「土下座像は国際儀礼上、許されない」菅会見は“ダメ対応”の典型 新政権は韓国とこう付き合うべき

「土下座像は国際儀礼上、許されない」菅会見は“ダメ対応”の典型 新政権は韓国とこう付き合うべき

昨年夏、韓国で激化した日本製品の不買運動(2019年7月31日) ©AFLO

安倍辞任に“戦勝ムード”韓国のホンネ「“極右反韓”から“3無しのリーダー”へ」 から続く

 史上最悪といわれる日韓関係は明るい兆しが見えない中、安倍首相が辞任することになった。新政権は、この日韓関係をどのように立て直せば良いのか。40年にわたって在韓記者として取材を続け、この夏に「反日vs.反韓 対立激化の深層」(角川新書)を上梓した黒田勝弘氏(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)に聞いた。

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■本当はみんな日本が気になって……

――日韓関係が最も冷え込んだのは昨年(2019年)夏でした。それから1年以上が経過しましたが、関係改善は実現するのでしょうか?

 安倍首相が辞任を表明したことで、 前編 で紹介した通り、韓国では日本との関係が改善するのではないかという淡い期待が広がっている。この辞任を機に、韓国側も姿勢を柔軟化させ関係改善を目指すべきだという雰囲気が世論に生まれつつあります。

 しかし、日本人からすれば、昨年韓国政府が行った日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の通告や、激化した日本製品の不買運動、日本旅行のボイコットなどを思い出すと、本当に日韓関係を改善することなどあるのだろうかと疑問に思う向きもあるかもしれません。

 ただ40年暮らしている私から見れば、韓国の人々には相変わらずとても強い「日本への関心」というか親近感があります。

 安倍首相の辞任に至る過程でも、「安倍首相は7時間病院にこもって身体検査をした。健康状態が不安視されている」「ポスト安倍は誰々だ」「野党の合流も進んでいる」と、連日にわたって詳しく報じられていました。

 韓国にとって、日本はいわば「一大コンテンツ」。この関心の高さと情報量の違いは、日韓を比較してみるとよく分かります。日本から韓国に向けられる関心は、たとえばK-POPや韓流ドラマ、グルメ、はたまた「嫌韓」本など、どこか限定的で一部に特化したものです。

 しかし、韓国から日本への関心は真逆。多くの人に共有される形で、“薄く広く全体的に”向けられている。喫茶店や居酒屋にいても、どこからともなく「イルボン(日本)」という言葉がしょっちゅう聞こえてきます。彼らはいわば日常的に日本を話題にしている。古い言い方ですが、日本については「巨人、大鵬、卵焼き」的な国民的関心事になっているのです。

 旅行者数を見ても、昨年、日本旅行のボイコット運動が起こるまで、年間約700万人以上が韓国から日本へ旅行していました。人口が約5000万人の国ですから、実に10人に1人以上。いわば国内旅行みたいな感覚で往来していた。それだけ近い関係なのです。

 仮に、「北朝鮮と日本、どちらに親近感を感じますか」と世論調査で他人から聞かれたら、韓国人のメンツとして「北朝鮮です」と答えるでしょうが、これは建前で本音は「日本」です。大衆レベルというか、日常あるいは生活レベルでは日本の方がはるかに近しい。韓国では脱北者の経営する北風居酒屋より、旭日旗や日本の古いポスターが飾られている日本風の居酒屋の方が人気なのですから。

■「同胞」と同じくらい意識される日本

――日本製品の不買運動は、いまでも続いていると報じられています。

 確かに韓国メディアではいまだに「日本のビールの輸入量がこれだけ減った」とか「日本車の売れ行き不振」などが、これ見よがしに報じられています。ただ、目立つ動きを取り上げているだけ。実際は、今でもみんな三菱のボールペンを使っていますし、任天堂のゲームは大人気です。コロナ禍もありますが、みんな日本旅行がしたくてうずうずしています。

 そもそも、韓国のメディアも「選択的不買運動」だったと総括していましたが、要するに、代替品がないものはそのまま日本製品を使っていいし、不買は目につくところだけやればいいというわけです。素朴で気楽な不買運動という感じさえしますが、もともと特定国の製品を官民挙げて政治的に大々的な不買運動を展開するなどという国は、世界のどこにもありません。韓国という国の品格を傷つけるものです。

 むしろ不買運動で明らかになったのは、日本という存在が、経済的、文化的、生活的に「いかに韓国社会に浸透し根付いていたか」ということです。

■韓国に対して「被害者意識」を感じはじめた日本人

――今年の夏にも田舎の植物園に安倍首相が慰安婦像の前で土下座している銅像が建てられました。どういう思いがあって、このようなことが行われているのでしょうか。

 説明してきた通り、韓国では日本の存在が深く社会に浸透していますから、耳目をひくためには「日本」をテーマにするのが手っ取り早い。こうして始まるのが「反日」をまぶした愛国パフォーマンスなんです。まずは、すぐ飛びついてくるメディア向けです。反日愛国ビジネスですね。

