浮上した「母子の不審死」 所持金1200万円はなくなり、母親は別府湾で水死した

浮上した「母子の不審死」 所持金1200万円はなくなり、母親は別府湾で水死した

(写真はイメージ) ©?iStock.com

 2003年3月7日に松永太と緒方純子の逮捕から1年を迎えるにあたり、死亡した広田由紀夫さん(仮名、当時34)の親族は、それより前に一部メディアの取材を受けていた。

■監禁致傷の被害を受けた少女は

 その際に親族のAさんは、由紀夫さんの娘であり、監禁致傷の被害を受けた少女について、「清美(仮名)はいま、元気にしています。施設を出て完全にひとり暮らし。児童相談所の事務の手助けをしています。電話がたまにある程度ですが、正月は一緒に過ごしました。だいぶ立ち直った様子で、本人はヘアーメイクになりたいと言ってます」と答えている。

 ただし、立ち直ったとはいえ、Aさんは清美さんとの会話のなかで、事件についてはほとんど触れていないという。以下、Aさんの発言である。

「だいたい最初から清美は話したがらなかったですね。前はこちらからも聞いたんですよ。児相に面会に行くでしょう。事件について聞いたらすぐに下を向いて、黙り込んでしまってね。辛いんかなあと思って、それからはずっと(事件について)聞いてないです」

 また、今後の裁判で証人尋問での出廷が予想される清美さんについて、次のように話している。

「松永、緒方とは顔を合わせることはないということは、本人にも言ってあります。『落ち着いて、ありのままを話しなさい』と。清美は『ドキドキするね』って言ってました」

 清美さんは、父親との思い出の品を持っているらしい。

「あの子は写真だけは持っています。お父さんと一緒に写っている写真です」

 ただし、由紀夫さんに関して残っている物はそれだけで、ほかにはなにひとつないことから、通常の被害者遺族とは違う状況が生まれているようだ。

「家でよく話すんですが、(由紀夫さんの)遺骨そのものがないでしょう。だからいま、事件で亡くなったとは聞いても、遺骨がそばにないから、実感がないんですよ、まだね……」

 そのため、事件発覚から間もなく1年という時期にもかかわらず、由紀夫さんの仏壇などは揃っていない。Aさんはその無念の気持ちを松永への怒りとして向けていた。

「あれですよ、由紀夫がされたごとね、(松永)本人が目の前におったらね、電気で通電さしたい、と。どんなものなのか、自分でも味わってもらいたいですよ……」

 こうした発言の端々から、遺族のやりきれない心情が伝わってくる。

■松永弁護団による定例会見「起訴されれば当然争う」

 一方で、3月14日に開かれた松永弁護団による定例会見では、松永側は今後の裁判で争う姿勢を顕わにしていた。弁護士は言う。

「今後の予定としては、おそらく起訴されると思いますけど、起訴されれば当然、争う。まあ、そういうことになるんで。あと、残りの事件をどうするかという話が飛び交っていますが、これまでと同じように対応していくことになると思います。お子さんの話を、取り調べの際に聞かされているようなんですね。そのことも『拘置理由開示のときに言った方がいいよ』とアドバイスしました。言ってみれば、まあ、報道されているような見方で、社会の大半の人が“極悪人”と見ているでしょうから、必ずしもそうではないんだ、ということがわかるということで……」

 これは、松永が警察での取り調べについて、「取調官から『(松永と緒方の)子どもは“お父さんはやってない”と言っている』と聞かされた」と弁護士に説明したことに端を発し、こんな話もあるということで、明かされたものである。

■毎日新聞が掲載「緒方被告 別の不審死にも関与」

 すでに広田由紀夫さんと、緒方家親族6人のうち、5人に対しての殺人容疑が立件された。残るは緒方の妹の夫である、緒方隆也さん(仮名)に対する事件だけになったと見られているなか、3月15日の『毎日新聞』(西部本社版)が朝刊で、「緒方被告 別の不審死にも関与」との記事を掲載した。

 これは、緒方の知人女性(当時32)と子ども(当時1=※記事ママ、後の公判で当時3歳と認定)が不審死をしているという内容で、1993年9月に子どもが北九州市内のマンションで頭に大けがを負って死亡すると、その半年後の94年3月に、子どもの母親である知人女性も、大分県の別府湾で水死したというものである。

 同記事では、子どもが頭にケガをして病院で死亡した際に、緒方が子どもの母親になりすまして付き添い、医師に「椅子から落ちた事故」だと説明していたとある。その結果、病院が警察に届け出ることはなく、家庭内の事故死として扱われていたという。また、母親は身元不明の水死体として発見され、司法解剖の結果、死亡診断書には「急死」と「溺死」が併記されており、大分県警によって事件性はないとの判断が下されたそうだ。

■「200万円貸し不審死 緒方容疑者の知人女性」

 じつはこの女性と子どもについては、今回に先駆けて、同じ『毎日新聞』(西部本社版)が、松永と緒方が逮捕されて約1カ月後の、2002年4月14日に、「200万円貸し不審死 緒方容疑者の知人女性」という独自の記事を掲載していた。そこには緒方に「夫が病気で手術代が必要」と頼まれた、福岡県筑後地方に住むこの知人女性が、200万円を貸してから子どもを連れて家出し、夫と離婚したことと、家出から11カ月後に死亡した際には、父親から借りるなどして計1200万円ほどあったはずの所持金のほとんどがなくなっており、死後の預金残高は3000円だったということが記されていた。

