なぜタクシー運転手は女性にだけタメ口で態度が横柄なのか――2020上半期BEST5

なぜタクシー運転手は女性にだけタメ口で態度が横柄なのか――2020上半期BEST5

写真はイメージ ©iStock.com

2020年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ライフ部門の第4位は、こちら!(初公開日 2020年6月23日)。

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「もうここでいいですか、はい、降りてください」

 さっきまで大通りを走っていたはずの白髪混じりの男性ドライバーが、脇道に入って数分のところで突然車を停めてしまいました。仕事で終電を逃した私が一人でこのタクシーに乗り込んだのは、たしか深夜1時ごろのこと。

■ただ私を困らせようとしているだけに思える対応

「すみません、○○ホテルまでお願いします」とシートベルトを締める私を一瞥したドライバーの顔は、どこか不機嫌に見えました。出張先で土地勘がないため地図アプリを立ち上げると、目的地までは車で10分かかるかどうか。

 はいはい、と面倒臭そうに車を発進させたドライバーに「住所、お伝えした方がいいですか」と話しかけると、「いや、道路の名前で言ってもらわないと分かんないよ」と鼻で笑われてしまいました。

「あれ、もしかして行き先がわからないまま走っているのか」と思って窓の外を見ると、タクシーはまるで躊躇する様子もないスピードで夜の街を駆け抜けていきます。私は焦って、すぐに現在地からホテルまでの経路を調べなおし、信号待ちのタイミングで、ドライバーにスマートフォンの画面を見せようとしました。

「ごめんなさい、私はここらへんの土地勘がないので今アプリで調べましたけど、○○線だと思います」

 しかしドライバーはスマートフォンの画面を見ることもなく、また面倒臭そうに「いや、わかんないよ。目的地、何だって? 近くに何がある? どこ曲がればいいか言って、ホラ」と矢継ぎ早に言う彼は、ホテルへの行き方を明確にしたいのではなく、ただ私を困らせようとしているだけに思えました。

■「もうここでいいですか、降りてください」

 さすがに腹が立ちましたが、車内には私とドライバーの男性の2人しかおらず、あたりは暗くて人通りも少ないため、何かあってもすぐに助けを呼ぶことが難しい状況です。過去にどこかで見た、タクシー運転手が乗客の女性を襲った事件のニュースが脳裏をよぎり、思わず出かかった抗議の言葉を飲み込むしかありませんでした。

「とにかく穏便に済ませたい」と思い、アプリを使いながらドライバーの質問に答えていると、車は大通りからわざわざ脇道に入り、街灯の少ない暗い場所まで来たところで停車しました。

「もうここでいいですか、降りてください」

 支払いを現金で済ませ、タクシーが走り去る低い音を背に凍える手で現在地を検索すると、ここからホテルまでは歩いて20分ほど。一刻も早く明るい大通りに面した場所に出たくて、大きな荷物を揺らしながら走って走って、ホテルに着くころにはもう、深夜2時を迎えようとしていました。

■「女の子がこんな遅くまで遊んでちゃだめでしょ」

 タクシーに一人で乗ると、いいことがない。そう感じているのは私だけかと思っていたのですが、女性の友人たちに「この間、こういうことがあって」と切り出すと「実は私もさあ」と、次から次へと「性別」を理由に侮蔑的な扱いを受けたエピソードがでてくるでてくる。

 仕事で夜遅くなった日の帰り道だけタクシーを利用している友人は、あるとき50代半ばごろの男性ドライバーから「女の子がこんな時間まで遊んで……」と説教をされたといいます。疲れていたので適当に受け答えしたり聞こえないふりをしたりしていても、「結婚してるんでしょ? 旦那さん、心が広い人でよかったね、感謝しないとね」などと話しかけてくる始末だったようで、自宅までの10分間が地獄だったことは想像に難くありません。

 友人たちからはほかにも、服装についてしつこく言及されたり性的なからかいを受けたり、ひどいものでは「昔、タクシーの運転手に若い女の乗客が殺された事件があったの知ってる?」と脅しともとれる内容をにやにやしながら言われるなど、耳を疑うような体験談が飛び出しました。

 なかでも全員が大きく頷いていたのは、ドライバーがタメ口で接してくること。男性と一緒に乗車したときは必ず敬語なのに、一人で乗るとなぜか高い確率でタメ口を使われてしまうといったものです。

■男性の多くは、この「差」にピンとこない

 先日、男性の友人と2人でタクシーに乗る機会があったのですが、ドライバーが敬語を使っているのを見て「感じがいい人だな」と思い、その友人に伝えたところ「いやいや、普通でしょ」と言われ、はじめて「あ、普通は敬語なのか」と驚いたことがありました。ひとつ納得が行かなかったのは、その「感じのいいドライバー」ですら、友人が車を降りるときには「ありがとうございました」と声をかけたにもかかわらず、私には「ありがと〜」と軽く言ったこと。

 男性の多くは、この「差」にピンとこないかもしれません。一緒にいた男性の友人も、運転手が性別の違いだけであからさまに対応を変えている場面を目の当たりにして、とても驚いていました。

 あとで、私がモヤモヤした顔をしているのを見た友人が「ああいうのムカつくよねえ」と言ってくれたことで少し気が晴れたものの、ドライバーのあの「感じの良い対応」が最初から私に向けられたものではなかったのだと思うと、この出来事をきれいさっぱり忘れる気にはなりませんでした。

■顔も名前も公開している彼らが悪質な対応を続ける理由

「ああいうの、今は悪い噂がすぐネットで広まるのになんでなくならないんだろう」と疑問を口にする私に、あるヒントをくれたのは気心の知れた友人でした。

「いやな対応されたとき、タクシー会社に問い合わせしたことある?」

 私が「ないかも」と小声で返すと、友人は「だからじゃないかな」と言ったあと、こう続けました。「もちろん100%相手に落ち度があるけど、じゃあ自分は何もしないでいても状況がよくなるかっていうのは別の話だからね」

