「余計なことをしない」が大切…スポーツビジネスが「サバイブ」するために必要なこと

「余計なことをしない」が大切…スポーツビジネスが「サバイブ」するために必要なこと

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 9月10日、東京ドームが決算を発表し、その中で21年1月期の連結最終損益が180億円の赤字に転落するとの予想が示されました(前期は80億円の黒字)。

 9月21日から、巨人の主催試合で観客の収容人数の上限が1万9000人に引き上げられるとはいえ、野球以外の大規模イベントの開催は依然として不透明で、日本中のスタジアム・アリーナのベンチマークである東京ドームですら、しばらくの間は、難しい経営を迫られることになるのではないかと思います。

 来年には新型コロナウイルスの感染対策も進み、各スタジアムの観客動員に対する制限措置は一層解除が進むのではないか、と私は見ています。

 ただし、以前と同じだけの動員が見込めるかどうかは別問題です。

 それこそ東京ドームのような都心の人気チームの本拠地であれば、客席は埋まるかもしれません。あるいはバスケットボールなどのような、数千人規模のアリーナも努力次第で埋めることは可能でしょう。

 しかし、地方の数万人収容可能な大きなハコとなると、しかも野球のようにほとんど毎日試合があるとなると、満員を維持するのはかなり難しくなると思います。

 コロナを経て、消費者(観客)を取り巻く状況や価値観が大きく変化しているからです。

■様々な取り組みが“空回り”

 一つには、人々の“懐具合”の問題があります。

 報道されているように、今年の企業倒産件数は過去最多ペース。失業率も高く、多くの人が財布の紐を緩められない状況にあります。

 たとえばプロ野球の観戦は、チケット代、交通費、スタジアムでの飲食、グッズの購入など、1人1回あたり5000円〜10000円ほどのコストがかかる娯楽です。現状から察するに、それを頻繁に楽しめるだけの余裕がある人は以前よりもぐっと減ってしまったのではないでしょうか。

 その一方で、球団・クラブ、スタジアムなどの経営サイドは、この苦境をなんとか脱しよう、大幅に落ち込んでしまった売上を少しでも取り返そうと様々な取り組みを行っています。

 ただ、私もふと客観的に一歩ひいて冷静にみると、どこか空回りしているようにも見えてしまう。

 経済状況が厳しさを増していることに加え、世間はいまだ不安な空気に覆われていて、人々のスポーツに対する関心や盛り上がりはまだまだ欠けているのが現状だと思います。テニスの大坂なおみ選手の全米オープン優勝はそれなりに大きく報じられましたが、この偉業もあっというまに消費されてしまったように感じてなりません。

■「余計なことをしない」がなぜ大切か

 またプロ野球やJリーグなどの国内の主要スポーツも、いまいち熱を帯びていないように感じているうちに、シーズンも後半にさしかかっています。

 そうしたムードの中でも、なんとか盛り上がりを促そうとして演出に工夫を凝らしたり、売上の確保のために新しいグッズや新しいユニフォームを開発して次々に売り出したり、いろいろと手を打ってはいても、大きな成果に結びついているとはなかなか言い難く、四苦八苦している現実がスポーツ界のそこかしこにあります。

 一言で言ってしまえば、少なくとも今は需要がない、需要が限定的ということなのだと判断せざるをえない。

 私は、スポーツビジネスにおける2020年の最大のテーマは「サバイブ」、生き残ることだと思っています。

 そのためには、実は、経営マインドとしては「余計なことをしない」。逆の顧客視点にたてば「顧客を高速で回転させない」ことこそが大切なのではないでしょうか。

 スポーツの根幹である「試合」を観客に見せることに注力し、いっそのこと試合に付随したイベントや飲食、グッズなどは最低限必要なものだけに絞る。顧客の欲求を刺激し続けることを、敢えて避けるのです。あるいは注力すべきは、未来に大きく跳ねるようなタネを今のうちに仕込んでおく投資。目先の利益をコロナ前の成功体験や前例、既得権益、権威にとらわれて、拾いにいかない。スポーツも同様、顧客と共にサバイブしなくてはならないのです。

 私が経営を担っているプロバスケットボールのB3・さいたまブロンコスでも、当面の間、「余計なもの」を徹底的に排除していこうと考えています。自分たちの売上補填のために、顧客の財布をコロナ前のようにできるかぎり開かせることに四苦八苦しない。各クォーター間のインターバルに行うミニイベント、チアガールを起用した応援などの演出の類、多種多様なグッズ展開……私がベイスターズの球団社長だったころに積極的に行ってきた施策ですが、それらをあえて「やらない」という判断です。

