特攻隊にサヨナラする女生徒、富士山を見物するB-29爆撃機…モノクロ戦争写真をカラー化して何が分かった?

特攻隊にサヨナラする女生徒、富士山を見物するB-29爆撃機…モノクロ戦争写真をカラー化して何が分かった?

1945年8月6日、8時15分、広島市への原子爆弾投下。当時の推定人口35万人のうち、9万人〜16万6千人が死亡したとされる。写真は呉市の吉浦町(現・若葉町)にあった海軍工廠砲煩実験部にて、尾木正己が撮影したきのこ雲

 戦前から戦後の貴重な白黒写真355枚を最新のAI技術と、当事者への取材や資料をもとに人の手で彩色。カラー化することにより当時の暮らしを蘇らせた 『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』 (光文社新書)が話題になっている。

 7月の発売前から予約が殺到、累計40,000部(5刷)を突破。戦前の広島・沖縄・国内の様子、開戦から太平洋戦線、沖縄戦・空襲・原爆投下、そして戦後の復興まで――これまでモノクロ写真で見ていた世界の印象がガラリと変わる1冊だ。

 共著者である渡邉英徳氏(東京大学大学院情報学環教授)が本書に込めた思いとは?(※本記事では本書より1945年の写真を掲載する)。

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 本書には、「カラー化された」戦前から戦後にかけての写真が収録されています。

 当時の写真は、もっぱらモノクロです。カラーの写真に眼が慣れた私たちは、無機質で静止した「凍りついた」印象を、白黒の写真から受けます。このことが、戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っていないでしょうか?

 この「問い」から、カラー化の取り組みがはじまりました。私たちはいま、AI(人工知能)とヒトのコラボレーションによって写真をカラー化し、対話の場を生み出す「記憶の解凍」プロジェクト[1][2]に取り組んでいます。

 カラー化によって、白黒の世界で「凍りついて」いた過去の時が「流れ」はじめ、遠いむかしの戦争が、いまの日常と地続きになります。そして、たとえば当時の世相・文化・生活のようすなど、写し込まれたできごとにまつわる、ゆたかな対話が生みだされます。

 私は、情報デザインとデジタルアーカイブによる「記憶の継承」のあり方について研究しています。これまでに「ナガサキ・アーカイブ[3]」「ヒロシマ・アーカイブ[4]」などを制作してきました。そして、2016年からモノクロ写真のカラー化と、SNSへの投稿を始めました。

「記憶の解凍」プロジェクトは、2017年、広島の高校生だった共著者、庭田杏珠さんとの出会いから始まりました。「ヒロシマ・アーカイブ」の証言収録など、平和活動に積極的に取り組んでいた庭田さんに、自動カラー化の技術を教えたのです。

 庭田さんは、現在は広島平和記念公園となっている「中島地区」に着目しました。かつてそこにお住まいで、原爆投下によりすべての家族をうしなったM井コ三さんとの交歓とカラー化技術が、庭田さんのなかで結びつきました。

 いまは「公園」となった場所は、かつての「繁華街」だったこと。そこにあった平和な暮らしが、一発の原子爆弾によって永遠に失われてしまったこと。こうした事実から、平和の大切さを多くの人に感じてもらいたい。

 この庭田さんの想い、そしてカラー化写真から生まれた「対話」でよみがえった、M井さんの記憶。そのようすを目の当たりにしたとき、「記憶の解凍」ということばが降りてきました。現在、私たちは共同で、この活動に取り組んでいます。

 この写真集 『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』 は、進行中の活動のうち、2020年春までの成果をまとめたものです。

■「AIは衣服・乗り物が苦手」

「記憶の解凍」は、AIとヒトとのコラボレーションです。

 まず、AI技術[5]でモノクロ写真を「自動色付け」します。AIは、人肌・空・海・山など、自然物のカラー化が得意です。一方、衣服・乗り物などの人工物は苦手で、不自然さが残ります。

「自動色付け」は、あくまで「下色付け」です。次に、戦争体験者との対話・SNSで寄せられたコメント・資料などをもとに、手作業で色を補正していきます。この「色補正」は、とても手間のかかる地道な作業です。例えば、本書の表紙の「戦前の広島・本通り」の完成までには、数々月かかっています。

 本書の『まえがき』に添えられた図は、1936年5月2日に撮影された「M井理髪館」前のM井コ三さん・母イトヨさん[6]のモノクロ写真が、どのようにカラー化されていったのかをあらわしています。自動カラー化、対話を踏まえた色補正。そして再度の対話と、さらなる色補正……「カラー化」と「対話」は同時に進行していきます。そして、終わりはありません。

■『この世界の片隅に』片渕須直監督のアドバイスとは?