 安倍首相が土下座している銅像の話も、はじめは韓国でも大手メディアが話題にすることもなく、左派系新聞がちょっと報じた小さな出来事でした。いってみれば、山奥の植物園が国内向けに目立とうと始めたもの。日本をテーマにすれば一定の注目を集めることが出来るだろう……そんなビジネス感覚で作った。

 こうした「愛国ビジネス」の動きは以前からあり、2017年8月にはソウル市内で慰安婦像を乗せたバスが走りました。これも日本では大騒ぎになりましたが、韓国でニュースになったのはその1日だけ。バス会社の社長による、売国的な愛国パフォーマンスでした。

 一昔前なら、こんな話など日本に伝わらなかったかも知れない。ところが、いまネットメディアが発達したことで、韓国社会でさえ大して注目されなかったような事例が、一瞬にして日本に伝わっていく。韓国メディアも、日本からのアクセスが見込めるからと、わざわざそうした「反日」ニュースを日本語に翻訳して発信するようになりました。

 こうした変化によって、今では、韓国に住む私も知らないような話題が、日本で大きく拡散され、日本人に「また韓国が悪口を言っている」「もう韓国とは付き合いたくない」という「被害者意識」が生まれている。反韓・嫌韓感情というのは「日本が韓国によって貶められている」という被害感情です。

 こうした意識が日本で高まると政治家も無視できなくなり、韓国の国内消費用の愛国パフォーマンスが、日本政府の外交方針にまで影響を与えていく。

 一方、韓国側からすると気楽にやっている行為ですから、まさか自分たちのせいで関係が悪化しているとも思っていない。心当たりがないので、日本の反韓・嫌韓感情は短絡的に「すべて安倍が悪い」という結論に達してしまっていた。

 これまでは、韓国が日本を批判するとき、歴史を前提として「日本が加害者で、韓国は被害者だ」という固定観念がありました。それが、今や日本側にも「被害者意識」が生まれている。これまでの前提は成り立たなくなっているのに、韓国は気づいていません。この「被害感情のスレ違い」が、日韓の問題をより複雑にしています。

■日韓関係にも「ソーシャルディスタンス」が必要だ

――新政権は、どのような日韓関係を目指すべきなのでしょうか。

 韓国社会の「反日」活動は、日本への過剰な「身内感覚」から生まれる甘えのような感覚が原因とも言えます。じゃれているようなところもあり、それが次第にエスカレートして「日本に対して何をしても何を言ってもいい」という意識まで生まれ、昨年はあそこまで突き進んでしまった。

 本人たちにとっては気軽なパフォーマンスですから、外交関係に深刻な影響を与えているとは想像もしていない。一方の日本側も、度重なる反日行為に食あたり気味で、両政府が関係を改善しようという動機づけを見失っていた。ただ、昨年来の安倍対韓外交は「韓国に対しては、もうことさらの配慮や遠慮はしない」ということを韓国に強く印象付けました。これは日韓外交では画期的なことで、最大の成果だったかもしれません。

 しかし、日韓両国は地理的にも歴史的にも文化的にも近く、宿命的に「互いに逃れられない関係」です。韓国が持つ日本への「過剰な身内感覚」は問題も起こしますが、ビジネスの上では日韓の潤滑油になっています。いってみれば、「世界一反日で、なおかつ世界一親日の国」です。

 私は、その中で鍵になるのは「ソーシャルディスタンス」、いわば適切な距離を置くことだと思います。

 ダメな対応の“お手本”が、次期首相の最有力候補である菅義偉官房長官の会見。この夏の土下座像問題についての質疑応答で「国際儀礼上、許されない」「日韓関係に決定的な影響を与える」と強い口調で批判してしまったのです。急な質問でとっさにいいやすい言葉を選んだのは分かりますが、正直に言えば、あそこまでまともに取り合う必要はなかった。

「韓国では夏になるとよく似たようなパフォーマンスがありますね。国際的には非常識で、韓国の品格に関わることだと思いますから、韓国の国民のみなさんが正しく判断するでしょう」と、上から目線のユーモアまじりであしらった方が良かった。

 近隣の国に対して感情的にエスカレートしてしまえば、「深入り」という過剰な“密”の状態を生み出し、思考や判断の幅を狭めてしまって“病”にかかってしまいます。そんな“病”への感染を防ぐためには、余裕と距離をとることが大切です。

  前編 でも説明したように、安倍首相の辞任は韓国側が「折れる」きっかけになるかもしれない。ここは日本も冷静になって、客観的に相手をよく観察し知れば、わかることも多い。あの徴用工問題については、韓国では珍しく「韓国側も放置し続けてきた問題がある」という論調も生まれつつある。そういった相手側の雰囲気の流れをしっかりと認識した上で、安倍政権を引き継ぐ新政権は一つ一つタイミング良くかつ落ち着いた対応をしていただきたいものです。

(黒田 勝弘/Webオリジナル(特集班))

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