放棄などの侮蔑的言動を乗客にすれば、あとで問題になる」ことをタクシー会社や運転手に知らせないかぎり、いつまで経っても彼らの認識を変えることはできないはずです。

 今、SNSやネット上では「#タクシーハラスメント」というハッシュタグが拡散され、タクシーハラスメント被害への共感の声や体験談が多く上がっています。

 そうした機運に乗じて、8月3日には 「タクシードライバーによる女性客へのタメ口をはじめとした言動の改善」を求める署名活動 も開始されました。

■「誰もが安心してタクシーを利用できる社会の実現」へ

 当該キャンペーンは、一部のタクシードライバーによる乗客への侮辱的言動について、各タクシー会社、及びタクシーセンター、運輸局などのタクシー関連組織が対策を講じ、その具体的内容を明文化し公表することを目的としたもの。

 集まった署名は各タクシー会社だけでなく、管轄権を持つ運輸局やタクシーセンターなど関係機関に向け、公開質問状とともに提出されるとのことです。

 これらの活動はタクシー業界との対立を望んだものではなく、協同して「誰もが安心してタクシーを利用できる社会の実現」を目指すものであり、署名は「どれくらいの人数が賛同しているのか」「顧客への対応を見直すことでどの程度の利用率アップが見込めるか」などを考える際の、「判断材料」となるものです。

 運転手から侮蔑的言動を受けた個人が、タクシーの適正な運用のために設立された各地のタクシーセンターやタクシー会社へ直接問い合わせをすることは非常に有効な手段です。しかし、その効果をより強く、持続的なものにするためには、こうした署名活動やSNS上で声を上げることも積極的に進めていくことが必要不可欠だと考えられます。

■電話口で「あなたの態度に問題があったんじゃないの?」

「#タクシーハラスメント」や私が書いた記事に関してはタクシードライバーからの反応もいくつかありましたが、「被害に遭いたくなければ個人タクシーを避けて乗ればいいだけ」「自分の周りにはそんなドライバーはいない」など、寄せられた言葉のひとつひとつから、ドライバー自身の問題意識がずいぶん低いことが伺えました。

 その意識の低さを裏付けるように、実際にタクシー会社に被害を報告した女性からは、「あなたクレーマー? あなたの態度に問題があったんじゃないの?」と電話口で侮蔑的な対応を取られ、まともに取り合ってもらえなかったという報告も複数寄せられています。

 そうしたケースもあるため、もしも運転手の対応について申し入れを行う際はタクシー会社よりも、タクシーの適正な運用のために設立されたタクシーセンターに連絡をする方が指導も厳しく、より効果的です。

 ここまでに書いた内容からもわかるように、タクシー業界全体の意識を改革するには、もはや個々の「クレーム」だけでは難しいことは言うまでもないでしょう。

■「差別」や「暴力」をなかったことにしないために

 性別や見た目を理由に押し付けられてきた「差別」や「暴力」をなかったことにされたり、被害を受けた人たちが勇気を出して上げた抗議の声をかき消されたくない。

 女性や力の弱い人たちだけでなく、男性も含めて誰もがタクシーを気持ちよく利用できる社会を実現したい。私たちが望んでいることは、たったそれだけです。

「タクシー運転手なんて昔からそんなもの」「嫌なら乗らなければいい」というように、タクシーを必要としている人に対して「我慢」を強いることは、他者への権利侵害に当たります。

 乗客へのハラスメントは明確な加害行為であること、その責任を被害者である乗客になすりつけたり攻撃したりすべきではないことを、タクシー会社をはじめ各関係組織、そして世間でも改めて認知・改善されていくことを、強く願います。

(吉川 ばんび)

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