光浦靖子「49歳になりまして」芸歴28年・もう一つの人生も回収したい

光浦靖子が4月からカナダ留学を予定していたと明かす 「文藝春秋」11月号に掲載

記事まとめ

  • 光浦靖子の寄稿「留学の話」が「文藝春秋」11月号に掲載された
  • できないことがバレるのが恥ずかしく、「人と同じは嫌いなの」風を装っていたという
  • 大学時代に英語から逃げた分岐点に戻って、もう一つの人生も回収したいと明かした

光浦靖子「49歳になりまして」芸歴28年・もう一つの人生も回収したい

光浦靖子「49歳になりまして」芸歴28年・もう一つの人生も回収したい

光浦靖子さん ©文藝春秋

 実は4月からカナダに留学する予定でした。レギュラー番組に休みをもらい、マンション退出の手続きをし、入学金を振り込み、後はヒートテックの肌着をもう5枚買って……の時にコロナパンデミックがやってきました。留学できなくなりました。

 そうこうしているうちに緊急事態宣言が発令され、私は家なき子の仕事なき子になり、妹家族の所に2カ月半ほど居候していました。

 言葉には言霊という霊的な力があって、口にした言葉は現実になると言われています。だから嘘でもポジティブな言葉を口にしろ、と数々の啓発本には書かれていますが、嘘をつくのもなんなんで言いますけど、40代に入った頃からかな? 仕事がゆる〜りと減り始めました。テレビの世界に入って、一度も手を抜いたことはありません。なのに減るのです。流行り? 運? 好感度?

■ネットには「面白くない」「消えろ」「消えた」……

 私は独身です。旦那も、子供も、彼氏もいません。わかりやすく私を必要としてくれる人が側にいません。年齢に比例して増えてゆく休み、そりゃ不安になりますよ。長い夜、思っちゃいますよ。「私は誰にも必要とされていない」と。

 ネットには「面白くない」「消えろ」「消えた」無責任な言葉が溢れています。私は、顔も名前も出さない奴らの憂さ晴らしのためだけに生きているんだ……。28年やってても頑張り方すらわからない世界です。でも私は、この世界の物差ししか持ってなくて、仕事がない=価値がない、としか思えなくなってしまいました。自分に満足するもしないも、他人からの評価でしか決められない。このままいくと、私はいつか、壊れるな。どうにかしなきゃ。

■結婚もそう、出産もそう、なんで私にはできないんだろう

 子供の頃から、みんなができることができませんでした。小学生の頃、リーダー格の女子に「やっちゃんはどう思う?」と聞かれ、答える度にグループで無視をされました。なんでみんなは答えがわかるんだろう。大学生の頃、バイトをクビになってばかりでした。ミスしてクビになったのは仕方ないが、ミスしなくてもクビになる。なんでみんな続けられるんだろう。結婚もそう、出産もそう、ほとんどの同級生ができたのに、なんで私にはできないんだろう。

 いつも人の目を気にしています。みんなができることができなくて、できないことがバレるのが恥ずかしいから、「元々、人と同じは嫌いなの」風を装っていました。自由奔放に生きるなんて私から最も遠いことです。もうすぐ50歳、もう考え方を変えられるほど柔軟じゃない。だったら、ひん曲がったなりにナチュラルに生きてみよう。

■東京外国語大学に通っていましたが、英語が話せません

 一つのことを追い、極めることが世間では素晴らしいとされています。でも私にはできそうもない。じゃ、どうする? 深さじゃなく、広く浅く、数で勝負するのは? 「逃げ」と「新しい挑戦」の線引きなんて曖昧なもんだ。これは「挑戦」だ。私は文房具屋になりたかった。手芸屋にも、花屋にもなりたかった。留学したかった。海外に住んでみたかった。広く浅く全部に手を出そう。今から全部叶えよう。

 と開き直ったのも留学する動機の一つです。

 私は東京外国語大学に通っていましたが、英語が話せません。丸暗記のザ・受験英語でなんとか合格した私は、入学と同時に挫折しました。多くの同級生が英語を話せたんですもん。英語は大学で学ぶものじゃなく、専攻語を学ぶ時に使うもの、話せて当然のものだったんです。ぎゃ。スピーチコンテストに学校代表で出ちゃうような背筋ピーンの人たちに、私の発音は笑われました。私のこの性格です。そう、すぐに大学から逃げました。そしてお笑いライブに通うようになりました。

■英語から逃げた分岐点に戻って、もう一つの人生も回収したい

 外国生まれの日本人の友達がいます。彼女は10代で日本に戻って来た時、虐められたそうです。「違う」と。でも彼女は「世界はここだけじゃない」ということを知っていたから、虐めを乗り越えられたそうです。仕事も友人も住む場所も、「世界はここだけじゃない」を知ったら、どれだけ強くなれるんだろう。私はそれを知りたいのです。英語から逃げた分岐点に戻って、もう一つの人生も回収したいんです。私には時間があり過ぎるし。

 コロナ以降、テレビに映る人が変わったようです。お笑い第7世代と呼ばれる若手、去年まで顔も名前も知らなかった人たち。となると、今までその椅子に座ってた人らはどうなるんだろう……のその人らの一人が私です。マジでやばい! リアル緊急事態なはずなのに、不思議と心は穏やかです。コロナで留学もできず今は生殺し状態なのに、行動を起こさなくても、決心するだけで心境は変化するようです。相変わらず、金のかからない女です。

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 光浦靖子さんの寄稿「留学の話」は、「文藝春秋」11月号の「巻頭随筆」と「 文藝春秋digital 」に掲載されています。

(光浦 靖子/文藝春秋 2020年11月号)

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