 そこに緒方の“なりすまし”の情報が加えられて、今回の記事の掲載に至っている。同記事によれば、〈母親を名乗った女性が書き残した申込書類を押収しており、印鑑の代わりに押した指印が緒方被告の指紋と一致した〉ことにより、緒方の関与が裏付けられたとのことだった。

 結論からいうと、この知人女性と子どもの死亡について、その後、捜査本部が事件化することはなかった。だが、この件については後の裁判でも触れられており、緒方のみならず、松永が背後にいたことも明らかになっている。そのため、改めて別の機会に詳述することを予告しておく。

■緒方智恵子さん殺害で起訴

 3月18日、福岡地検小倉支部は、松永と緒方を緒方智恵子さん(仮名=緒方の妹)に対する殺人罪で起訴した。起訴状の公訴事実は以下の通りだ。

〈被告人両名は、他と共謀の上、平成10年2月10日ころ、北九州市小倉北区片野×丁目×番×号『片野マンション』(仮名)30×号室において、緒方智恵子(当時33)に対し、殺意をもって、その頸部を電気コードで絞めつけ、よって、そのころ、同所において、同人を窒息により死亡させて殺害したものである。

 罪名及び罰条

 殺人 刑法第199条、第60条〉

 この起訴を受け、松永弁護団と緒方弁護団は同日にそれぞれコメントを出している。

 松永弁護団は「松永被告については当然のことですが、緒方被告についても有罪とするのに十分な証拠があるかという点について、重大な関心を持っております」というもの。緒方弁護団は「殺意を含め、起訴事実を認める」というものだった。

 その10日後の3月28日に、松永弁護団が2週間ぶりの会見を開いた。弁護士は言う。

■「被告本人の自白のみである場合は、有罪にすることはできない」

「智恵子さん事件の起訴を受けて出したコメントについて、“松永被告はもちろん、緒方被告についても十分な証拠があるのか”と述べましたが、当然、力点がどこにあるかというと、“緒方被告についても”という点です。(略)緒方被告について、なんで私がそんなことを言ったかというと、自白補強法則の問題があります。つまり、刑事訴訟法の三百十何条かでですね、有罪を認定する証拠が被告本人の自白のみである場合は、有罪にすることはできない、と。それに従うと、とくに智恵子さん事件、あるいは和美さん(仮名=緒方の母)事件なんかもそれに近いのではないか、と見ていますが……。まあ、少女(清美さん)は基本的にノータッチですからね。となれば、純子さんの供述しかないということであれば、補強証拠はないのではないか、ということです。証拠がなければ、被告人が罪を認めていても、有罪にすることはできないはず。そのへんについて、我々も、果たして証拠があるのかという点については、重大な関心を払って今後の公判活動に臨みたい、と。そういう趣旨でああいうコメントを出したわけです」

■末松事件についての質疑応答

 その後の質疑応答では、先に取り上げた母親と子どもの不審死についての質問も飛び出した。母親の名は末松祥子さん(仮名)という。記者をQ、弁護団をAとして、そのやり取りの一部を抜粋する。

Q「末松事件については、松永被告はなんと言ってますか?」

A「子どもについては、事故死だと。あと、母親は海に落ちて死んだ、と。まあ、事故か自殺だろうと。同居の経緯については、詳しく聞いていません。マンションかどうか、どこにあったのかも聞いていません」

Q「末松事件について、子どもは事故死とありましたが、その状況は?」

A「えーっとね、転倒して、頭か背中か、とにかく体を打ったと……。なんで打ったとかは詳しく聞いていないですから」

Q「松永被告はその現場にいたと?」

A「それはわかりませんよ。いなかったんじゃないですかね。(事故当時)警察官から話は聴かれたようなんですよ。ただ、松永さんはなにも聴かれていない。緒方さんは警察から事情を聴かれて、答えていたみたいですけど、もちろん、当時、偽名を使って。(死亡した)子どもに対して、通電はしていないと思うが」

Q「それは松永被告が調べで聴かれたんですか?」

A「いや、これは松永さんが緒方さんから聞いたんじゃないですか、当時」

Q「この事件に絡んで、現在、取り調べは受けていますか?」

A「事情は聴かれたりはしているようだが、調書とかはありません。智恵子さん事件での逮捕から起訴されるまでの間は、聴かれていないようです」

Q「その期間に、検事は“立件は無理だろう”みたいなことは言いましたか?」

A「そうです」

Q「末松事件について、母親(末松祥子さん)の別府湾水死については?」

A「話は聴かれている」

Q「亡くなった当時は?」

A「当時は……記憶が正確じゃないんで」

 新聞記事では、子どもが死亡した際に、病院は警察に届けずとあったが、この場では緒方は警察に事情を聴かれたとのことだった。こうしたことからわかる通り、逮捕から1年以上を経てもなお、情報は錯そうしていたのである。

(小野 一光)

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