現実路線より喧嘩路線 韓国政府が菅総理の「倍返し」を恐れるワケ

菅義偉首相は喧嘩上等の姿勢を持ち、韓国にとっては安倍晋三政権よりも手ごわい相手か

記事まとめ

  • 文在寅大統領は菅義偉首相を祝賀したが、菅首相の外交を警戒しているという
  • 米朝会談の後押しや慰安婦合意など、安倍晋三政権の外交は『現実路線』だったらしい
  • 一方、菅首相は喧嘩上等の姿勢を持っており、韓国政府にとって手ごわい相手だという

現実路線より喧嘩路線 韓国政府が菅総理の「倍返し」を恐れるワケ

現実路線より喧嘩路線 韓国政府が菅総理の「倍返し」を恐れるワケ

菅義偉氏 ©文藝春秋

 9月16日に誕生した菅政権。国際政治の中で、敏感に反応した国が韓国だった。韓国メディアは「右翼カラー」は変わっていないと評し、「安倍政権シーズン2」などと冷ややかな記事も出ている。?

 文在寅大統領は菅総理を祝賀したものの、韓国メディア同様に菅総理の外交手腕を注意深く見守っているという段階と言われている。?

「近年顕著になっているのが、韓国政府や韓国メディアの日本政治への理解不足です。安倍=嫌韓、みたいな単純化で全てを語ろうとしますが、現実はそんなに単純なものではない。韓国内で『知日派』と呼ばれる人が少なくなったことが、理解不足の一因になっていると思われます」(外交ジャーナリスト)?

 韓国政府は「安倍路線の継承」を標ぼうする菅総理を警戒している。しかし「安倍外交」と「菅外交」の本質は似て非なるものなのだ。?

 ではどこが違うのか。?

 3つのポイントを挙げながら解説をしていきたい。?

ポイント1:安倍外交は「現実路線」 だった

 安倍政権は「嫌韓」だったと国内外では見られているが、必ずしもそうとはいえない。?

 どういうことか。?

 例えば北朝鮮問題について。安倍氏は基本的に厳しいスタンスを取り続けてきたが、時に米朝会議に協力するなど、現実路線も取ってきたのだ。安倍政権は、トランプと金正恩の握手という歴史的なシーンを演出した2018年の米朝会談の開催過程においても、一定の役割を果たしてきた。?

「それまでトランプは米朝会談を板門店で行うと主張してきたのですが、4月28日の電話会談で安倍さんが『板門店では北朝鮮ペースになる。アジアの第三国でやるべきだ』とアドバイスしたのです。それをトランプが聞き入れ、シンガポールで開催することになったという経緯があるのです」(外務省関係者)?

 トランプが5月10日にツイッターで6月12日の米朝会談を発表する前にも、「米安全保障会議の担当者からは日本政府に事前通告が来ていた」(同前)といい、陰に日向にと動き回った。?

 北朝鮮に対して強硬策を取るだけではなく、米朝会談を後押しするなど親米保守のイデオロギーに準じながらも、柔軟に対応してきたのが安倍外交の特徴だったといえるだろう。?

 2015年末に締結された慰安婦合意も同様である。?

 韓国サイドから“極右政治家”と見なされていた安倍首相は、ソウルにまで乗り込み朴槿恵大統領(当時)と日韓首脳会談を行い、慰安婦合意への下交渉を行っている。?

「このとき外務省内では『安倍総理に対して、ソウルで卵をぶつけられる可能性がある』との意見が出るほど緊迫した下交渉でした。総理は『自分の時代で慰安婦問題に終止符を打つ』という強い決意を持って臨まれていた」(別の外務省関係者)?

 日韓首脳会談の成果が結実する形で、2015年12月28日・日韓外相会談で日韓合意が発表される。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したのだ。?

 岸田文雄外相は「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり日本政府は責任を痛感している」と謝罪の気持ちを表明している。?

 慰安婦合意は、韓国のテレビキャスターが速報を見て絶句してしまうほどの衝撃のニュースであった。ある意味で反日に慣れきっていた韓国側も、驚愕するほどの外交成果だったといえよう。?

 もし安倍氏が巷で言われている“極右政治家”であれば慰安婦合意を成し得ようとは思わなかったはずだし、岸田氏のコメントを「良し」とはしなかったはずだ。?

こうして見てみると、安倍政権は決して嫌韓一辺倒ではなかったということが理解できると思う。?

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ポイント2:菅総理は“喧嘩”できる男?

 では菅総理はどうか。?

 その外交手腕を予想するためには、まず政治家・菅義偉の実像を解析する必要があるだろう。?

「初出馬の時に無所属で出た話は有名ですが、今回の総裁選でも勝機ありと見れば迷わず出馬するという、勝負勘というか“喧嘩”度胸のようなものが菅氏にはあるのです」(自民党関係者)?

 菅氏の横顔を物語るエピソードがある。現在は無派閥を貫いている菅氏だが、かつては竹下派や宏池会といった有力派閥に所属していた時期があった。?