 AIが判断できない人工物の色は、対話の内容や資料をもとに修正します。SNSで寄せられた情報をもとに、色補正することもあります。たとえば、映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督からは「きのこ雲」の色合いなど、さまざまなご指摘をツイッターでいただき、大いに参考になりました。片渕監督からは、本書の帯を飾るすばらしい推薦文も寄せられました。片渕監督をはじめ、貴重な知識をご提供いただいたみなさまに、深く感謝いたします。

 カラー化された写真の色彩は「実際の」色彩とは異なります。できる限りの「再現」を目指していますが、まだまだ不完全です。私たちは「過去の色彩の記憶をたどる旅」を、日々続けています。おそらく、永遠に終わらない旅です。本書はあくまで、現時点での成果物にすぎません。あたたかく見守っていただければ、と思います。

 なお、当時のモノクロ写真そのものが、かけがえのない貴重な資料であることは言うまでもありません。本書に収録したカラー化写真は、個人蔵のもの、新聞社提供のもの、海外でデジタルアーカイブ化されているものなど、多彩かつ貴重なモノクロ写真をもとに作成したものです。しかし、本書ではページ数の都合上、すべてのモノクロ写真を収録することはできませんでした。巻末に写真提供者リストを掲載しており、そのうち、URL を記載したデジタルアーカイブの資料は、基本的にパブリックドメインで公開されています。ぜひ、アクセスしてみてください。

■しあわせな暮らしが、少しずつむしばまれていく

 戦前の広島・沖縄・国内のようす。そして開戦から太平洋戦線、沖縄戦・空襲・原爆投下・終戦。自動カラー化ののち、写真提供者の証言、資料、SNSでの時代考証などを踏まえて仕上げた、約350枚のカラー化写真が収録されています。

 しあわせな暮らしが、少しずつむしばまれていくようす。戦禍が日常に。そして焼け跡から生まれた希望。一葉一葉をめくり、眺めながら、過去のできごとに思いを馳せていただければ幸いです。

( 【続き】あばら骨と皮だけの日本兵、焼け野原で談笑する広島のカップル――敗戦を実感する“10枚の写真”とは?  へ)

[1] 渡邉英徳、庭田杏珠:「記憶の解凍」:カラー化写真をもとにした“ フロー” の生成と記憶の継承;デジタルアーカイブ学会誌、第3 巻、第3 号、pp. 317-323、2019 年6 月
[2] Anju Niwata and Hidenori Watanave: “Rebooting Memories”: Creating “Flow” and Inheriting Memories from Colorized Photographs; Proceedings of SIGGRAPH ASIA 2019 Art Gallery/Art Papers, Article No. 4, pp 1-12, November 2019.
[3] ナガサキ・アーカイブ制作委員会:「ナガサキ・アーカイブ」http://nagasaki.mapping.jp/(2020 年6 月15 日参照)
[4] ヒロシマ・アーカイブ制作委員会:「ヒロシマ・アーカイブ」http://hiroshima.mapping.jp/(2020 年6 月15 日参照)
[5] 活動の開始時点においては、自動色付けに用いるAI 技術として、早稲田大学(現・筑波大学)の飯塚里志先生、シモセラ・エドガー先生、石川博先生たちの研究チームが開発したものを利用していました。現在は、シンガポール政府が公開しているAIなど、複数の技術を組み合わせて用いています。
[6] 映画『この世界の片隅に』の冒頭シーンに、M井理髪館とご家族が登場します。

あばら骨と皮だけの日本兵、焼け野原で談笑する広島のカップル――敗戦を実感する“10枚の写真”とは? へ続く

(庭田 杏珠,渡邉 英徳)

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