「養老さん、なぜ現実に失望せずにこられたのですか?」柴咲コウが憧れの筆者、養老孟司に聞く“コロナ時代の過ごし方”

「養老さん、なぜ現実に失望せずにこられたのですか?」柴咲コウが憧れの筆者、養老孟司に聞く“コロナ時代の過ごし方”

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 解剖学者の養老孟司(82)さんの書籍を普段から愛読し、自然や農業に関する考え方を学んできたという女優の柴咲コウ(39)さん。この夏、2人が初めてリモートで語りあった。

 人とのつながりや環境問題を真摯に考える柴咲さんに、人生の先輩である養老さんが教えた“ふっと肩の力が抜ける”答えとは。

■コロナ禍の暮らし方

柴咲 初めまして。リモートという形ではありますが、お目にかかれて嬉しいです。本日は、よろしくお願いいたします。

養老 こちらこそ、よろしくお願いします。今は鎌倉の自宅におりますが、コロナ禍に入ってからは主に箱根の別宅にいました。実は、大きな“事件”がありまして。私はこの6月24日に、東大病院に入院したんです。病気は何も、新型コロナウイルスばかりではない(笑)。幸い大事には至らず退院できて、今は特に問題もありませんので、こうしてお話しできています。

柴咲 お加減がよくなられて、本当によかったです。入院なさるまでは箱根でどう過ごされていましたか。

養老 どうしても外にはなかなか出られませんから、ずっと続けてきた昆虫採集もできず、ほとんど家にこもっておりました。特に年寄りは危ないと脅かされるからね(笑)。外に出るとしたら、まあ散歩程度。今年は例外的に天気も悪くて、梅雨明けが本当に遅かったですね。

柴咲 そうだったんですね。私の近況、特に俳優としての活動についてお伝えしますと、4月に緊急事態宣言が出されたときは、ちょうど新作映画の撮影が始まる時期だったんです。それがまるまる延期になってしまい……先日、ようやく無事に撮り終わることができました。

■柴咲さんが抱いてきた“罪悪感”

 柴咲さんは、以前より、「自然に対する畏怖の念」と「消費活動をしながら自分が生きていることへの罪悪感」をどこか抱いていたという。その思いから、自然環境のサイクルを保ちながら活動することを目標に、2016年に「レトロワグラース」という会社を興し、ファッションブランドも立ち上げた。また、環境省から「環境特別広報大使」にも任命され、2020年4月からはYouTubeを始め、発信にも力を入れている。

柴咲 日本が環境先進国として、率先して基盤づくりをしていくことはできないのか。また、いつかは世界全体の人口も減っていくとすれば、今度は世界が、今の日本と同じような課題を抱えるわけで……そうなったとき、人間はどんな方向に進むのか、と考え込んでしまうんです。

養老 そうしたことを、今の私たちが“考えきる”ということは、なかなか難しいことです。それが先ほどお伝えしたことにつながります。調和はすぐに可能ではなく、そして物事も常に流動的である。その全体の流れの中で考えていくしかない。

柴咲 おっしゃる通り、とても難しいです。養老さんは今まで82年生きていらっしゃって、世界や社会のさまざまな問題や課題を見つめながらも、なぜこれだけ自然に対する思いを持ち続け、しかも現実に失望せずにこられたのでしょうか。私はこのわずかな年月でさえ、思い悩んでしまいがちで……。

養老 自然はやっぱり、奥が深い。これに尽きます。古いものと新しいものが常に出入りして、見ようによっては常に変わりつづけている。よく「生態系」といわれますが、実際の「生態系」を見た人は、誰ひとりいません。ある特定の地域にどれだけの生き物が住んでいるのか、その実態は調べようがないし、わかりようがない。日本という特定の地域に、細菌からウイルス、そして人間まで含めたどんな「生態系」があるのか、厳密なところは誰も知らないわけです。しかも、調べているうちに変わっていってしまう(笑)。だから、あまり悩んだり、がっかりと気を落としたりすることはないわけです。

■「脳化社会」と猫の関係

 養老さんの答えを聞き、「グルグルと考えてしまうことは仕方がないんですね」と気持ちが楽になった柴咲さん。そして和やかに進む対談に、かわいらしい闖入者がやってきて……。

養老 (テーブルの下を見ながら)我が家の猫が、参加したがっていますね(笑)。

柴咲 猫がそこにいるんですか、会いたい! 私も20歳の頃から今までずっと猫と生活しているので、目がなくて……。

養老 カメラに映してみましょうか(と、愛猫の「まる」を画面に映す)。

柴咲 ミャ〜ッて鳴いてますね、かわいい……! スコティッシュフォールドですね、何歳ですか?

養老 もう19歳くらいですね。

柴咲 私の父の家にも、19歳の猫が2匹いるんですけれど、それにしてもすごく元気ですね! ああ、かわいい……(しばし見つめる)。

養老 私は「脳化社会」といっているのですが、現代社会というのは基本的に意識でつくっている社会であり、そうすると体は置いていかれちゃう。AIだろうとグローバル化だろうと、同じです。へたをすると広がりすぎて、話が宙に浮く。そのときに、身体性がブレーキになる。食糧のことを考えるにしても、ひとりでそんなに食べられるわけじゃない。そこが考える足場になる。ですから、よくいわれる持続可能性というのも、雲を掴むような、意識のレベルの話ではない。本当は、身体性のレベルの話なんです。そういうことはね、猫を見ているとわかるんですよ(笑)。

柴咲 そうですね、だから猫と生活するんですよね(笑)。

 柴咲さんが北海道で始めた新生活の話題や、コロナ禍で観察した「蝶」の魅力、それらが予感させる「大きな変化の前兆」について語った対談「 『自然』と『無駄』のなかで生きる 」の全文は、「文藝春秋」10月号に掲載されている。環境の変化に戸惑ったときや、考えすぎて煮詰まったとき、ぜひ読んでほしい。変化に対応するヒントが詰まった対談となっているはずだ。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年10月号)

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