 2000年(平成12年)11月20日の衆議院本会議に向け、野党が森喜朗内閣に対して「不信任決議案」を提出する動きを見せ、加藤紘一(当時・宏池会会長)が仲間を引き連れ、賛成もしくは欠席すると宣言した騒動があった。有名な「加藤の乱」と言われる政変である。?

「このとき“討ち死に”覚悟で国会に突入せんとする加藤紘一氏を谷垣禎一氏が『大将なんだから!』と必死に止めるというシーンがありました。加藤氏も谷垣氏もテレビカメラの前で男泣きしている光景が有名になりました。この場面を冷ややかに見ていたのが、当時、宏池会に所属していた菅義偉氏でした。?

 このときに菅氏は、派閥にいてはまともな喧嘩が出来ないと達観したといわれ、後に宏池会を離脱し、無派閥を貫くことになるのです」(同前)?

「加藤の乱」は様々な示唆を菅氏に与えたといわれている。いざ勝負、というときに派閥に所属していると、派閥内の力学や序列、感傷論に囚われてしまう。「加藤の乱」の失敗を目の当たりにした菅氏は、勝負をするときには派閥はプラスよりむしろマイナスが大きいと考えたのだろう。?

 菅氏はここぞというときには喧嘩をしてでも勝負したいと考えるタイプだという。無派閥のまま総理大臣へと上り詰めた道のりがそれを証明しているといえるだろう。?

 もう一つの特徴が、霞が関への姿勢である。?

「なんで役所はできないんだ!」?

「やる気あるのか!」?

菅氏は官僚を目の前にして、こう度々怒鳴りつける姿を目撃されている。?

「菅氏は腰が低いように見えて、実は短気で、官僚を恫喝するように喧嘩上等のタイプ。菅氏の短気さをあらわす有名なエピソードがあって、ある食事のとき熱々の蕎麦が出てきたところ、菅氏はお水を蕎麦にかけてササッと食べたというのです。冷めるまで待てない。今でも昼食は、ざる蕎麦を5分でかきこむ。

 菅氏はイエス、ノーをハッキリと言う政治家で、曖昧なことが嫌い、そして時間にも煩い。すぐに玉虫色の回答や、時間稼ぎをしようとする官僚が嫌いなのも、その性格によるものでしょう」(政治部記者)?

 イエス、ノーをはっきり言う性格。そしてもう一つの特徴が“喧嘩”上手であるということだ。?

ポイント3:朝鮮半島政策への厳しい姿勢?

 菅氏の特質は、日韓関係にも影響するだろうと見られている。?

 日韓関係のなかで外務省や官僚が玉虫色、曖昧にしてきた課題は数多い。韓国に対して折れる、というシーンも多かった。?

「日本が折れてくるから、韓国サイドは何度も慰安婦問題や徴用工問題を蒸し返してくるという状況が続いています。実際に慰安婦合意についても、文在寅政権のもと事実上の“破棄状態”が続いています。こうした曖昧な状況について、菅総理が果たしてどう対応するのかに注目が集まっています」(前出・外交ジャーナリススト)?

 菅氏は、もともと自民党の対北朝鮮経済制裁シミュレーションチームの座長を務め、様々な対策を主導してきた政治家だった。?

「菅氏が特に力を入れていたのが、北朝鮮が核実験を行った場合の対応策でした。国連安全保障理事会の経済制裁決議がなくても、北朝鮮船舶の日本への全面的な入港禁止などの経済制裁措置をただちに発動することなどを、積極的に提唱していました」(前出・政治部記者)?

 2013年、韓国・海空軍と海洋警察が島根県・竹島で防衛訓練を実施したことに関し、菅官房長官(当時)は「わが国の立場から受け入れられず極めて遺憾だ」と述べた。菅氏は直ちに外務省官僚を呼びつけ、「竹島は歴史的にも国際法上も、わが国固有の領土だ」と憤りを見せたといわれている。?

「このときも、『国際司法裁判所に提訴することを検討しろ』と菅氏は真っ先に言い出したのです。やられたら、やり返すというのが菅氏の外交スタンスではないか、と囁かれるようになりました」(前出・外務省関係者)?

 徴用工問題、GSOMIA問題などでは、常に安倍政権のもと官房長官として厳正に対処してきた菅氏。しかし、勘違いしてはならないのは、外交方針は同じように見えて、安倍氏が外交現実路線を取って来たタイプであるのに比べ、菅氏はより“仁義”や“筋”を重んじるタイプであるということだ。?

「韓国に対する思想的なものはないけど、菅氏は韓国が領土問題や歴史問題を仕掛けてきたならば『倍返しするぞ!』という喧嘩上等の姿勢を持つ政治家です。韓国政府にとっては現実路線を取ってきた安倍政権よりも、手ごわい相手になりかもしれません」(前出・政治部記者)?

 はたして菅政権は“嫌韓”ならぬ“喧韓”へと舵を切るのか。?

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(赤石 晋一郎)

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