 力を入れるのは本当に必要なものだけ。不可欠かつ本質的な、いわば“エッセンシャル”な要素に一球入魂、フォーカスするつもりです。

■積極的に活用すべきYouTube

 具体案としては、アリーナの飲食で言えば、とにかく最高のビールを提供する。グッズはユニフォーム(オーセンティック/レプリカ)とステッカーだけを用意する。ビールもステッカーも、単価は数百円です。他にもいろんなグッズはありますが、「あれもこれも作りました、全部買ってください」という手法は観客に負担を強いることになりますし、私たち経営サイドにとっても投資がかさみ、在庫リスクを抱えることにつながります。どちらにとってもハッピーではない。つまり、今年に限っては「余計なもの」なのだと私は考えています。

 その一方で、ブロンコスのYouTubeチャンネルは昨日公開し、週次でコンテンツを公開し続けるべく準備を進めています。B3のチームは露出機会が非常に限られているので、地域との接点づくりのためにも主体的な発信の場を設けることはどうしても必要です。さほどコストがかからないYouTubeは積極的に活用するべきツールです。顧客も無料で楽しめます。

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 YouTubeでは、選手たち自らがバスケットコートを作っていく過程を紹介するなど、他のチームがやらないようなことを紹介していきたいと思っています。9月27日に開催予定のトライアウトの様子も配信します。

 実はブロンコスには、選手がまだ6人しかいません。10月2日にはB1の開幕が迫っているため(B3は来年1月8日に開幕予定)、他のチームは全てトライアウトをすでに終え、10〜15人の選手を確保しています。ブロンコスのトライアウトは最も遅い開催です。

「まだ6人しかいないの?」とよく驚かれるのですが、最後ギリギリのところでトライアウトを開催することにしたのは、実はそれが最もリーズナブル(合理的)だから。最後の望みを賭けてトライアウトに参加してくれる選手たちはやる気に満ちているはずですし、そこには他チームとの選手の奪い合い、余計な駆け引きも存在しません。心からプレー機会を求めている選手たちと真剣に向き合うことができます。極めてシンプルで、だからこそ、見ている人もワクワクする。

 YouTubeでそれらの取り組みを配信することは、ブロンコスというチームの「色」を伝えることにほかなりません。そこで大切なのは、「好き勝手に」「自分たちが楽しんで」いろいろなことに挑んでいる様子を伝えることだと考えています。

 あくまで私の感覚ですが、今の苦境をなんとか乗り越えようと四苦八苦して従来型の延長線上で顧客に負担を強いるより、こういう時世だからこそ大胆に、楽しげに、独自の道を突き進んでいくさまを見せたほうが、そしてそれを自由に顧客が楽しめるような環境にシフトするほうが人々の心はついてきやすい。カッコいいし、たくましく感じてもらえるのです。石橋貴明さんのYouTubeが話題になっているのは、その好例ではないでしょうか。

 新たに開設するYouTubeチャンネルでは、とにかく私たちが楽しいと思うことを精いっぱいやっていく。それに共感してくれる人が少しでも増えたらいいな、といった程度の気持ちです。それくらいの余裕あるスタンスで取り組むのが、やるほうも、見るほうも、心地いいのではないかと思います。

 こうした厳しい情勢下にもかかわらず、ありがたいことにブロンコスのスポンサーは増えています。これもやはり、「何か楽しそう」「おもしろそうなことをやってくれそうだな」という期待感の現れだと受け止めています。

 コロナを経て、世の人々の価値観は二極化していると感じます。すごく高級なものをたまには楽しみたい。その一方で、すごく手軽なもの、「余計なもの」がないシンプルなものを日常に求めている。その中間に位置するモノやサービスは選ばれにくくなってきているように思います。

■Netflixやマクドナルドは“手軽さ”の代表格

 日本での有料会員数が500万人を突破したNetflixや、今期、営業最高益を視野に入れている日本マクドナルドなどは、コロナ時代にマッチした“手軽さ”の代表格ではないでしょうか。

 見たいとき、食べたいときに、さくっと楽しめる。手間も、コストの面でも、サービスの受け手に余計な負担を求めない。そうしたあり方を、スポーツビジネスも参考にすべきだと思います。

 たとえば、冒頭で触れた東京ドームのような旧来型・レガシィ型の企業が、Netflixのような新時代のメインプレーヤーとタッグを組むのもおもしろい。

 コロナ下のスポーツは、高級志向の受け皿でもなければ、マクドナルドのハンバーガーのような気軽な楽しみ方ができるものでもなく、ただでさえ厳しい“中間ポジション”にあります。そうしたポジショニングの中で、いろいろなオプションを増やし、もがくことが果たして得策なのか。空回りになっていないか。顧客に負担を強いることになっていないか。

 今の社会を覆う空気を的確に捉え、ムダな投資をしないこと。本当に注力すべき“エッセンシャル”な要素を見極めること。そして、周りがやらないようなことに取り組み、それを自らが楽しむこと。

 重たげな不安が蔓延する今だからこそ、あえてカジュアルでワイルドなスタイルを貫くことが、苦境の時期をサバイブする最善の手段なのではないかと思っています。

※池田純オフィシャルサイト  https://plus-j.jp/

(池田 純)

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