 確かに知っている中では私も他の友人たちも、理不尽な扱いを受けてしまったあと、タクシー会社に連絡をした人は一人もいません。理不尽な態度を取る人が自らそれを反省するのを期待しても、望みは薄い。誰かが指摘してはじめて、彼らの認識が変わるのかもしれません。

 考えてみると、例えば「#KuToo」や「検察庁法改正案への抗議」も、もしも誰も行動を起こさなければ、大勢の人が抗議に対して賛同の声を上げなければ、今ごろどうなっていただろう。おそらく、いろいろな問題が顕在化されることもなかっただろうし、大きなムーブメントになっても尚なかなか物事が進展しない様子をみるに、差別が自然になくなることはありえないのでしょう。

 ドライバーは顔も名前も車内に掲示しているにもかかわらず、それでも彼らが堂々と女性客を馬鹿にした態度を取ることができるのは、こんなことでクレームが入ることはないとたかをくくっているから。そう考えると非常に納得がいきました。

 でも、もしタクシー会社に報告したことで恨みを買ってしまったら。私たちが乗車した場所、降車した場所をドライバーが覚えていて、報復を受ける可能性があったら。

 そうした不安を拭いきれずに「何か手はないものか」と調べを進めていくと、国や各自治体が運営するいくつかの相談窓口にたどり着くことができました。

■団体や権威に頼ることも有効な手段

 たとえば 消費生活センター に電話相談すれば、専門家があらゆる問題を円滑に解決するために処理をしてくれます。もちろん個人情報を相手側に漏らすことはないし、個人の特定につながる話をしないよう配慮がなされています。

 なかでも「性に基づく差別的な扱いや、男女共同参画の推進を阻害する人権の侵害(職場などでのセクシュアル・ハラスメントなど)といった、当事者間での解決が難しい困りごと」の対応に特化した機関も各都道府県に存在しているため、こうした団体を頼ることもひとつの手かもしれません。

・人権侵害の被害者救済のための施設一覧( http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/jyuuten_houshin/sidai/pdf/jyu06-5.pdf )
※13ページ目の「資料5-2-3」参照

 また意外にも効果が高そうだったのは「タクシーセンター」への連絡。タクシーセンターとは、タクシーの適正な運用のために設立された公益財団法人のこと。車内にある車番と運転手名が書かれたハガキを備忘用に持ち出し、あとで問い合わせをすれば、センターからタクシー会社、運転手に、かなり強烈な指導が入ります。いわば監査の役割を果たす機関であるため、この制度を利用するといいかもしれません。

■悔しい、と思ったそのあとに

 もちろん加害に対しては徹底的に無視したり、反論したりなどその場で直接抗議することもできますし、そうした抵抗には正当性があります。嫌がらせを受けているのだから、可能であれば強く出て相手を黙らせてもいいはずです。

 しかし私を含めて、その場で強く抗議することができない女性も多くいるでしょう。上記のような機関はそういった人のために存在しているはずですから、問い合わせをすることに気後れする必要はないと思います。

 上記の情報を調べていたとき、「人権侵害の被害者救済」の文字列を見てはっとしましたが、大げさでもなんでもなく、確かにあれは人権を侵害された体験だったのだと、ようやく自覚することができました。

 見ず知らずの女性に対して、服装へのしつこい言及や性的なからかいをすることは「性的嫌がらせ」だし、場合によっては「侮辱行為」にもあたります。なんの脈絡もなく、運転手と乗客という関係性を利用して、女性が怖がるのをわかった上で「タクシー運転手が乗客の女性を殺害した事件」を連想させるように話すことは明らかに「脅迫行為」です。

 これらの加害行為をただ「失礼な態度」といった言葉で終わらせて、被害者自身が無理矢理に自分を納得させる必要はないはずだと、私は思います。

 また同じような目に遭ったとしても、いまの私には、直接彼らに抗議するだけの勇気はないかもしれません。でも、身の安全を確保しながらなら、感情を整理してからなら、声をあげることは不可能ではないし、何か変わる可能性があるのならそうしたいと思っています。

■会話を録音しておくことも効果的

 上記の相談窓口に問い合わせをするにしても、ドライバーがどこの会社の誰なのかがわからなければ対応してもらいようがありません。しかしタクシーの車内には、ドライバーが会社名と顔、名前をはっきりと表示しています。だから、もしもハラスメントやなんらかの被害に遭ったら、まずはしっかりと会社名と名前をメモしておくこと。そうすれば「あとでいつでも報告できる」と自分を安心させられるし、何も太刀打ちできないまま自信を失ってしまうことも防げます。

 また、会話を録音しておくことも非常に効果的です。私はライターという仕事柄、重要な会話をするときは必ずスマートフォンで録音する癖がありますが、問題が発生したときに録音データが証拠となって助けられた経験が何度かありました。「言った、言わない」になる前に、こうした証拠を持っておくと報告をスムーズに行うことができるのでオススメです。

 この原稿を執筆中にも、乗り込んだタクシーで「ありえない対応」を取られたばかりです。録音は間に合わなかったけれど、降りる前に会社名と名前はしっかりとメモを取ることができたことは少しだけ自信につながったように思います。

 誰かから人権を侵害されたとき、自分には当然声をあげる権利があること。小さな自信を積み重ねて、「自分の行動には何かを変える効果がある」と自分自身が思えるようになること。そうすれば、私は今よりも生きやすい未来を切り開けるのではないか。最近は、そんなふうに考えています。

(吉川 ばんび)

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