カレー界の“巨人”の新商品、ココイチのスパイスカレーを南インド料理店主が本気で食べてみた

カレー界の“巨人”の新商品、ココイチのスパイスカレーを南インド料理店主が本気で食べてみた

CoCo壱番屋の看板 ©時事通信社

「スパイスカレーブーム」と言われる昨今、ブームの主役であるスパイスカレー店は、そのほとんどが小規模な個人店です。店主一人で切り盛りするいわゆる「ワンオペ」のお店も珍しくありません。

 バーなどの夜しか営業しない店舗を昼だけ借りて営業する「間借り」の形態を取る店も多く、とにかくコンパクトで趣味性の強いお店とそこに対して仲間意識を持って集うファン、という構図がこのブームの基本になっているようです。

 つまり、大手のチェーン飲食店とは真逆の存在……のはずなのですが、その大手チェーン店が昨年、今年と続けて「スパイスカレー」と銘打った商品を期間限定でリリースし、ちょっとした話題となりました。その大手チェーンとは、言わずと知れたCoCo壱番屋です。

■店舗数で“一強” カレー業界のガリバーことココイチ

 カレー業界においては、昔からCoCo壱番屋がその店舗数において他の追随を許さない一強時代が長く続いています。そんなカレー業界のガリバーであるココイチが初めて「スパイスカレー」という名称を使用したのが2019年の「大人のスパイスカレー THE チキベジ」でした。

 そして今年2020年にも、昨年とはまた異なるバージョンでスパイスカレーがリリースされています。今回は、「スパイスカレー THE エスニックアジア」という、前回とはまた全く違う新機軸の商品のようです。気になるのでさっそく食べに行ってきました。

 注文から程なくして目の前に運ばれてきたそれは、当然ですがビジュアルもいつものココイチのカレーとは随分趣が異なります。

 主役の小海老と煮込まれて繊維状になった鶏肉がふんだんに使われ、更にインゲンにたけのこ、そして皿の端には鮮やかな赤玉ねぎのピクルス、と鮮やかで立体的な見た目はなるほど確かに今時のスパイスカレーを彷彿させるものがあります。

■安定感がありながら、最新のトレンドもばっちり

 そして見た目以上に特徴的なのはそこから立ち昇る香り。メニューの商品説明に「柑橘ハーブソースがアクセント」とあるように、柑橘系の爽やかな香りが第一印象です。タイ料理にもよく使われるバイマックルーとレモングラスでしょうか。しかしその奥からは同時に「いつものココイチ」の慣れ親しんだ香りも追いかけてきて、ある種の安心感・安定感を与えてくれます。

 実際に食べ始めてすぐに感じるのはほのかな酸味。普段のココイチのカレーには無い要素ですね。海老・タイ風のハーブ・酸味、と来て、なるほどこれはタイ料理の「トムヤムクン」をモチーフにしたものかと合点がいきました。

 最近のスパイスカレーの世界では、麻婆豆腐やルーロー飯など、日本人にそれなりに親しまれていつつエキゾチックな印象を与える料理とカレーを融合させるという手法が取られることがよくあり、そのトレンドを捉えたものとしても解釈できそうです。

 昨年リリースされたココイチ流スパイスカレーの第一弾であった「THE?チキベジ」は、もっと主流のスパイスカレーに寄せたものでした。名前の通り鶏肉と野菜を主役に、最近のスパイスカレーにおいて特徴的なクミン・カルダモン・カスリメティといったスパイスを立たせたもの。初年は王道に寄せ、次の年には独自性をアピール、という周到な商品展開が興味深いです。

■大手チェーンの制約が、独自性となる

 いずれのスパイスカレーも、従来のオーソドックスな「カレーライス」とは、はっきり異なる特徴を打ち出した物だったという事は言えると思います。ですがその特徴の打ち出し方の強度はやや控えめでもあります。

 今回の「エスニックアジア」に関しても特徴的なハーブの香りはあくまでアクセント程度にとどめ、酸味といってもトムヤムクンのようにはっきりと酸っぱいわけではありません。あくまでベースとなる「ココイチのカレー」的な味わいを引き立てつつ新鮮な印象をプラスしているという印象。

 個人店のスパイスカレーがある意味やや過剰なスパイス感や辛さ、食材の突飛な組み合わせではっきりとした特徴を打ち出す形でしのぎを削る中、大規模チェーン店であるがゆえにある程度万人受けする味であることも求められるココイチには制約もあるということでしょう。

 ただし見方によってはその制約ゆえに、スパイスカレーブームとは一定の距離を取った普遍的なおいしさを提供し続けるという、逆の意味で独自性のある路線を取っているのがココイチである、という事も言えるかも知れません。

■次はこんなことに挑戦してほしい! ココイチへのリクエスト

 そんなココイチが今後どのような新しい「スパイスカレー」をリリースしていくのかが楽しみです。個人的にはぜひ「合いがけ」に挑戦してほしい。スパイスカレーの世界では、一皿に複数のカレーや副菜を賑やかに盛り込んだスタイルももはや普通というより主流にすらなっています。

 これもやはりチェーン店的なオペレーション上の制約はありそうですが、ココイチなら2種類のカレーをライスの両側に分けて盛るだけで充分な話題性を獲得できそうな気がします。

 その場合2種類のカレーのうちひとつは「いつものココイチのカレー」で良いのです。そのかわりもう片方のカレーは思い切って「万人受け」の範疇を超えたところまで個性的にチューニングする。それを交互に食べ進めるのはいかにも楽しそうです。

 なおかつスパイスに慣れていない一般層も、これなら安心感を持ってチャレンジしやすいでしょうし、なんなら2種類のカレーをお皿の上で混ぜてしまえば、これまでのココイチ流スパイスカレー同様突出しすぎないバランスの味わいでも楽しめる。更に言えば「いつものココイチカレー」部分がある事で、そこにはカツなどのトッピングもやりやすくなる。

 ……単なる個人的な妄想ではありますが、なんだかいい事ずくめな気もしています。

■ロイヤルホストのカレーもスゴい

 ココイチに限らず、チェーン店のカレーは進化し続けています。

 ロイヤルホストといえば昔から正統派で高品質な本格カレーに定評がありますが、そのロイヤルホストが少し前にリリースした「ベジタブルカレー&雑穀ごはん」は、さすがの完成度でした。

 動物性の食材を一切使用しないヴィーガン仕様のカレーというと、インバウンドの欧米人向けの「おさえ」であったり、あくまでヘルシー(なイメージ)を求める層に対してのストイックな商品であったりするイメージも強いものですが、これは全くそういうコンテクストと関係なく、極めて満足感の高い味わい。

 素揚げ野菜が雑穀ごはんの上に乗りそこにプレーンなカレーソースをかけて食べるというスタイル自体は、かつてカフェを中心にはやり今となっては少々流行遅れの感もありますが、さすがそこはロイヤルホスト、凡百のそれとはあきらかに違います。

 素揚げだけではなくボイルやマリネなど幅のある調理法の野菜が、スプーンでの食べやすさや混ざり具合も計算されつくしたカットサイズでキャセロールのライスの上に敷き詰められているというスタイルは、今までありそうで無かったものです。

 そこにかけられるカレーソースも、カルダモンの爽やかさを軸にした香りがどこかイマドキ感を感じさせつつ、しっかりとコクと深みのあるロイヤルホストらしい味わい。

 どことなく「枯れた技術の水平思考」みたいな事を思わせる、新しいのに既に定番的なおいしさが楽しめます。機会があればぜひお試しください。

■チェーン店は優良コンテンツだらけの「宝の山」

 一般にチェーンの飲食店はどうしても一段低く見られがちな傾向があります。

「チェーン店なんておいしくないんでしょ?」というある種の偏見には昔から根強いものがあるのも確か。しかし個人的には、昔はいざ知らず今のチェーン店はむしろ「宝の山」、すなわち優良コンテンツの宝庫であると考えています。

 その優良さを支えているのが変化の速さ。定番商品の改善や時代を見据えた新メニューの投入など、常に前に進む事を恐れないのもまた多くのチェーン店が持つ特徴でもあるのです。

 カレーに関してもこれは例外ではありません。昨今のカレーブームとは付かず離れずで独自の進化を遂げるチェーン店のカレー、これからもどこが何を仕掛けてくるか興味が尽きません。

(稲田 俊輔)

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